君が好き。

3

◇

「僕はファイス家に五度目の婚約申し込みをしたから！お前はもうすぐカイル様に捨てられるんだ！」
「え、いや……」
どちら様ですか……？
五度目って……。
そもそもカイルとはそんな関係じゃないし……そんな事教えてあげる義理もないんだけど、。

……大広間から出たら、可愛い系の貴族のご令息に絡まれました。

「それだけですか？　じゃあ、僕はこれで……」
「何でだよ！？　取り乱さないのか！？　悔しがれよ！」
「急ぎますので……」
「待て！　待てったら！！」

面倒臭いのは見なかったことにしよう。
逃げるが勝ちだ。



◇


さて、大広間に戻らなきゃ。
来た道を戻るために長い廊下を歩く。

「君……」
「え？」
「なんて綺麗なんだ……！　私達は出会うべくして出会ったんだ！　一緒に休憩室に行こう！」
「な、な、なんですか！？　離して下さい！」

若い貴族の男に腕を掴まれる。強い力で引き寄せられて、ぞわっと悪寒が走る。

「僕には連れがいます！　離して！」
「君を独りにするなんてロクなやつじゃないだろう。心配いらないよ、私はそんな事しないから」
「僕が望んで一人になったんです！　何にも知らないのにそんな事言わないで下さい！」

必死に抵抗していたら、まばらながらも廊下にいる人達が何事かとこちらを見ていた。

「離せってば！」
「レイリア」

後ろからふわりと抱き締められて、一瞬ドキッとする。

「私の大切な人に何か？」
カイルは僕の隣に立って、男を冷たい瞳で見下ろした。
「騎士団長……！　大切ならそばに置いとけ！」
「言われなくても」

男は強く掴んでいた僕の腕をカイルに外されて、去って行った。

「すまない。やはりついてくるべきだった」
「僕こそ、危機感が足りなくてごめんなさい。こんなことになるなんて……怖かった」

カイルが来てくれて良かった。

震える僕を今度は正面から抱き締めたカイルは、優しく背を摩ってくれる。

甘えるのは恥ずかしいけど、今は優しい温もりに寄りかかっていたかった。