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魔界へ(その2)
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スワン王国の人達にサキュバス討伐とカリバデスの件を感謝された。
お城で豪華な食事を振る舞ってくれたぞ。
カリバデスには完敗し、捕まえることはできなかったんだけどね……。
現在、翌日の昼下がり。
すでにスワン王国を後にし、ケーミーと一緒に草原を歩いている。
ここ数日、ずっと休んでいたので俺は元気いっぱいである。
これからの目標は、ボルハルトの魔法陣を使って魔界に行くことだ。
スワン王国とグリトラル王国の提携を早めたいので、俺が催促することになった。
直接グリトラル王国に行き、国王や大臣たちと話すのだ。
俺の催促が良い結果に繋がるのかどうかは分からないけどね……。
草原を歩いている間、ケーミーに散弾型の攻撃魔法の詠唱を教えた。
グリトラル王国に向かう道のりに出現するモンスターは弱い。
練習に打って付けの場所である。
この間、ボルハルトが散弾型の攻撃魔法の詠唱を省略しているところを見たからな。
ケーミーは散弾型のファイアボールを使うことができる。
省略版の詠唱をマスターしてもらったぞ。
新たな魔法『ファイアショット』として……!
「勇者様、ありがとうございます! これで非効率とか言われなくて済みますよ!」
あ、そういえばボルハルトと戦ったときに非効率って言われていたな。
気にしていたんだね……。
最初はボルハルトのことをダンディーとか言っていたけど、印象は悪くなっていたんだな。
カリバデスへの陰湿ないじめの件も含めて。
まぁ……とにかく戦力がアップしたので良かったぞ。
---
野宿した後、再びグリトラル王国を目指して歩いた。
昼ごろになり、草原の先に建物が見えてきた。
よし……目的地に到着したぞ。
俺とケーミーはグリトラル王国に戻って来たのだ。
「なんか久しぶりな感じがします」
「そうだね」
とくに俺は射精ループをしているからね。
かなり久しぶりに感じる。
「あ! 掲示板を見ておきましょうよ」
城下町の中を進んでいると、ケーミーが提案してくれた。
俺は頷き、彼女とともに広場にある掲示板のところに向かう。
「やっぱり情報収集はしておかないとダメですよね。現在のこの国の状況とか、王政がどうなっているのか……とかですね」
おお、さすがケーミー!
しっかりしているなぁ……。
「うん、そうだね」
確かに情報収集は大切である。
俺は怠りがちなので、ケーミーの働きには本当に助けられている。
城下町の様子を伺いながら少し歩き、広場に到着した。
何が書いてあるかな?
どれどれ……
「お……! これは……」
「勇者様のサキュバス討伐が話題になっていますね!」
そのとおりだ!
掲示板に俺の記事が載っているぞ!
もうグリトラル王国まで情報が伝わっているんだな!
情報が早いぞ!
……って、デヴィルンヌ討伐からは、けっこう日数が経ってしまっているか。
カリバデスとの一件で、俺はけっこう休んでいたからな。
「けっこう良い感じで書かれていますね。この国でも勇者様の評価が上がってるんじゃないですか?」
マジで……!?
どうだろうな?
「……そうだったら嬉しいね」
記事が良い感じだとしてもな……。
ここの国王や大臣達、そして王女様達は厄介である。
素直に俺のことを評価してくれていたら良いんだけどさ……。
「あ! 他にも重要そう情報がありますよ! 『勇者アキストの仲間になるための選抜試験を実施』? 『合格者は2名』!? え……意外と早かったですね!」
ケーミーが驚きの表情でこちらを見ている。
「選抜試験か! もう始まっていたんだ……!? そうだね、早い! 合格者は……2人か」
ケーミーは以前、『選抜試験が行なわれるのは先になるだろう』……と予想していた。
意外と早かったぞ。
これは……新たな仲間がパーティに加わるのだろう!
戦力強化はありがたいぜ!
でも……ウェイウェイしている感じの人達だったらどうしよう。
性格が合う人達だったら良いんだけど。
そこは不安だな……。
まぁ、今はケーミーもいるんだ。
人間関係については大丈夫かも……。
「勇者様……早速、お城に行きましょうか? お城の人達は、まさか勇者様が戻って来ているとは思わないですよ! 私たちと合格者が入れ違いになったら面倒ですよね」
……確かに。
モタモタしていたら、旅立った俺を追いかけて出発してしまうかもしれないな。
「うん、そうだね。スワン王国と提携する話についても早く聞きたいしね」
というわけで、お城に向かった。
ちょっと緊張するな……。
掲示板ではポジティブな情報を得られたけど、基本的にグリトラル王国は嫌な感じだからさ。
俺はサキュバス討伐に成功したんだし、明るく受け入れてくれれば嬉しいんだけど!
俺の評価……上がっていてくれ!
城下町を通り抜けて、ケーミーと一緒にお城の中に入った。
早速、国王様に謁見するぞ。
通された部屋は、玉座の間だ。
勇者の聖剣を手にした部屋である。
厳かな雰囲気だな……。
玉座に国王が座っており、周りには大臣達と王女様達がいるぞ。
「……勇者アキストか。先日、スワン王国から使者が来たぞ。まったく……面倒なことをしてくれたわい」
「へっ!?」
おっとぉ……!?
国王はいきなり溜息をついているぞ!?
スワン王国の国王様が送ってくれた使者とはすでに会っていたんだな。
……ということは、俺たちがボルハルトの魔法陣を使う件でご立腹ってことか?
今度は国王の両隣にいる大臣達が次々に口を開く。
「スワン王国と手を組むなど……」
「勇者アキスト……何も考えなしに……」
うわぁっ!?
大臣達も否定的な感じだぞ……!
「あちらの方が大国……魔界から得られる戦利品の取り分をどうするのか……」
「会議で慎重に決めなければ損をしてしまいますぞ」
次々に意見を述べているぞ!
確かにスワン王国の方が大国である。
ん……?
