【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta

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第三章 ポワソン

20.先輩オメガと食後の会話(1)

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 全てのコース料理を食べ終えたら帰宅するのかと思っていた。しかし食事を終えたら隼一が礼央を誘ってシガールームに行ってしまった。このレストランには葉巻シガーが用意されていて、専用室でお酒を飲みながら葉巻を楽しむことができる。シガーはタバコとは全く別物らしく、シガールームでタバコを吸うことはできない。本来その香りを楽しむためのものなので、匂いがしない隼一は礼央と二人で話したいことがあるのだろう。

 夕希は美耶と共に個室に残ってコーヒーと食後の小菓子ミニャルディーズを楽しむことにした。トレーの上に、小さいけれど手の込んだ様々なお菓子が並んでいて、好きなだけ選んで良いと言われたとき夕希の心はここ最近で一番高揚した。

「欲張って全部頼んじゃいました」
「ふふ、早瀬くんって甘いものが好きなんだね」
「はい。甘いものに目がなくて」
「ねぇ、夕希くんって呼んでもいい?」
「もちろんです」

 美耶は黒目がちの瞳や赤い唇が完璧なバランスで配置された美形だ。ひと目でオメガだとわかる浮世離れしたルックスで、しかも子どもがいることに驚く。夕希の兄が結婚後どんどんやつれて顔色が悪くなっていったのと対象的に、小さなお子さんがいるのに彼の肌は白く輝き、頬は温かみのある薔薇色をしていた。

「朔くん、とてもおとなしい子ですね」

 息子の朔くんは現在ベビーカーの上ですやすやと眠っていた。

「美耶さん、失礼ですけど赤ちゃんがいるのにとても綺麗ですよね。何か秘訣でもあるんですか?」
「ありがとう。でも普通だと思うよ」

 お世辞だと思ったのかさらっと流されそうになった。しかし夕希は同じ子育てをしているオメガ同士なのに兄と彼とでは何が違うのか知りたかった。

「僕には兄がいて、子どもが五歳になるんですけどいつもつらそうなんです。昔と比べてすごくやつれちゃって――それで何か参考になればと思って」
「ああ、そういうことか。うーん、子育てに関しては礼央がたくさん手伝ってくれてるのが大きいかなぁ」

――やっぱりそうなんだ。礼央さんはすごく優しそうに見えるけど、子育てもちゃんと参加してくれてるんだ。

「そうですか。兄の旦那さんは仕事が忙しいので、全然子育てにはタッチしてくれないみたいで……。兄も専業主夫なので休日に何もしてくれないことにも疑問を持っていなくて」
「え~、休日も? 俺だったらちゃんとしてよって怒っちゃいそう」
「怒る?」
「うん。まあ、礼央はあの通りなんで俺が言う前になんでもやってくれるから怒ることなんて滅多に無いけど」

 美耶はオメガがアルファに対して怒るのを当然というような口調で話していた。夕希の母や兄の場合、オメガがアルファに逆らう事自体あり得ないと考えている時点で大きな差がある。
 その後聞いた話によると、美耶は現在男性オメガ向けのマタニティウェアの商品開発にたずさわっていて、子育てをしながら在宅で仕事もしているそうだ。そもそも大学もアルファですら苦戦するような名門校を卒業しているし、結婚前は会社勤めもしていたオメガの中ではエリートだ。夕希はベータのふりをしてなんとか会社員として生活している。しかし美耶はオメガであることを否定するわけでもなく、自分の努力で道を切り開き幸せな結婚生活を送っているのだった。
 今まで夕希の周りにそんなオメガの人はいなかったので、今日聞いた話は目からウロコだった。
 苺のソースがかかった一口サイズのエクレアを食べた美耶が目を輝かせる。

「ねぇ、これすごく美味しくない?」
「僕もそれ一番好きでした」
「俺、お菓子の中だとシュークリームとかエクレアが大好きなんだよね」
「そうなんですね。僕はWホテルのシュークリームが好きです」
「え、うそ! 俺もそこのがこの世で一番美味しいと思ってる!」
「本当ですか? 僕あそこのペストリーショップが好きすぎて、三ヶ月に一回スイーツビュッフェに行っちゃってます」
「やってるよね。俺は行ったことないんだ」
「他のケーキも美味しいですよ。良かったら今度一緒に行きません?」
「行きたい! あ、でも朔がいるから難しいかな」
「いえ、全然問題ないですよ。赤ちゃん連れも結構来てますし」
「本当? じゃあ今度行きたいな。もしかしてあれ? 発情期後に甘いもの食べたくなっちゃうやつ?」
「そうなんです。僕それが特に酷くて、発情期明けは甘い物ばかみたいに食べちゃ――」

 夕希はここまで話して自分のミスに気づいた。
――まずい。ベータだって自己紹介のとき話したくせに、発情期の話に乗っちゃったよ……!
 言い訳しようと口を開きかけたところ美耶がやさしく微笑んだ。

「大丈夫だよ、落ち着いて。君がオメガなのは俺も、多分礼央もわかってる」
「え、どうして……」

 彼はコーヒーを一口飲んだ。

「君が今付けている香水を作ってるのは礼央の会社なんだ」
「え!?」
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