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11.朝食
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目が覚めると見慣れぬカーテンから朝の光が漏れている。ベッドはキングサイズで、シックなグレーのシーツがかかっていた。室内もダーク系の家具で揃えられ、ホテルだろうかと辺りを見渡す。ナイトテーブルには読みかけの推理小説と眼鏡。どうやらホテルではなさそうだ。なぜなら柊一の横に大きなアザラシのぬいぐるみがある。自分の物かと思ったが、柊一が妹から貰ったのはもう二回りくらい小さいタイプだった。
(――頭痛い……)
昨日の記憶を辿るが、バーで男たちと楽しく喋った後の記憶が曖昧だ。京介と店を出て……彼の家にでも来たのか?
部屋を出るとやはりそこは京介のマンションだった。
リビングのドアを開けると、包丁の軽快な音と共に味噌汁の良い匂いが漂ってきた。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「おはよう……ございます……」
エプロン姿の京介はテレビコマーシャルの役者みたいで文句なしに様になっていた。自分の妹が見たら黄色い声を上げそうだ。
「今できるところだから、そこへ座って」
彼が用意してくれたのはしじみの味噌汁と白米、梅干しと浅漬けだった。焼き魚をどうするか聞かれたけど、体調的に遠慮した。
「頭が痛くて……ていうか、すみませんベッドを占領してしまって。記憶を無くすほど飲むなんて……」
「そうだと思って和食にしたよ」
「ありがとうございます」
二日酔いの疲れた胃袋に出汁の味が沁みた。
「美味しい……」
柊一も料理はするが、砂抜きが面倒で貝はあまり扱わない。それは母も同じで、この香りを嗅いで思い出したのは祖母の姿だった。昔一緒に住んでいた頃はよく作ってくれたっけ……。
(目の前のイケメンと祖母を並べたら京介さんに失礼かな)
「で、どうだった? アザラシの抱き心地は」
「え?」
「柊一くん、昨夜はゴマ太郎を抱っこして寝るって言って聞かなかったんだよ」
「うそ……」
「君は俺なんかには見向きもしないで、あいつと結婚するって息巻いてた」
彼はくすくす笑った。自分の失態に唖然とする。食事を終えた柊一の食器を手早く下げ、彼がコーヒーを持ってきてくれた。「頭痛には血管収縮作用のあるカフェインが効く」と言い添えて。
「柊一くんもあのぬいぐるみのこと知ってるんだね」
「ええ。実は妹がプレゼントしてくれて、俺も小さいのを持ってて」
「本当? あれも夏帆が何年か前のクリスマスにくれたんだ。お兄ちゃんにはもう少し癒やしが必要だってね」
彼の部屋には似つかわしくないファンシーなぬいぐるみだ。だけど夏帆からのプレゼントということなら頷ける。これまで柊一の部屋に訪れた彼女たちにぬいぐるみを見られたときの反応を思い出してつぶやく。
「俺、昔から毛布とか、もふもふした触感が好きで……」
「手触りがいいよね、あのぬいぐるみ」
「だけど……部屋に来た彼女には、大人の男の部屋にぬいぐるみが置いてあるの気持ち悪いって言われちゃって」
コーヒーを飲んでいた京介がむせた。
「気持ち悪い? そんなこと言う子がいるんだ」
言う子がいる、どころじゃない。ほぼ一〇〇パーセントの彼女たちにそう言われた。言い方は様々だったけど。
「俺、妹と歳が離れてるので……プレゼントされるものがどうしても子どもっぽい物になるんです。でも俺はそれが嬉しいし、男だから可愛いもの飾っちゃいけないなんてこと無いと思ってて――」
「そうだね、俺も賛成だ。もしゴマ太郎を否定されたら、夏帆のことを否定されたみたいに感じてきっと悲しい」
そう、それが言いたかった。京介が自分と同じ感覚を持つ人間で嬉しくなる。家族に対しての価値観が一致するのは、人と付き合う上で重要だと柊一は思っていた。
「さて、頭痛はどうかな? 痛み止めならあるけど、飲む?」
「いえ。おかげさまでお腹が満たされたらだいぶ治まってきました」
京介は良かったと言って目を細めた。
(――頭痛い……)
昨日の記憶を辿るが、バーで男たちと楽しく喋った後の記憶が曖昧だ。京介と店を出て……彼の家にでも来たのか?
