【完結】転生坊主のマントラ無双 ~現代日本で住職だった坊主、異世界転生して対魔法使いレジスタンスに加入したら、大僧侶にまで成り上がった件~

ともボン

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第八話    治癒の壺が開くとき

『長峰空心の真言徳位マントラ・レベルが上がりました。療神ゆしん・【薬師如来やくしにょらい】の力が使用できます』

 空心は目を丸くさせた。

 火天に続いて新たな神の力を使えるようになったのだ。

 しかも神の名前は、薬師如来。

 釈迦如来と瓜二つだが、左に小さな壺を持っている神だ。

 古くは「今昔こんじゃく物語集ものがたりしゅう」にも登場する、無病息災と延命のご利益がある医療と医薬の神である。

「まさか……本当に薬師如来さまですか?」

『いかにも。我こそ薬師如来なり』

 薬師如来は満面の笑みを浮かべた。

『長峰空心、そなたの生き残った村人たちを救済するという心意気に我は打たれた。ゆえにそなたに我の力を与えようぞ。我の真言マントラを唱えれば、そなたの今の信心力に応じて他者の怪我や病気を治癒できる。しかし、その力は己には働かないので注意せよ』

 つまり、薬師如来の力を使えば怪我をした村人たちの治療ができる。

 反面、その治癒の力で自分の怪我や病気を治すことはできない。

 十分だった。

 むしろ自分はどうでもいい。

 困った人たちの怪我や病気を治せることのほうが大事である。

 空心は薬師如来に深々と頭を下げる。

「ありがとうございます、薬師如来さま。あなたさまのお力で村の方々の怪我を治療できます」

 うむ、と薬師如来はうなずいた。

『さすがに死者を蘇らせることは不可能だが、生存している村人たちの怪我や火傷を治療するぐらいは今のそなたの信心力ならばできる。しかし、それも急いだほうがよい。この異世界ではお前がいた現代日本とは違い、少しの怪我でも放置しておけば致命傷になってしまう』

 薬師如来は空心の後方にあごをしゃくる。

『特にあの赤髪の少女は危険な状態だ。早く治療してやるがよい』

 空心はハッと我に返る。

 そうだった。

 自分が真っ先に助けたあの赤い髪の少女も重傷を負っていたのだ。

 空心は急いで赤い髪の少女の元へ駆けていく。

 赤い髪の少女は半ば意識を失った状態だった。

 全体的に火傷がひどい。

「オン・アビラウンケン・ソワカ」

 空心は大日如来の真言を唱えて力の発動の準備をすると、今ほど使えるようになった薬師如来の真言を唱える。

「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」 

 真言を唱えると、顕現されていた薬師如来に動きがあった。

 空中に浮かんでいた薬師如来は、赤い髪の少女に移動して薬壺《やっこ》を開けたのだ。

 すると薬壺の中から桃の汁のような水分が自然に出てきた。

 桃の汁のような水分は大風呂敷のように広がり、瞬く間に赤い髪の少女を優しく包み込む。

「おおお……」

 空心は感嘆の声を漏らす。

 赤い髪の少女の火傷が見る見るうちに治っていく。

「――――はっ!」

 突如、赤い髪の少女が目を覚ました。

 勢いよく上半身を起こすと、自分で自分の身体をまさぐって驚愕する。

「どこも痛くない……何で?」

「薬師如来さまのお力です」

 空心が答えると、赤い髪の少女は空心に視線を移す。

「もうどこも痛みはありませんか?」

 赤い髪の少女は目を見開いたまま「これはあなたが?」と訊いてくる。

「いえ、あなたの怪我を治したのは私ではなく薬師如来さまのお力です。私にそのような力は――」

 ないです、と口にしようとしたときだ。

『空心、それは違うぞ!』

 宙に浮かんでいた薬師如来が声を張り上げた。

『確かに治癒は我の力。されど、その力をこの世に現出させて使用できるのはそなた自身の力によってだ。他の神々の力と同様、この治癒の力も苦しんでいる者たちのために役立ててくれ』

「も、もちろんでございます」

『よし、では他の村人の怪我も治してやれ。今のそなたの信心力では数十人の人間たちの怪我を治癒させるのは相当な体力が要るが、それもまたそなたに課せられた修行ぞ』

「構いません。むしろ私の体力が犠牲になることで人々が救われるなら、喜んで使いましょう」

 と空心が薬師如来に感謝したときだ。

「あなたは誰と喋っているの? ううん、それよりも僧侶と言ったわね。でも、あなたはどう見てもこの国の僧侶には見えない。ましてや遠国のクレスト聖教会の僧侶でもなさそう。じゃあ、あなたは一体……」

 元気を取り戻した赤い髪の少女が、おそるおそる尋ねてくる。

「話せば長くなりますが、それはひとまず置いておきましょう。まずはあなた以外の怪我人を治療することが先決です」

 空心はそう答えると、怪我をしている村人たちの元へと歩を進める。

 赤い髪の少女は、そんな空心の背中を呆然と見つめていた。
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