君との距離。

hina

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「お待たせ。はい、これツーの分ね。クエストで納品するなり、レストランに持ち込むなり好きにしてね」
「ありがとう、ございます……」
俺の手に乗せられた数個の青と黒の金のまだら模様の小さな卵を見て焦る。
これを食べたのか……あんなに美味しいのか。
わからないものだな。でも、VRだし。

中身は普通の卵同様、黄身と白身な事も知っている。


アランさんに何も無かったし、卵も手に入れられたし、良かった良かった。


「俺はこの後、街に向かった後ログアウトしますけど、アランさんはどうします?」
「僕はこのあと釣りに行こうかと思ってるんだ。また来週の週末に会えるかな?」
「はい。大丈夫です。楽しみにしてますね」
「じゃ、ツーの国はもう夜遅いだろうから、早く寝るようにね。遊んでくれてありがとう。お休み」
「お休みなさい」

笑顔だけじゃなくて、触れたいって思ってしまう俺は贅沢なんだろうか。
Ωだって告げることも出来ない俺は、笑顔を作ってアランさんと別れた。









「ツー、僕の信奉者に絡まれたって本当?」
「あ、はは。そんなこともあったかな」
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの? 僕は頼りない?」
「そうじゃ、ないんです……ただ俺の問題で……」

身の程を弁えなさいやら、アランさんには釣り合わないやら、これ以上近付かないでやら、色々言われたけど、何よりショックだったのは、もしかしたら俺がアランさんに迷惑をかけているかもしれない事だった。
アランさんは優しいから態度に出さないだけで、本当はイヤだったのかもしれない。
そう考えただけで、俺は耐えられなかった。

「ツー、君が何を考えているのかわからないけれど、僕はツーの事が大切だよ。信奉者が何を言ったかもしらないけど、どこの誰かもわからないような人の言葉より、僕を信じて?」

君と会うことはやめないよと囁くアランさんの声が、俺の心にしみ渡る。

でも、と思ってしまう。
俺はアランさんが好きなんだ。ゲームの中だけでは足りないほど。
この関係を続けてて、その先に俺が望むような未来が待っているだろうか。
アランさんのバースがなんでも、これから先実際に会って、特別な関係になれるだろうかと、どうしても考えてしまう。
限りなく、その可能性は低いのに……。

ゲームの中では仲良くなってきているけど、アランさんのリアルは何も知らない。聞く勇気もない。
聞いたら教えてくれる?

それとも、俺は急ぎ過ぎなんだろうか。もっとゆっくり関係を育むべきだろうか。


発情期も近くなってきて精神的に不安定だし、この際、
アランさんとちょっと離れてみようかな。

「アランさん、ごめんなさい。アランさんの気持ちは嬉しいけど、色々あって俺しばらくFTO出来ないんです。また余裕が出来たら遊んで下さい」
「え、何で……」
「またメッセージで遊べそうな日お知らせしますね! じゃあ今日はこれで失礼します。では、また!」


俺はアランさんの前から走って逃げた。













「はあ……」
「またため息。何に悩んでるんだ? 優しい翼様が聞いてしんぜよう」
「ありがと。俺、アランさんの事好きになっちゃったんだ」
放課後の帰り道、翼が鞄で背中を叩いてきた。地味に痛い。

「うん。で?」
「で? って……」
それだけかーい。ってツッコミは置いといて。

「俺、アランさんの事何も知らないし、聞けないし、望み薄過ぎだよなってなって。それで、発情期も近いししばらく会えませんって言っちゃって、逃げちゃって。ダメダメ過ぎて自己嫌悪」
「なるほどー。深刻ですな。でも、君のこと噂になってたよ。ツーさん」
「え? 何で?」
「アラン様は有名だからね。仕方ない。でも可愛い子って言われたりしてたよ。樹も隅に置けないな」
「喜んでいいの? それ」
「Ωだからね。可愛いは褒め言葉だよ。でもリアルの樹はもっと可愛いし、ほのかに甘い杏の良い匂いがする」

黒いゴツい首輪をした首筋に顔を近付けてくる翼をかわして、苦笑する。

「泣く子も黙る美少年に言われると感慨深い」
「馬鹿にしてる? ねえ」
「何で怒るの」
スイッチがわからないなーと思いながら、ちょっと打ち明けただけで気持ちが軽くなった様な気がして、翼様は凄いなあと拝みたくなった。



「でさ、知りたいの? アラン様のこと」
「何か知ってるの?」
「噂だけならね。実際はどうだか分からないよ?」
「翼からアランさんのことを聞くのも複雑な気分」
「ならやめとく?」
「いや、聞かせて下さい」
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