薊の檻~瑠璃鳥はいばらの籠に囚われる

あきた

文字の大きさ
7 / 47
第一章・過去編

7・約束

しおりを挟む
 護りたいものがあるなら尚更だ。

(探させている冊子は見つからないってことだが)

 想像通り、この坊ちゃんが賢いなら、ひょっとして、と会長は妄想する。

(だが、いまは別にいい)

 あれがなくなって焦るのはむしろお偉方だけだ。
 知ったこっちゃねえよ、と会長は苦笑した。

「どっちにしろ、あっちに行って逃げ出して無事に逃げられるわけはないって、この坊ちゃんにも判るだろうよ。賢いならな」

 もしそうじゃないなら、それまでの事だけだ。
 子供の一人や二人、行方不明でもこっちは知らないで済む。

「どっちにしろ外に出ないと、探されまくってどうしようもないからな。色つけて請求して、始末したことにでもしておくわ」

 そうすれば、万が一の脅しの材料にもなる。
 生かしておく方が割が良いとふんだ男は、さて、と笑った。

「お前は生き延びることができるかねえ?」

 あの、魑魅魍魎ちみもうりょうのような連中のはびこる世界の中で。



 連日、新聞で大騒ぎしていたので、当然それは兎織とおるの友人らの耳にも入った。
 心配して先輩や先生、はては学校のOBだという人々が兎織を探して奔走してくれたが、兎織は見つからなかった。

「皆様にもご苦労をおかけしてしまって」

 兎織の父はそう言って頭を下げたが、兎織の友人らは首を横に振った。

「兎織は大事な仲間ですから。俺たちもみんな、持てる力を全部使って探しています!」

 その言葉はありがたかった。
 なぜなら、彼ら、兎織の通っている学校の生徒らは殆どが良家の出身だ。
 当然、親も力を持っている立場のものが多い。
 そんな連中がこぞって兎織を探していると、当然、探されては困る人が出てくる。

「おじさん、実はちょっと噂を聞いたのですが」

 軍部に所属する父を持つ兎織の友人が耳打ちした。
 本来なら探してほしくないのだが、という前置きでさりげなく情報を教えてくれたらしい。
 背後に政治家の影があるのは明らかだった。

「父が言えるのはここまでらしいです」
「ありがとう、その気持ちだけで充分だよ」

 そんな情報をいくつも重ね、集めていくうちに犯人は絞られてくる。

「こうして新聞に出して知らせる事が、あいつらに対する脅しになる。決して諦めていないと訴え続けろ。少なくとも、数か月は」

 瑠璃の祖母の言葉に兎織の父は頷き、その通りにしたのだった。


 数か月の間、新聞には何度も兎織を探していると呼びかけのページをさき、賞金をどんどん上げて行った。
 何度も兎織を名乗る人や、情報がありはしたが、そのどれもが大した情報ではなかった。

 やがて時間がたつにつれて、徐々に話題も少なくなった。
 紙面に割かれるスペースも徐々に小さくなって、やがて毎年、兎織が行方不明になった時期にお知らせが記事として上がるくらいになった。

 兎織を失ってからというもの、瑠璃るりは暇さえあれば神社へ向かうようになっていた。

「瑠璃、どこに」
「兎織探してくる!」

 そういって神社へ向かって走っていく。

「瑠璃ったら……」

 家族はそう心配するも、瑠璃は信じ続けていた。

(トールは約束は守るもん!)

 幼い瑠璃との約束を、決して破ったりしなかった。
 瑠璃は兎織との約束をちゃんと守ってちゃんと逃げて、神社で兎織を待っていた。

(だから、絶対に来るもん)

 兎織は賢い自慢の息子だと兎織の父もよく言っていたし、気難しい瑠璃の祖母も、瑠璃の夫になるなら兎織が良いと言っていた。

(だから、トールは絶対に帰ってくるもん!)

 瑠璃は信じて、毎日兎織を待ち続けた。
 毎日、毎日。
 だれかが石段を上がって来ると、トールじゃないかな、と覗き込みながら。

 飽きもせず、ずっと。

 必ず兎織が帰ってくると信じて。

(トール、瑠璃はずっと待ってるから!)

 時々、心無い人らに笑われても瑠璃はなにも返さなかった。

 だって必ず、どうせ兎織は帰ってくるんだから―――――……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣
恋愛
24歳のOL・栗山莉恵は、恋人に騙され、心も人生もどん底に突き落とされていた。 すべてを終わらせようとした夜、高層ビルの屋上で出会ったのは、不思議な青年・結城大虎。 「死んだら後悔する」 そう言って彼は、莉恵の手を強く掴んだ。 それが、止まっていた彼女の人生が再び動き出すきっかけだった。 年下の彼との出会いが、傷ついた心を少しずつ癒していく―― 絶望の先で“生きる選択”と“恋”を見つける、大人の再生ラブストーリー。 ※完結しました※ ここまで読んでくださり、 本当にありがとうございました。 少しでも誰かの心に残っていたら嬉しいです。 このあと番外編も公開予定ですので、 よろしければ引き続きお付き合いください。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

処理中です...