【完結】僕の匂いだけがわかるイケメン美食家αにおいしく頂かれてしまいそうです

grotta

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第八章 デセール&カフェ

59.重なる香りとαの独占欲

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 キッチンの片付けをしながら夕希はため息をついた。

「どうやったらこんなに散らかせるんです?」
「仕方ないだろ。慣れてないんだから」
「一体いつから練習してたんですか?」
「大体二週間くらい前からかな」

――それだけやっててこれ? 隼一さんに料理はやっぱり任せられないかも……。
 油はねも酷く、キッチンが元通り綺麗になるのに一時間以上かかった。ずっと換気扇を回していたから、部屋の匂いは少しマシになっただろうか。

「これでよし! さて、コーヒーでも淹れましょうか?」
「それはありがたいけど、匂いのしないコーヒーより俺は君の香りを堪能したいな」
「え? あ……!」

 すっかり忘れていた。そういえば彼はまだ嗅覚が戻っていないんだった。
 隼一が近寄ってきて夕希の腰を抱きよせる。

「片付けで服も汚れたし、一生懸命やったから汗をかいたんじゃない?」
「いえ、汗をかくほどじゃ……」
「いいから。一緒にシャワー浴びよう」

――あ、そういう意味か。
 彼の発言の意図がわかった途端急に恥ずかしくなり、顔が火照ほてった。すると彼が夕希の首筋に鼻を近づけて息を吸い込んだ。

「ああ、いいね。夕希がそういう顔する時ものすごくいい匂いがするんだよ。もしかしてわざと誘ってる?」
「ば、ばかなこと言わないで下さい」
「可愛い。やらしいこと考えちゃったんだ?」
「やめてください!」

 執拗に匂いをかごうとする彼の身体を押しのけようとしたけど、隼一は笑いながら夕希の首や頬にキスの雨を降らせた。

「やっぱりだめだ、我慢できない。行こう」

 そう言って隼一は夕希を抱き上げた。歩けると言ったのに聞いてくれず、そのままバスルームに連行された。隼一は夕希の服を一枚ずつ脱がせていく。

「会いたかった、夕希」
「僕も――本当はずっと会いたくて仕方なかったです」

 テレビや雑誌で彼の顔を見る度に恋しくてつらかったことを思い出す。
 浴室は広くて、男性二人で入っても余裕があった。立ったままシャワーに打たれ、彼の口付けを受ける。

「ん……」

 温かいお湯が夕希の匂いと彼の匂いを混ぜ合わせるようにして流れ落ちていく。発情期でもないのに、アルファの香りにオメガの本能を刺激され、それに呼応するように夕希から彼を誘うフェロモンが溢れ出る。浴室内の空気が熱せられたせいなのか、二人の息遣いのせいなのか、全体がむせ返るような濃密な甘い香りに包まれた。

「夕希、すごく甘い匂いがするんだけど――発情期じゃないよな?」
「違うけどなんだかふわふわした気分です……」
「俺も、君の匂いで頭が変になりそうだ」

 そう言って彼がまた唇を重ねる。背中や脇腹を撫でられると鼻にかかった声が出た。身体の触れ合った部分すべてが敏感になり、撫でられるとジンと痺れるような感じがする。彼の舌が夕希の舌を捕らえ、夕希も彼の求めに応じた。ちゅぷ、くちゅ……と唾液の音が耳に響く。
――好き……気持ちいい……。
 彼も自分を好きだと言ってくれた。発情期に焦って体を重ねたときとは違い、今は彼に心の底から身をゆだねられる。好きな人の前で素直になって良いという安心感で、夕希の中の足りなかったものがじわじわと満たされていく。
――いい匂い。だけどもうどっちの匂いかもわからないくらいぐちゃぐちゃになってる……。

「夕希の肌は舐めると甘い味がする」と彼が夕希の首筋に顔をうずめながら言った。
「嘘……あっ」

 笑い飛ばそうとしたけど、今度は胸の先端を舐められてびくりと仰け反った。そこを吸われると、ぞくぞくと背筋が痺れ下腹部に熱が集まる。夕希のペニスはもう痛いくらいに張り詰めていた。
 発情期ではないため、後孔の分泌液はさほど多くない。隼一は夕希の反応を見つつ、指で丁寧にほぐしてくれた。夕希はそれがじれったくて自分から催促してしまう。