大臣の1人が一歩前に出たぞ。
「いや……しかし、魔法陣は向こうにあります。向こうが新たな勇者を選定しないうちに早く決断しましょう!」
お……この大臣は決断を促しているぞ。
確かにモタモタしていたら、この国にとってはマズいことになるだろう。
もしかしたらスワン王国には、勇者になる可能性のある人がいるのかもしれない。
グリトラル王国が返事をあやふやにしていたら、新たな勇者が出てきてしまう可能性はあるぞ。
……そうなったら、グリトラル王国に手柄は入ってこなくなる。
グリトラル王国としては、俺が魔法陣で魔界に行く決断を早くしないとマズいってことだよね!
うん、これは……早く決まる感じもするな!
……おっと?
国王が何か言いたそうだぞ?
「確かにそうじゃな……。しかし、素直にスワン王国を信じてよいものじゃろうか? そして、勇者アキストの強さも本当に信用できるのじゃろうか……?」
えっ!?
他国のことはともかくとして、せめて俺は信じてよ……。
俺は、この国の勇者なんだけどなぁ。
選んでくれたのになぁ。
なんか否定的なんだよな……。
他の国に協力してもらおうとしちゃったのがマズかったのかな?
あ……いつだか『他に候補がいないから、この国は勇者アキストに頼らざるを得ない』みたいなことを言っていたなぁ。
けど……どう思われていようとも、魔法陣を使って早く魔界に行かないとなぁ。
世界を救うため……って考えて欲しい。
けど、この人達には主張することさえ躊躇してしまうんだよね……。
やっぱ俺への評価が低い感じがするからなぁ。
この俺に向けられる嫌な雰囲気……変わってないよね。
あ……今度は王女様の1人が口を開くぞ。
なんだろう……?
「国王様……勇者アキストの活躍も聞いていますし、前向きに考えてみませんか? 彼は四天王の1人を倒したそうですよ」
国王に前向きなアドバイスをしてくれた!
そうそう、そこを評価してくれ!
ナイスアドバイスだぞ……!
あ……今度は別の王女様達が話し始めたな。
「その話……本当なのかしら?」
「男がサキュバスを討伐できるなんて……信じられない」
「まぐれなんじゃない?」
王女様達が疑っているぞ。
な、何なんだよ……。
まぁ、確かに俺1人の力ではなかったけどさ。
ケーミーとスカーレンが協力してくれた。
「うーむ。これは議論が必要じゃな。緊急会議を始める必要があるのう」
国王様が険しい表情をしながら方針を固めたぞ。
緊急会議をするのか!
その会議は……どれくらい時間が掛かるんだろう?
俺にとって、会議の内容は嫌なものになりそうだぞ。
本人のいない場所で、俺を悪く言いそうだ。
俺の悪口は程々にね……!
……ん?
国王様はまだ何か伝えたいことがあるようだ。
「そうじゃ、勇者アキストよ。スワン王国の話とは別件なのじゃが、緊急に試験を始めたぞ。勇者アキストの仲間を選抜する試験じゃ」
あ、そうそう!
それも聞きたかったんだ!
「はい、掲示板で拝見しました! 結果が出たんですよね!?」
「そうじゃ。すでに1人、魔法使いを連れているようじゃが。追加で仲間を連れて行けば良いじゃろう。仲間は……この2人じゃ! 急遽募集したのじゃが、実力者が揃ったぞ」
国王様が合図をすると、部屋の横にあるドアから2人が現れた。
この人達が新しい仲間か……!!
「1人目は、僧侶のマインドじゃ! 回復魔法が優れておる!」
見た目は好青年の僧侶だな。
黒髪短髪で身長は俺と同じぐらいか。
青い法衣を着ているぞ。
手足が細くて華奢である。
それにしても、回復魔法は助かるぜ!
いつまでも癒しの聖水に頼ってはいられないからね……!
「よろしくお願いします!」
お! 喋ると、なおさら好青年だ!
よかったよかった。
話しやすそうだぜ。
「もう1人は、槍使いのゴーリーじゃ! 接近戦が秀でておる!」
槍使い……!
たしかに長い槍を持っているな。
前衛タイプがいるのはありがたい……!!
戦いが楽になるぞ。
「……」
この人は……何も喋らないぞ!
無言……だと!?
む、無口なタイプか……。
身長は俺より少し高いぐらいか。
ぜ、全身が緑色のマントで隠れているな。
しかもフード付きで、そのフードを頭に深くかぶっているぞ。
どんな人なのか全く分からん……。
「勇者のアキストです! こっちの女の子は、魔法使いのケーミーです。よろしくお願いします!」
「ケーミーです。よろしくお願いしますー」
俺とケーミーも挨拶をした。
僧侶のマインドは笑顔で返事をする。
槍使いのゴーリーは会釈をしてくれたけど……やはり無言である。
あ、椅子に座っていた国王様が立ち上がったぞ。
「よし、勇者アキストよ! 良いタイミングで戻って来てくれてよかったわい! また後日、緊急会議の結果を伝えるために呼び出すから城下町の宿屋に泊まっていてくれ! 明日か明後日には呼び出すから、待っているのじゃ」
国王様達は部屋から出て行った。
すぐに緊急会議をするのかな……。
結果が出るまで待つしかないか。
明日か明後日って……思っていたより早く決まりそうだな。
---
その夜、俺たち4人は城下町の酒場でご飯を食べながら親睦会を行なった。
「いやぁ、勇者様が良い人そうで嬉しいです! がんばりますよ……!」
やはり僧侶のマインドは好青年だ。
俺に対する偏見もなさそうで安心である。
魔力はどうかな?
コソっと魔力を感知してみよう。
う~ん……高いな。
以前に仲間だった僧侶と比べても遜色ないぞ。
「こちらこそです! 回復魔法をお願いしますね!」
俺はマインドに合わせて元気に返事をする。
そしてもう1人、新たなに加わった仲間に視線を向ける。
「……」
槍使いのゴーリーは……無口である。
未だに喋らないぞ。
魔力感知はさせてもらうぜ。
……ん!?
