わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた

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第七章

49・あの時の男の子

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 ダンスフロアの音楽はゆるやかになり、おぼろとキイロは互いに見つめ合ってゆっくりと踊った。
 朧のリードは優しかったが、手はちょっと痛いと思う程強く握られた。

(でもちっとも嫌じゃない)

 その強さも、朧の気持ちなのだと思うと嬉しい。
 ただ、どうしても昔の事を思い出せない自分が情けない。

「どうしました、浮かない顔をして」
「思い出せないのが……申し訳なくて」

 キイロからしたら、へんな能力を持っていて、それなのに妻に求めてくれて、しかも立場もずっと上。
 そんな人がどうして、と思わずに居られない。
 幸福であればあるほど。

「気にしないで、とは言えませんが待ちましょう。あなたが思い出さないと、意味がないのですから」

 キイロは頷く。
 でも本当に自分なのだろうか。
 そう悩んでいた時、朧がさっとターンした。

「きゃっ」

 くるっと回って勢いキイロも引っ張られる。

「朧さま」

 戸惑うキイロに、朧はにこっと微笑んで、もう一度ターンする。
 くるっと回るその動きに、キイロもつられてターンすると、ちょっと楽しい。
 思わず笑ってしまうと、朧も笑った。

「楽しいですね」
「ええ!」

 そう頷いた瞬間だった。

『楽しいね!』
『うん!』

 ざわっと肌が泡立った気がした。

(え、いまの)

 さっと朧がステップを踏んで、キイロもそれに合わせる。
 ふっと通り過ぎた感覚にキイロはちょっと待ってください、と言いたかった。
 それでも朧はステップを続けて、ぐるっと回ってみせた。

『そう、上手だよ!』

 男の子の声が聞こえた気がする。
 え、と思って朧を見た瞬間、キイロの目にはそれが少年の顔とフラッシュバックした。
 驚いて目を見開くキイロに、朧は「どうしました?」と尋ねた。

「―――――もしかして、わたしたち。昔、こうしてダンスした事が?」

 朧の手がキイロの手をぎゅっと握り返した。

「……ええ」
「その時も、こうしてターンして」
「そう」

 そういって朧は、くるっと何度もターンした。

「あなたは、こうしてターンすると楽しそうに声をあげて笑ってくれた」

 そうして再びターンする。

「あの頃私は落ち込んでいて、泣いてばかりだった。でもあなたがわたしを見つけて、慰めてくれた。次は絶対に自分があなたを笑顔にする。そう思ってダンスを覚えて、あなたと踊った」
「……そうだったんですか」
「三度目に会った時に、プロポーズしよう。子供心にそう思っていました。でもあなたはそれきり、姿を消してしまった」

 ずっと探していました。
 呟く朧の声は寂しさが混じる。

「だからいまは夢のようです。あなたとこうして踊る事が出来て」

 嬉しそうな朧に、キイロは頷く。
 長く踊っているとちょと疲れてしまい、その様子を見て朧が言った。

「そろそろ戻りましょうか。飲み物でも貰いましょう」
「はい、ありがとうございます」

 よかった、とキイロはホッとした。

「座っていてください。飲み物を取ってきます」
「はい」

 朧が飲み物を取って来てくれるので、キイロは壁際のソファーへ腰を下ろした。
 すると見ていた梅花とりんが駆け寄った。

「素敵だったわよ、キイロ」
「ありがとう」

 梅花が褒めてくれ、りんがしがみついた。

「われもいっしょがいい!」
「あら、じゃあダンスする?」
「おどりはわからん」

 むくれるりんにキイロが笑っていると突然声をかけられた。

「ちょっと。あなた、朧とどういうご関係?」

 キイロが顔をあげると、そこには燃えるような赤いドレスのような振袖を着た女性が立っていた。

(は、派手な方だなあ)

 髪色もどこか赤の色が混じっていて、口紅も真っ赤で、しかし鮮やかな着物も化粧も、派手な美人の女性には似合っていた。
 キイロがぽかんとした表情で見つめていると、女性は苛立った口調で尋ねた。

「聞いてるでしょ。どういう関係なの?」
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