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第4話 運命の出会い
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「おや? あんた新顔だね?」
マスターは銀髪の美青年を見るなり笑顔を向ける。
一方の銀髪の美青年も太陽のような笑顔を返しながら「はい」と言う。
そして銀髪の美青年は店内をぐるりと見渡す。
「まだお店はやっているようですが……もう満席のようですね」
「いやいや、まだ一つ空いているよ」
マスターは私の隣の席にあごをしゃくった。
確かに店内では私の隣が空いている。
けれど、まさかあんなイケメンと隣の席になるなんて……。
私が動揺していると、銀髪の美青年は「よかった。今日は運がいい」と私の隣に近づいてくる。
「失礼。お隣に座ってもよろしいでしょうか?」
銀髪の美青年は、私に向かってニコリと笑いながら問いかけてくる。
「は、はい……どうぞ」
必死に動揺を隠しながらうなずくと、銀髪の美青年は「それでは遠慮なく」と空いている席に腰を下ろす。
(……こんな素敵な紳士は見たことがない)
私はおでんを食べることを忘れ、メニューの注文を始めた銀髪の美青年の横顔を眺める。
身長は180センチ前後。
遠目には華奢そうに見えたが、こうして近くで見ると彼が着痩せするタイプなのがよくわかる。
貴族や豪商が着る上等な絹製の衣服が全体的に薄っすらと盛り上がっている。
私の叔父様と同じだ。
普段は飄々と風来坊を気取っていたが、実は裏で勉学や武術の鍛錬に余念がなかった叔父様と同じ肉体つきである。
私はじっと彼のことを見つめた。
年の頃は20代前半だろうか。
毛先まで清潔感がある銀髪をなびかせ、顔立ちはまるで役者のように整っている。
キリッとした目眉。
ちょうどよい高さの鼻梁。
肌質などは貴族令嬢も裸足で逃げ出すほどきめ細かく潤っていて、染みや汚れなどはまったく見当たらない。
まるで天使の絵が描かれた宗教画から抜け出してきたような男性である。
「この店へはよく来るんですか?」
…………ドキッ!
私は思わず口に含んでいたヒノモト酒を吹き出しそうになった。
銀髪の美青年が急にこちらを向いて質問してきたからだ。
ううん、違う。
これは料理が来るまでの暇つぶしの会話よ。
私にはわかっている……でも、声をかけてきた驚きと視線が交錯した嬉しさは否定できない。
「い、いえ……以前に叔父に連れて来てもらったときが最後で」
私は自分でもわかるほど目を泳がしながら、慌ててヒノモト酒をあおる。
酒精《アルコール》の強いヒノモト酒が最速で胃の中に落ちていくのがわかった。
「ダメだよ、ヒノモトのお酒でそんな飲み方をしたら。ヒノモトのお酒は水みたいだけど酒精《アルコール》がとても強いんだ」
「ひゃ……ひゃい、そうれふね」
……あれ?
何だか目が回って気分が心地よくなってきた。
それに身体全体が熱く火照ってくる。
「だ、大丈夫?」
私は「大丈夫れふ」と満面の笑みで返した。
(ああ……何だか今は凄く気持ちがいい)
「君、あまりお酒が強くないんだね。一人で来たみたいだけど、酔い潰れる前に帰ったほうがいいんじゃない?」
冗談じゃない。
絶望していた暗い気持ちが払拭され、身体の底から果てしない高揚感が湧き上がっているのだ。
それにおでんもお酒もまだまだ不足している。
「私は全然平気れふから気にしないでくだひゃい。そうそう、そういうあなたこそお一人なんれふか? 凄く綺麗な銀髪れふね。お名前は何というのかしら?」
私は酔った勢いに任せて矢継ぎ早に質問する。
「ふふ……おかしな人だな。俺の名前はカイト・カー……カイトだよ。ただのカイト。旅の行商人をしているんだ」
(旅の行商人?)
