【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta

文字の大きさ
3 / 12

勘違いの初恋(2)

しおりを挟む
 僕がオメガだとわかったのは、小学校六年生の時に体調を崩して通院したのがきっかけだった。
 中学校ではなるべくそれを隠そうとしたけど、努力も虚しくすぐにバレてしまった。

 二年生のとき、彼女持ちのアルファ男子のフェロモンに当てられてしまったのだ。興奮した彼にキスされ、それを運悪く交際中の彼女の友人に目撃されていた。当然のごとく周囲に吹聴され――そこからは僕だけが誹謗中傷の的だ。話したこともないアルファ男子は知らん顔で、学校の中に僕の居場所は無くなっていった。
 思春期真っ只中の中学生たちにとって、未知の性的な出来事は恰好の餌食。ストレスに満ちた日々を過ごす生徒たちは、オメガという手頃な標的を見つけたのだ。僕は彼らの歪んだ正義感によって「アルファを誘惑するオメガ」というレッテルを貼られ、後ろ指をさされながらなんとか中学を卒業するまで耐えた。

 その後も「大人しそうな顔をしていやらしい奴」と言われていじめられた記憶が頭から離れず、暗い高校生活を送った。
 どこを歩いていても誰かに批判されるような気がして、なるべくマスクを着けて匂いを感じないように、感じさせないように過ごした。

 そんな中、親戚の山岸家に行くと何故か楽に呼吸が出来た。一歩屋内に入るといい匂いがして、マスクなんて付けなくてもリラックスできる。それがベータである総太郎の匂いなんじゃないかと当時は思っていた。
 アルファの匂いは、嗅ぐと気持ち悪くなったり体が火照って苦しくなる。だけど山岸家では室内にいても庭にいるみたいな清々しい気分で過ごせた。

 総太郎は僕にも、年の離れた弟である隆之介りゅうのすけにもあまり興味が無さそうだった。父親と同じく弁護士を目指して大学は法学部に通っており、一人暮らしをしていたので集まりに顔を見せないこともしばしばだった。
 そして、僕が山岸家に行くたびに隣にやって来たのが隆之介だ。

 彼は僕が学校でどんなふうに見られているかなど知らないし、なんと言われているかも知らない。小学生らしく快活な彼が、自分の兄に相手をしてもらえない寂しさを僕にぶつけていたんだと思う。僕にとっては、こちらに無関心な総太郎も、無邪気に甘えてくる弟の隆之介もどちらも心のオアシスみたいなものだった。常に息苦しさを感じていた僕が山岸家にいる間は「オメガ」だということは忘れてただの「小島澄人」という親戚の顔をしていれば良い。

 しかし、そんな僕の心の拠り所へも訪れることができなくなる日が来た。
 それは僕が十六歳の時で、ちょうどお正月の集まりに行く前日のことだった。翌日また隆之介たちに会えることを楽しみにしていた僕は、その夜夢を見た。
 夢の中で僕は隆之介を追いかけて山岸家の廊下を歩いていた。しかし、角を曲がるとそこは卒業したはずの中学校の校舎の中だった。もう二度と訪れたくない場所の一つだったし、僕は引き返そうとした。しかし当時の記憶そのままに肩を捕まれ、ぼんやりして顔も見えないアルファに無理やり唇を奪われる。すると全身が火に包まれたように熱くなり、苦しみながらもがいていると、目が覚めた。
 実際に熱が出ていて、枕は涙に濡れていた。
 そしてそれはただの風邪ではなく、僕の初めての発情期ヒートだった。

 僕を置いて山岸家に行った兄から後日「隆之介くんが怒ってたぞ」と笑いながら伝えられた。遊ぼうって言ったのに、と残念がっていたという。
――僕だって行きたかった。
 なんともないことのように軽く言うベータの兄が無性に腹立たしくて、部屋に隠れて僕は悔し涙を流した。
 それ以来僕は山岸家へは行くことができなくなった。僕の唯一の安息の地である山岸家――その家の夢を見ながら発情してしまったのだ。もう、恐ろしくて近寄れそうもない。現実にあの家で僕が変な気分にでもなってしまったら、僕の居場所は本当にどこにも無くなってしまうような気がしていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

恋が始まる日

一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。 だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。 オメガバースです。 アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。 ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

処理中です...