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一人で退治出来なければ、妖魔をその場に縛り応援を呼んでくる。術が破られないように結界術で強固なものをつくれるようになるまでは一人前とは認められない。
「お師匠様元気かなあ」
連絡は手紙でしているお師匠様なので、会うこともそうないけれど。
たまには顔見せに行くのもいいかもしれない。
進歩した結界術を見てもらって褒めてもらおう。
「よし。再来週にでも行ってこよう」
ここから二時間ほど電車に揺られて、深い山の麓に行くと結界術の修行場がある。
妖魔が沢山出る山なので早い時間に行って日が暮れる前までに帰ってこよう。
妖魔にかけなくても結界術は発動する。
力は近場で使うために温存しておくに限る。
ビビっているわけではないのである。決して。
◇
「もっと良く見せて!」
「何回見ても変わらないよ」
「東條様の本気! ありがたやー」
「拝まないで」
茅野くんの行動に笑いながら、制服の襟を直した。
「錆びないのはいいよね。お風呂入る時に一回一回外すのめんどいもん」
「そこ?」
「大事なポイントでありんす」
「何キャラ。毎回は外さないけど、二回に一回は外すよ?」
「鍵バカにならない?」
「それ言うなら濡らすっていうのも良くなさそう」
「まあ、極論物は劣化するものですからな。ダメになったらまた新しいの買ってもらいましょうや」
「それまで付き合いが続いていたらね」
Ωクラスの教室で自分の席に座っている僕は、頬杖をついて、目の前の席に座った茅野くんを見た。
「東條様は飽きてポイするような人ではないと思うよ?」
「僕はポイされても構わないよ」
「強がるな、親友よ」
泣きそうな顔禁止! と続けられて、僕は思いっきり茅野くんの頬を両手で引っ張った。
「ごへんよ、ははしてー」
「本気になるのが嫌なんだ! でも不真面目に付き合うのはもっと嫌で……僕の気持ちは今どこにあるんだろう……」
「まあまあ。付き合おうって気持ちになってるのが全部の答えじゃないかな」
頭をぽんぽんと叩かれ、僕はハッとした。
「ごめん、取り乱した」
「そういう時もあるさあ」
「ありがとう」
ぼそっと呟いた僕に茅野くんは笑った。
◇
「晴人の番い候補だと認めるのは、加護の力を見てからだな」
四十代半ば。長い髪を丁寧に撫で付けた見た目を気にするのお師匠様を前に、僕は怯んだ。
「お師匠様、それって強い妖魔を退治していけってフリじゃないですよね?」
「半人前達は今日の修行が少し楽になるな。その分判定は厳しくなるが」
「俺は構わないよ? 祓師として活躍する晴人も見てみたいし」
蘇芳様はなぜ着いてきてしまったんだろう。今日用事入ってたんじゃなかったっけ。
修行をしていた頃、強い妖魔が次から次に出てきた時のことを思い出して涙目になる。
あんなのは二度とごめんである。
「弱体化するからって何匹も出てきたらパニックになるんだから」
神様の力はともかく、人の力は残念ながら有限なのである。
暴れまわる強い妖魔なんて悪夢でしかない。
「逃げ出した小物妖魔はどのくらいの期間出てこないものなのかも調べたいしな」
「加護は四條家の血によるものなので、結果がわかってもあまり参考にはならないかもしれませんが」
「神の血は生きている、か。相性の良い番いを得ることが血を濃く残す手段だと言われているしな。はあ、東條家か。大ものを釣り上げたな」
「聞いて下さい、お師匠様。この首輪を取りに行った後、その足で家にまで来たんですよ! 両親は大慌てで大変だったんですよー」
ちょっとご挨拶をって感じで来たけど、人を従わせるオーラを放ち、両親は感涙。
僕は寒々しい気持ちで帰っていく蘇芳様を見送った。
お師匠様には威圧は通じないみたいだけど、事実は重かった。
「高そうな首輪だな」
