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Ⅲ.霞む、君
余暇の過ごし方
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「なんじゃこりゃぁ……」
唖然としたエリンがこぼした。その言葉を口にするつもりはないが、同感だ。
広い部屋は白い壁と茶色いフローリングで、壁に取り付けられた棚には十数体もの少女人形が飾られている。勉強机とは別に、猫脚のテーブルと椅子がある。立派なタンスや本棚と、あとはベッド。至るところに、うさぎやくまのぬいぐるみが置いてあったり、女の子らしい小物入れや、文房具が揃えられている。
“シャルロッテ、一度寝たらなかなか起きないんですよ。明日は土曜日だし、そのまま寝かせといても構いませんよ”は、中枢管理部の人の言葉だ。確かに、全く起きる気配がない。とりあえずベッドに下ろす。
「えーと、パジャマはどれだー?」
「すごいねぇ、フリフリの服いっぱい。かわいいなぁ」
普通にタンスを開けて、中を物色し始めた二人。
「ちょっと……勝手に開けていいの?」
「だって制服シワシワになったら困るし……あっこれだ」
昨日着ていた、白いワンピースを引っ張り出した。それを着せるべく、シャルを脱がす。気持ち良さそうに寝ていて、本当に起きない。
四苦八苦してシャツまで脱がした。
「……やっぱり、この子もなのね」
背中の肩甲骨の間辺りに刻まれた、黒い蝶のシルエットと小さな宝石。これは、アゲハ隊員である証。己が特別な存在であることを証明できる。
特別な存在____第一部隊が『アゲハ隊』と呼ばれる理由がわかることだろうし、一度説明しておこう。
アゲハ隊員は、この地位に実力で這い上がった訳ではない。
私たち隊員の身体には、古代の龍が入っている。入っている、というのは、厳しい適性検査の後、龍の力を圧縮した……『魂』と呼ばれるものを身体に宿したということ。その魂が結晶として現れたものが背中の宝石らしい。
私たちには龍の力が使えるらしいが、まだ習得できていない。
古代、この世には龍が存在していた。それが化石となったものを研究して、力を復元させるまでに至らせたのは、このヴィクトワール帝国が世界で最初なのだと。
龍というのは、大層美しい生き物なのだという。蝶が象徴するのは「男性に負けない、強い女性」だとどこかで聞いた。などのことが合わさって、私たち第一部隊は、美しい「アゲハ蝶」から取って、アゲハ隊と呼ばれることになったのだ。だが、これを決めたのは上部の人間たちで、生徒らは私たちの身体に龍の魂が入っていることも知らない。
シャルを着替えさせ終わった私たちは、電気を消してシャルの部屋を後にした。
✾
翌日。朝から私は支度に忙しくしていた。シャルの入隊祝いも込めて、隊員同士、親睦を深めよう____まあ、つまり遊びに行こうということになったからだ。シャルは寝ていたが、携帯にメールを送っておいたところ、早朝に承諾の返信が来ていたので決定。
そこまでがこれまでの流れであるが。
「うーん……」
私は頭を悩ませていた。
床には二組のコーディネート。そう、今日の服装について悩んでいたのだ。
一つは、白のトップスにタイトなデニムスカート、淡い水色の長いカーディガンのコーディネート。
もう一つのコーディネートは、黒に細い白のストライプが入ったジャンパースカートの下に、白い薄手のニット。
「…………。」
数分後。決まらない。
私は青色が好きだ。どっちを着たいかと言われれば、一番目の服だろうが、爽やかすぎるというか、季節感が無いわけではないけど二番目の方がいいような気もする。でもより着たい服を着たほうがいいのでは?考えているうちに、だんだんわからなくなってくる。決まらない。どうしたらいい。
そんな私を見かねたように、携帯の着信音が鳴った。電話の相手はエリン。
『もしもし』
『まだ準備できてない?そろそろ申請出したいんだけどー』
『ああ、ごめん!あと……五分!五分待って!』
『はいはーい、了解』
ええい、勢いで二番目だ!
