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第一章・過去編
7・約束
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護りたいものがあるなら尚更だ。
(探させている冊子は見つからないってことだが)
想像通り、この坊ちゃんが賢いなら、ひょっとして、と会長は妄想する。
(だが、いまは別にいい)
あれがなくなって焦るのはむしろお偉方だけだ。
知ったこっちゃねえよ、と会長は苦笑した。
「どっちにしろ、あっちに行って逃げ出して無事に逃げられるわけはないって、この坊ちゃんにも判るだろうよ。賢いならな」
もしそうじゃないなら、それまでの事だけだ。
子供の一人や二人、行方不明でもこっちは知らないで済む。
「どっちにしろ外に出ないと、探されまくってどうしようもないからな。色つけて請求して、始末したことにでもしておくわ」
そうすれば、万が一の脅しの材料にもなる。
生かしておく方が割が良いとふんだ男は、さて、と笑った。
「お前は生き延びることができるかねえ?」
あの、魑魅魍魎のような連中のはびこる世界の中で。
連日、新聞で大騒ぎしていたので、当然それは兎織の友人らの耳にも入った。
心配して先輩や先生、はては学校のOBだという人々が兎織を探して奔走してくれたが、兎織は見つからなかった。
「皆様にもご苦労をおかけしてしまって」
兎織の父はそう言って頭を下げたが、兎織の友人らは首を横に振った。
「兎織は大事な仲間ですから。俺たちもみんな、持てる力を全部使って探しています!」
その言葉はありがたかった。
なぜなら、彼ら、兎織の通っている学校の生徒らは殆どが良家の出身だ。
当然、親も力を持っている立場のものが多い。
そんな連中がこぞって兎織を探していると、当然、探されては困る人が出てくる。
「おじさん、実はちょっと噂を聞いたのですが」
軍部に所属する父を持つ兎織の友人が耳打ちした。
本来なら探してほしくないのだが、という前置きでさりげなく情報を教えてくれたらしい。
背後に政治家の影があるのは明らかだった。
「父が言えるのはここまでらしいです」
「ありがとう、その気持ちだけで充分だよ」
そんな情報をいくつも重ね、集めていくうちに犯人は絞られてくる。
「こうして新聞に出して知らせる事が、あいつらに対する脅しになる。決して諦めていないと訴え続けろ。少なくとも、数か月は」
瑠璃の祖母の言葉に兎織の父は頷き、その通りにしたのだった。
数か月の間、新聞には何度も兎織を探していると呼びかけのページをさき、賞金をどんどん上げて行った。
何度も兎織を名乗る人や、情報がありはしたが、そのどれもが大した情報ではなかった。
やがて時間がたつにつれて、徐々に話題も少なくなった。
紙面に割かれるスペースも徐々に小さくなって、やがて毎年、兎織が行方不明になった時期にお知らせが記事として上がるくらいになった。
兎織を失ってからというもの、瑠璃は暇さえあれば神社へ向かうようになっていた。
「瑠璃、どこに」
「兎織探してくる!」
そういって神社へ向かって走っていく。
「瑠璃ったら……」
家族はそう心配するも、瑠璃は信じ続けていた。
(トールは約束は守るもん!)
幼い瑠璃との約束を、決して破ったりしなかった。
瑠璃は兎織との約束をちゃんと守ってちゃんと逃げて、神社で兎織を待っていた。
(だから、絶対に来るもん)
兎織は賢い自慢の息子だと兎織の父もよく言っていたし、気難しい瑠璃の祖母も、瑠璃の夫になるなら兎織が良いと言っていた。
(だから、トールは絶対に帰ってくるもん!)
瑠璃は信じて、毎日兎織を待ち続けた。
毎日、毎日。
だれかが石段を上がって来ると、トールじゃないかな、と覗き込みながら。
飽きもせず、ずっと。
必ず兎織が帰ってくると信じて。
(トール、瑠璃はずっと待ってるから!)
