【完結】ナチュラルキラー46 ~異世界転移から始まる、最強の強化少年と最硬の機人による復讐冒険譚~

ともボン

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第三十六話   決着

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 四狼がオリビアに策を聞かせた直後、空中にいたカルマが甲高い哄笑を上げた。

「何をしようと無駄だ! 空中にいる限り私に敵はいない!」

 バサバサと巨大な翼を羽ばたかせていたカルマは、玉座の間にいる人間たちを見下ろしながら哄笑を続けた。

 唯一、自分に傷を負わせるロングボウを使う人間たちを始末したことで余裕が出たのだろう。

 そんなカルマを見上げながら、瞳の中に闘志の炎を滾らせた人間たちがいた。

 四狼とオリビアである。

 四狼は〈忠吉〉を鞘に納めると、オリエンタが使っていた長槍を両手に持った。

「頼んだぞ、オリビア。俺の合図で開始だ」

「わかった。任せろ」

 こくりと頷いた四狼は、自分たちの盾になっていた金剛丸に視線を向ける。

 すでに金剛丸にも命令を送っていた。

「いいな、金剛丸。お前も頼むぞ」

『了解。命令ヲ実行シマス』

 二度目の返答をした金剛丸は、内部から猛々しい駆動音を発しながら突進した。

 そのあとで四狼が走り出す。

「馬鹿が! どれだけの力を有していようが〈機人〉は空を飛べん!」

 そんなことは〈亜生物〉に言われなくても分かっている。

 四狼が金剛丸に与えた命令はもっと違うことである。

 軽い地響きを鳴らしながら走っていた金剛丸は、突如としてくるりと反転した。

 機械の身体でありながら人間のように中腰の姿勢になると、両手を揃えて下に突き出す。

 カルマは金剛丸が何をしたいのか意味不明だっただろう。

 武器を使って攻撃を仕掛けてくるのでもなく、ただ背中を向けただけだったからだ。

 しかし、それすらが四狼が思いついた秘策の一つだった。

 突風のような速度で疾駆していた四狼は、床を蹴って揃えていた金剛丸の両手に飛び乗った。

 瞬間、金剛丸の瞳が異様に輝き、両手に乗った四狼を天高く放り投げた。

「何だと!」

 これにはカルマも驚愕した。

 〈機人〉の超人的な力と〈ナンバーズ〉の超人的な身体能力が見事に合わさり、四狼の身体がカルマに向かって飛翔したからだ。

「おおおおおお――――ッ!」

 不可視な翼を使って飛翔したかのような跳躍を見せた四狼は、腹の底から雄叫びを発しながら長槍を横薙ぎに振るった。

 それは穂先で斬りつけるのではなく、柄の部分でカルマの身体を叩きつけるような攻撃だった。

「はっ、そんなものが当たるか!」

 カルマは横薙ぎに放たれた長槍を、さらに真上に飛翔することで難なくかわした。

 それはカルマにとって脅威というほどの攻撃ではなかった。

 当然である。

 水中を泳ぐ魚に小石を当てることが難しいように、空中を自在に飛行できるカルマに空中戦を挑むなど無謀であった。

 それどころか、攻撃をかわされた四狼のほうが逆に脅威に晒される結果になった。

 身動きができない空中において長槍を振った四狼は、翼をなくした鳥のように床に向かって落下していく。

 地上までは約十メートル。

 四狼の身体能力ならば無事に着地できるかもしれないが、大人しく床に落ちるまで待つほどカルマは甘くない。

 カルマは落ちていく四狼の直線上に移動し、長槍を持っていた右手を振りかぶった。

 傍から見ればカルマの意図が確実に読めただろう。

 カルマは四狼が床に着地する前に長槍を投げて串刺しにするつもりであった。

「死ね! 〈ナンバーズ〉!」

 カルマは鳥の顔を歪ませて高らかに叫んだ。目線を落下している四狼に合わせ、今まさに手元から長槍を投げようと力を込めた瞬間――
「今だ! 撃て、オリビア!」
 これを待っていたとばかりに四狼がオリビアに指示を出した。
「何ッ!」
 カルマは長槍を投げずに視線を四狼からオリビアに移した。

