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010_刃は教室にある
010_7
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ユウは薄く目を開けた。
いつの間にか、眠ってしまったようだ。
夕焼けに照らされた保健室には、トーマとエレナが寝かされている。
ユウはトーマのベッドの横、丸椅子に腰を下ろしたまま、背伸びをした。
こんなイスに座りながらでよく眠れたな、と少し自分に感心した。
ユウはトーマの顔をのぞきこんだ。
少し、顔色が良くなったように思うのは、夕日のせいか。
ユウ「ありがとう……」
トーマの寝顔に向けて、感謝を口に出した。
きっとあのとき、トーマが割って入らなかったら、ここで寝ていたのは自分だっただろう。
いや、もっと悪いかもしれない。
ましろが安息貯蓄で、トーマとエレナの回復をしながら言っていた。
血液を操作して傷口をふさがなかったら、危なかったと思う、と。
それだけ深い傷だったのだ。
ユウ「すごいよ。強かった。……嬉しかった。
ボクを助けに来てくれて、かぐらとも互角にやり合って……
それで、最後にはと……友達をかばうとか……」
ユウは、大きく息をついた。
ユウ「……かっこいいなあ……」
憧れと羨望がないまぜになった気持ちが、言葉になって溢れた。
その言葉に我慢出来ず、トーマは顔を引きつらせた。
ユウ「え、ちょっと……
……起きてた?」
数呼吸してから、そろそろとトーマは目を開けた。
ユウ「ええぇ? 起きてるなら言ってよ……
うわー……恥ずかし……」
目の前で、思いっきり、心情を吐露してしまった。
ユウは顔を両手で隠して、ぐにぐにと自分の顔をこねるようにいじった。
トーマ「はは……悪かった。でも本当に今、目が覚めたんだ」
トーマは身を起こそうとして、顔をしかめて、やめた。
ましろの安息貯蓄で回復したといっても、傷が癒えるわけではない。活力のようなものを得られるだけで、傷自体は自然治癒を待つことになる。
ユウ「そうだ、これ……」
思い出したように、ユウはベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばした。
トーマが異能力で作り出した短刀……ナイフと言うには少し大ぶりな刃物をトーマに見せた。
トーマ「拾って来てたんだ」
ユウはうなづいた。
ユウ「輸血みたいに、使うかなって……」
トーマ「ああ……そうか。ありがとう。
……でも、ここまで固まっちゃうと、もう、操れないんだ。
せっかく持ってきてくれたんだけど……捨ててくれ」
ユウ「そんな! もったいない!」
トーマの言葉に、ユウは心底おどろいた。
トーマも、ユウの反応におどろいた。
ユウ「じゃあ、もらっても……良い?」
トーマ「……良いけど……」
ユウ「ありがと!」
嬉しくてたまらない、といった顔で、ユウはお礼を言った。
短刀を頭上に掲げて、いろいろな角度で眺める。
子どものようなキラキラした目だ。
ユウ「へへ……やった」
トーマ「あー……大丈夫?
気持ち悪くない? 僕の血のかたまりだぜ?」
ユウ「そんなこと、絶対ない」
ユウは短刀を膝にのせて、トーマを正面から見た。
さっきの恥ずかしさがよみがえってきて、視線はやっぱり外す。
ユウ「恥ずかしついでに言うケド……ホントに、すごかったんだからな……」
トーマは嬉しそうに、笑った。
トーマ「良いだろ。血液操作……
あ、クリムゾン・コード」
トーマがうっかり言い間違えた。頭の中では、血液操作と認めているらしい。
ユウはくすくすと笑った。
ユウ「本当に……うらやましい……」
そのつぶやきに、ユウの心の奥のごりっとしたなにかが含まれているように、トーマは感じた。
トーマ「異能力は、みんな違うんだ。
……ユウの能力だって、悪いことはないさ」
ユウ「そう……かな……」
********
ユウ(そう……かな……)
保健室を出て、ユウはトーマの言葉を思い出していた。
いや、そんなはずない。
廊下を歩きながら、心の中でぐるぐるとわかりきった考えを巡らせる。
だれだって、血液操作と幻聴なら、血液操作を選ぶに違いない。
かたや友達を守って戦える力……かたや……
ユウ(……ノクス、全部、説明してもらうからな……)
ノクス(……)
ユウ(ノクス!)
ノクス(分かってるよ。
でも、まずは……アリスの話を聞いてもらおう)
ユウ(……え?)
