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第四章 ソルベ
29.編集者のミス
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翌朝、来客を告げるインターホンの音で夕希は目を覚ました。ぼんやりと目を開けると、枕の色がいつもと違うしなぜか温かい。
「ん……?」
しかも、その枕が動いた。
「あ……」
――そうだった。僕、隼一さんに腕枕されたまま寝ちゃったんだ。
夕希は慌てて身体を起こすと隼一が不機嫌そうな声を出した。
「んー? なんだ、まだ六時前じゃないか」
彼は時計を確認するとまた目を閉じた。夕希は彼の肩を揺する。
「隼一さん。誰か来てますって!」
「出なくて良い。こんな早朝に非常識だろ」
「でも……」
夕希がなおも言い募ろうとすると、彼の両腕が伸びてきて身体をグイッと引っ張られた。向い合わせに抱き込まれ、長い腕の中に収まってしまう。
「いいから、もう少し寝よう」
一晩中腕枕をされていたものの、体調が良くなって意識がはっきりしてしまうと急に密着しているのが恥ずかしくなってきた。よくよく考えてみたら、なんでこんな体勢になってるんだ?
「あ、あの、僕もう大丈夫なので……腕、離してください」
「ちょっとくらいいいだろ。すごくいい匂いなんだ――……離したくない」
「でも――」
その間もインターホンの音はしつこく、止む気配がない。夕希の頭の上で鼻をクンクン鳴らしていた隼一が唸る。
「うるさいなぁ、誰だ本当に。せっかく匂いを堪能してるっていうのに」
そうやってぶつぶつ言いながらも彼は動こうとしなかった。しばらくして、ようやく音が止まった。どうやら訪問者も諦めたらしい。こんな時間に訪ねて来るなんて確かに非常識だ。
隼一は本気でまだ眠るつもりらしく、彼の顔を見上げると目を閉じていた。起きようと思っても鍛えられた腕にしっかりホールドされてしまい、抜け出せそうもない。
寝るしかないかと諦めた時、突然玄関でドアが開く音がした。廊下を歩く足音が近づいてくる。
――え? え? なんで?
夕希がパニックになりかけるのと同時に女性の声がした。
「先生~! 居ますよね? 鷲尾先生、返事してください!」
――この声、もしかして編集者の笹原さん?
廊下を挟んだ向かいの部屋で、ノック後ドアを開ける音がする。
「先生失礼します。あれ? 本当に居ないのかな。鷲尾先生~?」
そのまま奥のリビングの方へと足音が遠のいて行く。
――やばい、男が二人でベッドにいるのを見られたら勘違いされる。
夕希は焦って隼一の胸を叩いた。
「隼一さん! あの声笹原さんですよ! 起きないと」
「ああ……笹原さんならいいよ。放っておこう」
「何言ってるんですか!?」
夕希は腕を思い切り突っ張って彼の拘束を解こうとした。しかし、そうするとより一層彼が腕に力を込めてくる。しかも彼はクスクス笑っているのだ。
「夕希、戯れてるの?」
「違います! 離してください。こんなところ見られたらどうするんですか」
「いいだろ、別に何もしてないんだから。それとも、君は何かしたいのかな?」
夕希の額に自分の額をくっつけて彼が唇を引き上げた。至近距離でこの人の顔を見るのは心臓に悪い。しかし、今はそれどころじゃない。
「馬鹿なこと言ってないで。ほら、起きて!」
渾身の力を込めて夕希は腕の中から抜け出した。彼は不満そうに鼻を鳴らしてベッドを降り、のっそりと立ち上がった。長身の背中がドアを開けて出ていく。寝起きで、ボサボサ頭のままあくびをしていても妙な色気があった。
「危なかった……」
彼女が戻ってきてこの部屋のドアを開けていたら面倒なことになるところだった。夕希は急いでクローゼットを開けて服を着替えた。体調はすっかり良くなって、頭痛もしていない。もしかしてあのまま発情期に入るかもしれないと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。
それにしても不思議なのは、アルファのフェロモンのせいで具合が悪くなったのに、そのアルファと一緒に寝て体調が良くなったことだ。
「ほんと、オメガって変な身体だよ」
「ん……?」
しかも、その枕が動いた。
「あ……」
――そうだった。僕、隼一さんに腕枕されたまま寝ちゃったんだ。
夕希は慌てて身体を起こすと隼一が不機嫌そうな声を出した。
「んー? なんだ、まだ六時前じゃないか」
彼は時計を確認するとまた目を閉じた。夕希は彼の肩を揺する。
「隼一さん。誰か来てますって!」
「出なくて良い。こんな早朝に非常識だろ」
「でも……」
夕希がなおも言い募ろうとすると、彼の両腕が伸びてきて身体をグイッと引っ張られた。向い合わせに抱き込まれ、長い腕の中に収まってしまう。
「いいから、もう少し寝よう」
一晩中腕枕をされていたものの、体調が良くなって意識がはっきりしてしまうと急に密着しているのが恥ずかしくなってきた。よくよく考えてみたら、なんでこんな体勢になってるんだ?
