2 / 48
第一章 愚王と愚妹による婚約破棄
第二話 国を裏から守護する〈防国姫〉
ああ……そういうことなのね
私はアントンさまとミーシャを見て、大きなため息を吐いた。
ミーシャはアントンさまの腕にこれみよがしに自分の腕を絡ませて、周囲に私たちの新たな関係性を猛烈にアピールしている。
今しがた自分の口から宣言したように、ミーシャ・フィンドラルが実姉のアメリア・フィンドラルからアントンさまを奪い取ったのだと。
そして普通ならばこの暴挙とも呼べる行為に対して、舞踏会に参加している貴族たちから反発の声が上がってもおかしくなかった。
王族や貴族の間で結ばれる婚約とは、個人の恋愛関係以上に家柄同士の結びつきを重要としている。
なのに貴族たちから何の声も上がらないということは、すでにアントンさまとミーシャの関係は私の知らないところで貴族たちに根回しされていたのだろう。
中には私に対して憐れみや同情をしている顔つきの者もいる。
私の家がフィンドラル家ということも理由としてあったのかもしれない。
私の家であるフィンドラル家は爵位としては下位の男爵家だが、それでも長いカスケード王国の歴史の中で特別な役割を与えられている「特別な能力を生み出す家柄」として認知されていた。
それが「防国術」もしくは「防国能力」とも呼ばれている防病魔法だ。
この世に存在する魔法は「地水火風」の基本的な4属性の魔法に加えて、肉体の怪我を治療する「治癒属性」と呼ばれる特殊な魔法が存在している。
しかし、この治癒魔法はあくまでも肉体の怪我を治すだけで、病気の類を予防したり治すことはできない。
けれども、フィンドラル家だけにはこの病気を治す特別な力を持った人間が生まれてくる。
それも男子にはその能力はまったく発現せず、女子にだけ発現するという奇妙な特性があった。
なのでフィンドラル家に生まれた女子の中でこの能力を発現した者は、王族と血の契りを結ぶということが半ば公然として受け継がれてきた。
カスケード王家の力を強めて強靭な神の如き生命力を持つ子孫をはぐくみ、様々な病気を予防する力は国を守護することと同じだと信じられていたからだ。
そのことにちなんで、この防病魔法を発現して王宮入りした令嬢を王宮内では〈防国姫〉と呼ばれていた。
だが、王族と婚姻を結んでも〈防国姫〉に与えられる仕事は2つしかない。
1つは当たり前だが健康的な男子を産むことと。
そしてもう1つは王宮に存在する巨大な魔力水晶石を通して、国の主要都市に存在する同タイプの魔力水晶石に防病魔法の力を与え続けるという仕事だ。
これによって国全体が様々な病気から守られ、疫病の原因と言われていた〈魔素〉による大量の死者が出て国が亡ぶということを回避していたのだ。
ただ貴族の中にはフィンドラル家をよく思っていない人間も多い。
もっとも爵位が下の男爵家の分際で、たかが病気を治しているくせに王族と血縁関係を持つなんてとフィンドラル家を馬鹿にしている貴族もいると聞く。
そのフィンドラル家の長女と次女の婚約トラブルと聞いて、表向きは私に同情している振りをしていても、内心はトラブルを面白がってほくそ笑んでいる貴族もこの中にいるに違いない。
それはさておき、と私はミーシャへと視線を転じた。
ここカスケード王国の王宮内の舞踏会で、アントンさまがミーシャを新たな婚約者にするという発表をしたということは、ミーシャにも私と同じ防病魔法の力が発現したということなのだろう。
そうでなければ若き国王であるアントンさまの私に対する婚約破棄と、ミーシャとの新たな婚約など認めるはずがなかったからだ。
一体、この2人はいつから関係を持っていたのだろう。
この数ヶ月間は実家に帰ることもなく王宮内の結界部屋に閉じこもって力を使っていたので、ミーシャに防病魔法の力が発現していたとしてもそのことを知りえることはできなかった。
続いて私はアントンさまへと目をやる。
アントンさまはニヤニヤと笑いながら私を見つめている。
私はこの数ヶ月間の苦労を思い出しながら、下唇を強く噛み締めた。
私はアントンさまとミーシャを見て、大きなため息を吐いた。
ミーシャはアントンさまの腕にこれみよがしに自分の腕を絡ませて、周囲に私たちの新たな関係性を猛烈にアピールしている。
今しがた自分の口から宣言したように、ミーシャ・フィンドラルが実姉のアメリア・フィンドラルからアントンさまを奪い取ったのだと。
そして普通ならばこの暴挙とも呼べる行為に対して、舞踏会に参加している貴族たちから反発の声が上がってもおかしくなかった。
王族や貴族の間で結ばれる婚約とは、個人の恋愛関係以上に家柄同士の結びつきを重要としている。
なのに貴族たちから何の声も上がらないということは、すでにアントンさまとミーシャの関係は私の知らないところで貴族たちに根回しされていたのだろう。
中には私に対して憐れみや同情をしている顔つきの者もいる。
私の家がフィンドラル家ということも理由としてあったのかもしれない。
私の家であるフィンドラル家は爵位としては下位の男爵家だが、それでも長いカスケード王国の歴史の中で特別な役割を与えられている「特別な能力を生み出す家柄」として認知されていた。
それが「防国術」もしくは「防国能力」とも呼ばれている防病魔法だ。
この世に存在する魔法は「地水火風」の基本的な4属性の魔法に加えて、肉体の怪我を治療する「治癒属性」と呼ばれる特殊な魔法が存在している。
しかし、この治癒魔法はあくまでも肉体の怪我を治すだけで、病気の類を予防したり治すことはできない。
