追放されたΩの公子は大公に娶られ溺愛される

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3章.新たな人生のはじまり

34.パーティーの成功と嬉しい知らせ

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 グスタフとマルセルは関係者の同意を取り付け、寄付金を集めるパーティーの開催が決定した。
 しばらくの準備期間を経て、招待状を出した貴族たちの多くが集って盛大なパーティーが催された。予想を超える額の寄付が集まり、パーティーは成功裏に終わった。
「うーん。さすがは我らが宰相殿だな。読みは完璧だったというわけだ」
「お褒めいただきありがとうございます。ですが、すごいのはルネ様ですよ」
「いえ、僕は何もしてませんから」
「ここまで人が集まったのはやはりルネ様にひと目お会いして顔を覚えてもらおうという彼らの気持ちがあってこそ。つまりルネ様のお陰ということです」
「それもそうか。よくやった、ルネ。大公妃として最初の仕事は大成功だな」
「ありがとう……」
(本当に僕は何もしていないんだけどな)
「ところでルネ様。顔色がちょっと青白いようですが……? ここ数日は準備でお疲れになられましたよね。今日はゆっくり休んでください」
「そうかな?」
(言われてみればちょっと気分が悪いかも)
「ん? 本当だ。これはいかん。すぐに休まなければ」
 グスタフが僕の背中を押して部屋に帰ろうとするとマルセルに引き止められた。
「殿下、あなたは事後処理がありますから戻られては困りますよ」
「なんだと? 妻の具合が悪いんだ。俺が付き添わなくてどうする」
 グスタフが食って掛かったが、横からペネロープが口を挟んだ。
「殿下、お仕事が残っているのでしたらどうぞ。私とニコラでルネ様のことはちゃんと看ておきますから」
「あ、ああ。そうか? じゃあ頼んだ」
 ちょっと不満そうではあったが、グスタフもペネロープの言うことは聞くのだ。
「じゃあ、ごめんね。僕はお先に休ませてもらいます」
「はい。ルネ様、本日はお疲れ様でした」
「お休み、ルネ」
「おやすみなさい」

◇◇◇

 それから数日経ったが、僕の体調はなかなか良くならなかった。
「すまない。結婚してからずっと無理をさせたせいで……」
 グスタフはパーティーを開催したせいで僕が体調を崩したと思っているようだった。
「ねえ、グスタフ。別にパーティーのせいで具合が悪いわけじゃないよ。ほら、離宮から引越したり、結婚式もあったし。環境が変わったからきっとそれが身体に出てきただけだから。気にしないで」
「しかしお前は身体がそんなに強いわけじゃないんだろう。オメガだし、アルファと同じように頑丈だと思っていた俺が馬鹿だったよ」
「そんな、そこまで言わなくても……」
 グスタフは僕を心配してなるべく一緒にいたがったが、マルセルがそれを許すはずもなかった。公務の最中、何かと理由を付けて僕を見舞いに来るグスタフに宰相はとうとう怒ってしまった。
「すまない……マルセルに咎められた。公務の最中に抜けるのはやめろって――」
「うん、それはそうだよグスタフ。マルセルの言うことちゃんと聞いて? 僕はなんともないから。ね?」
「しかし、一緒に食事しているからわかる。お前は最近ほとんど食事を残しているじゃないか」
「えー……うん……そう。なんだか食欲が無いんだ」
「医者に診せたのか?」
「いいえ、そこまでじゃないかなって……」
「よし、今日は俺も仕事を休むから医者を呼んで診てもらおう」
(別にグスタフは休まなくてもいいと思うんだけど……)