この人も……魔力が高い!
以前の仲間達よりも魔力が高いんじゃないか?
槍使いにも関わらず、魔法も使えるのだろうか?
バランスが良さそうだぞ。
けど、無口だなぁ……。
ここまで無口だと、この人に質問する気力も起きないぞ。
お店の中なのに未だにフードを深く被っているし。
俺以上にシャイというか人間関係が苦手というか……もはや諦めているというか……。
でも、コミュニケーションが取れないのに選抜試験に合格するなんて、やはり相当な実力者なのだろう。
これは期待できるかもしれない!
あ、ケーミーが何かを言いたそうだ。
「ぜ、ぜんぜん喋りませんね!? ずいぶんと寡黙な人なんですね……」
ケーミーが怪しんでいるぞ。
「……」
まだ喋らないのか……。
なんか……不安になってくるなぁ。
強そうな人なんだけどね。
重大な隠し事をしていたら嫌だぞ。
そんな微妙な空気の中、食事会が行なわれた。
---
1時間もしないうちに食事会が終わった。
結局、ゴーリーは一度も喋らなかったな。
マインドが第一印象通りの好青年ということはよく分かった。
お会計を済ませてお店を出ると、もう辺りはすっかり夜であった。
まだ城下町は賑わっているけどね。
人通りは多く、お店もたくさん開いている。
「じゃあ、私は買い物をしてから宿屋に戻りますね。アイテムを買っておかないと」
ケーミーが行ってしまった。
アイテムを買っておいてくれるのか。
なんて準備の良い子なんだ……。
ケーミーがいてくれて良かったぜ。
さっきの食事会も彼女とマインドのおかげで最低限の会話が回ったからな。
さすがだぜ……。
俺はマインドとゴーリーに改めて挨拶をした後、1人で宿屋に向かうことにした。
よし……新たな仲間とともに旅を再開するぞ。
けど、再開するのは国王様たちの会議次第だよね。
今日の感じだと、俺はボルハルトの魔法陣で魔界に行ける可能性はある。
魔法陣の使用に積極的な人もいた。
俺が行かないとスワン王国に手柄を独り占めされてしまうからね。
みんなで魔界に行くのか……。
いよいよ魔王城だな。
ああ……急に不安になってきた。
……今後、どうしよう?
この射精ループの呪いを解くためには、魔王のところに勇者パーティで乗り込む必要がある。
魔王城にたどり着ければ解除してくれるって魔王は言っていたはずだ。
最近は魔王との距離が縮まってきている気がする。
今の魔王なら、本当に呪いを解除してくれそうだ。
いや……実際は分からないけどね。
本題はここからで、このまま魔王を倒すことが正解なのだろうか?
最近、そんなことが頭をよぎる。
本当に俺と魔王との距離が縮まってきたんだよな……。
正直な話、あれだけ会話した相手を殺すなんて考えられなくなってきた。
前々回、魔王は俺に謝ってくれた。
俺に『魔族やモンスターを葬ってきた罰を与える』って言ったことに対してね。
あれからかな……俺の魔王に対する見方は変わってきていた。
しかも前回は、カリバデスに再戦する勇気をもらったんだ。
エッチなことで元気づけられるのは、どうかと思うけど。
ごめん、スカーレン……。
俺は……スカーレンと良い感じなんだ。
なんだかんだ、魔王が死んだらスカーレンは悲しむだろう。
俺はスカーレンとは仲が良いというか……もう結ばれたいな……って思ってきているし。
俺……勇者失格なのかなぁ……?
どうしたものか……。
「あ、お兄さん、ウチのお店に寄っていかない?」
……お兄さん?
考え事をしていたら、誰かに話しかけられたぞ。
綺麗でセクシーで露出度の高いお姉さんだ。
「こ、ここは……風俗街!?」
辺りを見渡すと、如何わしいお店が並んでいる!
色々と考え込んでいたら、宿屋から離れたエリアに来てしまった!
し、しまった……!
ここら辺では強引な接客が行なわれている!
「ほら、どうぞどうぞ」
美女達が4、5人登場してきて俺を囲う!
や、やばいぞ……!
逃げられなくなる!
早く断らないと……!!
「ちょ、ちょっと……! 僕は宿屋に戻るんです! どいて下さい……!」
ゆ、勇者が……如何わしい店のお世話になってはマズイよね!?
「自分からお店の前に来といて、怖気付いちゃったのかな?」
「そんなに心配しないで。悪いようにはしないから♪」
「お客様とは真摯に向き合うお店よ♡」
ほ、本当に……!?
なんか女の子たちが優しいなぁ……。
って、ダメだ!
がんばれ! 俺の倫理とか道徳とか!
俺が狙っている女性はスカーレンだろっ!
「ほらほら♪」
「お店の中に行こうね♡」
女の子達に両腕を掴まれ、強引にお店の中に連れて行かれている!
相手は女の子……本気で抵抗してしまうとケガをさせてしまう!
「は~い、1名様ー!」
せ、席に座らされた……。
店の中は薄暗いぞ。
俺を連れて来た女の子達は去り、両隣に別の可愛い女の子達が座った。
ああ……エッチな感じの女の子達だな。
って……こ、この子達の服装は!
はるか東方にある国の衣類……着物だ!
スカーレンと同じ!
「今日は東の国に伝わる着物で接客よ♪」
「色っぽいでしょ♡」
や、やばい! 誘惑されてお金を取られる!
早く店から出ないと……!
ここは……いくらぐらいお金を取られるんだろう!?
ああっ! 俺としたことが、如何わしいお店が集まっている道を通ってしまうとは……!
勇者の倫理的にもマズい!
「この店はもちろん、お触りOKよ」
「お金を払ってくれれば、もっとすごいことだって♡」
な、なにぃ!?
女の子達が、両隣から甘く囁いてきた……!
そ、想像するな!
想像してはダメだぞ、俺!!