手にとってさっさと着替え、一つ目の服を仕舞い、直感で選んだ、三角形のイヤリングをつけてカバンを持ち、部屋を飛び出した。エレベーターを待つ余裕もなく、階段を駆け下りる。休日の外出には、申請が必要だ。私としたことが、待たせることになるなんて。
「ご、ごめん……!」
「いえいえー、珍しいね」
息を切らしながら駆け込んだ寮の玄関では、三人が待っていた。フード付きの白いトレーナーの上に、カーキ色のブルゾン。スキニージーンズとスリッポン、リュックサックというカジュアルな格好のエリンが、いつもどおり笑顔で迎えた。
「まず、中央棟だね」
こっちのエイミーは、下にシャツを着たグレーのトップスと膝丈で白いチュールスカート。茶色のショートブーツ、花のモチーフのネックレスとイヤリング。今日は髪をゆるく、一つの三つ編みにしていて可愛らしい。
春ののどかな休日。他の生徒らはまだのんびりしているのだろうか、姿がほとんど見えない。
「ふわぁ~暖かいですねぇ。
あっ!ハンナ先輩、昨日はおんぶしていただいたみたいで、ありがとうごさいました~」
「あぁ、いいのよ。それにしても、可愛らしいお部屋ね」
「え、そうかなぁ……?」
シャルの口からポロッとタメ語が漏れた。嬉しそうにしている姿もかわいい。
「そうそう!なんか広くなかった!?」
「お人形さんもいっぱいあって、憧れるなぁ……」
女の子らしいものが好きなエイミーとは趣味が合うだろうとは思っていた。
それにしても、今日のシャルの格好。
薄ピンクのワンピースで、セーラーカラーがついている。白や紺色のリボンやフリルがたくさんついていて、小さなお姫様のようだ。靴もリボンのついた紺色のヒール靴。白のショルダーバッグには可愛らしいうさぎのキーホルダーがついている。本当によく似合っている。
外出申請を出し、受理されたので校門をくぐって街に向かって歩く。学園を取り囲むのは林で、抜ければ大通りに出る。
私たちは、るんるんとスキップしながら帝都へと向かった。
唖然としたエリンがこぼした。その言葉を口にするつもりはないが、同感だ。
広い部屋は白い壁と茶色いフローリングで、壁に取り付けられた棚には十数体もの少女人形が飾られている。勉強机とは別に、猫脚のテーブルと椅子がある。立派なタンスや本棚と、あとはベッド。至るところに、うさぎやくまのぬいぐるみが置いてあったり、女の子らしい小物入れや、文房具が揃えられている。
“シャルロッテ、一度寝たらなかなか起きないんですよ。明日は土曜日だし、そのまま寝かせといても構いませんよ”は、中枢管理部の人の言葉だ。確かに、全く起きる気配がない。とりあえずベッドに下ろす。
「えーと、パジャマはどれだー?」
「すごいねぇ、フリフリの服いっぱい。かわいいなぁ」
普通にタンスを開けて、中を物色し始めた二人。
「ちょっと……勝手に開けていいの?」
「だって制服シワシワになったら困るし……あっこれだ」
昨日着ていた、白いワンピースを引っ張り出した。それを着せるべく、シャルを脱がす。気持ち良さそうに寝ていて、本当に起きない。
四苦八苦してシャツまで脱がした。
「……やっぱり、この子もなのね」
背中の肩甲骨の間辺りに刻まれた、黒い蝶のシルエットと小さな宝石。これは、アゲハ隊員である証。己が特別な存在であることを証明できる。
特別な存在____第一部隊が『アゲハ隊』と呼ばれる理由がわかることだろうし、一度説明しておこう。
アゲハ隊員は、この地位に実力で這い上がった訳ではない。
私たち隊員の身体には、古代の龍が入っている。入っている、というのは、厳しい適性検査の後、龍の力を圧縮した……『魂』と呼ばれるものを身体に宿したということ。その魂が結晶として現れたものが背中の宝石らしい。
私たちには龍の力が使えるらしいが、まだ習得できていない。
古代、この世には龍が存在していた。それが化石となったものを研究して、力を復元させるまでに至らせたのは、このヴィクトワール帝国が世界で最初なのだと。
