百鬼淫行

其の七 褌蟹（またかぶり）

其の七 褌蟹（またかぶり）の二十七

　……深夜の砂浜の、闇の中に薔薇色の紋様が小さな人型に妖しく浮かび上がり、恍惚（こうこつ）とした表情で踊りながら、性的快感を常に全身に感じ続けている少年少女達の乳首は鋭く立ち、幼い陰茎（ペニス）は固く勃起し続けていたのだった。
　……そして、やがて全裸で立って踊り続けながら、涅槃師の少年少女達は次々と性的絶頂（オルガズム）を迎え、砂の上に倒れて意識を失ったのだ。

　……直ぐに、控えの涅槃師の子供が全裸になって踊りの輪に加わり、世話役の涅槃師の青年や娘達が、青年達は少年に、娘達は少女に、全裸で失神している幼い踊り子の全身に、秘伝の香油を指と掌で塗ってやり丹念に愛撫（マッサージ）してやったのだった。
　……更に、世話役達は口移しに温かな飲み物を飲ませ、青年達は少年に、娘達は少女に、全裸で失神している幼い踊り子の裸身に左右から抱き付いて温めてやりながら、眠らせたのだ。
　……そして、此の時の踊り子達は、実は途中で気が付いても、最後まで気を失ったふりを続けていたのだった。

　……そして、そんな儀式の最後は、村人達全員で、大人も子供も、男も女も全裸で冬の海に素潜りして魚貝類を採集し、そんな海の幸（さち）を砂浜の焚き火で焼いて、全員で仲良く食べたのだ。

　……処で、涅槃師達は互いの皮膚を接触させる事で、数匹の刺青の蟲を其の相手と交換していた。
　……つまり、涅槃師達は、互いの肌に触れる事で常に、大量の情報を共有していたのだ。
　……だから、涅槃師達は老若男女で常に、相手の体に触れて話をしていた。
　……そして、そんな皮膚接触で伝わる刺青の蟲の寄生虫達の情報には、言語化された最近の情報以外にも、意味の分からない太古の言語の情報や、言語化される以前の不可思議な情報も含まれていたのだ。
　……涅槃師達は、其れを神々の記憶と呼んでいた。
　……其の記憶は、無意識の更に下に、微かに存在していた。
　……果てし無く、広大な青一色の世界を悪夢の様に、様々な異形の者達が音も無く、ゆっくりと泳いでいた。
　……其れは、太古の地球の海なのか。
　……其れとも、遠い宇宙の彼方の、海の惑星の光景の記憶なのか。
　……或るいは、魔界の海なのか。
　……人間達には、知る術（すべ）も無かったのだ。