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第八章 ~華やかで煌びやかな地下の世界・裏闘技場の闇試合編~
道場訓 八十一 魔神流の空手
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魔神流。
その空手の流派を聞いたとき、俺は亡き祖父の言葉を思い出した。
かつてヤマト国には闘神と魔神と呼ばれた、全能神《ぜんのうしん》から空手を継承された2人の男神がいたという。
そしてこの2人の男神はやがて自分たちが工夫した空手の技を受け継がせる人間を見極め、その空手の技とともに別の力を与えたという伝説があった。
気力を根本とした技能と、魔力を根本とした魔法だ。
魔法というとリザイアル王国のような色目人の国で生まれたと言われているが、それは誤りで文献を調べていけばヤマト国や中西国でも古代から魔法の存在が記されている。
だが祖父の話によれば、ヤマト国や中西国のある大陸に存在する魔法はこの魔神から派生したというのだ。
それは魔法に比べて著しく減少している技能の使い手もそうであり、元を探っていけば闘神から気力と空手を受け継いだ俺の先祖から派生したらしい。
まあ、それはさておき。
カムイの言葉ではないが、俺もまさかこんな場所で魔神流の空手家と会うとは思わなかった。
しかも、こいつが闇試合の絶対王者だと?
俺の聞き間違いでなければ、マコトは確かにそう口にしたはずだ。
つまり、このカムイを倒せれば闇試合で優勝したも同然と言うことか。
俺はカムイと間合いを保ちながら、再び自流の構えを取った。
棚からぼたもち、とはこのことだな。
もしかすると、本選の決勝戦で当たったかもしれない相手だ。
それはそれで構わないのだが、ここが本選会場ではないということが良い。
なぜなら、ここで闘う分には実際にエミリアの命を賭けなくてもいいのだ。
俺は裏社会の人間の本質というものは少なからず分かっている。
特に賭け事や裏の催しを企画して主催する胴元側というのは、客からの期待に応えたり大金を稼ぐことに必死になっている。
となると、部外者である俺が闇試合を優勝してしまうことに胴元側がすんなり受け入れるとは考え難かった。
十中八九、優勝を阻止するべく妨害をしてくる可能性が高い。
それならまだマシだったが、その矛先が俺ではなくエミリアに向けられるのだけは避けたかった。
などと思っていると、カムイは「おもろいな」と首を左右に振って骨を鳴らす。
「最近の闇試合の参加者はヘタレばっかでストレスが溜まってしゃーなかったんや。せやけど、大将みたいな人間が相手となるとこっちも相応の力で行かせてもらわんとな」
そう言うなり、カムイの全身から凄まじい魔力が放出された。
ビリビリと部屋全体が揺れている感じが伝わってくる。
本人は否定していたが、空手着を着た大魔法使いという表現もあながち間違いではない。
なぜなら、魔神流とは魔法と空手が混然一体となった流派だからだ。
「大将、死んでもしらんで」
カムイの挑発に俺はニヤリと返す。
「それはこっちの台詞だ」
と、俺もカムイに負けじと下丹田に気力を集中させた。
そのとき――。
「お止めなさい!」
緊迫した部屋に凛然とした声が響き渡る。
「ここは闇試合の会場じゃなくてよ」
声を発したのはマコトだ。
「特にカムイ、あなたはもう少し闇試合の王者の自覚を持ちなさい……それにあなたたちの対決を見るのが私たちだけじゃもったいないわ」
数秒後、カムイの全身から放たれていた魔力がフッと消えた。
「お嬢はんが言うのなら仕方ないな。せやったら、大将との勝負はちゃんとした会場でやろうか。この場所で闘ったらこっちはお嬢はんが、そっちはエミリアちゃんに被害が出るかもしれんからな」