けれども、フィンドラル家だけにはこの病気を治す特別な力を持った人間が生まれてくる。
それも男子にはその能力はまったく発現せず、女子にだけ発現するという奇妙な特性があった。
なのでフィンドラル家に生まれた女子の中でこの能力を発現した者は、王族と血の契りを結ぶということが半ば公然として受け継がれてきた。
カスケード王家の力を強めて強靭な神の如き生命力を持つ子孫をはぐくみ、様々な病気を予防する力は国を守護することと同じだと信じられていたからだ。
そのことにちなんで、この防病魔法を発現して王宮入りした令嬢を王宮内では〈防国姫〉と呼ばれていた。
だが、王族と婚姻を結んでも〈防国姫〉に与えられる仕事は2つしかない。
1つは当たり前だが健康的な男子を産むことと。
そしてもう1つは王宮に存在する巨大な魔力水晶石を通して、国の主要都市に存在する同タイプの魔力水晶石に防病魔法の力を与え続けるという仕事だ。
これによって国全体が様々な病気から守られ、疫病の原因と言われていた〈魔素〉による大量の死者が出て国が亡ぶということを回避していたのだ。
ただ貴族の中にはフィンドラル家をよく思っていない人間も多い。
もっとも爵位が下の男爵家の分際で、たかが病気を治しているくせに王族と血縁関係を持つなんてとフィンドラル家を馬鹿にしている貴族もいると聞く。
そのフィンドラル家の長女と次女の婚約トラブルと聞いて、表向きは私に同情している振りをしていても、内心はトラブルを面白がってほくそ笑んでいる貴族もこの中にいるに違いない。
それはさておき、と私はミーシャへと視線を転じた。
ここカスケード王国の王宮内の舞踏会で、アントンさまがミーシャを新たな婚約者にするという発表をしたということは、ミーシャにも私と同じ防病魔法の力が発現したということなのだろう。
そうでなければ若き国王であるアントンさまの私に対する婚約破棄と、ミーシャとの新たな婚約など認めるはずがなかったからだ。
一体、この2人はいつから関係を持っていたのだろう。
この数ヶ月間は実家に帰ることもなく王宮内の結界部屋に閉じこもって力を使っていたので、ミーシャに防病魔法の力が発現していたとしてもそのことを知りえることはできなかった。
続いて私はアントンさまへと目をやる。
アントンさまはニヤニヤと笑いながら私を見つめている。
私はこの数ヶ月間の苦労を思い出しながら、下唇を強く噛み締めた。
あなたにおすすめの小説
役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜
腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。
絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。
しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身!
「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」
シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて
放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。
行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。
たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。
ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。
偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。
社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。
対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。
それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。
けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。
…ある大事件が起きるまで。
姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。
両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。
姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。
しかしその少女は噂のような悪女ではなく…
***
タイトルを変更しました。
指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。
レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。
知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。
私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。
そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