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腹減り雀

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本編

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 夕方まで作業を続けていると、ヨハンさんが狩猟者の皆さんが帰ってくると教えてくれたので、テラスに移動して皆さんをお出迎えします。

「ヨハンさん、柵の方で連絡はありました?」
「さっき来たよ。一部が腐って落ちてたって。巡回も見落としていたみたいだ」
「ディンさん。何時からでしょうか」
「恐らく明日からですね」

 明日から村一周分の柵作りですか。作りたいものがまた遠くなります。

「桜華~。ただいま~」
「皆さん、おかえりなさい」

 ルルを先頭に狩猟者の皆さんが帰ってきました。手を振って迎えると、ミッケさんとルルはお風呂に一直線。狩猟者のリーダーを務める女性が苦笑しながら私の鞄を持って近寄ってきます。

「なんかすみません」
「いや、別にいいよ。蔦はできるだけ良さそうなのを選んだから。あと、蜘蛛の糸球だけど……」

 言い澱んで視線が泳ぎ始めます。何があったのか気になっていると、徐に腕を水平に上げて掌を上にしました。
 どうしたのかと思えば、何か肩の上で動きました。よく見ようと思ったら掌の上まで移動してきます。

「しゅ~」

 移動してきたのは掌と同じ大きさの蜘蛛。元気よく右の触肢を上げています。どこかで見たことがあるような?

「……あ。あの時の子ですか?」
「しゅ」
「久しぶりです」

 手を差し出すとこちらに移動してきました。

「しゅ~、しゅ」
「そうですね、この大きさなら問題はないですね。家は……この木で良いですか?」
「しゅ~」
「よかった。名前は……ラウラで」
「しゅ」

 了承してくれたのでそれで決定です。テラスの脇にある木へ手を添えると、そちらに移って上の方まで登っていき
ました。

「蜘蛛と会話ねぇ。流石桜華さん。あ、そうそう。魔法の鞄を一つ作ってくれない?」
「良いですよ。数と形状はどうしますか?」
「あまり余裕がないから背負い鞄一つ。材料はこれを使って」
「分かりました」
「あと、今日は笹熊亭で打ち上げやるから参加して」
「あの二人が来たら行きますね」

 ギルドに行くルーナさんと狩猟者の皆さんを見送り、ミッケさんとルルがお風呂から出てくるのを待ってから、一緒に笹熊亭に向かいます。

 笹熊亭に入ると、宴会は既に始まっていて非常に賑やかです。

「は~、疲れた。桜華さん、明日の予定は? 手伝えることある?」
「明日やることが確定しているのは、村を囲う柵作りとチーズケーキ作り。時間があれば織布ですね」

 空いている席に座って注文すると、それほど待つことなく料理が運ばれてきました。ただ、料理を持ってきたのはピエナさんではなく前掛け姿のエレノアさんです。驚きのあまりに、ミッケさんとルルが目を見開いて固まっています。

「お待たせしました。桜華さん。話したいことがあるので、後でギルドに来てください。それと、そっちの二人は何を驚いているのですか?」
「えっ、えっと、その、予想外の格好だったもので」

 ミッケンさんが慌てながらも絞り出した言葉に、ルルも大きく頷いています。

「前掛けを着けただけで予想外? 二人共、私の事をどう思っているのですか?」

 エレノアさんが満面の笑みを浮かべながら、強烈な冷気が噴き出しています。周囲にいる人達はそれを感じたのか、飲食物を片手に驚くほどの勢いで距離を取って様子を窺っています。

「ええっ、えっと……その……」

 ルルと手を取り合って必死に考えるミッケさんと、微笑みを浮かべて見つめるエレノアさん。周囲から生唾を呑み込む音が聞こえてきました。

「えっと……す、すすす、素敵な若奥さまです!」
「す、すごく似合っていて驚いたんだよ!」

 どもりながらも言い切ったミッケさんに、追随して大声を出すルル。どちらも必死です。

「とってつけたような言葉ですね」

 エレノアさんから笑顔が消えました。私もエレノアさんの視線が途切れた瞬間に気配を消して、体を小さくしながら周囲の人たちの中に紛れ込みます。

「この際ですから、正直な処を聞きたいですね」
「いやいや、正直な処と言われても」
「素面では話せないですか? ああ、ピエナありがとう。さぁ、話しましょうか?」

 話している途中で、笑顔のピエナさんがエールの入ったコップと樽を持ってきてしまいました。

 ミッケさんが助けを求めて周囲へ視線を向けると、一斉に視線を逸らして巻き込まれない様にわざと大きめの声を出しながら宴会を再開させます。

 私も背中にミッケさんとルルの視線を感じつつ、他の人たちの席に紛れ込みます。つくねが美味しいです。
 宴会を楽しみ、一心地ついたところでより騒がしくなっていく笹熊亭を出てギルドへ移動します。

