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腹減り雀

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本編

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 持ち込まれた蔦の編み込みを始めると、程なくしてロームさんが若い女性と一緒に色々と抱えて戻ってきました。

「おや、エレノアさん。お久しぶりです」
「ロームさん、お久しぶりです。それは?」
「ええ。実は桜華さんに、相談事と新しい魔具の作製をお願いしまして。これは実験用の材料と道具です」

 ロームさんがエレノアさんに事の次第を説明している間に、女性が近くの席から椅子を持ってきて隣に座る。

「こんにちは。袋はどのように?」
「こんにちは。そうですね、内側に魔方陣を張り付けた布を張り、外側に魔石を四個取り付けましょうか」
「分かりました」

 女性が広げた布から内張用の布と子袋用の布を切り出します。子袋の取り付け位置を考えている間に、内張用の布に魔方陣を張り付けます。
 ルーナさんが肩で息をしながらも書類の準備を進めているので、実験内容を伝えながら編み込みを再開する。

「いやぁ、桜華さんと知り合えたのは僥倖でした」
「そうですね。時々呆れることもありますが、村としても非常に助かっています」
「呆れる事ですか? ……ああ。そういう事ですね」

 ロームさんがシエロの方を見て頷いています。何故シエロで納得するのでしょうか。

「ロームさん。欲しいと思う魔具はありますか?」
「そうですね。渡来人の方々から様々な話が齎されて、職人の皆さんが再現するのに躍起になっています。私もいくつか話は聞いていますが……」

 空を仰いで考え出すロームさん。やがて、大きく頷いて視線を戻します。

「やはり、移動手段と輸送量を増やす物ですね」
「そうなりますか。桜華さん、馬車の籠部分を魔法袋みたいにできないでしょうか」
「空間拡張ですか? 可能だと思いますよ。ただ、人が入れるかどうかは判りかねます」
「へ? できるのですか?」
「桜華さんですから。実験してみましょうか」
「あの、エレノアさん。もう魔力がコンロ分しか残っていないので明日に—―」
「コンロを明日にしましょう。できますか?」
「――はい」

 エレノアさんの目が笑ってないです。溢れ出ている威圧感に、ルーナさんとロームさんの背筋が伸びて、隣の女性は謝って針を指にさしてしまったようで、小さく痛っと聞こえてきました。

「では、準備しましょう」

 上機嫌な笑顔を浮かべてギルドの方へ向かうエレノアさん。姿が見えなくなると、ルーナさんとロームさんが大きく息を吐き出しました。

「あ、桜華さん。少しいいですか?」

 今度はピエナさんがお茶のお代わりを持ってきてくれながら、可愛く小首を傾げています。

「シエロちゃん、触ってもいいですか?」
「シエロに聞いてみて」

 交渉に成功してピエナさんがシエロの頭を撫で始めると、ロームさんも近寄ってきて近くで観察を始めます。

「この子は水蛇の子ですか?」
「いえ、水竜の特殊個体だとベックさんから聞いています」
「あぁ、彼が見たのならそうでしょう」

 ロームさんはベックさんと友人で、よく飲みに行くそうです。

「ロームさん、縫い終わりました」
「おお。では、実験しましょうか」

 出来上がった魔法袋の子袋に魔石を入れ、蓋のついた小型の水が入った瓶を中に入れます。
 一度取り出してみますが、やはり冷えていません。時間がかかるのかと思い、もう一度中に入れて様子を見守ることに。

「上手くいくといいのですが。ところで、桜華さんが作っているそれは何でしょうか」
「これは照明です」

 四個編み上がったので、余った蔦を利用して上に張った布のすぐ下に吊るしていきます。

「中々素敵な照明ですね。欲しくなりますな。どう思う」
「最近、自然志向の物が売れているので売れると思います」

 ロームさんと女性が照明を軽くつつきながら何か相談している間に、ピエナさんに使い方を説明しておきます。

「桜華さん。これ、注文できますか?」
「大量の注文は対応できないですよ」
「注文生産で、少量のみ対応という形ならどうでしょうか」
「それならお受けします」

 宣伝用に一つ頼まれたので余っていた蔦を使って編み上げて渡すと、エレノアさんが馬車を連れて戻ってきました。

「桜華さん、これにお願いします。」
「はい。あ、魔石はどうしますか」
「これを使ってください」

 エレノアさんが懐から取り出したのは、無属性二等級の魔石。既に中から御者席へと通じる扉付近に魔石を取り付ける台座を設けているそうです。

 魔石を受け取って馬車の中へ入ると、籠の床一面に魔方陣を貼り付けてから魔石を取り付けます。
 魔方陣を起動すると、景色が歪んでいきます。気持ち悪くなりそうなのを耐えていると、少しして景色が元に戻っていきます。歪みがなくなった後は、最初と比べて五倍ほど大きくなっていました。

 外に出て待ち構えていたエレノアさんに報告すると、ロームさん達と一緒に中へ入っていきました。暫くして出てきた皆さんは軽く興奮していました。

「素晴らしいですね。これは欲しいです」

 町に戻ったら早速注文すると息巻くロームさん。その横で、エレノアさんがルーナさんを呼んで何事か指示しています。催促される前に申請書を書いておきましょう。
 書き終わって書類をまとめていると、ロームさんが近づいてきました。

「桜華さん。魔法袋の方ですが、ちゃんと冷えていますよ」

 魔法袋から取り出された水瓶を受け取ると、確かに冷たくなっています。これなら生鮮を運ぶのも大丈夫ですね。あ。馬車用に改良した魔方陣も実験。成功したので申請しておきましょう。

「これなら、魚も運べますね。あ、先程の馬車と組み合わせることはできますか?」
「今魔方陣だけやってみましたができそうです。申請書は出しておきますね」
「ありがとうございます。さて、今回の対価は魔石でよろしいですか? それとも貨幣で?」
「大したことはしていないので、いら……気持ち程度の魔石でお願いします」

 いらないと言おうとしたら、エレノアさんから殺気に似たものが漂ってきました。シエロが私の後ろに隠れてしまいました。

「分かりました。持ってきますね」
「私も市に行くので、そちらでもいいですか」
「そうですか。では、お待ちしています」

 申請書類を一通り確認して、それらを申請するついでにお金をおろします。もうお昼が近いので、急ぎましょう。

 市に移動すると、手触りが良くて手頃な値段、様々な色合いの布を選んで幾つか購入します。本当は自分で作ってみたかったのですが、手が空いた時にゆっくりとやっていくことにします。
 購入した布を鞄に押し込むと、ロームさんの処へ。前回同様に馬車の近くで指示を出していたロームさんが、私に気が付くと馬車から箱を下ろします。

「桜華さん、今日はありがとうございます。どうぞ」

 箱の中から幾つかの魔石を頂いて終わりにしようと思ったら、どうぞ遠慮なさらずにと押し付けられます。
 互いに笑顔で魔石のやり取りをして、結局箱に入っていた魔石の半分を頂く形になりました。商人さんは手強いです。

「では、桜華さん。また良い商談ができますように」
「はい。また良い商談ができますように」

 満面の笑みを浮かべ勝者社のロームさんと挨拶を交わして、賑やかな市を後にします。
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