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3章.新たな人生のはじまり
33.水道橋計画について話し合う
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結婚式の後、グスタフは以前約束してくれた通り技師を呼んで僕に治水技術を学ぶ機会を与えてくれた。土木技術を担当するものや、橋の設計を行う者、配管工まで様々な技術者を代わる代わる呼んでくれて僕はとても興味深く話を聞けた。
いろいろな話を聞いた結果、僕としては設計図を書く仕事に最も惹かれた。できるかどうかわからないが、建築士に師事して製図の基礎から学ばせてもらうことになった。
「グスタフ、いろんな人を呼んで話を聞かせてくれてありがとう。僕頑張って勉強するね」
「ああ。やりたいことが見つかってよかったよ」
結婚式の後、発情期が来ないことで僕は少し落ち込んでいた。なのでグスタフもそれを気にしてくれていたのだろう。気が紛れるようにあえてたくさんの技術者を呼んでくれたのかもしれない。
子は授かりものだからあまり気に病んでもしょうがないし、今は自分のやりたい勉強に集中しよう。
僕はグスタフの書斎に製図台を置いてもらって、建築士のシモンから指導を受けることになった。その日もシモンが仕事の合間に僕の製図作業を見てくれていたのだけど、同席していたグスタフに用があると言って宰相のマルセル・アードラーが書斎に顔を出した。
「殿下、妃殿下、失礼致します。エナイス地方の件について、現地の役人から問い合わせが来ておりまして、殿下にご相談したいのですが」
「ああ、そうか。構わんぞ」
「あ……ですが……」
マルセルは僕の方をチラッと見た。
(僕がこの話を聞くとまずいのかな?)
「ルネも聞いていて構わない。話せ」
「は。毎年のことではありますが、今年もエナイス地方においてコレラやチフス等の疫病が蔓延し始めており、対処を求める声が上がってきております」
「ふむ……全くあそこの疫病には毎年毎年頭が痛くなるな」
「国で何らかの対策をと現地の役人からも陳情書が多数寄せられておりまして。どのように回答いたしましょうか」
「うーん……そうだなぁ。毎年これでは住民達も納得できんだろうな。例の水道橋の話はどうなっているんだ?」
「その件ですが、やはり技術的にも予算の面でも実現は難しいという意見が多いです」
以前グスタフが話してくれた、まだ上水道が整備されていない地方の話だ。水源から町までの距離が遠く、そこまでの水道を建設するとなると大規模な水道橋を建設する必要があるのだという。しかしながらその費用は試算によると膨大になるとのことだった。
「なんとか寄付を募ってでも早々に着手できないものか……」
「それがなかなか。王都から離れた地方にわざわざ寄付しようという貴族は多くないものでして」
寄付したということが目に見えてわかって、自慢できるようなものへ金を払う貴族は多い。しかし、誰も行くことがないような遠く離れた町に寄付をしても自慢にならないということらしい。
するとそこでマルセルが僕をまた見て目が合った。
「あ、殿下。今ふと思いついたのですが――いえ、やはりやめておきます」
「なんだ? お前が言い淀むなど珍しいじゃないか。そこまで言っておいて勿体ぶるな。言え」
「では失礼を承知で申し上げます。ルネ様に寄付の広告塔になっていただいてはいかがでしょう」
「なに? ルネを広告塔に?」
「はい。先日ご結婚なさったばかりで、ルネ様に対する国民の関心度はかなり高いと言えます。そのルネ様が公共事業に対する寄付を募ると言えば、貴族たちはこぞって金を出すのではないかと思いついたのです。ですが、そのような客寄せのようなことを妃殿下にお願いするなど大変無礼なことですので……」
「ほほう、なるほどそれは面白い。どうだ、ルネ。ひとつやってみないか?」
(僕が寄付の広告塔に……?)
