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腹減り雀

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本編

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 一つ一つ確認していきましょうか。

 まずは螺旋階段。伝えていなかった手摺も付いていて落ちる心配もないし、一段一段の幅もそれなりに遭って踏み外すとかの心配もありません。
 屋根裏に上がれば驚き。日が入らなくて暗かったのが、大きく作られた窓によって光が入るようになり明るいです。

 問題は、ベッドと箪笥、私の背丈より高い大きな衝立が六枚。何故、あるのでしょうか。下に降りてスコーンに齧りついているグレンさんに聞いてみましょう。

「良い状態で仕上げてくださってありがとうございます。ただ、ベッドや箪笥に衝立は一体?」
「それなら、そこに置いてあったものを上で組み立てただけだ。衝立は必要だろうから、ついでに作った」
「衝立は必要だとは思っていましたし、ありがたいと思いますけど」
「本当についでだから気にするな。じゃ、ごちそうさん。これ置いていくぞ」

 工事の請求書を受け取って帰っていく大工の皆さんを見送ります。格好良い背中ですね。

「次は、引っ越しと晩御飯の準備ですね」

 引っ越しと言っても箪笥に入れている衣服は少ないので、すぐに終わりました。ルルのベッドはとりあえずそのままにしておいて、後で本人に聞きます。

「マコちゃんはこの部屋を使って。箪笥とかも自由にしていいから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「たっだいま~。桜華、ちょっと来て~」

 外からルルの元気な声が聞こえてきたのでテラスに移動すると、ミッケさんとルル、通りの向こう側に夕日で赤く染まるトト。トトの足元にココットが固まっていますが、固まり過ぎて何羽いるのか数えられません。

「おかえり。トト、その子達は?」
「グ~ル、グルルル」

 近くに住んでいたからついでに庇護していた同族で、二十羽はいるそうです。

「さすがに建物に入りきらないですね」
「グルルル」
「それもそうですね。一月もあれば新しく鶏舎を建てる予定もあるので、それまではそうしましょう」
「グル」

 トトも納得してくれたようで、大きく頷いてくれました。

「あの~、桜華さん?」

 ミッケさんが右手を上げたので、そちらへ視線を向けると、見慣れつつある呆れ顔を浮かべていました。

「トトの話すことが分かるの?」
「なんとなくですよ」
「流石桜華さん」

 ミッケさんとルルが同時に頷いています。何を納得しているのでしょう。

「さてと。二人とも、この子は向こうでの私の顔見知りの妹でマコちゃん。今日から一緒に住むことになりました」
「友達じゃなくて顔見知り?」
「はい。あれを友達と呼びたくないです」

 マコちゃんの前でいう事ではないけれど、他に思いつかないのでしょうがないですよね。

「マコちゃん。一緒に住んでいる妖精のルルと、私たちと同じ渡来人で狩猟者のミッケさん」
「よろしくね」
「よろしくね、マコちゃん」
「よろしくお願いします」

 マコちゃんが笑顔であいさつを交わすと、ルルが元気良く手を上げます。

「桜華、今日はお祝いにしない?」
「お祝い……笹熊亭に行きましょうか」
「賛成! 行こ!」

 さっそく歩き出そうとしたミッケさんとルルをを止めます。

「トトの件をイアンさんに伝えてくるので、先に行っていてください」
「了解。注文しておくね」
「マコちゃん、行こう」
「はい」

 三人と別れてトト達と一緒に隣のイアンさん宅へ。

「あれ、桜華さん。どうしたの?」
「トトの事です」
「そういえば、今日は姿を見なかったなぁ」

 今に至るまでトト不在に気が付いていなかったそうです。あれだけ大きいのに。

「実は、ここに来る前にいた場所で庇護していた同族を迎えに行っていたみたいで」
「へ? 同族って、ココットだよね。数は……」

 無言で体の位置をずらしてトトの方へ視線を向けると、イアンさんもそちらを見て固まります。

「トトの話だと、二十羽いるそうです。建物には入らないので、暫くは牧場の隅で好きにしてもらおうと思っていますが、どうでしょうか」
「二十羽……まぁ、帰れとは言えないな」

 苦笑を浮かべるイアンさんにつられて笑みを浮かべると、頭を下げます。

「ご迷惑おかけいたします」
「いやいや。少しすれば牧場は拡張、鶏舎も建てるし、遅いか早いかでしょう。人手の方は、移住者の一人が来てくれることになっているから大丈夫」
「分かりました。必要なものがあったら言ってください」
「そうするよ。じゃ、牧場に連れて行くわ」
「お願いします。トト、お願いね」
「グル!」

 力強く頷いてくれたトトを見送ると、ギルドに寄ってグレンさんに支払い手続きを済ませてから笹熊亭に向かいます。

 笹熊亭の中に入ると、いつも以上の賑わいに思わず足を止めてしまいました。

「あ、桜華さん。こっち、こっち」

 奥の方でミッケさんが手を振っているのを見つけたので、そちらに移動して着席します。

「桜華、どうしたの?」
「いつもより賑やかだなと思って」

 ルルの質問に答えながら返答すると、ルルとミッケさんも周りを見渡します。

「そういえば、見たことない人がいるね」
「ああ。移住者だよ。結構来たぞ」

 近くにいた狩猟者の小父さんによると、森の民と獣の民、草原の民と妖精が来たそうです。

 なお、私たちでいうエルフが森の民。獣人は獣の民。私達人間は草原の民。ドワーフを指す岩窟の民。水中で生きる水の民。竜や竜人を指す蒼天の民。
 他には各種族で特に魔力に秀でた者を指す魔の民。妖精には移ろいの民という言い方もあるそうですが、あまり使われず、単に妖精か食欲の民と呼ぶそうです。
 ……。妙に納得するのは何でしょうか。

「賑やかなのはいいですけど、新たな騒動が起きないといいですね」
「そうだなぁ。ま、何かあったらエレノアさんとミッケちゃんが絞めるだろうさ」
「ミッケさん、何をやったの?」
「え、エレノアさんにくっついていただけだよ?」

 エレノアさんが絞めているのを、後ろから震えつつ眺めていただけらしいです。

「こ、この話はもういいよね。じゃ、マコちゃんに乾杯!」
「そうですね。乾杯」

 何やら慌てて話を逸らしてきましたが、深く聞くと藪蛇になりかねないので流れに乗ります。

「マコちゃん、最初に一つだけとっても大切なことを教えておくね」
「はい」

 ミッケさんがルルと一緒に姿勢を正して真剣な顔で話しかけると、マコちゃんも背筋を伸ばして応えます。

「桜華さんはやることがおかしいので、何があっても桜華さんならおかしくないって覚えておいてね」
「ミッケさん、あとルルも。そういわれるほどに常識外れな行動はしていないはずです」
「ええ~。トトと会話しているとか、常識外れどころか人としてどうなのかな」

 ミッケさんからの反論に、ルルが頬を膨らませた状態で激しく頷いています。

「他は、牢屋に殴り込むとか、ねぇ?」
「お姉ちゃん」

 呆れ顔かと思えば、目を輝かせるマコちゃん。意外と母親似なのかもしれないですね。

「ま、私達の非常識が桜華さんの常識だから」
「はい!」

 反論したいところですが、周囲の人まで頷いている状況では分が悪くて口を挟めません。
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