「ほら」
あ……右隣の子が俺の耳元に口を近づけたぞ。
「ふぅっ♡」
え!?
軽く息を吹きかけてきた!
エ、エッチだ……。
「ここはどうかなー?」
今度は左隣の女の子が俺の股間に手を近づけた。
今は鎧を装備していないから、彼女の手の温もりが股間に……!
「ひいぃぃっ!?」
ダ、ダメだ……!
誘惑を振り切れ!!
「お兄さん、勃ってきてるのかなぁ?」
た、勃ってきてるよ……!
両隣から……っていうのは男の夢かもしれない。
さりげなく『お兄さん』って言ってくれるのも嬉しい!
確かケーミーには『おじさん』って言われたからね……。
くっ……!
このままではマズい!
俺が見惚れてしまう着物姿はスカーレンだけだ!
スカーレンを思い出すんだ!
「い、いやいや……僕には、心に決めた人がいるので!」
俺のスカーレンへの気持ちは強いんだぜ!
俺は誘惑を振り切り、立ち上がった。
そして、そのまま走り出した。
うぅ……店の中は薄暗いぞ……。
あれ、入り口はどっちだっけ?
分からなくなってしまったな……。
あ……黒い鎧を装備した男の人が目の前にいる。
誰だろう……?
「お客様……こちらは特別ルームにございます」
従業員なんだね!?
店の中を注意深く見渡してみると、確かに黒い鎧を装備している人がちらほら立っている。
従業員の制服ってことか……。
「おや? お客様は……勇者アキスト様ですね?」
正体がバレた……!
まぁ、俺の顔は知られているからな。
とくにこの国では。
「ようこそ、おいで下さいました。少々お待ちください」
な、なんだ?
鎧の男はすぐに別の男を連れて来た。
今度の人は豪華で高級そうな服を着ているぞ。
……おそらく貴族の男だ。
「勇者様がご来店とは……ありがたいことです。私はこの店の支配人です。勇者様、どうでしょう? うちの店の特別会員になられては? 一般のお客様とは違った楽しみ方ができますよ」
な、なんだって?
「えっ? 特別会員……ですって!?」
「そうです。この先の部屋をご覧になって下さい」
支配人はドアを開けた。
鎧の男が特別ルームと呼んでいた部屋である。
そこは……とても広い部屋であった。
えっ……!?
「ま、魔族がいる……!?」
中では、魔族の女性がエッチなことをしていた。
人間の男と……。
「魔族を雇っています。雇っていると言っても、実際のところ奴隷ですね。魔族好きなお客様もいますので」
な、なんだって……!?
ど、奴隷……?
無理矢理この仕事をさせられているのか!?
「本来、並の人間は魔族に勝てないですからね。そんな魔族を性的に蹂躙できるのは興奮するのでしょう。貴族や王族の方々が皆様、大金を払って利用されています」
なっ!?
貴族や……王族も!?
「もし魔界で魔族を生け捕りにしましたら、高価で買い取りますよ。魔族を生け捕りにできるほどの達人は滅多にいませんからね」
「ま、魔族を……生け捕りに!?」
ここにいる魔族の女性達は、魔界で人間に捕らえられたということか……。
「はい。将来的には魔族同士、もしくは魔族とモンスターを戦わせて賭博させることになると思います。そういった要望は多いですからね。魔族は滅多に捕獲できませんので、是非よろしくお願いします」
「た、戦わせる……!? と、賭博まで……!?」
し、知らなかった……!
スワン王国の闇深さに嫌気が差すぜ!!
「そ、そんなことが……!? 違法じゃないのか!?」
「違法? 勇者様、何を驚かれているのですか? 先ほど、王族もいらしていると申し上げました。なので、もちろん王国公認の事業ですよ? まぁ、表立って発表はしておりませんが……。お客様の中には他国の王族もいますよ」
なっ!?
他国も……認めているのか!
「そ、そんな……」
このような残酷なことを行なっているのは、この国だけじゃないのかもしれない。
世界各地で行なわれているのかもしれないぞ……!
くっ……!
「特別会員に招待したのは、勇者様が貴重な戦力と行動力、地上の果てから魔界に行く資格も持っているからです。ぜひ格安でお楽しみいただくとともに、魔族の確保をお願い……」
「や、やめろ……!」
「勇者様?」
俺は怒りに身を任せて、特別ルームに進入する。
「な、なんだ!? この男!?」
「ここは特別ルームだぞ!?」
「摘み出せ!」
人間の客たちが俺を警戒する。
魔族を助けなくては……!
こんなのは間違っているだろう!!
「これ以上、中には入れるな!」
「営業妨害だぞ!」
「手加減するな! 相手は勇者だ……!」
うっ! 前と後ろから黒い鎧の男達が現れた!
相手は10人以上……の屈強な人間の男。
ホーリーバスターを放てば倒せるだろうけど。
勇者が人間相手に簡単に手を出すわけにはいかない……。
ボルハルトやカリバデスのときはともかくとして、この店は合法だからね……。
俺の行動が……考え方が……間違っているのか!?
そんなはずは……。
俺は10人以上の屈強な男達に連れられて、店を追い出された。
店の方を振り返ると、目の前には支配人が立っていた。
「勇者様……我々に怒りを向けているようですね? 相手は人間を苦しめてきた魔族ですよ? せっかくうちの店を選んでくれたのに、残念です。このことは王国には報告しないでおきます。冷静になったら、またいらして下さい。可愛い人間の女の子達にも特別接待をさせますから」
うぅっ……なんなんだよ。
こんなお店が認められているのか……。
勇者である俺が、この店を力技で叩きのめすわけにはいかない。
犯罪者になって、聖剣を取られてしまうかもしれないな。
魔界に行ける可能性もなくなってしまうかもしれない……!
くっ……!!
あの部屋にいた魔族の女の子達を……助けられないのか……!!
待てよ……もし魔王を殺さずに捕まえたとしても、地上でヒドい目にあってしまうんだ……。
そもそも俺は魔王を殺したくはないんだよ……。
もちろん、スカーレンも……!!