 そこにはショットガンを構えていたオリビアがいた。

「うわああああああ――――ッ!」

 オリビアは甲高い声を上げながらトリガーを引き続けた。

 玉座の間に響き渡る雷鳴の嵐。

 オリビアは右肩に走る激痛に必死に耐えながらも、装填されていたすべてのスラグショットを撃ち続けた。

 さすがにこのときばかりはカルマも焦りの色を浮かべた。

 だが、それも一瞬のことですぐに落ち着きを取り戻した。

 何故なら、オリビアの放ったスラグショットは一発たりとも当たるどころか掠りもしなかったからだ。

 カルマの注意がショットガンに向いていた隙に、四狼は床にふわりと着地した。

「なるほど、貴様が囮になりオリビアがショットガンで狙うという策か……」

 真下にいる四狼を見下ろしながら、カルマは手にしていた長槍で肩を叩いた。

「中々いい策だったが残念だったな、〈ナンバーズ〉。貴様のミスは素人にショットガンを渡したことだ。あんな腕で俺は撃ち落せんわ」

 カルマが吐き捨てるように言うと、四狼はカルマを見上げてニヤリと笑った。

「ご大層な忠告ありがとよ。じゃあ、お礼としてお前のミスを教えてやる」

「ははははっ! この期に及んで負け惜しみか!」

 翼を強く羽ばたかせながらカルマは高らかに笑った。

 最早、四狼の言葉は負け犬の遠吠えにしか聞こえなかったからだ。

 だがこのとき、四狼は断じて負け惜しみで言ったのではなかった。

 カルマは微塵も気づいていなかったが、オリビアの撃ったスラグショットは一発たりとも当たらなかったわけではない。

 それどころか、全弾が命中していた。

 それは四狼を嘲笑った直後のことだった。

 カルマの耳が異様な音を拾った。

 鉱物に亀裂が走るような異様な音にカルマは訝しげに周囲を見渡した。

 しかし、そんな音を鳴らすモノなど見当たらない。

 視界に入るのは真下にいる〈ナンバーズ〉と、やや離れた位置でショットガンを手にしていたオリビア。

 そして、いつの間にか壁際に移動していた〈機人〉。

 そのとき、カルマはハッと気がついた。血相を変えて真上を見上げる。

 バキン! と何かが外れる音が鳴ったのと、カルマが大きく目を見開いたのはほぼ同時だった。

 シャンデリアであった。

 総重量百キロ以上はあったシャンデリアが、吊るされていた天井から一気に開放されてカルマの頭上に降り注いできたのである。

 そうである。

 これこそが四狼が閃いた秘策であった。

 自分自身がまず空中に飛んで囮となりカルマの意識を向けさせる。

 そしてその間にオリビアにショットガン撃たせるのだが、このときに狙う標的はカルマではなかった。

 カルマの真上に吊るされていた巨大なシャンデリアである。

 これならば素人のオリビアでも照準をつけやすく、なおかつ身軽に飛翔できるカルマよりも落としやすい。

 巨大なシャンデリアに身体を押さえられながら、カルマは猛烈な速度で落下した。

 それはさながら大宇宙から飛来した流星を連想させ、床に激突した瞬間は本当にクレーターができたのではないかというほどの強震が沸き起こった。

 シャンデリアに施されていた宝石類が四方に散乱する。

 やがて強震が収まってくると、砕け散ったシャンデリアの中心でモゾモゾと動く物体があった。

 カルマである。嘴がへし折れ、二枚の翼のうち一枚が千切れてもなお生きていた。

 それでも身体中血まみれで瀕死の状態なのは一目瞭然であった。

「お……おのれ……〈ナンバーズ〉が」

 怨嗟の言葉を吐きながら、カルマは首を動かして四狼を探した。

 しかし、カルマの視界に四狼の姿が入ってこない。

 床に伏せているオリビアや壁際で固まっている金剛丸の姿は確認できたのだが、肝心の四狼の姿を発見できなかった。

「お前のミスを教えてやろう。さっき俺はそう言ったよな?」

 ギクリ、と身体を硬直させたカルマは、柔軟な首を動かして背中の後方を見やった。

 四狼はシャンデリアの真上に陣取り、〈忠吉〉を抜き放っていた。

 特殊合金で造られた日本刀の鮮烈な輝きがカルマの目を釘付けにする。

「お前の仲間だったジンバハルは、はっきり言って口が軽すぎた。そしてそんなジンバハルをお前は嘲笑ったが、俺から言わしてみればお前にそんな資格はない。何故なら――」

「ナンバアアアアアズウウウウウウ――――ッ!」

 四狼はカルマの悲痛な叫びを無視して〈忠吉〉を垂直に振り下ろした。

 ずぶり、と刃物が肉に食い込んでいく異様な音が響き渡る。

 やがて背中から突き刺された〈忠吉〉は、カルマの心臓に到達した。

 そのときにはカルマの悲鳴は途切れ、ビクリ、ビクリと痙攣した後に完全に動かなくなった。

 そしてそんなカルマを見下ろしながら、四狼はぼそりと呟いた。

「お前は遊びすぎな上に余裕を見せすぎだ」

〈忠吉〉を抜いた四狼は、その場で血振りの動作をして〈忠吉〉を納刀した。

「四狼!」

 ふうと息を漏らした四狼にオリビアが駆け寄ってくる。

 左手にショットガンを携え、着ていたドレスは激戦の痕を物語るようにボロボロになっていた。

 そんなオリビアを見て、四狼は満面の笑みを返す。

 その瞬間、バルセロナの歴史に永遠に刻まれるであろう戦いが終わりを告げた。
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