俺はカムイの指摘にハッとした。
そうだ、その通りだ。
エミリアのためだと思いながら、こんな場所で魔神流の空手家と闘えばエミリアにも戦闘の余波が行く可能性が高い。
俺は構えを解いて深呼吸をする。
予期せぬ使い手の出現で、いつもの悪い癖が出てしまっていたようだ。
こんなことじゃ駄目だな。
それに俺たちが闇試合で闘う目的は、あくまでもキキョウの救出だ。
キキョウさえ無事に救出することができたなら、闇試合どころかこの地下世界からも早々に抜け出しても構わない。
「エミリア、もう行こう」
俺は振り返り、エミリアに声をかける。
こんな場所にいては、またいつ俺の悪い癖が出てくるか分からなかった。
だったら、さっさとこんな場所からは退散するに限る。
「待って、まだ私の話が終わってないわよ」
俺はマコトの話になど聞く耳を持たなかった。
「まあ、待ってや大将」
しかし、俺と同等の力を有しているだろうカムイの言葉は別だ。
俺は顔だけを振り返らせると、カムイは俺からマコトへと視線を移した。
「お嬢はん、こういう男には女がナンボ言っても無駄でっせ。特に空手家なんて人種はどいつもこいつも偏屈な奴ばっかなんやから」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「決まってるやないですか」
カムイは再び俺の方へと顔を向けた。
「大将、俺と1つ賭けをせんか?」
「賭け?」
俺は頭上に疑問符を浮かべた。
「そうや、賭けや。せやけど、どっちが優勝するかやないで。俺と大将、どっちが闘って勝つかや」
「お前が俺と当たる前に負ける可能性は?」
「ありえんな。それに、今回の闇試合の決勝は俺と大将でほぼ決まりや……そうでっしゃろ? お嬢はん」
そんな都合の良いことがあるわけがない。
と、思うほど俺も馬鹿じゃない。
なるほど、マコトは胴元側の人間なのだから試合の組み合わせなどは自由自在に違いない。
それにわざと負けろと言ってるわけではないのだ。
おそらく、マコトの権力ならば俺とカムイが決勝戦で当たるよう次の2回戦から仕組まれるのだろう。
「賭けと言ったが、俺が勝った場合はどうなるんだ?」
「もちろん、カムイに勝ったらあなたの願いを必ず聞き入れてあげる。それはマコト・ハザマの名に懸けて誓うわ」
答えたのはマコトだ。
「じゃあ、そっちが勝ったら俺はどうなる?」
ようやく本題とばかりにマコトは妖艶な笑みを浮かべる。
「ケンシン・オオガミ。あなたは私の愛玩動物になって貰うわ」
その空手の流派を聞いたとき、俺は亡き祖父の言葉を思い出した。
かつてヤマト国には闘神と魔神と呼ばれた、全能神《ぜんのうしん》から空手を継承された2人の男神がいたという。
そしてこの2人の男神はやがて自分たちが工夫した空手の技を受け継がせる人間を見極め、その空手の技とともに別の力を与えたという伝説があった。
気力を根本とした技能と、魔力を根本とした魔法だ。
魔法というとリザイアル王国のような色目人の国で生まれたと言われているが、それは誤りで文献を調べていけばヤマト国や中西国でも古代から魔法の存在が記されている。
だが祖父の話によれば、ヤマト国や中西国のある大陸に存在する魔法はこの魔神から派生したというのだ。
それは魔法に比べて著しく減少している技能の使い手もそうであり、元を探っていけば闘神から気力と空手を受け継いだ俺の先祖から派生したらしい。
まあ、それはさておき。
カムイの言葉ではないが、俺もまさかこんな場所で魔神流の空手家と会うとは思わなかった。
しかも、こいつが闇試合の絶対王者だと?