お城で豪華な食事を振る舞ってくれたぞ。
カリバデスには完敗し、捕まえることはできなかったんだけどね……。
現在、翌日の昼下がり。
すでにスワン王国を後にし、ケーミーと一緒に草原を歩いている。
ここ数日、ずっと休んでいたので俺は元気いっぱいである。
これからの目標は、ボルハルトの魔法陣を使って魔界に行くことだ。
スワン王国とグリトラル王国の提携を早めたいので、俺が催促することになった。
直接グリトラル王国に行き、国王や大臣たちと話すのだ。
俺の催促が良い結果に繋がるのかどうかは分からないけどね……。
草原を歩いている間、ケーミーに散弾型の攻撃魔法の詠唱を教えた。
グリトラル王国に向かう道のりに出現するモンスターは弱い。
練習に打って付けの場所である。
この間、ボルハルトが散弾型の攻撃魔法の詠唱を省略しているところを見たからな。
ケーミーは散弾型のファイアボールを使うことができる。
省略版の詠唱をマスターしてもらったぞ。
新たな魔法『ファイアショット』として……!
「勇者様、ありがとうございます! これで非効率とか言われなくて済みますよ!」
あ、そういえばボルハルトと戦ったときに非効率って言われていたな。
気にしていたんだね……。
最初はボルハルトのことをダンディーとか言っていたけど、印象は悪くなっていたんだな。
カリバデスへの陰湿ないじめの件も含めて。
まぁ……とにかく戦力がアップしたので良かったぞ。
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野宿した後、再びグリトラル王国を目指して歩いた。
昼ごろになり、草原の先に建物が見えてきた。
よし……目的地に到着したぞ。
俺とケーミーはグリトラル王国に戻って来たのだ。
「なんか久しぶりな感じがします」
「そうだね」
とくに俺は射精ループをしているからね。
かなり久しぶりに感じる。
「あ! 掲示板を見ておきましょうよ」
城下町の中を進んでいると、ケーミーが提案してくれた。
俺は頷き、彼女とともに広場にある掲示板のところに向かう。
「やっぱり情報収集はしておかないとダメですよね。現在のこの国の状況とか、王政がどうなっているのか……とかですね」
おお、さすがケーミー!
しっかりしているなぁ……。
「うん、そうだね」
確かに情報収集は大切である。
俺は怠りがちなので、ケーミーの働きには本当に助けられている。
城下町の様子を伺いながら少し歩き、広場に到着した。
何が書いてあるかな?
どれどれ……
「お……! これは……」
「勇者様のサキュバス討伐が話題になっていますね!」
そのとおりだ!
掲示板に俺の記事が載っているぞ!
もうグリトラル王国まで情報が伝わっているんだな!
情報が早いぞ!
……って、デヴィルンヌ討伐からは、けっこう日数が経ってしまっているか。
カリバデスとの一件で、俺はけっこう休んでいたからな。
「けっこう良い感じで書かれていますね。この国でも勇者様の評価が上がってるんじゃないですか?」
マジで……!?
どうだろうな?
「……そうだったら嬉しいね」
記事が良い感じだとしてもな……。
ここの国王や大臣達、そして王女様達は厄介である。
素直に俺のことを評価してくれていたら良いんだけどさ……。
「あ! 他にも重要そう情報がありますよ! 『勇者アキストの仲間になるための選抜試験を実施』? 『合格者は2名』!? え……意外と早かったですね!」
ケーミーが驚きの表情でこちらを見ている。
「選抜試験か! もう始まっていたんだ……!? そうだね、早い! 合格者は……2人か」
ケーミーは以前、『選抜試験が行なわれるのは先になるだろう』……と予想していた。
意外と早かったぞ。
これは……新たな仲間がパーティに加わるのだろう!
戦力強化はありがたいぜ!
でも……ウェイウェイしている感じの人達だったらどうしよう。
性格が合う人達だったら良いんだけど。
そこは不安だな……。
まぁ、今はケーミーもいるんだ。
人間関係については大丈夫かも……。
「勇者様……早速、お城に行きましょうか? お城の人達は、まさか勇者様が戻って来ているとは思わないですよ! 私たちと合格者が入れ違いになったら面倒ですよね」
……確かに。
モタモタしていたら、旅立った俺を追いかけて出発してしまうかもしれないな。
「うん、そうだね。スワン王国と提携する話についても早く聞きたいしね」
というわけで、お城に向かった。
ちょっと緊張するな……。
掲示板ではポジティブな情報を得られたけど、基本的にグリトラル王国は嫌な感じだからさ。
俺はサキュバス討伐に成功したんだし、明るく受け入れてくれれば嬉しいんだけど!
俺の評価……上がっていてくれ!
城下町を通り抜けて、ケーミーと一緒にお城の中に入った。
早速、国王様に謁見するぞ。
通された部屋は、玉座の間だ。
勇者の聖剣を手にした部屋である。
厳かな雰囲気だな……。
玉座に国王が座っており、周りには大臣達と王女様達がいるぞ。
「……勇者アキストか。先日、スワン王国から使者が来たぞ。まったく……面倒なことをしてくれたわい」
「へっ!?」
おっとぉ……!?
国王はいきなり溜息をついているぞ!?
スワン王国の国王様が送ってくれた使者とはすでに会っていたんだな。
……ということは、俺たちがボルハルトの魔法陣を使う件でご立腹ってことか?
今度は国王の両隣にいる大臣達が次々に口を開く。
「スワン王国と手を組むなど……」
「勇者アキスト……何も考えなしに……」
うわぁっ!?
大臣達も否定的な感じだぞ……!
「あちらの方が大国……魔界から得られる戦利品の取り分をどうするのか……」
「会議で慎重に決めなければ損をしてしまいますぞ」
次々に意見を述べているぞ!
確かにスワン王国の方が大国である。
ん……?
