君との距離。

hina

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アラン・デュリル。
欧州を拠点に世界的に展開しているデュリルホテルグループ、そのデュリル家の御曹司でαな二十歳。今現在某有名大学の学生で大学でもα性を発揮して目立っているらしい。
彼の母は女優をしていた華やかな美貌の持ち主で、アランさんもその美貌を受け継いでいる相当な美男子らしい。

アバターにもリアルが影響するもんね。

聞いたことから想像すると、アランさんは普段の騒がしい日常から離れたくて、FTOを始めたのかもしれない。

俺は彼の力になれているかな。



「アランさんのリアルの話を聞いたら、ますます自信なくなってきた」
「あくまでも推測だから。本当は全然違う人かもしれないし」
「でもあの美しさだよ。普段から浮名を流してるに違いないよ。こんななんの変哲もない男Ωなんて」
「はいはい。ストップ。そんな孤高の人が親しくしてるのは誰だっけ」
「あ、あの。俺です」
「アランさんのリアルはわからないけどさ、ゲーム内では少なくとも樹だけなんだから。せめて自信は持ってなよ」
「う、うん」
ぽんぽんと肩を叩く翼に半泣きになる。

「リアルでも会えるといいね」
「つばさー! そうなって欲しいよお」
「よしよし。ツラいヒートも乗り越えられる。だいじょーぶ」
「がんばります……」


俺は抑制剤を入れた胸ポケットを握りしめて、ぽたりと涙をこぼした。










「はあ……アランさん……欲しいよお」
大人の玩具ではうまく慰めることが出来なくて、後ろが切ない。
出し切った前からはもう透明な液体が少しずつ出るだけで、熱をもって痛かった。

「アランさん、会いたい。会いたいよー……」

発情期も四日目に差しかかり、だいぶ理性を取り戻したけど、口にしてしまうのはどうしても泣き言だった。

発情期が終わるまでは、ヘッドセットが熱を異常として感知してしまうため、学校が休みでもFTOにはログイン出来ない。
それでなくても何をするのも億劫で、食事さえ疎かだった。
それくらい、性欲に支配される期間なのだ。
早くパートナーを見つけたい。
それがアランさんならいいのに。そう思うだけなら自由だ。

「早く終わって……」

枕に顔を押し付けながら、小さく呟いた。







「ツー。何でFTOが出来なかったの?」
せっかく久しぶりに会えたのに、アランさんは苛立っているようだった。

人のいない夜の浜辺は発光するカラフルな魚の淡い光で満ちていて結構明るいけど、俺はそれどころじゃなかった。

「あの……その、」
「僕には言えないの? 言いたくない?」
「凄く個人的なことなので……」
「知りたい。ツーの事ならなんでも。何で二週間以上会えなかったのかも……もしかして僕のせいでもある?」
「いや、あの、俺……Ωで……発情期で……」
か細い声で、真っ赤な顔を両手で覆って、何とか答える。

「ツー……なんでそれをもっと早く教えてくれなかったんだ!」
「え? だ、だって」
「僕はαで運命の番を探してた。ねえ、ツーには番はいる?」
「い、いません。けど……」
「けど? もしかして、候補はいるの?」
苦しそうな顔をするアランさんに、慌てて否定する。

「そんな人いません! そうじゃなくて、運命の番を探してたって……」
「ああ……もう今はいいんだ。他の誰でもない。運命の番じゃなくても、ツー、君が僕の運命の相手だ。お願い、僕を拒まないで」
「え、え? えぇぇ!?」
「ねえ、現実でも会いに行くよ。次の発情期は一緒に過ごそう。ツーの事、もっと教えて?」

アランさんが俺の手を取って、口付ける。

「あ、アランさん!」
「ん? どうしたの?」
「あの、俺まだ高校生ですよ? まだ子供です」
「僕だって成人はしてるけど、まだ大学生だよ。リアルで会って、どうしてもフェロモンが合わなかったりしなければ、僕と番になって下さい。今から予約させて?」
「俺の何がそんなに……」
「強いて言うならマイペースなところかな。飼い猫に似てて凄く癒されるんだ。それに良い香りがしそうだし」
「ね、猫? 良い香り?」
「ツーのフェロモン嗅ぎたい」
「そ、そんなに良いものじゃないですよー……」



その後、アランさんがアラン・デュリルな事と諸々の噂の真偽を確かめ、俺のことも話すと、アランさんは嬉しそうに俺を抱きしめてきた。

こうなりたかったはずなんだけど……なんか思ってたのと違う気もするのが複雑な心境です。

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