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一章
3-名前
しおりを挟むイトと少女がセックスを終えると、イトは少女に服を着るよう指示した。
未だ呼吸を乱しながら横たわっていた少女は、彼の指示にも動こうとせず―――
「……セックス、して」
再び股を開いて、行為の継続を嘆願した。
「君も俺も絶頂した。だからさっきので今は終いだ。
それよりも―――服を着て俺についてこい」
『バサッ』
既に服を着始めているイトにワンピースを投げられる。少女は頭に掛かったそれを引っ張り、じっと見つめる。
そして程なく、言われた通り袖に手を通した。
「おい、来てくれ」
すると何やらイトの呼ぶ声がし、少女は前を向く。だがイトは明後日の方向を向いており、どうやら少女に向けたものではなかったようだ。
イトの声に反応したように、開いた窓から球体のAIが部屋に侵入してきた。
「車椅子を用意してくれ」
『キュルッ』
イトがAIに向かって声を掛けると、再びAIは窓の外から出ていき、代わりにドアの方から車椅子が独りでに上がり込んできた。
「自分で歩けるように、これから訓練をする。それまではこの電動の車椅子に乗って移動するといい。
肘掛けの穴に人差し指を入れれば、行きたい方向へ進んでくれる」
そう述べるとイトは少女の身体を抱え、車椅子の方へと乗せ換えた。
少女は無言のまま、左右の穴に指を挿れる。すると車椅子のタイヤがゆっくりと回り始め、椅子が前方に進み始めた。
「それじゃあ、ついてきてくれ」
今度はイトの声が少女の方に向けられた。イトが手を振るのを見て、少女は車椅子でその後を追った。
外に出ると、そこには広大な牧草地が広がっていた。
数頭の牛が放牧され、草を食んでいる。
その隣には鉄製の柵に区切られた田畑があり、上空を飛ぶAIが水を散布している。
更に遥か遠くには、天まで聳える塔のようなものが見え、そこから天を遮るように透明なドームが辺り一帯を覆っていた。
「君はこの光景を憶えているか」
前を歩くイトから、問いかけの声が少女の耳へと届く。
少女は暫し考えた後、『コクリ』と頷いた。
「ならばAIの基礎教育についても記憶していると思うが……
ここはかつて―――人間があの塔にぶら下がるコクーンの中に引き籠もる前、現実世界を生きていた頃に生活していた場所だ。
AIに食物を生産させ、天井のパネルから電気を供給するシステムが、今も生きている。
俺"達"……地上を生きる人間は、それらを使って生活している。
全てのAIは、他の人間に害を与えるような行為を除いて……人間の命令に従うようにプログラムされている。
故にAIに頼めば、大抵の物は用意してくれる。俺が吸っている煙草や、君が着ている服、それに車椅子なんかも」
イトが煙草の煙を吐きながら説明を終えると、少女はワンピースを両手に触れ、天井を見上げた。
パネルの向こうに果てしない青空が広がり、太陽の光が少女の肌を温かく照らす。
「イト、の他にも……ここに人が居るの?」
「ああ。数は多くないが……皆で協力しながら生活している」
イトが遠くを指差しながら答える。
少女がその方向に目を向けると、チラホラと家が建っているのが見える。
「君は―――」
イトが少女に話し掛けようと振り向いたところで、不意に口が止まる。
そこには―――
『ザザザ―――』
遠くを見つめる少女の長い髪が、美しく風に靡いていた。
まるで空を舞う天使の翼か―――
はたまた、闇を渡る黒龍のように―――
「―――君の名は、何という」
「わたし、の、名前……」
不意に名前を尋ねられ、少女は暫く考え込む。
「VRの中、では……出雲 美奈と、いう名前のアバターだった」
「それは自分で付けたのか?」
「違う……JPN2010の、テンプレートを、選んで……ランダム設定にし、たら、この名前のアバターになっ、た」
VRの世界は自分が望んだように再現出来る他、AIが用意したテンプレートを選択し、生活することが出来る。
テンプレートには過去に実在した国が全て存在し、年代も、開始年齢や性別も自由に選択することが出来る。
ここで少女が述べたテンプレートは、かつて東アジア大陸の果てに存在した列島―――日本と呼ばれる国の、西暦2010年。
彼女はそこで出雲美奈という名前の肉体を獲て、10年の時を過ごしたことになる。
「そうか……ならば―――これから君は、クモか……あるいはイズとでも名乗ればいい」
「イ、ズ……」
「そうだ。今日から君はイズだ」
この時……
少女の肉体に、初めて名前が付いた―――
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