大臣の1人が一歩前に出たぞ。
「いや……しかし、魔法陣は向こうにあります。向こうが新たな勇者を選定しないうちに早く決断しましょう!」
お……この大臣は決断を促しているぞ。
確かにモタモタしていたら、この国にとってはマズいことになるだろう。
もしかしたらスワン王国には、勇者になる可能性のある人がいるのかもしれない。
グリトラル王国が返事をあやふやにしていたら、新たな勇者が出てきてしまう可能性はあるぞ。
……そうなったら、グリトラル王国に手柄は入ってこなくなる。
グリトラル王国としては、俺が魔法陣で魔界に行く決断を早くしないとマズいってことだよね!
うん、これは……早く決まる感じもするな!
……おっと?
国王が何か言いたそうだぞ?
「確かにそうじゃな……。しかし、素直にスワン王国を信じてよいものじゃろうか? そして、勇者アキストの強さも本当に信用できるのじゃろうか……?」
えっ!?
他国のことはともかくとして、せめて俺は信じてよ……。
俺は、この国の勇者なんだけどなぁ。
選んでくれたのになぁ。
なんか否定的なんだよな……。
他の国に協力してもらおうとしちゃったのがマズかったのかな?
あ……いつだか『他に候補がいないから、この国は勇者アキストに頼らざるを得ない』みたいなことを言っていたなぁ。
けど……どう思われていようとも、魔法陣を使って早く魔界に行かないとなぁ。
世界を救うため……って考えて欲しい。
けど、この人達には主張することさえ躊躇してしまうんだよね……。
やっぱ俺への評価が低い感じがするからなぁ。
この俺に向けられる嫌な雰囲気……変わってないよね。
あ……今度は王女様の1人が口を開くぞ。
なんだろう……?
「国王様……勇者アキストの活躍も聞いていますし、前向きに考えてみませんか? 彼は四天王の1人を倒したそうですよ」
国王に前向きなアドバイスをしてくれた!
そうそう、そこを評価してくれ!
ナイスアドバイスだぞ……!
あ……今度は別の王女様達が話し始めたな。
「その話……本当なのかしら?」
「男がサキュバスを討伐できるなんて……信じられない」
「まぐれなんじゃない?」
王女様達が疑っているぞ。
な、何なんだよ……。
まぁ、確かに俺1人の力ではなかったけどさ。
ケーミーとスカーレンが協力してくれた。
「うーむ。これは議論が必要じゃな。緊急会議を始める必要があるのう」
国王様が険しい表情をしながら方針を固めたぞ。
緊急会議をするのか!
その会議は……どれくらい時間が掛かるんだろう?
俺にとって、会議の内容は嫌なものになりそうだぞ。
本人のいない場所で、俺を悪く言いそうだ。
俺の悪口は程々にね……!
……ん?
国王様はまだ何か伝えたいことがあるようだ。
「そうじゃ、勇者アキストよ。スワン王国の話とは別件なのじゃが、緊急に試験を始めたぞ。勇者アキストの仲間を選抜する試験じゃ」
あ、そうそう!
それも聞きたかったんだ!
「はい、掲示板で拝見しました! 結果が出たんですよね!?」
「そうじゃ。すでに1人、魔法使いを連れているようじゃが。追加で仲間を連れて行けば良いじゃろう。仲間は……この2人じゃ! 急遽募集したのじゃが、実力者が揃ったぞ」
国王様が合図をすると、部屋の横にあるドアから2人が現れた。
この人達が新しい仲間か……!!
「1人目は、僧侶のマインドじゃ! 回復魔法が優れておる!」
見た目は好青年の僧侶だな。
黒髪短髪で身長は俺と同じぐらいか。
青い法衣を着ているぞ。
手足が細くて華奢である。
それにしても、回復魔法は助かるぜ!
いつまでも癒しの聖水に頼ってはいられないからね……!
「よろしくお願いします!」
お! 喋ると、なおさら好青年だ!
よかったよかった。
話しやすそうだぜ。
「もう1人は、槍使いのゴーリーじゃ! 接近戦が秀でておる!」
槍使い……!
たしかに長い槍を持っているな。
前衛タイプがいるのはありがたい……!!
戦いが楽になるぞ。
「……」
この人は……何も喋らないぞ!
無言……だと!?
む、無口なタイプか……。
身長は俺より少し高いぐらいか。
ぜ、全身が緑色のマントで隠れているな。
しかもフード付きで、そのフードを頭に深くかぶっているぞ。
どんな人なのか全く分からん……。
「勇者のアキストです! こっちの女の子は、魔法使いのケーミーです。よろしくお願いします!」
「ケーミーです。よろしくお願いしますー」
俺とケーミーも挨拶をした。
僧侶のマインドは笑顔で返事をする。
槍使いのゴーリーは会釈をしてくれたけど……やはり無言である。
あ、椅子に座っていた国王様が立ち上がったぞ。
「よし、勇者アキストよ! 良いタイミングで戻って来てくれてよかったわい! また後日、緊急会議の結果を伝えるために呼び出すから城下町の宿屋に泊まっていてくれ! 明日か明後日には呼び出すから、待っているのじゃ」
国王様達は部屋から出て行った。
すぐに緊急会議をするのかな……。
結果が出るまで待つしかないか。
明日か明後日って……思っていたより早く決まりそうだな。
---
その夜、俺たち4人は城下町の酒場でご飯を食べながら親睦会を行なった。
「いやぁ、勇者様が良い人そうで嬉しいです! がんばりますよ……!」
やはり僧侶のマインドは好青年だ。
俺に対する偏見もなさそうで安心である。
魔力はどうかな?
コソっと魔力を感知してみよう。
う~ん……高いな。
以前に仲間だった僧侶と比べても遜色ないぞ。
「こちらこそです! 回復魔法をお願いしますね!」
俺はマインドに合わせて元気に返事をする。
そしてもう1人、新たなに加わった仲間に視線を向ける。
「……」
槍使いのゴーリーは……無口である。
未だに喋らないぞ。
魔力感知はさせてもらうぜ。
……ん!?
