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5.寂しい新婚生活
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このようにオスカーにとってヘルムートの第一印象は悪いものではなかった。
同世代の知り合いで唯一好感を持っている相手と言ってもよいくらいだ。あの日の彼は親切で礼儀正しかった。しかも今回母がオスカーの結婚相手を探していると、向こうから申し込んでくれたのだ。
皇太子に嫁ぐという幼い頃からの目的は達することができなかったが、誠実な相手に嫁ぎ、母を安心させることはできそうだ。彼となら皇太子妃となるよりも良い夫婦関係を築ける――そんな淡い期待さえ抱いていた。
しかし相手から望まれて嫁いできたというのに実際のところ、結婚後の生活は寂しいものだった。ヘルムートにとっては単に結婚適齢期のオメガで、それなりの家柄の相手であれば誰でも良かったのかもしれない。
結婚式は滞りなく済ませたものの、オスカーはその後彼の書斎に呼び出されて「君とつがいになるつもりはない」と宣言されたのだ。
「オスカー」
「はい、侯爵様」
「二人きりのときは俺をヘルムートと呼び捨てにしてかまわない」
無表情で座る彼と机を挟んで対面し、直立不動のままオスカーは答えた。
「はい」
「敬語も不要」
「ですが、侯爵様……」
彼は二十六歳、オスカーは十九歳で七歳も年上なのだ。
「無理強いはしない。それから、二人で生活する上での細かい取り決めをしたい」
そう言って彼は書類を机の上に広げた。その様子は伴侶との会話というより上官が部下に任務を言い渡すかのようだった。
「まず寝室だ。夫婦の寝室はきちんと別々にするから安心するように」
「はい」
広い屋敷の二階西端が夫、東の端がオスカーの寝室だという。随分離れていると思ったオスカーに彼が尋ねる。
「それで、君の発情期はいつからだ?」
露骨な質問に虚を突かれ、赤面してはだめだと思うのに顔が熱くなった。それをこらえようとしてオスカーは努めて冷たい声で返す。
「もう間もなくです」
「そうか。では君がヒートを起こしたとき、助けは必要か?」
――え……?
「それはどういうことでしょうか」
「ヒートが起きたとき俺と寝たいのかと聞いている」
彼は書類に視線を落としたまま、冷たく吐き捨てるように言った。
オメガが発情期に発情フェロモンを出してアルファを誘惑する状態をヒートと呼ぶ。彼はそのときどうするかをオメガの妻に尋ねているのだ。アルファの夫と一緒に寝るということはつまり――。
「そのようなことは僕には答えられません」
大抵のことには動揺しないオスカーだが、あんまりな質問にうつむいた。
「答えられない? そうかわかった。ふん、安心しろ。俺は君を襲ったりはしない」
「……はい」
――どうしてこんなことを僕に? 彼は妻である僕を辱めようとしてこんな意地の悪い質問をしているのか?
新婚の夫婦は皆このような取り決めをするのだろうか。オスカーにはそれを知る由もなかった。
「では子どもはどうだ」
「え? 子ども……ですか?」
なんと答えればよいかわからず、靴先を見たまま黙っているとヘルムートが不機嫌そうな低い声で言う。
「欲しいのか?」
ハッとして彼の顔を見ると嫌悪感からなのか、眉間にしわを寄せこちらを睨んでいる。オスカーは咄嗟に目を伏せ、答えた。
「とんでもありません。僕たちにはまだ、子どもは早いかと――」
「……そうか。では子どもは不要だな。たしかに君のような若いオメガにはまだ早い」
――もっと若くに結婚して子を産むオメガだっているけれど……。
どうやら彼の表情を見ていると、単にまだ早いと思っているわけでもなさそうだ。
――彼はもしかして僕との子を望んでいないんじゃないのかな。
「では寝室は別、子づくりもしない。俺としても君とつがいになろうなどとは思っていない。それでよいな?」
なんと答えるのが正解なのかもうわからなかった。
「どうなんだ?」
彼の眉間の皺が更に深くなる。オスカーは思わず頷いた。
「はい、問題ありません」
「よろしい。では次に食事についてだが――せめて夕食は共に席に着くことにしよう。何か異論はあるか?」
「いいえ、ございません」
「嫌なら食事も別にしてかまわんが」
――そうしたいの? つまり、彼は僕の顔も見たくないってこと?