「あ、あの、僕もう大丈夫なので……腕、離してください」
「ちょっとくらいいいだろ。すごくいい匂いなんだ――……離したくない」
「でも――」
その間もインターホンの音はしつこく、止む気配がない。夕希の頭の上で鼻をクンクン鳴らしていた隼一が唸る。
「うるさいなぁ、誰だ本当に。せっかく匂いを堪能してるっていうのに」
そうやってぶつぶつ言いながらも彼は動こうとしなかった。しばらくして、ようやく音が止まった。どうやら訪問者も諦めたらしい。こんな時間に訪ねて来るなんて確かに非常識だ。
隼一は本気でまだ眠るつもりらしく、彼の顔を見上げると目を閉じていた。起きようと思っても鍛えられた腕にしっかりホールドされてしまい、抜け出せそうもない。
寝るしかないかと諦めた時、突然玄関でドアが開く音がした。廊下を歩く足音が近づいてくる。
――え? え? なんで?
夕希がパニックになりかけるのと同時に女性の声がした。
「先生~! 居ますよね? 鷲尾先生、返事してください!」
――この声、もしかして編集者の笹原さん?
廊下を挟んだ向かいの部屋で、ノック後ドアを開ける音がする。
「先生失礼します。あれ? 本当に居ないのかな。鷲尾先生~?」
そのまま奥のリビングの方へと足音が遠のいて行く。
――やばい、男が二人でベッドにいるのを見られたら勘違いされる。
夕希は焦って隼一の胸を叩いた。
「隼一さん! あの声笹原さんですよ! 起きないと」
「ああ……笹原さんならいいよ。放っておこう」
「何言ってるんですか!?」
夕希は腕を思い切り突っ張って彼の拘束を解こうとした。しかし、そうするとより一層彼が腕に力を込めてくる。しかも彼はクスクス笑っているのだ。
「夕希、戯れてるの?」
「違います! 離してください。こんなところ見られたらどうするんですか」
「いいだろ、別に何もしてないんだから。それとも、君は何かしたいのかな?」
夕希の額に自分の額をくっつけて彼が唇を引き上げた。至近距離でこの人の顔を見るのは心臓に悪い。しかし、今はそれどころじゃない。
「馬鹿なこと言ってないで。ほら、起きて!」
渾身の力を込めて夕希は腕の中から抜け出した。彼は不満そうに鼻を鳴らしてベッドを降り、のっそりと立ち上がった。長身の背中がドアを開けて出ていく。寝起きで、ボサボサ頭のままあくびをしていても妙な色気があった。
「危なかった……」
彼女が戻ってきてこの部屋のドアを開けていたら面倒なことになるところだった。夕希は急いでクローゼットを開けて服を着替えた。体調はすっかり良くなって、頭痛もしていない。もしかしてあのまま発情期に入るかもしれないと思ったけど、大丈夫だったみたいだ。
それにしても不思議なのは、アルファのフェロモンのせいで具合が悪くなったのに、そのアルファと一緒に寝て体調が良くなったことだ。
「ほんと、オメガって変な身体だよ」
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