部屋を出るとやはりそこは京介のマンションだった。
リビングのドアを開けると、包丁の軽快な音と共に味噌汁の良い匂いが漂ってきた。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「おはよう……ございます……」
エプロン姿の京介はテレビコマーシャルの役者みたいで文句なしに様になっていた。自分の妹が見たら黄色い声を上げそうだ。
「今できるところだから、そこへ座って」
彼が用意してくれたのはしじみの味噌汁と白米、梅干しと浅漬けだった。焼き魚をどうするか聞かれたけど、体調的に遠慮した。
「頭が痛くて……ていうか、すみませんベッドを占領してしまって。記憶を無くすほど飲むなんて……」
「そうだと思って和食にしたよ」
「ありがとうございます」
二日酔いの疲れた胃袋に出汁の味が沁みた。
「美味しい……」
柊一も料理はするが、砂抜きが面倒で貝はあまり扱わない。それは母も同じで、この香りを嗅いで思い出したのは祖母の姿だった。昔一緒に住んでいた頃はよく作ってくれたっけ……。
(目の前のイケメンと祖母を並べたら京介さんに失礼かな)
「で、どうだった? アザラシの抱き心地は」
「え?」
「柊一くん、昨夜はゴマ太郎を抱っこして寝るって言って聞かなかったんだよ」
「うそ……」
「君は俺なんかには見向きもしないで、あいつと結婚するって息巻いてた」
彼はくすくす笑った。自分の失態に唖然とする。食事を終えた柊一の食器を手早く下げ、彼がコーヒーを持ってきてくれた。「頭痛には血管収縮作用のあるカフェインが効く」と言い添えて。
「柊一くんもあのぬいぐるみのこと知ってるんだね」
「ええ。実は妹がプレゼントしてくれて、俺も小さいのを持ってて」
「本当? あれも夏帆が何年か前のクリスマスにくれたんだ。お兄ちゃんにはもう少し癒やしが必要だってね」
彼の部屋には似つかわしくないファンシーなぬいぐるみだ。だけど夏帆からのプレゼントということなら頷ける。これまで柊一の部屋に訪れた彼女たちにぬいぐるみを見られたときの反応を思い出してつぶやく。
「俺、昔から毛布とか、もふもふした触感が好きで……」
「手触りがいいよね、あのぬいぐるみ」
「だけど……部屋に来た彼女には、大人の男の部屋にぬいぐるみが置いてあるの気持ち悪いって言われちゃって」
コーヒーを飲んでいた京介がむせた。
「気持ち悪い? そんなこと言う子がいるんだ」
言う子がいる、どころじゃない。ほぼ一〇〇パーセントの彼女たちにそう言われた。言い方は様々だったけど。
「俺、妹と歳が離れてるので……プレゼントされるものがどうしても子どもっぽい物になるんです。でも俺はそれが嬉しいし、男だから可愛いもの飾っちゃいけないなんてこと無いと思ってて――」
「そうだね、俺も賛成だ。もしゴマ太郎を否定されたら、夏帆のことを否定されたみたいに感じてきっと悲しい」
そう、それが言いたかった。京介が自分と同じ感覚を持つ人間で嬉しくなる。家族に対しての価値観が一致するのは、人と付き合う上で重要だと柊一は思っていた。
「さて、頭痛はどうかな? 痛み止めならあるけど、飲む?」
「いえ。おかげさまでお腹が満たされたらだいぶ治まってきました」
京介は良かったと言って目を細めた。
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