龍というのは、大層美しい生き物なのだという。蝶が象徴するのは「男性に負けない、強い女性」だとどこかで聞いた。などのことが合わさって、私たち第一部隊は、美しい「アゲハ蝶」から取って、アゲハ隊と呼ばれることになったのだ。だが、これを決めたのは上部の人間たちで、生徒らは私たちの身体に龍の魂が入っていることも知らない。
シャルを着替えさせ終わった私たちは、電気を消してシャルの部屋を後にした。
✾
翌日。朝から私は支度に忙しくしていた。シャルの入隊祝いも込めて、隊員同士、親睦を深めよう____まあ、つまり遊びに行こうということになったからだ。シャルは寝ていたが、携帯にメールを送っておいたところ、早朝に承諾の返信が来ていたので決定。
そこまでがこれまでの流れであるが。
「うーん……」
私は頭を悩ませていた。
床には二組のコーディネート。そう、今日の服装について悩んでいたのだ。
一つは、白のトップスにタイトなデニムスカート、淡い水色の長いカーディガンのコーディネート。
もう一つのコーディネートは、黒に細い白のストライプが入ったジャンパースカートの下に、白い薄手のニット。
「…………。」
数分後。決まらない。
私は青色が好きだ。どっちを着たいかと言われれば、一番目の服だろうが、爽やかすぎるというか、季節感が無いわけではないけど二番目の方がいいような気もする。でもより着たい服を着たほうがいいのでは?考えているうちに、だんだんわからなくなってくる。決まらない。どうしたらいい。
そんな私を見かねたように、携帯の着信音が鳴った。電話の相手はエリン。
『もしもし』
『まだ準備できてない?そろそろ申請出したいんだけどー』
『ああ、ごめん!あと……五分!五分待って!』
『はいはーい、了解』
ええい、勢いで二番目だ!
手にとってさっさと着替え、一つ目の服を仕舞い、直感で選んだ、三角形のイヤリングをつけてカバンを持ち、部屋を飛び出した。エレベーターを待つ余裕もなく、階段を駆け下りる。休日の外出には、申請が必要だ。私としたことが、待たせることになるなんて。
「ご、ごめん……!」
「いえいえー、珍しいね」
息を切らしながら駆け込んだ寮の玄関では、三人が待っていた。フード付きの白いトレーナーの上に、カーキ色のブルゾン。スキニージーンズとスリッポン、リュックサックというカジュアルな格好のエリンが、いつもどおり笑顔で迎えた。
「まず、中央棟だね」
こっちのエイミーは、下にシャツを着たグレーのトップスと膝丈で白いチュールスカート。茶色のショートブーツ、花のモチーフのネックレスとイヤリング。今日は髪をゆるく、一つの三つ編みにしていて可愛らしい。
春ののどかな休日。他の生徒らはまだのんびりしているのだろうか、姿がほとんど見えない。
「ふわぁ~暖かいですねぇ。
あっ!ハンナ先輩、昨日はおんぶしていただいたみたいで、ありがとうごさいました~」
「あぁ、いいのよ。それにしても、可愛らしいお部屋ね」
「え、そうかなぁ……?」
シャルの口からポロッとタメ語が漏れた。嬉しそうにしている姿もかわいい。
「そうそう!なんか広くなかった!?」
「お人形さんもいっぱいあって、憧れるなぁ……」
女の子らしいものが好きなエイミーとは趣味が合うだろうとは思っていた。
それにしても、今日のシャルの格好。
薄ピンクのワンピースで、セーラーカラーがついている。白や紺色のリボンやフリルがたくさんついていて、小さなお姫様のようだ。靴もリボンのついた紺色のヒール靴。白のショルダーバッグには可愛らしいうさぎのキーホルダーがついている。本当によく似合っている。
外出申請を出し、受理されたので校門をくぐって街に向かって歩く。学園を取り囲むのは林で、抜ければ大通りに出る。
私たちは、るんるんとスキップしながら帝都へと向かった。
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