突然、意外な名前が出て、ユウは立ち止まった。
その瞬間、ユウの視界が閃光に包まれる。
身を起こしたのは、ユウではなく、ノクスだった。
ノクス「……助かったぜ。早乙女アリス」
アリス「……」
柱のかげに隠れていたアリスは、わずかに顔をのぞかせた。
アリス「ちゃんと……言われた通りに消せたか……わ、分からない……」
今日1日、幻聴と交わしたすべての言葉……
そんな狙いすましたような記憶の消去など、これまで試したことすらない。
ノクスは顔を歪めて笑った。
ノクス「多少、余分に消えてても、気にすることはない。
記憶力、悪いからな。アイツ……」
アリス「……」
アリスは怯えたような表情を見せた。
アリス「……本当に、これで……
ト、トーマくん、元気になる……の?」
ノクス「ああ、もちろんだ……
アイツが望む限り、絶対だ」
身体の無事以外は保証出来ないけどな。
ノクスは口の中でつぶやいた。
いつの間にか、眠ってしまったようだ。
夕焼けに照らされた保健室には、トーマとエレナが寝かされている。
ユウはトーマのベッドの横、丸椅子に腰を下ろしたまま、背伸びをした。
こんなイスに座りながらでよく眠れたな、と少し自分に感心した。
ユウはトーマの顔をのぞきこんだ。
少し、顔色が良くなったように思うのは、夕日のせいか。
ユウ「ありがとう……」
トーマの寝顔に向けて、感謝を口に出した。
きっとあのとき、トーマが割って入らなかったら、ここで寝ていたのは自分だっただろう。
いや、もっと悪いかもしれない。
ましろが安息貯蓄で、トーマとエレナの回復をしながら言っていた。
血液を操作して傷口をふさがなかったら、危なかったと思う、と。
それだけ深い傷だったのだ。
ユウ「すごいよ。強かった。……嬉しかった。
ボクを助けに来てくれて、かぐらとも互角にやり合って……
それで、最後にはと……友達をかばうとか……」
ユウは、大きく息をついた。
ユウ「……かっこいいなあ……」
憧れと羨望がないまぜになった気持ちが、言葉になって溢れた。
その言葉に我慢出来ず、トーマは顔を引きつらせた。
ユウ「え、ちょっと……
……起きてた?」
数呼吸してから、そろそろとトーマは目を開けた。
ユウ「ええぇ? 起きてるなら言ってよ……
うわー……恥ずかし……」
目の前で、思いっきり、心情を吐露してしまった。
ユウは顔を両手で隠して、ぐにぐにと自分の顔をこねるようにいじった。
トーマ「はは……悪かった。でも本当に今、目が覚めたんだ」
トーマは身を起こそうとして、顔をしかめて、やめた。
ましろの安息貯蓄で回復したといっても、傷が癒えるわけではない。活力のようなものを得られるだけで、傷自体は自然治癒を待つことになる。
ユウ「そうだ、これ……」
思い出したように、ユウはベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばした。
トーマが異能力で作り出した短刀……ナイフと言うには少し大ぶりな刃物をトーマに見せた。
トーマ「拾って来てたんだ」
ユウはうなづいた。
ユウ「輸血みたいに、使うかなって……」
トーマ「ああ……そうか。ありがとう。
……でも、ここまで固まっちゃうと、もう、操れないんだ。
せっかく持ってきてくれたんだけど……捨ててくれ」
ユウ「そんな! もったいない!」
トーマの言葉に、ユウは心底おどろいた。
トーマも、ユウの反応におどろいた。
ユウ「じゃあ、もらっても……良い?」
トーマ「……良いけど……」
ユウ「ありがと!」
嬉しくてたまらない、といった顔で、ユウはお礼を言った。
短刀を頭上に掲げて、いろいろな角度で眺める。
子どものようなキラキラした目だ。
ユウ「へへ……やった」
トーマ「あー……大丈夫?
気持ち悪くない? 僕の血のかたまりだぜ?」
ユウ「そんなこと、絶対ない」
ユウは短刀を膝にのせて、トーマを正面から見た。
さっきの恥ずかしさがよみがえってきて、視線はやっぱり外す。
ユウ「恥ずかしついでに言うケド……ホントに、すごかったんだからな……」
トーマは嬉しそうに、笑った。
トーマ「良いだろ。血液操作……
あ、クリムゾン・コード」
トーマがうっかり言い間違えた。頭の中では、血液操作と認めているらしい。
ユウはくすくすと笑った。
ユウ「本当に……うらやましい……」
そのつぶやきに、ユウの心の奥のごりっとしたなにかが含まれているように、トーマは感じた。
トーマ「異能力は、みんな違うんだ。
……ユウの能力だって、悪いことはないさ」
ユウ「そう……かな……」
********
ユウ(そう……かな……)
保健室を出て、ユウはトーマの言葉を思い出していた。
いや、そんなはずない。
廊下を歩きながら、心の中でぐるぐるとわかりきった考えを巡らせる。
だれだって、血液操作と幻聴なら、血液操作を選ぶに違いない。
かたや友達を守って戦える力……かたや……
ユウ(……ノクス、全部、説明してもらうからな……)
ノクス(……)
ユウ(ノクス!)
ノクス(分かってるよ。
でも、まずは……アリスの話を聞いてもらおう)
ユウ(……え?)
突然、意外な名前が出て、ユウは立ち止まった。
その瞬間、ユウの視界が閃光に包まれる。
身を起こしたのは、ユウではなく、ノクスだった。
ノクス「……助かったぜ。早乙女アリス」
アリス「……」
柱のかげに隠れていたアリスは、わずかに顔をのぞかせた。
アリス「ちゃんと……言われた通りに消せたか……わ、分からない……」
今日1日、幻聴と交わしたすべての言葉……
そんな狙いすましたような記憶の消去など、これまで試したことすらない。
ノクスは顔を歪めて笑った。
ノクス「多少、余分に消えてても、気にすることはない。
記憶力、悪いからな。アイツ……」
アリス「……」
アリスは怯えたような表情を見せた。
アリス「……本当に、これで……
ト、トーマくん、元気になる……の?」
ノクス「ああ、もちろんだ……
アイツが望む限り、絶対だ」
身体の無事以外は保証出来ないけどな。
ノクスは口の中でつぶやいた。
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