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第一章
7・愚かな家族(だったひとたち)
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薄氷の君、と呼ばれた銀髪の男は、醜悪さに反吐が出そうだった。
「薄氷さまがお出ましになるほどの事はありませんのに」
へこへこ頭を下げる、これが彼女の父だった。
「最初、部下を使いにやったのだが、あなたほどの位が無ければ家に入れる事も許さないと断られたそうで」
「へ、へ、へ、も、申し訳ありません、あの、妻が勝手にそんな事を」
「帝国軍人にあるまじき行為である」
「ま、ま、まことに……お恥ずかしい、限りで」
薄氷の部下であっても、この男より下の位のものなど存在しない。
あえて部下が薄氷のもとへ戻り、判断を仰いだのは正しかった。
(こんなくだらない場所に居たのか)
彼女の苦労を思うと、自分の考えの甘さに腹が立った。
しかし、いくら何でもこの家はひどすぎる。
「私が―――――妻の為に用意したものを、なぜあなたの妻が着ているのか、まずはそのご説明から伺いたいのだが」
「な、なにかの間違いでございます!!!全く、妻は頭がおかしい女でして」
必死に頭を下げる男に、今度は妻が逆上した。
「なんですって!このクソ男!あんたが使って良いって言ったんじゃないのかい!この着物着たあたしの下で、ヒイヒイ喜んでたじゃないのよ!!!!」
薄氷は青ざめた。
まさかそこまでの事をやっているとは。
清純な妻の為に用意したはずの花嫁衣裳を事もあろうにこんな老婆とも言える女が着て挙句、性行為の時に使うとは。
思わず笑ってしまった薄氷に、女はなぜかほっとした。
「あ、あんたも、なんならあんただってこのアタシといいこと出来るんだからさ、」
「おい、こいつを私の見えないところへやってくれ」
「はっ」
薄氷の部下は、上司の心情を理解し、女を羽交い絞めにすると家の奥へと連れて行った。
「も、も、もうしわけ、ご、ございません」
「いえ、家の中で豚を飼う酔狂なご趣味をお持ちであるお方であるとよく理解しました。豚のやったことなら致し方ありますまい」
これは、ひょっとして許されるのだろうか、とキイロの父は一瞬思った。
本来なら娘の婚姻の為のものを妻に与えて、かなりのものも売り払う約束をしていて、それで老後はのんびり暮らそうと思っていた。
それほどの価値のものがあった。
あんな娘にそんな価値など必要ないのに。
薄氷は言った。
「そんなに豚がお好きなら、是非、豚の世話に回るようにしましょう、なに、家の中でも豚とお暮しになれるのならむしろ天職でありましょう」
そこまで言われてようやっと、キイロの父はこの男が憤怒していることに気づく。
美しく静かに語る男に、怒りの感情は見いだせない。
だが、まるで絵のように美しいその男の背景には煮えたぎる地獄の窯すら見えるような怒りがあった。
「も、も、」
「しかし、そうですね、さすがに私も妻の父が豚の飼育係ではあまりに笑いの種になってしまうというもの」
救われる、と思い男は頭をあげたのだが。
「私の遠縁に、伯爵家があります。伯爵の養女という事にしましょう。そうすれば何も問題はありません。どうでしょう、すぐに手続きを行いたいので、一度軍の方へ」
「は、は、はい、はい、はい」
怖すぎてもうそれしか言えない男に、薄氷は部下へ囁いた。
「すぐ伯爵へ連絡を。あの方なら理解してくださるはずだ。手続きが終わり次第、この家を一旦取り潰しこの家族の権利を無くせ。正式な養女の手続きが終わり次第、この夫婦へ今回の婚姻費用の全額と別途慰謝料を請求する手はずを整えよ」
「はっ」
腹心の部下は頷き、早速馬で伯爵家へと向かう。
(早く済まさなければ)
相当怒りが溜まっているはずの上司の怒りをわずかでも減らさなければ。
(全く余計な事をしたものだよ)
娘さえ大事にしていれば、きっともっといい目にあう事が出来たはずなのに。
