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最終章 元荷物持ち、すべての因果に決着をつけ伝説となる
第七十四話 いざ本当の最悪な修羅場へ
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俺は〈箭疾歩〉を使って、エンシェント・ワイバーンの元へと急いでいた。
途中、逃げ惑う一般市民を襲っていた魔物たちと遭遇。
当然ながら見殺しにする気はなかったが、エンシェント・ワイバーンをあまり放っておくのも得策ではなかった。
なので俺は【聖気練武】の技を使って魔物どもを瞬殺した。
そして〈聴勁〉を使って魔物がいない方向を探ると、俺を見て呆然としていた一般市民たちに「向こうへ逃げろ」と指示して再び移動する。
やがて俺の視界にエンシェント・ワイバーンの姿が見えた。
どうやらエンシェント・ワイバーンは別の獲物を見つけたようだ。
遠くからでも目線を下に向けているのがわかった。
ここからでは見えないが、エンシェント・ワイバーンの目線の先に一般市民か探索者がいるのだろう。
俺は舌打ちしながら、エンシェント・ワイバーンとの距離を目算する。
ここからエンシェント・ワイバーンまでの距離はおよそ500メートル。
アースガルドにいたときの俺ならば余裕で聖気弾が届く距離だが、この16歳という若い肉体にまとっている〈聖気〉の総量から考えると不安だった。
なので俺は全力で〈箭疾歩〉を使い、何とかエンシェント・ワイバーンの魔の手が振るわれる前に100メートルの距離まで近づいた。
この距離ならいける!
俺は確信するや否や、〈周天〉で全身の〈聖気〉を倍増させた。
続けて両足を開いて腰を深く落とし、右拳を脇に引く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!
その右拳に〈周天〉で増やした〈聖気〉を一気に集中させるイメージをした。
直後、俺の右拳に〈聖気〉が目映い球状の塊となって凝縮されていく。
俺はキッとエンシェント・ワイバーンを睨みつける。
食らえッ!
「〈聖光・神遠拳〉ッ!」
エンシェント・ワイバーンの気を少しでもこちらへ向けようと大声を張り上げ、俺は右拳に溜めた〈聖気〉を突きの動作に乗せ、一気に聖気弾として打ち放った。
俺の〈聖光・神遠拳〉は空気を切り裂き、100メートル先のエンシェント・ワイバーンに直撃した。
しかし、当たった場所は片翼だった。
真に狙ったのは胴体だったのだが、やはりまだ本調子とはいかない。
どうも記憶が元に戻ってからというもの、この肉体で【聖気練武】の技を使うと微妙にズレる。
近距離の攻撃ならば瞬時に微調整ができるものの、今のように遠間からの攻撃だと狙った箇所からわずかに外れてしまうようだ。
とはいえ、少しでもエンシェント・ワイバーンの気を逸らすことはできた。
俺はカッと両目を見開くと、この好機を逃さないように再び〈箭疾歩〉を使った。
100メートルの距離が一気に縮まる。
次に俺は〈軽身功〉を使って跳躍。
十数メートル上空にいたエンシェント・ワイバーンの元へと飛翔すると、苦痛に声を荒げていたエンシェント・ワイバーンの巨体に〈聖光・百裂拳〉を繰り出した。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!
俺の疾風怒濤の拳打が暴風となって吹き荒れ、エンシェント・ワイバーンの肉厚な胴体に無数の拳の形をした凹みを作り出していく。
エンシェント・ワイバーンは苦悶の悲鳴を上げて地面に落下。
ドズンッという地響きの如き音が周囲に響き渡る。
すぐに俺は空中で右拳に〈聖気〉を一点集中させ、まだ息があったエンシェント・ワイバーンの巨体の上に降り立つ。
そして――。
とどめだ!
俺は〈発勁〉による突きをエンシェント・ワイバーンに放った。
ズドオオオオオオオオオオンッ!
渾身の〈発勁〉による突きの衝撃波は皮膚と筋肉を貫き、エンシェント・ワイバーンの内臓器官をグチャグチャに掻き乱した。
ケラアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!