「……あ。キャシーさん。いいですか?」
「え、あ。はい。少し間お待ちください」

 キャシーさんが書類仕事を片付ける終わるまで、いつもの席に座って待ちます。

「お待たせしました。えっと、エレノアさんは……」
「笹熊亭で、印象についてとある二人と少々踏み込んだ話をしていまして」
「ああ、なるほど」

 納得したという感じで呟くと、笹熊亭に向けて無言の合掌。何の祈りでしょうね。

「さて、今日も色々とありましたが、まずは柵の件ですね。確認を行った結果、壊れていた部分の他に複数箇所で作り直す必要がありました。盗賊が近づいてきているのもあるので、折角なのでより丈夫に作ろうという話になりました。概要はこのようになっています」

 差し出された紙を受け取って中を確認します。

 丸太を縦に埋め込み、隣り合う丸太を紐で縛らず、互いに切り込みを入れて平板を差し込んで固定、一定間隔で腰位の高さに内側方向へ斜めに丸太を入れて倒壊への支えにする。更に、表面に漆喰の様な物を厚めに塗り付けて完成。

「柵というより塀ですね。これを魔具に?」
「ええ。魔物除けは必要ですから。ついでに、物理と魔法に強くして頂ければと」
「分かりました」

 差し出された申請書を受け取り、今回使う魔法陣を記入していきます。
 魔具の要となる部分は広場にそれとなく埋め込む木の杭として、塀に生成する結界の位置を調整する魔法陣を貼り付ける事に。
 魔石を取り付ける細工は大工さんにお任せとなります。

「それからですね、こちらも記入お願いします」
「何でしょうか?」

 受け取った書類を確認すると、今までは村の外側だった北門から南門にわたる村の北側の土地(牧場も北側)を牧場として、新たに賃貸借契約を行うという書類でした。

「塀を外側に広げてまで牧場の拡大ですか?」
「本日の一件でラウル様とコリンズ様が協議した結果、何か増える可能性があるからその方が良いと結論が出たそうです」
「増やしたくて増やしたわけでは……」
「分かっています。ですが、同じようなことが起きる可能性は否定できないですよね」
「……そうですね」

 ついでに出された書類は、牧場に鶏舎を建てる申請書と確認書。今ある厩舎も建て直す計画のようですね。

「資材は避難所の前にある広場に集める予定になっています。木材は迷宮都市で溢れているトレント材を調達するので、搬送に数日必要になります」

 ロームさんが言っていた話と同じで、こちらも資材が余っている状態とのこと。
 書類への記入を終えて差し出すと、確認をして満足そうに頷いてくれました。ですが、まだ終わりではないようです。

「次は公衆浴場です。こちらは人手の都合がまだついていないので、稼働していません。明日、町から食料品の輸送があるのですが、同時に移住者がいるという話があるのでその中で働き手を集める予定になっています」

 いなければ、ロームさんに連絡を取って人手を連れてきてもらうことになるそうです。

「後は……桜華さんのゴーレムですが、村の警備と何かあった時の人手としてお願いしたいという話が来ています」
「それは問題ないです。指示できるのは私とカイゼルさんで良いでしょうか」
「エレノアさんもお願いします」

 警備代表とギルド代表という事らしいです。ラウルさんではなくエレノアさんなのは、実働要員だからだそうです。

「それでは、桜華さん。宜しくお願いしますね」
「はい、頑張ります」

 お辞儀してギルドを後にします。ミッケさんとルルが笹熊亭でエレノアさんを引き付けてくれたおかげで、怖い目に合わずに済みました。二人にはお礼をしないといけませんね。

 色々と入用になりそうなものを購入して帰宅すると、二人はまだ帰宅していませんでした。帰ってくるのを待つ間に、鞄の中身を確認します。

 丈夫な蔦は結構な量が束になって入っています。これだけあれば、色々と作れそうです。

「おーい。起きてるかい」
「は~い」

 外に出てみると、狩猟者のお姉さん達がミッケさんとルルを担いでいました。結局、酔い潰れることで逃げ切った(見逃してくれた?)そうです。

 二人を狩猟者のお姉さん達から受け取って、テラスからリビングに入れて転がしておきます。

「わざわざ、ありがとうございます」
「いいの。気にしないで」

 笑いながら手を振る皆さんにお辞儀して、見送ります。この後は笹熊亭で朝まで飲むそうです。元気ですね。

 さて、戸締りをしたら、日課をこなして眠るとしますか。
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