私はジト目で銀髪の美青年――カイトさんの全身を再び見つめる。
確かに恰好は豪商にしか見えないが、元貴族令嬢の私の目は節穴ではない。
この人は商人じゃなく、もっと身分の高い人物だ。
彼の全身からは本人すらも隠し切れない高貴なオーラが放たれている。
(もしかして異国の貴族?)
私が食い入るように見つめていたせいか、カイトさんは「そんなに見つめられると食べずらいよ」と微笑を浮かべる。
「あ……そうですよね。ごめんなひゃい」
私は気恥ずかしさを隠すため、ヒノモト酒を一気に胃に流し込んだ。
くらり……と視界が左右に揺れ動く。
同時に私の気持ちも大きく揺らいだ。
何とも言えない気持ちのよさが湧き上がってくる。
「大丈夫? 顔が真っ赤だよ」
そう言われて私は嬉しくなった。
どうして嬉しくなったかはよくわからない。
嬉しくなったものは嬉しいのだ。
「カイトさんは良い人ね。私みたいな馬鹿でアホで間抜けでブスな女に優しい言葉をかけてくれるなんて」
「いや、別にそこまで優しい言葉を言ったつもりはないんだけど……それに君は自分で卑下するほど不細工じゃないよ。見た目も可愛らしいし、目元なんてとてもチャーミングで素敵だ」
「か、カイトさん……」
私は脳みそがスパークしたような高揚感に駆られ、マスターに「お代わり」と叫んだ。
そしてカイトさんに潤んだ瞳を向ける。
「カイトさん、あなたはとっても良い人だわ。だから私と一緒に飲み明かしましょう」
「え? ああ……別にいいけど」
マスターから「はい、お代わり」とヒノモト酒を受け取ると、私は無理やりカイトさんのコップに軽く当てて「乾杯!」と言い放つ。
そうして私は束の間の幸せを感じながら、財布の懐具合も忘れて大いにカイトさんと飲み明かしたのだった。
そして――。
マスターは銀髪の美青年を見るなり笑顔を向ける。
一方の銀髪の美青年も太陽のような笑顔を返しながら「はい」と言う。
そして銀髪の美青年は店内をぐるりと見渡す。
「まだお店はやっているようですが……もう満席のようですね」
「いやいや、まだ一つ空いているよ」
マスターは私の隣の席にあごをしゃくった。
確かに店内では私の隣が空いている。
けれど、まさかあんなイケメンと隣の席になるなんて……。
私が動揺していると、銀髪の美青年は「よかった。今日は運がいい」と私の隣に近づいてくる。
「失礼。お隣に座ってもよろしいでしょうか?」
銀髪の美青年は、私に向かってニコリと笑いながら問いかけてくる。
「は、はい……どうぞ」
必死に動揺を隠しながらうなずくと、銀髪の美青年は「それでは遠慮なく」と空いている席に腰を下ろす。
(……こんな素敵な紳士は見たことがない)
私はおでんを食べることを忘れ、メニューの注文を始めた銀髪の美青年の横顔を眺める。
身長は180センチ前後。
遠目には華奢そうに見えたが、こうして近くで見ると彼が着痩せするタイプなのがよくわかる。
貴族や豪商が着る上等な絹製の衣服が全体的に薄っすらと盛り上がっている。
私の叔父様と同じだ。
普段は飄々と風来坊を気取っていたが、実は裏で勉学や武術の鍛錬に余念がなかった叔父様と同じ肉体つきである。
私はじっと彼のことを見つめた。
年の頃は20代前半だろうか。
毛先まで清潔感がある銀髪をなびかせ、顔立ちはまるで役者のように整っている。
キリッとした目眉。
ちょうどよい高さの鼻梁。
肌質などは貴族令嬢も裸足で逃げ出すほどきめ細かく潤っていて、染みや汚れなどはまったく見当たらない。
まるで天使の絵が描かれた宗教画から抜け出してきたような男性である。
「この店へはよく来るんですか?」
…………ドキッ!