それがエンシェント・ワイバーンにとっての最後の断末魔だった。
数秒後、全身を激しく痙攣させたあとにエンシェント・ワイバーンは絶命。
俺はエンシェント・ワイバーンの胴体から地面に飛び降り、この場にいた生存者たちを見回しながら言った。
「大丈夫か?」
生存者たちは6人の探索者たちだった。
しかもB級探索配信者ではなく、俺と同じA級探索配信者のPTたちだ。
20代半ばか後半ぐらいの、PTのリーダーと思われるショートカットの黒髪の女性の頭上で、専用ドローンが停止飛行していたからである。
そしてなぜ黒髪の女性がリーダーかと思ったのかは、彼女の全身から溢れている非常にバランスがよくまとわれている〈聖気〉の多寡でわかった。
他の男5人もA級探索者で【聖気練武】が使えるのだろうが、やはりこの6人の中で1番の【聖気練武】の使い手は黒髪の女性だ。
特に俺の勘では感覚系の【聖気練武】の技に長けているはず。
だとすると、黒髪の女性とはアレができるかもしれない。
「き、君は……もしかして〈元荷物持ち・ケンジch〉の拳児くん?」
黒髪の女性が声を震わせながらたずねてくる。
「そうだ。あんたたちもA級探索配信者だな?」
俺は口ではそう訊いた一方、さりげなく〈聴勁〉を使った。
そして俺の〈聴勁〉による〈聖気〉が黒髪の女性を包んだとき、脳内で『念話はできるか?』と話しかけた。
黒髪の女性は表情を一変させ、「え、ええ……」と若干しどろもどろで答える。
同時に黒髪の女性も〈聴勁〉を使い、脳内で俺に別の言葉を返してきた。
『あたしは攻撃系や防御系の技は不得意なんだけど、感覚系の〈化勁〉や〈聴勁〉は得意なの』
『ああ、何となく一目見てそう思った。だから、こうして念話で話しかけたんだ』
『え? でも、何でわざわざ念話で?』
『今、あんたたちは配信中だ。ならば【聖気練武】に関することや、協会からの極秘事項などは堂々と視聴者の前で話せないだろ?』
その言葉に黒髪の女性はハッとした。
『ごめん、何かあたしたちと話したい重要なことがある? だったらすぐにリスナーさんたちに了承を得て配信を切るわ』
『いや、そこまでしなくていい。俺としてはただ教えて欲しいだけなんだ』
『教えて欲しいって何を?』
『実はさっきまで俺は湿地エリアで無双配信をしていたんだが、配信を終わろうとしたときにこの迷宮街が魔物の大群と〈魔羅廃滅教団〉に襲われているというコメントが流れて来たんだ』
そこら辺の事情について、俺は黒髪の女性にかいつまんで話した。
『待って。湿地エリアからここまで半端じゃない距離があるのよ。それをたった1時間以内でこの迷宮街に帰ってきたっていうの?』
『そうだ。〈箭疾歩〉を繰り返し使いながらな……まあ、今はそんなことどうでもいい。大事なのは協会がこの騒動をどう考え、そしてどう収めようとしているかを知りたい。だから、何か知っているのなら教えてくれ。うかつなことにスマホというものを協会本部に忘れてきたので、詳しい事情がわからないんだ』
すると黒髪の女性は俺の事情を理解してくれたのだろう。
俺が知らなかった様々な情報を教えてくれた。
ダンジョン協会としては、A級探索者たちを迷宮街の各区域に一般市民の避難誘導と護衛のために派遣させたこと。
一方で成瀬会長を筆頭にしたS級探索者たちは、協会本部の敷地内にある地上世界と繋がっている〈門〉を守りつつ、一般市民たちと観光客を地上世界に避難させていること。
『じゃあ、A級の成瀬さんも街のどこかにいるのか?』
A級の成瀬というのは、成瀬伊織を置いて他にはいない。
『いいえ、たぶん成瀬伊織さんは協会本部にいるはずよ。今回の騒動の直後に協会から各A級探索者およびA級探索配信者がどこの区域を担当するかという専用メールが届いたんだけど、その専用メールにあたしたちと同じA級の成瀬さんの名前はなかったから』
なるほど。
となると、やはり成瀬さんは協会本部にいる可能性が高い。
そして魔物の大群と〈魔羅廃滅教団〉の目的もわかった。
連中の目的は迷宮街の殲滅ではなく、〈門〉を通って地上世界に行くことに違いない。
人間の集まりである〈魔羅廃滅教団〉ならば地上世界に行く理由もあるだろう。