この人も……魔力が高い!
以前の仲間達よりも魔力が高いんじゃないか?
槍使いにも関わらず、魔法も使えるのだろうか?
バランスが良さそうだぞ。
けど、無口だなぁ……。
ここまで無口だと、この人に質問する気力も起きないぞ。
お店の中なのに未だにフードを深く被っているし。
俺以上にシャイというか人間関係が苦手というか……もはや諦めているというか……。
でも、コミュニケーションが取れないのに選抜試験に合格するなんて、やはり相当な実力者なのだろう。
これは期待できるかもしれない!
あ、ケーミーが何かを言いたそうだ。
「ぜ、ぜんぜん喋りませんね!? ずいぶんと寡黙な人なんですね……」
ケーミーが怪しんでいるぞ。
「……」
まだ喋らないのか……。
なんか……不安になってくるなぁ。
強そうな人なんだけどね。
重大な隠し事をしていたら嫌だぞ。
そんな微妙な空気の中、食事会が行なわれた。
---
1時間もしないうちに食事会が終わった。
結局、ゴーリーは一度も喋らなかったな。
マインドが第一印象通りの好青年ということはよく分かった。
お会計を済ませてお店を出ると、もう辺りはすっかり夜であった。
まだ城下町は賑わっているけどね。
人通りは多く、お店もたくさん開いている。
「じゃあ、私は買い物をしてから宿屋に戻りますね。アイテムを買っておかないと」
ケーミーが行ってしまった。
アイテムを買っておいてくれるのか。
なんて準備の良い子なんだ……。
ケーミーがいてくれて良かったぜ。
さっきの食事会も彼女とマインドのおかげで最低限の会話が回ったからな。
さすがだぜ……。
俺はマインドとゴーリーに改めて挨拶をした後、1人で宿屋に向かうことにした。
よし……新たな仲間とともに旅を再開するぞ。
けど、再開するのは国王様たちの会議次第だよね。
今日の感じだと、俺はボルハルトの魔法陣で魔界に行ける可能性はある。
魔法陣の使用に積極的な人もいた。
俺が行かないとスワン王国に手柄を独り占めされてしまうからね。
みんなで魔界に行くのか……。
いよいよ魔王城だな。
ああ……急に不安になってきた。
……今後、どうしよう?
この射精ループの呪いを解くためには、魔王のところに勇者パーティで乗り込む必要がある。
魔王城にたどり着ければ解除してくれるって魔王は言っていたはずだ。
最近は魔王との距離が縮まってきている気がする。
今の魔王なら、本当に呪いを解除してくれそうだ。
いや……実際は分からないけどね。
本題はここからで、このまま魔王を倒すことが正解なのだろうか?
最近、そんなことが頭をよぎる。
本当に俺と魔王との距離が縮まってきたんだよな……。
正直な話、あれだけ会話した相手を殺すなんて考えられなくなってきた。
前々回、魔王は俺に謝ってくれた。
俺に『魔族やモンスターを葬ってきた罰を与える』って言ったことに対してね。
あれからかな……俺の魔王に対する見方は変わってきていた。
しかも前回は、カリバデスに再戦する勇気をもらったんだ。
エッチなことで元気づけられるのは、どうかと思うけど。
ごめん、スカーレン……。
俺は……スカーレンと良い感じなんだ。
なんだかんだ、魔王が死んだらスカーレンは悲しむだろう。
俺はスカーレンとは仲が良いというか……もう結ばれたいな……って思ってきているし。
俺……勇者失格なのかなぁ……?
どうしたものか……。
「あ、お兄さん、ウチのお店に寄っていかない?」
……お兄さん?
考え事をしていたら、誰かに話しかけられたぞ。
綺麗でセクシーで露出度の高いお姉さんだ。
「こ、ここは……風俗街!?」
辺りを見渡すと、如何わしいお店が並んでいる!
色々と考え込んでいたら、宿屋から離れたエリアに来てしまった!
し、しまった……!
ここら辺では強引な接客が行なわれている!
「ほら、どうぞどうぞ」
美女達が4、5人登場してきて俺を囲う!
や、やばいぞ……!
逃げられなくなる!
早く断らないと……!!
「ちょ、ちょっと……! 僕は宿屋に戻るんです! どいて下さい……!」
ゆ、勇者が……如何わしい店のお世話になってはマズイよね!?
「自分からお店の前に来といて、怖気付いちゃったのかな?」
「そんなに心配しないで。悪いようにはしないから♪」
「お客様とは真摯に向き合うお店よ♡」
ほ、本当に……!?
なんか女の子たちが優しいなぁ……。
って、ダメだ!
がんばれ! 俺の倫理とか道徳とか!
俺が狙っている女性はスカーレンだろっ!
「ほらほら♪」
「お店の中に行こうね♡」
女の子達に両腕を掴まれ、強引にお店の中に連れて行かれている!
相手は女の子……本気で抵抗してしまうとケガをさせてしまう!
「は~い、1名様ー!」
せ、席に座らされた……。
店の中は薄暗いぞ。
俺を連れて来た女の子達は去り、両隣に別の可愛い女の子達が座った。
ああ……エッチな感じの女の子達だな。
って……こ、この子達の服装は!
はるか東方にある国の衣類……着物だ!
スカーレンと同じ!
「今日は東の国に伝わる着物で接客よ♪」
「色っぽいでしょ♡」
や、やばい! 誘惑されてお金を取られる!
早く店から出ないと……!
ここは……いくらぐらいお金を取られるんだろう!?
ああっ! 俺としたことが、如何わしいお店が集まっている道を通ってしまうとは……!
勇者の倫理的にもマズい!
「この店はもちろん、お触りOKよ」
「お金を払ってくれれば、もっとすごいことだって♡」
な、なにぃ!?
女の子達が、両隣から甘く囁いてきた……!
そ、想像するな!
想像してはダメだぞ、俺!!
「ほら」
あ……右隣の子が俺の耳元に口を近づけたぞ。
「ふぅっ♡」
え!?