たしかに氷に例えられるような冷たい顔を前にして食事をしても美味しくないかもしれない。そう思うと、ここへ嫁いできたこと自体間違いだったような気がしてくる。
「侯爵様、食事は一緒にいたしましょう」
「わかった。では次に――」
この調子であれこれと細かい決まりを言い渡され二人の新婚生活が始まった。
彼との取り決め通り初夜もそれぞれ別に過ごし、その後訪れた発情期も自室にこもっていて彼とは顔も合わせなかった。
それでもオスカーはなるべく彼に気に入られようとはじめのうちは一生懸命夫に話しかけたり微笑みかけたりしてみた。しかし返ってくる言葉は少なく、当然彼の笑顔など一度も見ることはなかった。
アルファとオメガが結婚し、お互いを生涯の伴侶と決めた場合一般的にアルファが発情期のオメガのうなじをかむことで「つがい」の契約が結ばれる。しかし嫁いできても屋敷の主に冷たくあしらわれ、初夜に共寝もしてもらえないオメガだとしてオスカーは使用人にも笑われているような気がするのだった。
――考え過ぎだ。誰も僕のことなんて気にかけてないさ。
しかし、このままずっと子どもができなければ母は心配するかもしれない。あの日あんなふうに答えなければよかったと後悔したが、結局夫であるヘルムートにその気がなければどうすることもできないのだった。
騎兵隊長である彼は毎朝早くに出仕し、夕方大体決まった時刻に帰ってきた。そして夕食だけは同じテーブルで食べる。
といっても会話などほとんどなく、二人で無言のまま食事をするだけだ。
静かなダイニングルームに、皿とカトラリーの音が小さく響く。息が詰まるような時間で、ちっとも楽しくはない。最初のうちは、喉を通った食べ物の味すら緊張で何も感じないくらいだった。
任務の無い日や夜中になると、彼は妻に構わず出掛けていく。まるで独り身であるかのように、こちらに誰とどこで会うのか告げることもない。
彼の知人に紹介してくれることもなく、公の場にエスコートされることもない。オスカーなどいないかのように振舞われていた。
結婚したばかりだというのに二人の関係は誰から見ても冷え切っていた。
同世代の知り合いで唯一好感を持っている相手と言ってもよいくらいだ。あの日の彼は親切で礼儀正しかった。しかも今回母がオスカーの結婚相手を探していると、向こうから申し込んでくれたのだ。
皇太子に嫁ぐという幼い頃からの目的は達することができなかったが、誠実な相手に嫁ぎ、母を安心させることはできそうだ。彼となら皇太子妃となるよりも良い夫婦関係を築ける――そんな淡い期待さえ抱いていた。
しかし相手から望まれて嫁いできたというのに実際のところ、結婚後の生活は寂しいものだった。ヘルムートにとっては単に結婚適齢期のオメガで、それなりの家柄の相手であれば誰でも良かったのかもしれない。
結婚式は滞りなく済ませたものの、オスカーはその後彼の書斎に呼び出されて「君とつがいになるつもりはない」と宣言されたのだ。
「オスカー」
「はい、侯爵様」
「二人きりのときは俺をヘルムートと呼び捨てにしてかまわない」
無表情で座る彼と机を挟んで対面し、直立不動のままオスカーは答えた。
「はい」
「敬語も不要」
「ですが、侯爵様……」
彼は二十六歳、オスカーは十九歳で七歳も年上なのだ。
「無理強いはしない。それから、二人で生活する上での細かい取り決めをしたい」
そう言って彼は書類を机の上に広げた。その様子は伴侶との会話というより上官が部下に任務を言い渡すかのようだった。
「まず寝室だ。夫婦の寝室はきちんと別々にするから安心するように」
「はい」
広い屋敷の二階西端が夫、東の端がオスカーの寝室だという。随分離れていると思ったオスカーに彼が尋ねる。
「それで、君の発情期はいつからだ?」
露骨な質問に虚を突かれ、赤面してはだめだと思うのに顔が熱くなった。それをこらえようとしてオスカーは努めて冷たい声で返す。
「もう間もなくです」
「そうか。では君がヒートを起こしたとき、助けは必要か?」
――え……?
