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腹減り雀

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本編

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「一つお伺いしたいことがあります。宜しいでしょうか」
「何でしょうか」

「水を生成する魔具というのは作れるのでしょうか」
「魔具としての形や機能に拘らなければ、すぐにできますよ」

 魔石の入った袋を差し出した格好で口を開けたまま固まっているロームさん。とりあえず袋を受け取って鞄の中へ仕舞います。

「ロームさん、空の水樽はありますか?」
「こちらにあります」

 若干動きの悪いロームさんから渡された樽は、下部に口が付いていてコルクで蓋がなされている物。なので、内側の部分に空気中の魔力を利用して一定量の水を生成する魔方陣を張り付けます。

 魔具を起動して少し待ってからコルクの蓋を外すと、綺麗な水が出てきます。上蓋を外して確認すると、並々とした水は澄んでいて異物も見つからず、水質も問題はなさそうです。

「これは素晴らしい」

 ロームさんは樽から一口水を飲み満面の笑みを浮かべると、近くにいた人にも水を手渡しながらおまけ話をしてくれます。

 ある人が実験したそうですが、魔石の属性は採れる場所によって属性が違うだけで、魔石事態の性質は共通とのこと。

「他の樽もお願いします」

 ロームさんから差し出された樽に、魔方陣の張り付けを行っていきます。

「水樽を五つ。代金ですが、こちらでも宜しいでしょうか」

 そう言って、魔石の入った箱を提示してきました。一つの属性で二十個ほどもあるそれは、すべて合わせると相当な値段。受け取れません。

「それではもらい過ぎです」
「いえいえ。水は必要不可欠ですが、有料で手に入れる品。必要となる経費を考えるなら、これぐらい当然です」

 フェナンでは井戸水を汲むだけなのでお金はかからないけど、大きな町になればそれなりの値段を払わないといけないそうです。そして、旅をするならばそれなりの量の水を確保せねばならず、商隊ともなれば……。

「そういう訳で。どうぞ」

 絶対に退かないという意思がロームさんの表情に現れています。商人でもないし交渉ごとの経験がない私に、これをどうにかするだけの力は、持ち合わせていません。

「分かりました。ですが、貰いすぎているような気がしていますので、魔具で必要なものがありましたら仰ってください」
「そうですね。機会があれば是非」

 魔石の入った箱ごと鞄の中へ押し込みます。何とか入ってくれたことにほっとしていると、ロームさんが目を輝かせています。

「どれか魔法袋にしますか? 魔石を多めに頂いたのでやりますよ」
「魔石は水樽の代金ですが……これをお願いできますか?」

 ロームさんが懐から取り出した財布と思われる革袋を受け取って、魔法陣を張り付けます。

「ありがとうございます。他の品はゆっくり考えたいと思います」
「分かりました。色々とありがとうございます。では、ロームさん。また良い商談ができますように」

 先程カームさんがしていたのと同じお辞儀をすると、ロームさんは少し驚いた後にお辞儀を返してくれます。

「ありがとうございます。また良い商談ができますように」

 お互いにっこりと笑ってロームさんと別れる。

 魔石も手に入った事だし、少し市を見て回りましょう。

 村のお姉さんたちが集まっている処には、奇抜な意匠のアクセサリ類が売っていますね。町で流行でもしているのでしょうか。

 お母さん方が集まっている処にあるのは二つ。まずは布や糸ですね。手触りからすると絹でしょうか。予想よりはるかに高いです。やはり、真剣に吟味されているのは麻とかの安めの物ですね。

 もう一つは食品。村の店で扱っているのとは違う珍しいものが並んでいます。ただ、野菜や穀物が中心で、お肉や魚介は並んでいません。

 お兄さん方が集まっているのは武具ですね。ダガンさんは腕のいい鍛冶師ですが、魔法効果が付与された品々は作れないそうで、そういった品々に集まっています。魔法効果が付与された物は非常に高価なので、皆さん怖いくらい真剣です。

 子供たちは様々な出店を回りながら、食べ物の屋台に集まっていますね。美味しそうな匂いです。

「ディンさん。市はいつもこの賑わいですか?」
「ロームさんの商隊は、大体このぐらいですね」
「その言い方だと、他の商隊も来ることがあるのですか?」
「興行師の一団が来ることもあるね。そん時はもっと賑やかだよ」