軽く息を吹きかけてきた!
エ、エッチだ……。
「ここはどうかなー?」
今度は左隣の女の子が俺の股間に手を近づけた。
今は鎧を装備していないから、彼女の手の温もりが股間に……!
「ひいぃぃっ!?」
ダ、ダメだ……!
誘惑を振り切れ!!
「お兄さん、勃ってきてるのかなぁ?」
た、勃ってきてるよ……!
両隣から……っていうのは男の夢かもしれない。
さりげなく『お兄さん』って言ってくれるのも嬉しい!
確かケーミーには『おじさん』って言われたからね……。
くっ……!
このままではマズい!
俺が見惚れてしまう着物姿はスカーレンだけだ!
スカーレンを思い出すんだ!
「い、いやいや……僕には、心に決めた人がいるので!」
俺のスカーレンへの気持ちは強いんだぜ!
俺は誘惑を振り切り、立ち上がった。
そして、そのまま走り出した。
うぅ……店の中は薄暗いぞ……。
あれ、入り口はどっちだっけ?
分からなくなってしまったな……。
あ……黒い鎧を装備した男の人が目の前にいる。
誰だろう……?
「お客様……こちらは特別ルームにございます」
従業員なんだね!?
店の中を注意深く見渡してみると、確かに黒い鎧を装備している人がちらほら立っている。
従業員の制服ってことか……。
「おや? お客様は……勇者アキスト様ですね?」
正体がバレた……!
まぁ、俺の顔は知られているからな。
とくにこの国では。
「ようこそ、おいで下さいました。少々お待ちください」
な、なんだ?
鎧の男はすぐに別の男を連れて来た。
今度の人は豪華で高級そうな服を着ているぞ。
……おそらく貴族の男だ。
「勇者様がご来店とは……ありがたいことです。私はこの店の支配人です。勇者様、どうでしょう? うちの店の特別会員になられては? 一般のお客様とは違った楽しみ方ができますよ」
な、なんだって?
「えっ? 特別会員……ですって!?」
「そうです。この先の部屋をご覧になって下さい」
支配人はドアを開けた。
鎧の男が特別ルームと呼んでいた部屋である。
そこは……とても広い部屋であった。
えっ……!?
「ま、魔族がいる……!?」
中では、魔族の女性がエッチなことをしていた。
人間の男と……。
「魔族を雇っています。雇っていると言っても、実際のところ奴隷ですね。魔族好きなお客様もいますので」
な、なんだって……!?
ど、奴隷……?
無理矢理この仕事をさせられているのか!?
「本来、並の人間は魔族に勝てないですからね。そんな魔族を性的に蹂躙できるのは興奮するのでしょう。貴族や王族の方々が皆様、大金を払って利用されています」
なっ!?
貴族や……王族も!?
「もし魔界で魔族を生け捕りにしましたら、高価で買い取りますよ。魔族を生け捕りにできるほどの達人は滅多にいませんからね」
「ま、魔族を……生け捕りに!?」
ここにいる魔族の女性達は、魔界で人間に捕らえられたということか……。
「はい。将来的には魔族同士、もしくは魔族とモンスターを戦わせて賭博させることになると思います。そういった要望は多いですからね。魔族は滅多に捕獲できませんので、是非よろしくお願いします」
「た、戦わせる……!? と、賭博まで……!?」
し、知らなかった……!
スワン王国の闇深さに嫌気が差すぜ!!
「そ、そんなことが……!? 違法じゃないのか!?」
「違法? 勇者様、何を驚かれているのですか? 先ほど、王族もいらしていると申し上げました。なので、もちろん王国公認の事業ですよ? まぁ、表立って発表はしておりませんが……。お客様の中には他国の王族もいますよ」
なっ!?
他国も……認めているのか!
「そ、そんな……」
このような残酷なことを行なっているのは、この国だけじゃないのかもしれない。
世界各地で行なわれているのかもしれないぞ……!
くっ……!
「特別会員に招待したのは、勇者様が貴重な戦力と行動力、地上の果てから魔界に行く資格も持っているからです。ぜひ格安でお楽しみいただくとともに、魔族の確保をお願い……」
「や、やめろ……!」
「勇者様?」
俺は怒りに身を任せて、特別ルームに進入する。
「な、なんだ!? この男!?」
「ここは特別ルームだぞ!?」
「摘み出せ!」
人間の客たちが俺を警戒する。
魔族を助けなくては……!
こんなのは間違っているだろう!!
「これ以上、中には入れるな!」
「営業妨害だぞ!」
「手加減するな! 相手は勇者だ……!」
うっ! 前と後ろから黒い鎧の男達が現れた!
相手は10人以上……の屈強な人間の男。
ホーリーバスターを放てば倒せるだろうけど。
勇者が人間相手に簡単に手を出すわけにはいかない……。
ボルハルトやカリバデスのときはともかくとして、この店は合法だからね……。
俺の行動が……考え方が……間違っているのか!?
そんなはずは……。
俺は10人以上の屈強な男達に連れられて、店を追い出された。
店の方を振り返ると、目の前には支配人が立っていた。
「勇者様……我々に怒りを向けているようですね? 相手は人間を苦しめてきた魔族ですよ? せっかくうちの店を選んでくれたのに、残念です。このことは王国には報告しないでおきます。冷静になったら、またいらして下さい。可愛い人間の女の子達にも特別接待をさせますから」
うぅっ……なんなんだよ。
こんなお店が認められているのか……。
勇者である俺が、この店を力技で叩きのめすわけにはいかない。
犯罪者になって、聖剣を取られてしまうかもしれないな。
魔界に行ける可能性もなくなってしまうかもしれない……!
くっ……!!
あの部屋にいた魔族の女の子達を……助けられないのか……!!
待てよ……もし魔王を殺さずに捕まえたとしても、地上でヒドい目にあってしまうんだ……。
そもそも俺は魔王を殺したくはないんだよ……。
もちろん、スカーレンも……!!
応援ありがとうございます!
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