がっくりと肩を落とす。
首輪を手に入れた代わりに大切な何かを失ったような気がする。
「お師匠様元気かなあ」
連絡は手紙でしているお師匠様なので、会うこともそうないけれど。
たまには顔見せに行くのもいいかもしれない。
進歩した結界術を見てもらって褒めてもらおう。
「よし。再来週にでも行ってこよう」
ここから二時間ほど電車に揺られて、深い山の麓に行くと結界術の修行場がある。
妖魔が沢山出る山なので早い時間に行って日が暮れる前までに帰ってこよう。
妖魔にかけなくても結界術は発動する。
力は近場で使うために温存しておくに限る。
ビビっているわけではないのである。決して。
◇
「もっと良く見せて!」
「何回見ても変わらないよ」
「東條様の本気! ありがたやー」
「拝まないで」
茅野くんの行動に笑いながら、制服の襟を直した。
「錆びないのはいいよね。お風呂入る時に一回一回外すのめんどいもん」
「そこ?」
「大事なポイントでありんす」
「何キャラ。毎回は外さないけど、二回に一回は外すよ?」
「鍵バカにならない?」
「それ言うなら濡らすっていうのも良くなさそう」
「まあ、極論物は劣化するものですからな。ダメになったらまた新しいの買ってもらいましょうや」
「それまで付き合いが続いていたらね」
Ωクラスの教室で自分の席に座っている僕は、頬杖をついて、目の前の席に座った茅野くんを見た。
「東條様は飽きてポイするような人ではないと思うよ?」
「僕はポイされても構わないよ」
「強がるな、親友よ」
泣きそうな顔禁止! と続けられて、僕は思いっきり茅野くんの頬を両手で引っ張った。
「ごへんよ、ははしてー」
「本気になるのが嫌なんだ! でも不真面目に付き合うのはもっと嫌で……僕の気持ちは今どこにあるんだろう……」
「まあまあ。付き合おうって気持ちになってるのが全部の答えじゃないかな」
頭をぽんぽんと叩かれ、僕はハッとした。
「ごめん、取り乱した」
「そういう時もあるさあ」
「ありがとう」
ぼそっと呟いた僕に茅野くんは笑った。
◇
「晴人の番い候補だと認めるのは、加護の力を見てからだな」
四十代半ば。長い髪を丁寧に撫で付けた見た目を気にするのお師匠様を前に、僕は怯んだ。
「お師匠様、それって強い妖魔を退治していけってフリじゃないですよね?」
「半人前達は今日の修行が少し楽になるな。その分判定は厳しくなるが」
「俺は構わないよ? 祓師として活躍する晴人も見てみたいし」
蘇芳様はなぜ着いてきてしまったんだろう。今日用事入ってたんじゃなかったっけ。
修行をしていた頃、強い妖魔が次から次に出てきた時のことを思い出して涙目になる。
あんなのは二度とごめんである。
「弱体化するからって何匹も出てきたらパニックになるんだから」
神様の力はともかく、人の力は残念ながら有限なのである。
暴れまわる強い妖魔なんて悪夢でしかない。
「逃げ出した小物妖魔はどのくらいの期間出てこないものなのかも調べたいしな」
「加護は四條家の血によるものなので、結果がわかってもあまり参考にはならないかもしれませんが」
「神の血は生きている、か。相性の良い番いを得ることが血を濃く残す手段だと言われているしな。はあ、東條家か。大ものを釣り上げたな」
「聞いて下さい、お師匠様。この首輪を取りに行った後、その足で家にまで来たんですよ! 両親は大慌てで大変だったんですよー」
ちょっとご挨拶をって感じで来たけど、人を従わせるオーラを放ち、両親は感涙。
僕は寒々しい気持ちで帰っていく蘇芳様を見送った。
お師匠様には威圧は通じないみたいだけど、事実は重かった。
「高そうな首輪だな」
がっくりと肩を落とす。
首輪を手に入れた代わりに大切な何かを失ったような気がする。
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