俺の聞き間違いでなければ、マコトは確かにそう口にしたはずだ。
つまり、このカムイを倒せれば闇試合で優勝したも同然と言うことか。
俺はカムイと間合いを保ちながら、再び自流の構えを取った。
棚からぼたもち、とはこのことだな。
もしかすると、本選の決勝戦で当たったかもしれない相手だ。
それはそれで構わないのだが、ここが本選会場ではないということが良い。
なぜなら、ここで闘う分には実際にエミリアの命を賭けなくてもいいのだ。
俺は裏社会の人間の本質というものは少なからず分かっている。
特に賭け事や裏の催しを企画して主催する胴元側というのは、客からの期待に応えたり大金を稼ぐことに必死になっている。
となると、部外者である俺が闇試合を優勝してしまうことに胴元側がすんなり受け入れるとは考え難かった。
十中八九、優勝を阻止するべく妨害をしてくる可能性が高い。
それならまだマシだったが、その矛先が俺ではなくエミリアに向けられるのだけは避けたかった。
などと思っていると、カムイは「おもろいな」と首を左右に振って骨を鳴らす。
「最近の闇試合の参加者はヘタレばっかでストレスが溜まってしゃーなかったんや。せやけど、大将みたいな人間が相手となるとこっちも相応の力で行かせてもらわんとな」
そう言うなり、カムイの全身から凄まじい魔力が放出された。
ビリビリと部屋全体が揺れている感じが伝わってくる。
本人は否定していたが、空手着を着た大魔法使いという表現もあながち間違いではない。
なぜなら、魔神流とは魔法と空手が混然一体となった流派だからだ。
「大将、死んでもしらんで」
カムイの挑発に俺はニヤリと返す。
「それはこっちの台詞だ」
と、俺もカムイに負けじと下丹田に気力を集中させた。
そのとき――。
「お止めなさい!」
緊迫した部屋に凛然とした声が響き渡る。
「ここは闇試合の会場じゃなくてよ」
声を発したのはマコトだ。
「特にカムイ、あなたはもう少し闇試合の王者の自覚を持ちなさい……それにあなたたちの対決を見るのが私たちだけじゃもったいないわ」
数秒後、カムイの全身から放たれていた魔力がフッと消えた。
「お嬢はんが言うのなら仕方ないな。せやったら、大将との勝負はちゃんとした会場でやろうか。この場所で闘ったらこっちはお嬢はんが、そっちはエミリアちゃんに被害が出るかもしれんからな」
俺はカムイの指摘にハッとした。
そうだ、その通りだ。
エミリアのためだと思いながら、こんな場所で魔神流の空手家と闘えばエミリアにも戦闘の余波が行く可能性が高い。
俺は構えを解いて深呼吸をする。
予期せぬ使い手の出現で、いつもの悪い癖が出てしまっていたようだ。
こんなことじゃ駄目だな。
それに俺たちが闇試合で闘う目的は、あくまでもキキョウの救出だ。
キキョウさえ無事に救出することができたなら、闇試合どころかこの地下世界からも早々に抜け出しても構わない。
「エミリア、もう行こう」
俺は振り返り、エミリアに声をかける。
こんな場所にいては、またいつ俺の悪い癖が出てくるか分からなかった。
だったら、さっさとこんな場所からは退散するに限る。
「待って、まだ私の話が終わってないわよ」
俺はマコトの話になど聞く耳を持たなかった。
「まあ、待ってや大将」
しかし、俺と同等の力を有しているだろうカムイの言葉は別だ。
俺は顔だけを振り返らせると、カムイは俺からマコトへと視線を移した。
「お嬢はん、こういう男には女がナンボ言っても無駄でっせ。特に空手家なんて人種はどいつもこいつも偏屈な奴ばっかなんやから」
「じゃあ、どうすればいいのよ?」
「決まってるやないですか」
カムイは再び俺の方へと顔を向けた。
「大将、俺と1つ賭けをせんか?」
「賭け?」
俺は頭上に疑問符を浮かべた。
「そうや、賭けや。せやけど、どっちが優勝するかやないで。俺と大将、どっちが闘って勝つかや」
「お前が俺と当たる前に負ける可能性は?」
「ありえんな。それに、今回の闇試合の決勝は俺と大将でほぼ決まりや……そうでっしゃろ? お嬢はん」
そんな都合の良いことがあるわけがない。
と、思うほど俺も馬鹿じゃない。
なるほど、マコトは胴元側の人間なのだから試合の組み合わせなどは自由自在に違いない。
それにわざと負けろと言ってるわけではないのだ。
おそらく、マコトの権力ならば俺とカムイが決勝戦で当たるよう次の2回戦から仕組まれるのだろう。
「賭けと言ったが、俺が勝った場合はどうなるんだ?」
「もちろん、カムイに勝ったらあなたの願いを必ず聞き入れてあげる。それはマコト・ハザマの名に懸けて誓うわ」
答えたのはマコトだ。
「じゃあ、そっちが勝ったら俺はどうなる?」
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