 ヨハンさんが肩に手を回して来ようとするので、さりげなく避けておきます。

「それにしても、商隊なのに食べ物の出店まであるのは――」
「この村は食料の生産が乏しいので、珍しい物を食べてほしいと言っていましたね」
「なるほど。あ、これ美味しそうですね」

 見つけたのは、バゲット(細長く硬めに焼いたパン)に野菜や肉を挟んだ物。ありきたりと言えばありきたりだけど、お肉から漂ってくる匂いが美味しそうです。

「すみません。これ何のお肉ですか?」
「いらっしゃい。これはレッドベアの肉だよ」

 隣のヨハンさんを見れば、魔獣で見た目は赤毛の熊と教えてくれる。なお、グルーベアと同じぐらいの強さとのこと。

「じゃあ、これを六人分と妖精サイズで一つください」
「はいよ。六百カーナだよ」

 結構高い気がするかもしれないけれど、レッドベアを倒す人が少ないので仕方ないそうです。

 素直にお金を払って包みを受け取ると、市を脱出して笹熊亭に立ち寄ります。事前にお願いしておいた物を受け取ってから帰宅します。

「ただ今戻りました。ダガンさん、どうですか」

 声を掛けながら家の中に入ると、ダガンさんとセンさんが台所の奥に作られた石窯の前で、真剣な顔で点検しています。

「おう。ばっちりだ。後は魔石で完成だぞ」

 ダガンさんの横に移動して確認すると、魔石は開口部の少し下にセットできるように嵌め込む台座が作られています。

「あ、桜華。お帰り~」

 ルルの声が聞こえてきた方を見れば、湯上りで卵肌のルルとミッケさん。

「ただいま。ご飯は少しだけ待っていてください」

 鞄から取り出した火の魔石を、石窯へ嵌め込んで起動させます。

 普通の石窯なら余熱する時間が掛かるのに対し、こちらでは起動させると同時に赤熱化。手を入れてみると、十分なほどに熱くなっています。便利ですね。

 後は実際に使ってみないといけません。そこで、笹熊亭に寄り道して受け取ってきたパンの生地が載ったお盆を取り出して石窯の中へ。

 パン生地が焼けるまでは時間がかかるので、ディンさん達も中に呼んで車座に座ると、先程のバゲッドを取り出します。

「市で買ってきたレッドベアのサンドイッチです。嫌いでなければどうぞ」
「おお! ありがとう」

 厳めしい顔から一転したダガンさんは、レッドベアのサンドイッチが好物。しかも、前回食べられなかったので、嬉しさも一入らしいです。

 後はディンさん達もに一本ずつ渡して、皆で実食。溢れる肉汁に濃厚な味付け。正直に言えば少しくどく感じてしまいますが、他の方は実に美味しそうに食べています。

 食事を終えるとセンさん、ミッケさん、ルルが興味深げに石窯で焼いているパンを見つめているので、手に入れた魔石を家具に嵌め込んで回り、冷蔵庫、オーブンの魔方陣を張り付けて仕上げていきます。

 一通り終わったので石窯に戻ってくると良い塩梅になっていたので、皆に見守られながら取り出してみます。

「おお! 焼けてる~!」

 センさんとルルが目を輝かせています。

 目を輝かせたルル達に見守られながらパンを割ってみると、水蒸気と一緒に香ばしい匂いが漂います。先程食べたばかりではあるけど、ディンさん達二人も巻き込んで試食会。

 パン生地は笹熊亭の物なので、味は問題なし。気掛かりだった火力も問題なくしっかりと焼けています。

「これで、料理する下準備は終わりですね」

 フライパン等の料理器具はダガンさんが持ってきてくれているし、包丁もあります。ただ、食器類がありません。

 作業が終了したので帰っていくダガンさんとセンさんを見送った後は、ミッケさんとルルにヨハンさんを連れて食器類を買いに行ってもらい、私は木材加工の再開です。

 賑やかな声を聴きながら加工を進めていき、少し暗くなった頃に組み立てを終えて、無事に完成を迎えます。
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