「隼一さん……もうして……」

 彼は目を細めて「今日は素直なんだ」と言った。立ったまま夕希の背を壁に押し付け、片脚を持ち上げると彼は夕希の要望に応えた。発情期のときは全然余裕がなかったから彼のものを夕希は初めて見た。大きくて血管が浮いた熱いものが自分の中にぬるりと押し込まれる。それに見入っている僕の顔を隼一が覗き込んだ。

「俺のが全部食べられたの、見た?」
「なっ……!」

 顔が熱い。前回夕希は隼一に食べられたと感じていた。だけど、彼を食べたのは僕だった――?

「夕希は何も欲しくないってふりしてるけど、本当は欲張りだよね?」
「え……?」
「俺をこんなに夢中にさせておいて、プレゼントも全部突き返して他のアルファ男のところへ行くなんて」

 意地悪な顔で隼一が奥をぐいっと突いた。

「あっ! んんっ」

 前回彼に夕希の弱いところは知られてしまっていた。そこを重点的にぐっぐっと押してくる。すると夕希は足に力が入らなくなり焦った。

「あ、それやめて。だめ……んっ!」
「その男と何回寝たの? 俺はまだ一回しかしてないのに許せないな。今からでもそいつをどうにかしてやりたいくらい腹が立つよ」
「してな、してない……! してないからぁっ……んっうう、ふぁあっ」
「嘘だろ? こんなにいい匂いがするのに、そいつが我慢できるとは思えないね」

 ぐりぐりと奥を擦られ、目の前が真っ白になる。夕希は意味のある言葉を発する余裕が無くなり、彼にしがみついているのがやっとだった。彼が鎖骨を軽く噛んだのと同時に夕希はこみ上げる絶頂感で震えた。

「あぅっ、んん、あっだめ、もうだめっ……!」
「夕希気持ちよさそう。中で俺を締め付けてくるの可愛いよ。なあ、俺とそいつどっちが良い? 言ってよ夕希」

 隼一が更にぐっと腰を押し付けてくる。

「ひぃっ……んん、イってるからもうっやぁ……」

 シャワーの水音が響く中、彼の張りのある肌が夕希の柔らかい肌に打ち付けられる。夕希は内部の刺激だけでなく、全身を押しつぶされそうな圧迫感にも悦びを覚えた。
 普段クールな隼一が余裕を無くして眉根を寄せ、額に汗を浮かべながら体重をかけてくる。いつもは夕希の嫌がることをしない彼だが、多少こちらが苦しそうにしていてもその動きを止めない。そのまま口付けされ、息がつけなくなっても夕希はやめてほしいとは思わなかった。

――好きな人に求められるのが嬉しいってこういうことなんだ――……。
 夕希は恋人に求められる嬉しさを語っていた友人実佳の話しが今ようやく理解できた。
 揺さぶられながら彼の目を見つめる。

「はぁ……あっ、隼一さん――好き……好き……本当に好きなのは隼一さんだけ……」
「俺も愛してる……夕希。ほら見て」

 隼一が夕希の顔を鏡の方へ向けた。そこにはあられもない体勢で逞しい肉体に絡みつく自分の姿が映っていた。思わず顔を背ける。発情期中と違って、意識がはっきりしているため恥ずかしさで全身熱くなる。

「あ……っ、いや」
「綺麗だよ。君のこんな姿を見ていいのは俺だけだ。もう誰にも渡さない」

 独占欲をあらわにしたアルファの言葉が夕希の鼓膜を刺激する。それだけでぞくぞくして足元が崩れ落ちそうに感じた。

「んっ……あ……ああっ……!」
「愛してる」

 彼の低く耳をくすぐる声と共に、官能を呼び覚ますような甘い香りを吸い込んで夕希はまたオーガズムに達した。
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