あの家ももう終わりだな、と部下の男は思いながら馬を走らせたのだった。
「薄氷さまがお出ましになるほどの事はありませんのに」
へこへこ頭を下げる、これが彼女の父だった。
「最初、部下を使いにやったのだが、あなたほどの位が無ければ家に入れる事も許さないと断られたそうで」
「へ、へ、へ、も、申し訳ありません、あの、妻が勝手にそんな事を」
「帝国軍人にあるまじき行為である」
「ま、ま、まことに……お恥ずかしい、限りで」
薄氷の部下であっても、この男より下の位のものなど存在しない。
あえて部下が薄氷のもとへ戻り、判断を仰いだのは正しかった。
(こんなくだらない場所に居たのか)
彼女の苦労を思うと、自分の考えの甘さに腹が立った。
しかし、いくら何でもこの家はひどすぎる。
「私が―――――妻の為に用意したものを、なぜあなたの妻が着ているのか、まずはそのご説明から伺いたいのだが」
「な、なにかの間違いでございます!!!全く、妻は頭がおかしい女でして」
必死に頭を下げる男に、今度は妻が逆上した。
「なんですって!このクソ男!あんたが使って良いって言ったんじゃないのかい!この着物着たあたしの下で、ヒイヒイ喜んでたじゃないのよ!!!!」
薄氷は青ざめた。
まさかそこまでの事をやっているとは。
清純な妻の為に用意したはずの花嫁衣裳を事もあろうにこんな老婆とも言える女が着て挙句、性行為の時に使うとは。
思わず笑ってしまった薄氷に、女はなぜかほっとした。
「あ、あんたも、なんならあんただってこのアタシといいこと出来るんだからさ、」
「おい、こいつを私の見えないところへやってくれ」
「はっ」
薄氷の部下は、上司の心情を理解し、女を羽交い絞めにすると家の奥へと連れて行った。
「も、も、もうしわけ、ご、ございません」
「いえ、家の中で豚を飼う酔狂なご趣味をお持ちであるお方であるとよく理解しました。豚のやったことなら致し方ありますまい」
これは、ひょっとして許されるのだろうか、とキイロの父は一瞬思った。
本来なら娘の婚姻の為のものを妻に与えて、かなりのものも売り払う約束をしていて、それで老後はのんびり暮らそうと思っていた。
それほどの価値のものがあった。
あんな娘にそんな価値など必要ないのに。
薄氷は言った。
「そんなに豚がお好きなら、是非、豚の世話に回るようにしましょう、なに、家の中でも豚とお暮しになれるのならむしろ天職でありましょう」
そこまで言われてようやっと、キイロの父はこの男が憤怒していることに気づく。
美しく静かに語る男に、怒りの感情は見いだせない。
だが、まるで絵のように美しいその男の背景には煮えたぎる地獄の窯すら見えるような怒りがあった。
「も、も、」
「しかし、そうですね、さすがに私も妻の父が豚の飼育係ではあまりに笑いの種になってしまうというもの」
救われる、と思い男は頭をあげたのだが。
「私の遠縁に、伯爵家があります。伯爵の養女という事にしましょう。そうすれば何も問題はありません。どうでしょう、すぐに手続きを行いたいので、一度軍の方へ」
「は、は、はい、はい、はい」
怖すぎてもうそれしか言えない男に、薄氷は部下へ囁いた。
「すぐ伯爵へ連絡を。あの方なら理解してくださるはずだ。手続きが終わり次第、この家を一旦取り潰しこの家族の権利を無くせ。正式な養女の手続きが終わり次第、この夫婦へ今回の婚姻費用の全額と別途慰謝料を請求する手はずを整えよ」
「はっ」
腹心の部下は頷き、早速馬で伯爵家へと向かう。
(早く済まさなければ)
相当怒りが溜まっているはずの上司の怒りをわずかでも減らさなければ。
(全く余計な事をしたものだよ)
娘さえ大事にしていれば、きっともっといい目にあう事が出来たはずなのに。
あの家ももう終わりだな、と部下の男は思いながら馬を走らせたのだった。
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