だが、その中で魔物の大群がいるとなると話は違ってくる。
おそらく……いや、ほぼ間違いなく〈魔羅廃滅教団〉の中で魔物の大群を従えている、もしくは魔物のほうから勝手に従ってくるような力を持つ者がいるはず。
このとき、俺の脳裏に魔王ニーズヘッドの姿が浮かんだ。
奴だ、間違いない。
〈魔羅廃滅教団〉の中には魔王ニーズヘッド本人、もしくは魔王ニーズヘッドに肉体を憑依された外道中の外道がいる。
その外道が今回の指揮を執っており、〈門〉を目指しているのは地上世界に行ってもっと多くの国や人間を蹂躙するためなのだろう。
『……大体の事情はわかった』
と、俺がうなずいたときだ。
「お~い」
ようやく俺のドローンを持ったエリーがこの場に到着した。
「おお、エンシェント・ワイバーンを倒したんやな! さすがはケンやで!」
俺は無言でちらりとエリーを見ると、エリーに対して軽く目配せする。
するとエリーは黒髪の女性たちを見てすぐに事情を察してくれた。
無言になってドローンを停止飛行させるような真似をする。
『拳児くん、あなたも配信していたの?』
俺のドローンを見て黒髪の女性は訊いてくる。
『いや、ただ飛ばしているだけで配信はしていない。それよりも、俺は今から協会の本部に向かうが、あんたたちは大丈夫か?』
黒髪の女性は他の5人を見回すと、俺に『全然大丈夫とは言えないけど、あなたのおかげで少しやる気が出た』と答えた。
『まだ近くに逃げ遅れている一般市民の人たちがいるかもしれない。その人たちを安全な場所まで逃がす。だってそれがあたしたちの役目でもあるもの』
良い目だった。
【聖気練武】の技を上達させるには地道な努力も必要だが、幾度の修羅場を潜り抜けたという自信と覚悟によっても飛躍的に向上する。
きっとこの黒髪の女性は、のちに一角の【聖気練武】の使い手になるだろう。
『あんたの覚悟はよくわかった。じゃあ、ここはあんたらに任せる……え~と』
『京子。あたしの名前は新井京子。そしてPT名は【花鳥風月】よ』
『【花鳥風月】の新井京子さんだな。では、ここはあんたに任せる』
そう言うと俺は身体ごと振り返り、エリーに顔を向けてからこの場を離れた。
向かう先はダンジョン協会の本部。
そこにきっと魔王ニーズヘッドは向かっている。
俺は両足を動かしながら意を決した。
地上世界をアースガルドの二の舞には絶対にさせん。
今度こそ、貴様を魂魄までも消滅させて完膚なきまでに倒す!
待っていろ、魔王ニーズヘッド!
途中、逃げ惑う一般市民を襲っていた魔物たちと遭遇。
当然ながら見殺しにする気はなかったが、エンシェント・ワイバーンをあまり放っておくのも得策ではなかった。
なので俺は【聖気練武】の技を使って魔物どもを瞬殺した。
そして〈聴勁〉を使って魔物がいない方向を探ると、俺を見て呆然としていた一般市民たちに「向こうへ逃げろ」と指示して再び移動する。
やがて俺の視界にエンシェント・ワイバーンの姿が見えた。
どうやらエンシェント・ワイバーンは別の獲物を見つけたようだ。
遠くからでも目線を下に向けているのがわかった。
ここからでは見えないが、エンシェント・ワイバーンの目線の先に一般市民か探索者がいるのだろう。
俺は舌打ちしながら、エンシェント・ワイバーンとの距離を目算する。
ここからエンシェント・ワイバーンまでの距離はおよそ500メートル。
アースガルドにいたときの俺ならば余裕で聖気弾が届く距離だが、この16歳という若い肉体にまとっている〈聖気〉の総量から考えると不安だった。
なので俺は全力で〈箭疾歩〉を使い、何とかエンシェント・ワイバーンの魔の手が振るわれる前に100メートルの距離まで近づいた。
この距離ならいける!
俺は確信するや否や、〈周天〉で全身の〈聖気〉を倍増させた。
続けて両足を開いて腰を深く落とし、右拳を脇に引く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!
その右拳に〈周天〉で増やした〈聖気〉を一気に集中させるイメージをした。
直後、俺の右拳に〈聖気〉が目映い球状の塊となって凝縮されていく。
俺はキッとエンシェント・ワイバーンを睨みつける。
食らえッ!