時々、心無い人らに笑われても瑠璃はなにも返さなかった。
だって必ず、どうせ兎織は帰ってくるんだから―――――……
(探させている冊子は見つからないってことだが)
想像通り、この坊ちゃんが賢いなら、ひょっとして、と会長は妄想する。
(だが、いまは別にいい)
あれがなくなって焦るのはむしろお偉方だけだ。
知ったこっちゃねえよ、と会長は苦笑した。
「どっちにしろ、あっちに行って逃げ出して無事に逃げられるわけはないって、この坊ちゃんにも判るだろうよ。賢いならな」
もしそうじゃないなら、それまでの事だけだ。
子供の一人や二人、行方不明でもこっちは知らないで済む。
「どっちにしろ外に出ないと、探されまくってどうしようもないからな。色つけて請求して、始末したことにでもしておくわ」
そうすれば、万が一の脅しの材料にもなる。
生かしておく方が割が良いとふんだ男は、さて、と笑った。
「お前は生き延びることができるかねえ?」
あの、魑魅魍魎のような連中のはびこる世界の中で。
連日、新聞で大騒ぎしていたので、当然それは兎織の友人らの耳にも入った。
心配して先輩や先生、はては学校のOBだという人々が兎織を探して奔走してくれたが、兎織は見つからなかった。
「皆様にもご苦労をおかけしてしまって」
兎織の父はそう言って頭を下げたが、兎織の友人らは首を横に振った。
「兎織は大事な仲間ですから。俺たちもみんな、持てる力を全部使って探しています!」
その言葉はありがたかった。
なぜなら、彼ら、兎織の通っている学校の生徒らは殆どが良家の出身だ。
当然、親も力を持っている立場のものが多い。
そんな連中がこぞって兎織を探していると、当然、探されては困る人が出てくる。
「おじさん、実はちょっと噂を聞いたのですが」
軍部に所属する父を持つ兎織の友人が耳打ちした。
本来なら探してほしくないのだが、という前置きでさりげなく情報を教えてくれたらしい。
背後に政治家の影があるのは明らかだった。
「父が言えるのはここまでらしいです」
「ありがとう、その気持ちだけで充分だよ」
そんな情報をいくつも重ね、集めていくうちに犯人は絞られてくる。
「こうして新聞に出して知らせる事が、あいつらに対する脅しになる。決して諦めていないと訴え続けろ。少なくとも、数か月は」
瑠璃の祖母の言葉に兎織の父は頷き、その通りにしたのだった。
数か月の間、新聞には何度も兎織を探していると呼びかけのページをさき、賞金をどんどん上げて行った。
何度も兎織を名乗る人や、情報がありはしたが、そのどれもが大した情報ではなかった。
やがて時間がたつにつれて、徐々に話題も少なくなった。
紙面に割かれるスペースも徐々に小さくなって、やがて毎年、兎織が行方不明になった時期にお知らせが記事として上がるくらいになった。
兎織を失ってからというもの、瑠璃は暇さえあれば神社へ向かうようになっていた。
「瑠璃、どこに」
「兎織探してくる!」
そういって神社へ向かって走っていく。
「瑠璃ったら……」
家族はそう心配するも、瑠璃は信じ続けていた。
(トールは約束は守るもん!)
幼い瑠璃との約束を、決して破ったりしなかった。
瑠璃は兎織との約束をちゃんと守ってちゃんと逃げて、神社で兎織を待っていた。
(だから、絶対に来るもん)
兎織は賢い自慢の息子だと兎織の父もよく言っていたし、気難しい瑠璃の祖母も、瑠璃の夫になるなら兎織が良いと言っていた。
(だから、トールは絶対に帰ってくるもん!)
瑠璃は信じて、毎日兎織を待ち続けた。
毎日、毎日。
だれかが石段を上がって来ると、トールじゃないかな、と覗き込みながら。
飽きもせず、ずっと。
必ず兎織が帰ってくると信じて。
(トール、瑠璃はずっと待ってるから!)
時々、心無い人らに笑われても瑠璃はなにも返さなかった。
だって必ず、どうせ兎織は帰ってくるんだから―――――……
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