「でも、僕なんかにお金を集める能力があるかどうか……」
グスタフは自信たっぷりに答える。
「貴族のご夫人というのは慈善活動や寄付金集めが好きなものだ。しかも長年被害に悩まされてきた市民を救うための金」
それを引き継いでマルセルが言う。
「そしてなんと言っても嫁いできたばかりの美貌の大公妃が声を上げるとなれば……それなりの成果が期待できるかと思います」
「そ、そう? もちろん僕が役に立てるなら是非やらせてもらうけど」
「よし、じゃあ寄付金を集めるパーティーを開こう!」
いろいろな話を聞いた結果、僕としては設計図を書く仕事に最も惹かれた。できるかどうかわからないが、建築士に師事して製図の基礎から学ばせてもらうことになった。
「グスタフ、いろんな人を呼んで話を聞かせてくれてありがとう。僕頑張って勉強するね」
「ああ。やりたいことが見つかってよかったよ」
結婚式の後、発情期が来ないことで僕は少し落ち込んでいた。なのでグスタフもそれを気にしてくれていたのだろう。気が紛れるようにあえてたくさんの技術者を呼んでくれたのかもしれない。
子は授かりものだからあまり気に病んでもしょうがないし、今は自分のやりたい勉強に集中しよう。
僕はグスタフの書斎に製図台を置いてもらって、建築士のシモンから指導を受けることになった。その日もシモンが仕事の合間に僕の製図作業を見てくれていたのだけど、同席していたグスタフに用があると言って宰相のマルセル・アードラーが書斎に顔を出した。
「殿下、妃殿下、失礼致します。エナイス地方の件について、現地の役人から問い合わせが来ておりまして、殿下にご相談したいのですが」
「ああ、そうか。構わんぞ」
「あ……ですが……」
マルセルは僕の方をチラッと見た。
(僕がこの話を聞くとまずいのかな?)
「ルネも聞いていて構わない。話せ」
「は。毎年のことではありますが、今年もエナイス地方においてコレラやチフス等の疫病が蔓延し始めており、対処を求める声が上がってきております」
「ふむ……全くあそこの疫病には毎年毎年頭が痛くなるな」
「国で何らかの対策をと現地の役人からも陳情書が多数寄せられておりまして。どのように回答いたしましょうか」
「うーん……そうだなぁ。毎年これでは住民達も納得できんだろうな。例の水道橋の話はどうなっているんだ?」
「その件ですが、やはり技術的にも予算の面でも実現は難しいという意見が多いです」
以前グスタフが話してくれた、まだ上水道が整備されていない地方の話だ。水源から町までの距離が遠く、そこまでの水道を建設するとなると大規模な水道橋を建設する必要があるのだという。しかしながらその費用は試算によると膨大になるとのことだった。
「なんとか寄付を募ってでも早々に着手できないものか……」
「それがなかなか。王都から離れた地方にわざわざ寄付しようという貴族は多くないものでして」
寄付したということが目に見えてわかって、自慢できるようなものへ金を払う貴族は多い。しかし、誰も行くことがないような遠く離れた町に寄付をしても自慢にならないということらしい。
するとそこでマルセルが僕をまた見て目が合った。
「あ、殿下。今ふと思いついたのですが――いえ、やはりやめておきます」
「なんだ? お前が言い淀むなど珍しいじゃないか。そこまで言っておいて勿体ぶるな。言え」
「では失礼を承知で申し上げます。ルネ様に寄付の広告塔になっていただいてはいかがでしょう」
「なに? ルネを広告塔に?」
「はい。先日ご結婚なさったばかりで、ルネ様に対する国民の関心度はかなり高いと言えます。そのルネ様が公共事業に対する寄付を募ると言えば、貴族たちはこぞって金を出すのではないかと思いついたのです。ですが、そのような客寄せのようなことを妃殿下にお願いするなど大変無礼なことですので……」
「ほほう、なるほどそれは面白い。どうだ、ルネ。ひとつやってみないか?」
(僕が寄付の広告塔に……?)
「でも、僕なんかにお金を集める能力があるかどうか……」
グスタフは自信たっぷりに答える。
「貴族のご夫人というのは慈善活動や寄付金集めが好きなものだ。しかも長年被害に悩まされてきた市民を救うための金」
それを引き継いでマルセルが言う。
「そしてなんと言っても嫁いできたばかりの美貌の大公妃が声を上げるとなれば……それなりの成果が期待できるかと思います」
「そ、そう? もちろん僕が役に立てるなら是非やらせてもらうけど」
「よし、じゃあ寄付金を集めるパーティーを開こう!」
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