 しかし結局グスタフは休むと言って聞かず、一緒に医師の診察を受けたのだった。そしてその診断を聞いて僕もグスタフもとても驚いた。
「え……妊娠してる……?」
「なんてことだ! でかしたぞ、ルネ!」
 横に座っていたグスタフが僕の肩を抱きしめた。
「え? でも、なんで? 僕発情期も来てないのに……?」
 たしかに結婚式後の一ヶ月間、仕事が減ったグスタフは日を置かずに僕を抱いていたが、その間ヒートらしき症状はみられなかった。
 すると医師が言う。
「ええ、私も実例は診たことがないのでここで診断を申し上げるのは憚られるのですが――ルネ様はオメガの中でも特殊タイプなのではないかと」
「特殊タイプ?」
「はい。オメガ性の人には大体三ヶ月に一度の周期で発情期が訪れますよね」
「ええ」
「決まった周期で排卵し、そのタイミングで受精することで妊娠します。これを"自然排卵"といいます。オメガに限らず、ベータの女性も月に1回排卵するので同じく自然排卵タイプですね」
「あ、はい。そうですね」
「しかしオメガの中には発情期が定期的に訪れることなく、動物で言う"交尾排卵"に分類されるタイプがいるとされています」
「交尾排卵……?」
「動物でいうとウサギや猫はこのタイプですね。人間では大変稀な例で、医学書にも一応記載されてはいるものの伝承レベルの話でしかなくて眉唾ものと思っておりましたが……」
「ええと、つまりどういうことなんですか?」
「つまり、この交尾排卵タイプの動物は交尾の刺激により排卵を促すホルモンが出て、発情の有無に関わらず年中排卵・妊娠することができるのです。つまり、ええ、人間で言うと性行為を行うことで高確率で妊娠するのが特徴です」
(そんなタイプのオメガがいるのか……って、僕がそうなの?)
「特殊タイプのオメガは多産で貴重種ということで、神話に出てくる多産な神は大体この特徴を有していたと言われています」
「はぁ……」
「いやぁ、生きている間にこのような珍しいケースを診察できるとは。あ、いえ。失礼いたしました。まだはっきりしないことをべらべらと申し上げましたが――発情無しに妊娠されたということですから、可能性は高いと思います」
僕が呆気にとられているとグスタフが僕の手を握って言った。
「ルネ。素晴らしいじゃないか。俺も神話の多産な神々の伝承は本で読んだことがあるぞ。排卵がどうの、という話は全く初耳だがお前がそのタイプだとしたら子孫をたくさん残してもらえるということだな」
「そ、そうなのかな」
「ああ。何より俺はお前との子が楽しみでならない! 何かの病気じゃないかと心配したが、妊娠しているとは……良かった、本当によかった!」

◇◇◇

 その後ニコラやペネロープにも話したらとても喜んでくれた。
「まぁ! 本当ですか? なんておめでたいんでしょう」
「ルネ様、最近元気がないから心配していました。まさかつわりだったとは……」
「私はもしかしたらって思っていましたのよ」
 ペネロープはちょっと得意げに言った。
「そうそう、ペネロープは僕にルネ様はおめでたじゃないかって言ってたんですよ。でも僕はオメガだから、発情してないのはわかりますって否定していたんです。まさかルネ様が特殊タイプだとは……」
「オメガにも色々種類があるんだね。僕全然知らなかった」
「僕はこの国のオメガですから、その話は聞いたことがありました。でもまさか本当に実在するとは思っていませんでした」
 デーア大公国は治水技術だけでなく、科学や医学の分野でもリュカシオン公国より発展している。こういったことが周知されていないということも、リュカシオン国内での性差別に繋がっているのかもしれない。


ーーーーー

【オメガバース独自設定について】
 当初の予定では本編にこの設定がもうちょっと食い込む予定だったのですが中途半端にここだけ残ってしまいました。
じゃあなぜアランとは妊娠しなかったのか?
また、フェリックスの元で発情したじゃないか? という矛盾があります。
前者は、まだ身体が未熟で、刺激を受けても排卵出来なかったということに……。
後者については、あれがルネの身体で初めて排卵可能になった(身体が成熟した)瞬間で、それに伴う発熱によりフェロモン状のものが出てアルファの鼻孔を刺激した……ということにしたいと思います。

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