「〈聖光・神遠拳〉ッ!」
エンシェント・ワイバーンの気を少しでもこちらへ向けようと大声を張り上げ、俺は右拳に溜めた〈聖気〉を突きの動作に乗せ、一気に聖気弾として打ち放った。
俺の〈聖光・神遠拳〉は空気を切り裂き、100メートル先のエンシェント・ワイバーンに直撃した。
しかし、当たった場所は片翼だった。
真に狙ったのは胴体だったのだが、やはりまだ本調子とはいかない。
どうも記憶が元に戻ってからというもの、この肉体で【聖気練武】の技を使うと微妙にズレる。
近距離の攻撃ならば瞬時に微調整ができるものの、今のように遠間からの攻撃だと狙った箇所からわずかに外れてしまうようだ。
とはいえ、少しでもエンシェント・ワイバーンの気を逸らすことはできた。
俺はカッと両目を見開くと、この好機を逃さないように再び〈箭疾歩〉を使った。
100メートルの距離が一気に縮まる。
次に俺は〈軽身功〉を使って跳躍。
十数メートル上空にいたエンシェント・ワイバーンの元へと飛翔すると、苦痛に声を荒げていたエンシェント・ワイバーンの巨体に〈聖光・百裂拳〉を繰り出した。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ!
俺の疾風怒濤の拳打が暴風となって吹き荒れ、エンシェント・ワイバーンの肉厚な胴体に無数の拳の形をした凹みを作り出していく。
エンシェント・ワイバーンは苦悶の悲鳴を上げて地面に落下。
ドズンッという地響きの如き音が周囲に響き渡る。
すぐに俺は空中で右拳に〈聖気〉を一点集中させ、まだ息があったエンシェント・ワイバーンの巨体の上に降り立つ。
そして――。
とどめだ!
俺は〈発勁〉による突きをエンシェント・ワイバーンに放った。
ズドオオオオオオオオオオンッ!
渾身の〈発勁〉による突きの衝撃波は皮膚と筋肉を貫き、エンシェント・ワイバーンの内臓器官をグチャグチャに掻き乱した。
ケラアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!
それがエンシェント・ワイバーンにとっての最後の断末魔だった。
数秒後、全身を激しく痙攣させたあとにエンシェント・ワイバーンは絶命。
俺はエンシェント・ワイバーンの胴体から地面に飛び降り、この場にいた生存者たちを見回しながら言った。
「大丈夫か?」
生存者たちは6人の探索者たちだった。
しかもB級探索配信者ではなく、俺と同じA級探索配信者のPTたちだ。
20代半ばか後半ぐらいの、PTのリーダーと思われるショートカットの黒髪の女性の頭上で、専用ドローンが停止飛行していたからである。
そしてなぜ黒髪の女性がリーダーかと思ったのかは、彼女の全身から溢れている非常にバランスがよくまとわれている〈聖気〉の多寡でわかった。
他の男5人もA級探索者で【聖気練武】が使えるのだろうが、やはりこの6人の中で1番の【聖気練武】の使い手は黒髪の女性だ。
特に俺の勘では感覚系の【聖気練武】の技に長けているはず。
だとすると、黒髪の女性とはアレができるかもしれない。
「き、君は……もしかして〈元荷物持ち・ケンジch〉の拳児くん?」
黒髪の女性が声を震わせながらたずねてくる。
「そうだ。あんたたちもA級探索配信者だな?」
俺は口ではそう訊いた一方、さりげなく〈聴勁〉を使った。
そして俺の〈聴勁〉による〈聖気〉が黒髪の女性を包んだとき、脳内で『念話はできるか?』と話しかけた。
黒髪の女性は表情を一変させ、「え、ええ……」と若干しどろもどろで答える。
同時に黒髪の女性も〈聴勁〉を使い、脳内で俺に別の言葉を返してきた。
『あたしは攻撃系や防御系の技は不得意なんだけど、感覚系の〈化勁〉や〈聴勁〉は得意なの』
『ああ、何となく一目見てそう思った。だから、こうして念話で話しかけたんだ』
『え? でも、何でわざわざ念話で?』
『今、あんたたちは配信中だ。ならば【聖気練武】に関することや、協会からの極秘事項などは堂々と視聴者の前で話せないだろ?』
その言葉に黒髪の女性はハッとした。
『ごめん、何かあたしたちと話したい重要なことがある? だったらすぐにリスナーさんたちに了承を得て配信を切るわ』
『いや、そこまでしなくていい。俺としてはただ教えて欲しいだけなんだ』
『教えて欲しいって何を?』
『実はさっきまで俺は湿地エリアで無双配信をしていたんだが、配信を終わろうとしたときにこの迷宮街が魔物の大群と〈魔羅廃滅教団〉に襲われているというコメントが流れて来たんだ』
