薊の檻~瑠璃鳥はいばらの籠に囚われる

あきた

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第一章・過去編

6・ある港町のホテルで

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「我々がいまできることは、兎織とおるの無事を祈る事だけだ。あとは……」

 小さくため息をつく。

「兎織が守ろうとしたこの地域を守る事だけだね。なんとか帰って来てくれればいいが」

 冷静に語る瑠璃るりの祖母に、兎織の父もただ頷く。

「かなりの強敵です。うまくやらないとこっちが潰されるでしょう」
「全く、運が良いのやら悪いのやら」
「とにかく私は……せがれを探します」
「そうだね。ただ、港をさらうのはやめておきな」
「なぜです?敵の範囲を考えると間違いなく」
「ああ。だからだよ。あまりに近づきすぎると逆に兎織は始末される可能性が高い」

 瑠璃の傍は考える。
 一方的に殺されるような馬鹿が犯人でなければ、兎織はなんとかやりこめるだろう。
 そもそも、着ている物から兎織がどんな出自か判るはずだ。

(始末すれば面倒な存在とわかって、それをするほど馬鹿でないなら)

 大騒ぎせずに居れば兎織はうまいこと『連れ去られる』可能性が高い。

(利用価値の高いあの子を、そう簡単に『始末』するとは思えないがね)

 曲がりなりにも大きな店の跡継ぎ息子だ、行方不明でも新聞沙汰くらいにはなる。
 そうなれば、数年は始末に困るはずだ。

(かえって、敵が大きすぎて良かったかもしれないね)

 ひたすら考え、瑠璃の祖母は兎織の父に提案した。

「なんとか兎織の命の心配をするんだ。いまからアンタは新聞屋に大枚はたいて兎織が行方不明だと懸賞金を出しな。そうすれば世間の目は懸賞金と兎織に向く。始末すればその背後も見えてしまう。そうさせないためにも」
「判りました。早速、動きます」

 そういうと兎織の父はすっと立ち上がり、すぐになじみの記者を呼んだ。

(気丈な子だよ)

 幼いころから兎織の父を知る瑠璃の祖母はため息をついた。
 きっと本当なら兎織を自分が探しに行きたいだろうに、それよりもすべきことを優先する。
 兎織の命の為に、一番大切な事を優先して動くだろう。

(自慢の息子だものな)

 さて、瑠璃の熱が引いて、すこしはまともな事を言えれば良いのだが。



 瑠璃の熱は一週間近く続いた。
 だが、その後もろくに話をすることはできなかった。
 半狂乱になって兎織を探し、泣き、落ち着くのに更に一週間かかった。
 その間、世間は呉服問屋の坊ちゃんが行方不明で、更にとんでもない額の懸賞金が出ているとのことでそっちで大騒ぎになった。
 兎織を名乗る懸賞金目当ての親子だとか、自分が兎織と名乗る馬鹿だとか、そういった連中が次々に現れたが、本物の兎織は現れなかった。


 ある港町の高級ホテルで、揃えのスーツを着た男は新聞を読んでため息をついた。

(成程、呉服問屋のお坊ちゃんだったというわけか)

 顔に酷い傷を負った少年、兎織はしばらく酷い熱が続いた。
 正式な医者を当然呼べないので、こちらの世界の医者に手当させたが、一応は名医、なんとかなったが、傷跡は残るとの事だった。

「よう会長、ずいぶんとお高いものを拾ったらしいな」

 医師が現れ言うと「まあな」と会長も苦笑した。

「まさかそんなに大金持ちのボンだったとはな。ずいぶんと金を摘んでいるらしいじゃねえか。親の問屋は息子を見つけてもあんな大金がお礼じゃ店が傾いて金が払えねえんじゃないかってもっぱらの噂だぜ」
「―――――わかってんのさ。息子が見つからねえってのがな」

 もしこれで、自分たちが金に目がくらむようならホイホイ息子を返しに来るだろう。
 なにせなにがあろうが捕まえないとあるのだ。

「お前さん、そいつ持ってきゃいい小遣いになるぜ」
「冗談はよせよ。俺が殺されちまう」

 ははっと会長と呼ばれた男は笑った。

「で、どうすんだい、そいつ」
「ん?連れてくさ。どうせそのつもりだった。上はあっちで始末しろって言ってるけどな」
「けどな?」
「あの学校の優等生らしいじゃねえか。折角賢いボンを捨てるなんてもったいねえ。仕込めばいい稼ぎ頭になる」
「お前さん、跡継ぎにするつもりか?」
「俺にはガキがいねえし、頭のいいのもいなかったからな。あっちに連れてきゃそうそう逃げる事も出来ねえ。その間になんとかするさ」
「酔狂なこった。言う事聞くかね」
「聞くさ」

 賢いなら脅しが十分通用する。
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