【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta

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第三章 ポワソン

21.先輩オメガと食後の会話(2)

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 そういえば礼央はアルファ・オメガ関連の薬品を開発していると言っていた。まさか彼の会社のものを既に愛用していただなんて。

「さすがに開発者だから、礼央はアルファだけど匂いはわかってると思う。あ、でも安心してね。普通のアルファにはちゃんと効果あるから」
「は、はい」
「俺も大勢人が集まってアルファうざいなーってときはそれ使うしね」

――アルファがうざいだなんて、彼が言うと迫力があるな……。

「夕希くん、どうしてベータのふりしてるのかわからないけど無理はしないで」
「無理……ですか?」
「うん。君はお兄さんのことを心配してるみたいだけど、俺は君の顔色も心配だな」

――自分は無理をしているように見えるのだろうか。

「美耶さんはオメガでいるのがつらいと思ったことはありませんか? 僕は、オメガでいることの方に無理を感じてベータとして生きたいと思ったんです」
「オメガでいるのが無理、かぁ……。たしかに俺も礼央と会うまではこんな性別なんていらないって思っていたしな」

 子育てと仕事に邁進まいしんし、溌剌はつらつとしている美耶にもつらい時期があったのだろうか。

「僕はベータのフリをすることを無理だとは思ってなかったです。親はオメガなんだから仕事なんて辞めて早く結婚しろってうるさいんですけどね。僕的には仕事は大変でも自分の意思でやれることだから嬉しくて。だけど、これじゃだめなんでしょうか。最近よくわからなくなってきました」

 こんなことを人に相談したのは初めてだった。このまま七月の誕生日を迎えるのが嫌なのに、自分だけでは思考がまとまらない。

「そうだなぁ。俺は『オメガだから不幸だ』と今は思ってないし、ベータやアルファの人にもつらいことはあるからね。だけど、そんな綺麗事じゃ済ませられないようなつらい目に遭ってるオメガもたくさんいるのは事実だ」
「ええ……」
「俺が勝手に思ってるだけなんだけど、夕希くんが素直になりさえすれば、きっとオメガである君を心から愛してくれるパートナーが現れて幸せになれるような気がするんだ」
「パートナー……ですか」

 そう聞いてまず、北山の見合い写真とプレゼントされたネックガードが頭をよぎった。そして夕希が表情を曇らせるのを見て美耶が言う。

「今すぐには受け入れ難いことかもしれない。でも、自分の性にあらがい続けるのってつらいでしょ? 自分の身体や心にあまり嘘をつかないほうが良い気がする」
「嘘……ですか」

――つまり自分がベータだと嘘を付いていること?

「うーん。気づかないうちに心の中で嘘ついてたりすることってない? なんていうか、夕希くんって昔の俺と似たものを感じるんだよね。失礼なこと言うけど余裕が無さそうに見えるというか……人のために何かを我慢して頑張りすぎてたりしない? もう少し自分の気持ちをゆっくり考えてみたらいいんじゃないかな」

 だけど夕希にはもうゆっくり考える時間など無い。このまま濁流だくりゅうに飲み込まれるようにしてあの写真の男性アルファと結婚し、出産し、兄のように暗い表情で暮らすことになるのだろう。
 でも、欲を言えば今目の前にいる美耶のように輝く笑顔を失いたくはない。

「ゆっくり考えたら僕にも余裕ができるんでしょうか」
「できるよきっと」
「僕、オメガだけどコラムニストになりたいんです。結婚してからも続けられる仕事をしたくて」

 夕希がそう言うと彼は微笑んだ。

「いいじゃない。応援するよ」
「あの……また相談してもいいですか?」
「もちろん。ほら、連絡先交換しようよ。一緒にビュッフェにも行かないといけないんだし」
「はい!」

 今までベータとして会社員をしていることが最善だと思っていた。だけどそうじゃないのかもしれない。最近隼一と関わるようになり、新しい交友関係が増えたせいか考え方が変わりつつあった。
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