仮 参

淀川 乱歩

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其の九 淫獄転生 其の参 稚児愛玩 其の珊

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 ……処で、人間界の甲斐の国、今の山梨県が甲州と呼ばれていた頃、人里離れた山奥に、謂(いわ)れも定かで無い朽ち果てた神社が有りました。
 ……其の神社の名は、飼姫神社と云い、魔物の住処(すみか)だとして人々は恐れ、狩人(マタギ)も樵(きこり)も決して近付く事は無かったのでした。
 ……古い言い伝えでは、其の神社の何処かには、秘密の入り口が隠されており、山々に囲まれた甲斐の国から、長い洞窟が地底深く南の海に向かって伸びており、或る小さな南海の無人島に繋がっていたと云うのです。
 ……然(しか)し、明治の中頃までは確かに存在したと云う、其の飼姫神社は、やがて何時の間にか姿を消し、今では其の謂れを記した古文書も、大東和戦争の空襲で失われ、言い伝えを記憶していた、或る村の呪(まじな)い師の老婆も亡くなり、人々の記憶からも消え、全ては失われて仕舞ったのでした。

 ……其れは、江戸時代の御話しです。
 ……赤道に近い南海の孤島に、其の妖怪は住んでいたのでした。
 ……周囲を断崖絶壁で囲まれ、島全体が渦を巻く早い潮の流れに守られ、船で近付く事も、上陸する事も不可能な其の無人島には、島の岩の中に巨大な空洞が有って、其の空洞の闇の中に、何故か立派な日本の神社が隠されていたのです。
 ……神社の主人(あるじ)は、蛤姫(はまぐりひめ)と云う美女の姿の妖怪で、緋袴の巫女装束の胸元から、豊満な肉体の白い柔肌が溢れ出しており、多くの幼い巫女達に囲まれて暮らしていたのです。
 ……実は、蛤姫の巫女達は、神隠しで攫われて来た、人間の幼女や少女達で、全裸の上に緋袴の巫女装束に素足で暮らしていたのです。
 ……巫女達は記憶を消され、蛤姫を実の母親だと信じ込まされて、毎日、美女妖怪の淫らな儀式の生贄にされては、可愛らしい声を上げて、幼い性的絶頂(オルガスムス)を繰り返していたのでした。

 ……そして、そんな蛤姫の陵辱の儀が、攫って来た人間の少女達を不老不死の巫女に変え、永遠に幼い姿のままに保っていたのです。
 ……蛤姫の島の真名は蓬莱島(ほうらいじま)、蛤姫は蜃気楼を吐く大蛤の妖怪で、巫女にされた女児達は、蛤姫の呪いで下半身が魚の、人魚の姿に変えられ、島の地下神社の、妖怪の結界内でのみ、両足が白い人間の足に戻ったのでした。
 ……実は、蛤姫は蜃気楼や縮地の様な東洋の仙術に加えて、西洋の魔術や錬金術の知識も持っていて、其れ等の知識を駆使して、人間の少女達を人魚に変える変身術の、魚人化の法を編み出したのです。
 ……更に、蛤姫は人魚に変えた人間の少女達を、不老不死化して、海中でも無呼吸で泳げる様にし、島の地下神社を覆った結界内では下半身、つまり両足を人間化し、結界外では人魚の姿に、自動的に変身する様に改造して、自分の下僕(しもべ)の人魚巫女にしたのでした。
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