推定、運命。

hina

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「殿下、どちらへ?」
「私は、私の運命を探しに行く。止めないでくれ」
「殿下、お待ち下さい! 殿下、殿下……!」


壮麗な城のバルコニーから転移術で姿を消した私は、マントのフードを深くかぶり、冷たい雨の街中をどちらへともなく歩きだした。









「有難う御座いましたー!」

僕はリーン。金髪に淡い緑の目をした十八歳のオメガ男子。この街の外れの森の近くで薬師をしている平民だ。


僕の住む花の国と呼ばれる小さな国は、その名の通り、花と自然に溢れる温暖な気候の国で、妖精が見られる国としても有名で、ただ、本当に妖精を見た人はいるとか、いないとか……で、だけど、みんな真偽はどうでもいいみたいだ。


「リーン、いつもの薬を頼む」
「あ、ケビンさん。今日は遅かったですね。すぐ用意するので少々お待ち下さい!」
「慌てなくても待ってるよ」

常連のケビンおじさんが待合スペースの椅子に腰掛ける。

僕は手順や量を間違えないように慎重に材料を調合していく。
最後に効き目が増す魔法を施して出来上がり。


「ケビンさん、お待たせしました!」
「おお、ありがとな」
「お大事に」


代金を受け取って、薬を渡す。

残り少ない薬草もあるから、夕方になったら採りに行こう。
でも夜になると魔物が活発になるのは、危ないし厄介なんだよな。
護身術か魔法を磨かなきゃなと思いながら、ケビンさんを見送った。











それは、澄んだ朝の空気に満ちた冬のことだった。
店の前を掃き掃除していた時に転移で突然現れたその人は。


彼の芳しい香りが僕の本能を引き摺りだし、理性を揺さぶる。


「ああ、見つけた……君が私の運命……」

均整の取れた長身、美しい顔。白銀の長い髪がさらさらと流れ、薄紫の瞳が僕を捉えた。

「う、んめい?」

熱を持て余す僕は、ぼうっとし始めた頭で彼の言葉を繰り返した。


「そうだよ。私達は唯一無二だ」

触れてくる彼の指先も熱い。
近付いてくる唇を見つめて、僕は瞳を閉じた。







「私はヴィクタル。セレスノースの第二王子で二十二歳。リーンの知ってるとおり、アルファで運命の番を探して世界を旅していた。花の国の王宮を訪ねた時に精霊に君の話を聞いたんだ」
「精霊……」
妖精じゃなくて? と思いながら、店の隣の建物の中のベッドの上で、彼と横向きに向かい合ったまま、包まっている布団のはしをぎゅっと握った。

「流石に花の国は精霊の数が多いね。我が国も多い方だと思っていたけど、それ以上で、騒がしいと思ってしまうほどだった。……はは、ごめん」

と空中を見ながら笑う彼には、精霊が見えているらしい。

「リーンは精霊にも評判が良いね。加護を与えたって言ってる」
「精霊の加護?」
「ああ。薬作りが上手くいくように、リーンが幸せになれるようにと、他にも何個か……らしいよ」
「え! 有難う御座います!」
僕には精霊の声は聞こえてないけど、思わず言ってしまったら、ヴィクタル様がにこっと笑った。

「私の元に来ても、薬作りを続けてねと言ってる」
「わ、私の元って……」
「リーン、私の妃に……番になってください。生涯君だけを愛すると誓います」
「えっと……よ、ヨロシクオネガイシマス……」

まだ頸に噛み跡はないけど、それはおいおい。



これを運命と言うのかは僕にはわからないけど、抗えない何かを感じながら、僕はこれからに思いを馳せた。
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