「それはどういうことでしょうか」
「ヒートが起きたとき俺と寝たいのかと聞いている」
彼は書類に視線を落としたまま、冷たく吐き捨てるように言った。
オメガが発情期に発情フェロモンを出してアルファを誘惑する状態をヒートと呼ぶ。彼はそのときどうするかをオメガの妻に尋ねているのだ。アルファの夫と一緒に寝るということはつまり――。
「そのようなことは僕には答えられません」
大抵のことには動揺しないオスカーだが、あんまりな質問にうつむいた。
「答えられない? そうかわかった。ふん、安心しろ。俺は君を襲ったりはしない」
「……はい」
――どうしてこんなことを僕に? 彼は妻である僕を辱めようとしてこんな意地の悪い質問をしているのか?
新婚の夫婦は皆このような取り決めをするのだろうか。オスカーにはそれを知る由もなかった。
「では子どもはどうだ」
「え? 子ども……ですか?」
なんと答えればよいかわからず、靴先を見たまま黙っているとヘルムートが不機嫌そうな低い声で言う。
「欲しいのか?」
ハッとして彼の顔を見ると嫌悪感からなのか、眉間にしわを寄せこちらを睨んでいる。オスカーは咄嗟に目を伏せ、答えた。
「とんでもありません。僕たちにはまだ、子どもは早いかと――」
「……そうか。では子どもは不要だな。たしかに君のような若いオメガにはまだ早い」
――もっと若くに結婚して子を産むオメガだっているけれど……。
どうやら彼の表情を見ていると、単にまだ早いと思っているわけでもなさそうだ。
――彼はもしかして僕との子を望んでいないんじゃないのかな。
「では寝室は別、子づくりもしない。俺としても君とつがいになろうなどとは思っていない。それでよいな?」
なんと答えるのが正解なのかもうわからなかった。
「どうなんだ?」
彼の眉間の皺が更に深くなる。オスカーは思わず頷いた。
「はい、問題ありません」
「よろしい。では次に食事についてだが――せめて夕食は共に席に着くことにしよう。何か異論はあるか?」
「いいえ、ございません」
「嫌なら食事も別にしてかまわんが」
――そうしたいの? つまり、彼は僕の顔も見たくないってこと?
たしかに氷に例えられるような冷たい顔を前にして食事をしても美味しくないかもしれない。そう思うと、ここへ嫁いできたこと自体間違いだったような気がしてくる。
「侯爵様、食事は一緒にいたしましょう」
「わかった。では次に――」
この調子であれこれと細かい決まりを言い渡され二人の新婚生活が始まった。
彼との取り決め通り初夜もそれぞれ別に過ごし、その後訪れた発情期も自室にこもっていて彼とは顔も合わせなかった。
それでもオスカーはなるべく彼に気に入られようとはじめのうちは一生懸命夫に話しかけたり微笑みかけたりしてみた。しかし返ってくる言葉は少なく、当然彼の笑顔など一度も見ることはなかった。
アルファとオメガが結婚し、お互いを生涯の伴侶と決めた場合一般的にアルファが発情期のオメガのうなじをかむことで「つがい」の契約が結ばれる。しかし嫁いできても屋敷の主に冷たくあしらわれ、初夜に共寝もしてもらえないオメガだとしてオスカーは使用人にも笑われているような気がするのだった。
――考え過ぎだ。誰も僕のことなんて気にかけてないさ。
しかし、このままずっと子どもができなければ母は心配するかもしれない。あの日あんなふうに答えなければよかったと後悔したが、結局夫であるヘルムートにその気がなければどうすることもできないのだった。
騎兵隊長である彼は毎朝早くに出仕し、夕方大体決まった時刻に帰ってきた。そして夕食だけは同じテーブルで食べる。
といっても会話などほとんどなく、二人で無言のまま食事をするだけだ。
静かなダイニングルームに、皿とカトラリーの音が小さく響く。息が詰まるような時間で、ちっとも楽しくはない。最初のうちは、喉を通った食べ物の味すら緊張で何も感じないくらいだった。
任務の無い日や夜中になると、彼は妻に構わず出掛けていく。まるで独り身であるかのように、こちらに誰とどこで会うのか告げることもない。
彼の知人に紹介してくれることもなく、公の場にエスコートされることもない。オスカーなどいないかのように振舞われていた。
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表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217
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