そこら辺の事情について、俺は黒髪の女性にかいつまんで話した。
『待って。湿地エリアからここまで半端じゃない距離があるのよ。それをたった1時間以内でこの迷宮街に帰ってきたっていうの?』
『そうだ。〈箭疾歩〉を繰り返し使いながらな……まあ、今はそんなことどうでもいい。大事なのは協会がこの騒動をどう考え、そしてどう収めようとしているかを知りたい。だから、何か知っているのなら教えてくれ。うかつなことにスマホというものを協会本部に忘れてきたので、詳しい事情がわからないんだ』
すると黒髪の女性は俺の事情を理解してくれたのだろう。
俺が知らなかった様々な情報を教えてくれた。
ダンジョン協会としては、A級探索者たちを迷宮街の各区域に一般市民の避難誘導と護衛のために派遣させたこと。
一方で成瀬会長を筆頭にしたS級探索者たちは、協会本部の敷地内にある地上世界と繋がっている〈門〉を守りつつ、一般市民たちと観光客を地上世界に避難させていること。
『じゃあ、A級の成瀬さんも街のどこかにいるのか?』
A級の成瀬というのは、成瀬伊織を置いて他にはいない。
『いいえ、たぶん成瀬伊織さんは協会本部にいるはずよ。今回の騒動の直後に協会から各A級探索者およびA級探索配信者がどこの区域を担当するかという専用メールが届いたんだけど、その専用メールにあたしたちと同じA級の成瀬さんの名前はなかったから』
なるほど。
となると、やはり成瀬さんは協会本部にいる可能性が高い。
そして魔物の大群と〈魔羅廃滅教団〉の目的もわかった。
連中の目的は迷宮街の殲滅ではなく、〈門〉を通って地上世界に行くことに違いない。
人間の集まりである〈魔羅廃滅教団〉ならば地上世界に行く理由もあるだろう。
だが、その中で魔物の大群がいるとなると話は違ってくる。
おそらく……いや、ほぼ間違いなく〈魔羅廃滅教団〉の中で魔物の大群を従えている、もしくは魔物のほうから勝手に従ってくるような力を持つ者がいるはず。
このとき、俺の脳裏に魔王ニーズヘッドの姿が浮かんだ。
奴だ、間違いない。
〈魔羅廃滅教団〉の中には魔王ニーズヘッド本人、もしくは魔王ニーズヘッドに肉体を憑依された外道中の外道がいる。
その外道が今回の指揮を執っており、〈門〉を目指しているのは地上世界に行ってもっと多くの国や人間を蹂躙するためなのだろう。
『……大体の事情はわかった』
と、俺がうなずいたときだ。
「お~い」
ようやく俺のドローンを持ったエリーがこの場に到着した。
「おお、エンシェント・ワイバーンを倒したんやな! さすがはケンやで!」
俺は無言でちらりとエリーを見ると、エリーに対して軽く目配せする。
するとエリーは黒髪の女性たちを見てすぐに事情を察してくれた。
無言になってドローンを停止飛行させるような真似をする。
『拳児くん、あなたも配信していたの?』
俺のドローンを見て黒髪の女性は訊いてくる。
『いや、ただ飛ばしているだけで配信はしていない。それよりも、俺は今から協会の本部に向かうが、あんたたちは大丈夫か?』
黒髪の女性は他の5人を見回すと、俺に『全然大丈夫とは言えないけど、あなたのおかげで少しやる気が出た』と答えた。
『まだ近くに逃げ遅れている一般市民の人たちがいるかもしれない。その人たちを安全な場所まで逃がす。だってそれがあたしたちの役目でもあるもの』
良い目だった。
【聖気練武】の技を上達させるには地道な努力も必要だが、幾度の修羅場を潜り抜けたという自信と覚悟によっても飛躍的に向上する。
きっとこの黒髪の女性は、のちに一角の【聖気練武】の使い手になるだろう。
『あんたの覚悟はよくわかった。じゃあ、ここはあんたらに任せる……え~と』
『京子。あたしの名前は新井京子。そしてPT名は【花鳥風月】よ』
『【花鳥風月】の新井京子さんだな。では、ここはあんたに任せる』
そう言うと俺は身体ごと振り返り、エリーに顔を向けてからこの場を離れた。
向かう先はダンジョン協会の本部。
そこにきっと魔王ニーズヘッドは向かっている。
俺は両足を動かしながら意を決した。
地上世界をアースガルドの二の舞には絶対にさせん。
今度こそ、貴様を魂魄までも消滅させて完膚なきまでに倒す!
待っていろ、魔王ニーズヘッド!
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