私は思わず口に含んでいたヒノモト酒を吹き出しそうになった。
銀髪の美青年が急にこちらを向いて質問してきたからだ。
ううん、違う。
これは料理が来るまでの暇つぶしの会話よ。
私にはわかっている……でも、声をかけてきた驚きと視線が交錯した嬉しさは否定できない。
「い、いえ……以前に叔父に連れて来てもらったときが最後で」
私は自分でもわかるほど目を泳がしながら、慌ててヒノモト酒をあおる。
酒精《アルコール》の強いヒノモト酒が最速で胃の中に落ちていくのがわかった。
「ダメだよ、ヒノモトのお酒でそんな飲み方をしたら。ヒノモトのお酒は水みたいだけど酒精《アルコール》がとても強いんだ」
「ひゃ……ひゃい、そうれふね」
……あれ?
何だか目が回って気分が心地よくなってきた。
それに身体全体が熱く火照ってくる。
「だ、大丈夫?」
私は「大丈夫れふ」と満面の笑みで返した。
(ああ……何だか今は凄く気持ちがいい)
「君、あまりお酒が強くないんだね。一人で来たみたいだけど、酔い潰れる前に帰ったほうがいいんじゃない?」
冗談じゃない。
絶望していた暗い気持ちが払拭され、身体の底から果てしない高揚感が湧き上がっているのだ。
それにおでんもお酒もまだまだ不足している。
「私は全然平気れふから気にしないでくだひゃい。そうそう、そういうあなたこそお一人なんれふか? 凄く綺麗な銀髪れふね。お名前は何というのかしら?」
私は酔った勢いに任せて矢継ぎ早に質問する。
「ふふ……おかしな人だな。俺の名前はカイト・カー……カイトだよ。ただのカイト。旅の行商人をしているんだ」
(旅の行商人?)
私はジト目で銀髪の美青年――カイトさんの全身を再び見つめる。
確かに恰好は豪商にしか見えないが、元貴族令嬢の私の目は節穴ではない。
この人は商人じゃなく、もっと身分の高い人物だ。
彼の全身からは本人すらも隠し切れない高貴なオーラが放たれている。
(もしかして異国の貴族?)
私が食い入るように見つめていたせいか、カイトさんは「そんなに見つめられると食べずらいよ」と微笑を浮かべる。
「あ……そうですよね。ごめんなひゃい」
私は気恥ずかしさを隠すため、ヒノモト酒を一気に胃に流し込んだ。
くらり……と視界が左右に揺れ動く。
同時に私の気持ちも大きく揺らいだ。
何とも言えない気持ちのよさが湧き上がってくる。
「大丈夫? 顔が真っ赤だよ」
そう言われて私は嬉しくなった。
どうして嬉しくなったかはよくわからない。
嬉しくなったものは嬉しいのだ。
「カイトさんは良い人ね。私みたいな馬鹿でアホで間抜けでブスな女に優しい言葉をかけてくれるなんて」
「いや、別にそこまで優しい言葉を言ったつもりはないんだけど……それに君は自分で卑下するほど不細工じゃないよ。見た目も可愛らしいし、目元なんてとてもチャーミングで素敵だ」
「か、カイトさん……」
私は脳みそがスパークしたような高揚感に駆られ、マスターに「お代わり」と叫んだ。
そしてカイトさんに潤んだ瞳を向ける。
「カイトさん、あなたはとっても良い人だわ。だから私と一緒に飲み明かしましょう」
「え? ああ……別にいいけど」
マスターから「はい、お代わり」とヒノモト酒を受け取ると、私は無理やりカイトさんのコップに軽く当てて「乾杯!」と言い放つ。
そうして私は束の間の幸せを感じながら、財布の懐具合も忘れて大いにカイトさんと飲み明かしたのだった。
そして――。
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