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一章
6-解放者
しおりを挟むイトが少女にイズという名前を与えた後、2人は丘の向こうへと足を運んでいた。そこには大きな平屋の建物が見え、その周りをイトの家とよく似た建物がポツポツと囲っている。
「これからあそこで生活の訓練を行う」
イトはそう言いながら、平屋の建物を指差す。イズが無言で建物の方を見ると、向こうからこちらに手を振る人物の姿がイズの目に入った。
するとイトはその人物の方へと近付いていき、イズはキュルキュルと車椅子のタイヤを回しながら、その後を追った―――
「イト! AIが新しい対象者を見つけたわよ!」
近づくと向こうの方からイトに話し掛けてきた。どうやら手を振っていた人物は女性のようだ。
金髪を後ろで雑に束ねた、ラフなタンクトップ姿。外見は整っているが胸も控え目で、女性らしい色気はあまり漂ってこない。
「そうか。使用期間はどれくらいだ?」
「見つかったのは男女1名ずつだけど、どちらも200年未満よ。実体の方はどちらとも若いわ」
2人は対面するなり、何やら自分達だけで会話を始めてしまった。
親しげに話す2人の姿を、イズが呆然と下から見上げていると―――
「―――って、あら? その子は……?」
女性がイズの姿に気づき、イトの方を見やる。
「例のCJ12205-873だ」
イトが塔でイズのコクーンを呼び出す時に発したコードを、女性に伝える。
すると女性は驚いた顔を見せ、イズの両手を握った。
「ああ……あなた! 解放者になれたのね!」
女性は感極まった表情で、いきなりイズの体に抱きついた。
対するイズは無表情のまま、女性の抱擁に身を任せている。
「いや―――彼女は俺がコクーンを停止させた」
イトが告げると女性は表情を固まらせ、静かに抱擁を解いた。
「まさかイト……この子を、無理矢理引っ張り出したの?」
問い掛けにイトが頷くと、女性は呆れたように溜息をついた。
「あんたも物好きね……そんなことしなくても、まだ時間はあったんだからあっちで解放してあげれば良かったじゃない。
その方がこの子のためでもあるんだから」
女性がイトの行動に苦言を呈すると、イトは視線を逸らし、チラリとイズの方を見る。
イズも視線に気付き、不思議そうにイトを見つめ返した。
「ま、その子の事、だいぶ気に掛けてるみたいだったし……粗方エゴな事情でも芽生えたってとこね。
済んだことはもうどうしようもない。しっかり面倒見なよ」
「そのつもりだ」
どうやら話は終わったようで、女性は切り替えたように、イズに向かって満面の笑みを向けた。
「私はテスよ。このコロニーで、イトや他の仲間達と共に生活してる。
あなた名前は?」
「私、の名前、は……イズ」
「イズ……いい名前ね。よろしく、イズ」
テスはイズの手を掴んで握手をすると、イズの黒い髪を優しく撫でた。
「それじゃあ私とイトの仲間を紹介するわ。付いてきて」
テスが前を先導すると、イトも手招きをしながらテスの隣を付いていく。
イズは2人の背中を眺めながら、ゆっくりと前に進んだ―――
「―――僕はオルフだ。よろしく、イジー!」
中央の平屋に入ると、眼鏡を掛けた繋ぎの男性が元気よくイズを出迎えた。初対面にも関わらず、いきなり謎の愛称で声を掛けてくるあたり、随分フランクな人物のようだ。
その後ろには白衣を着た長い金髪の男性が立っており、
「綺麗な黒髪だ。とても品がある」
目を細めながらイズの髪を褒めた。
「ダメよ~ザット。この子はイトが引っ張り出してきたお気に入りの子なんだから」
異なるアプローチながら、随分馴れ馴れしい男達にテスが釘を刺すと、その言葉にオルフと名乗る男は仰天し、ザットと呼ばれた男は眉を顰めた。
「ってことは……VRの記憶保持者……?」
「だが引っ張り出してきたということは……この子は我々と同じ、解放者ではないのか?」
2人の男達は一転、神妙な面持ちで質問する。
「ああ、イズは解放者とならない可能性が高まった。だから俺がコクーンを停止させ、ここに連れてきた」
イトの返答を受け、オルフとザットは先程よりも更に大袈裟な反応を見せる。
そしてオルフの後方にいたザットが、前へと身を乗り出す。
「彼女の……依存レベルは?」
「6だ」
先程よりも深刻な様子で問うザットに対し、イトは表情を変えずに答えた。すると―――
「ならば……イトは既に彼女と交わったのか?」
ザットからストレートな質問が飛び出す。
その後ろではオルフがやれやれと溜息をつきながらテスの方を見やり、テスは両手を上げながら首を左右に振った。
「ああ。イズが意識を取り戻して食事を与えた後―――彼女の願望を満たした」
イトが起きた出来事を正直に話すと、ザットは顔を顰め、イトの方へと歩みを向ける。その時―――
「ちょっと―――止めなさいよザット。イトがどういう目的で彼女を連れ出そうが、それはイトと彼女の問題よ。
私達は自分達の願望に基づいて、このコロニーを営んでいるに過ぎないのよ。
イトと彼女がどういう関係になって何をしようと、誰かが口出しするようなことじゃないわ」
2人の険悪な雰囲気に、テスが割って入る。だがザットは歩みを止めずイトの前へと近付き―――そのままイトの横を通り過ぎていった。
「―――へ?」
そのまま何やらゴソゴソと、イトの後方にある棚を漁るザットの姿に、オルフの口から間抜けな声が漏れた。
すると程なくザットは何かを手に持ち、イトへと差し出した。
「確かに君達が何をしようが君達の自由だが、ここはVRではなく現実世界だ。
無計画に妊娠されでもしたら、幾らなんでもコロニーの共同生活に影響が出る。
せめて避妊はすべきだ」
ザットが差し出した手の平には、数個の錠剤が乗せられていた。
「分かった」
イトは錠剤を受け取ると、コートのポケットへと仕舞った。
「何だ、そういうことか……急に詰め寄るからビックリしたよ」
オルフが額の汗を拭う仕草をしながら、心配が杞憂となったことに溜息をついた。
「ここにいる仲間に対して、今更邪推など抱く余地もない。むしろ君達が何を思ったのか、甚だ疑問だ」
ザットの言葉に、テスとオルフの2人は罰が悪そうに顔を掻いた。
「だって、私もイトが彼女を引っ張り出したって聞いたときは、まさかって思ったし……」
「まさか、とは何のことだ?」
テスの物言いに全く心当たりがない、という顔でイトが尋ねる。その意図を汲まない態度に、テスは再び長い息を吐くと―――
「あなたが―――ここで肉体的快楽を得るために、彼女を連れ出したんじゃないかってことよ」
恐らく同じ想像をしていたオルフは気まずそうに視線を逸らし、対するイトは呆然と瞬きをする。
「―――そのような意図は、ない」
イトは真顔でテスの言葉を否定する。そして隣に立つザットが短い息を吐くと―――
「全く―――くだらない妄想だ。自らVRを出た我々解放者が、そのような原始的欲求に従って行動するなどとは、実に馬鹿げている。
もし快楽を得たいのであれば、コクーンの中に戻ればいいだけの話だ。
そうでなくともイトと君は、仕事で散々―――」
「OK、分かった。私が間違っていたわ。
もうこの話は止めましょう」
勘違いを正すザットの言葉を遮り、テスは両手を挙げて降参する。
「オーライ、イズに他の仲間達を紹介するわ。付いてきて」
気まずい空気を変えるようにテスは明るく振る舞い、親指を差して次の場所へと案内した―――
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