騎士団長の初恋を実らせるつもりが、うっかり恋に落ちました~心の声が聞こえる第五王子は街で人気の占い師~

まんまる

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「サミエル王子、いくら他国の王子と言えど、先触れもなく失礼ではないですか?しかもここは私達夫夫の私室です。出ていってもらえますか」

サミエル王子と目が合った瞬間、アルは僕を背中に庇うように立ち上がると、突然部屋に入ってきたサミエル王子に冷静に声を掛けた。

一瞬見えた王子は、くすんだ銀色の髪につり上がった藍色の瞳で、3年前のあの日、街で子供と揉め事を起こしていた人物に間違いなかった。


「チッ、何が夫夫だ。アルバート、確か君は3年前、私とノア殿が運命的な出会いをしたあの時、私の護衛を務めていたな。あれは誰が見ても私とノア殿が出会う為に、天が与えた瞬間だった。君もそう思うだろ?だからノア殿と婚姻を結ぶのは私でなければならないんだよ」

「サミエル王子、お帰りください」

アルがサミエル王子の言葉を無視して退室を促すと、突然王子が怒鳴り出した。

「貴様ぁぁ!!ノア殿が王城にいるなどと、侯爵家如きが私をたばかるとは!この3年、この国の王にもずっと騙されてきた!だが、屋敷の前で待った甲斐があったよ。くくっ、騎士団長ともあろう者が、私にも気付かずあのように慌てていたら、屋敷にノア殿がいると言っているようなものだよ」
「⋯王子が待ち伏せとは」
「何だとっ!」

アルの背中に隠れていてサミエル王子の表情は見えないけど、突然怒り出したと思ったら、今度はアルを馬鹿にしたように笑ったりして、サミエル王子が冷静でないことは、顔を見なくても分かった。


「ノア殿、迎えに来ました。そんな男に隠れていないで、出てきてください。さあ、私の手を取ってください」

サミエル王子の、まるで子供をあやすような気持ちの悪い声が聞こえてきて、僕は思わず目の前のアルの騎士服のマントにしがみついた。
アルは僕を護るように、左腕を僕の背中に回してアルの背中にぐっと引き寄せてくれた。


「さあ、おいで」

ゾクッ

全身が氷水を浴びたように粟立った。
その瞬間、サミエル王子の心の声が一気に頭の中になだれ込んできた。

(はぁ、今私はノアと同じ空気を吸ってる。手を伸ばせば触れる事もできる。早くこの胸に抱き締めたい。早く私のものにしたい。国へ帰ったら、部屋に閉じ込めて、毎日可愛がってあげないと)

「ひっ」

僕が思わず小さな悲鳴を上げると、アルが全てを察したように、くるりと後ろに向き直って、僕の顔を覗き込んできた。

「ノア、顔色が悪いようだ。大丈夫か?私がついている。落ち着いて、集中するんだ。私の声だけ聞いてごらん」

アルは僕を落ち着かせようと、柔らかく微笑んで、僕の頭を撫でてくれた。

「貴様ぁぁ!私のノア殿に触れるなあぁ!」

サミエル王子がまた突然怒鳴り出した。
王子の異常な振る舞いが怖くて、きつく目を閉じ、目の前のアルの胸に必死にしがみつくと、アルはサミエル王子のそんな様子を気にも留めずに僕を優しく抱き締めてくれた。

「離れろおおぉ!!」

僕がアルに抱き締められた瞬間、サミエル王子が更に大きな声で喚き出した。

(離れろ!ノアに触れていいのは私だけだ!ふざけやがって!殺してやる!)

アルの腕の中に護られているはずなのに、耳から聞こえる喚き声と、頭に響いてくる憎悪にまみれた声が、僕の正気をじわじわと奪っていくような気がして、両手で必死に耳を押さえた。


「ノア、大丈夫だ」

その時、アルの優しい囁き声が聞こえてきて、強ばった体から少しずつ力が抜けていった。

「アル、取り乱してしまってごめんなさい」

アルの顔を見上げると、いつもと変わらない、僕を愛おしそうに見る青い瞳と目が合った。

アルはサミエル王子に向き直り、圧倒される程の威厳を放ち、しっかりと王子を見据えた。

「サミエル王子、いい加減にしてください。ノアが怯えています」
「何だと!う、嘘をつくな!」
「はぁ、ノアはもう私の伴侶になったんですよ。私達は私達の意思で婚姻を結びました。もうノアにこだわるのはおやめいただきたい」

「その口の利き方は何だ!私は王子だぞ!」

サミエル王子がアルの態度に苛立ち、子供じみた言葉をまくし立てたその時、執事長が開け放ったままの扉を叩いた。

「失礼します。王太子殿下がお見えです」

執事長の言葉に、三人とも反射的に入り口に目をやると、そこにはこの国の王太子であり、僕の一番上の兄様が、見慣れない騎士服を着た壮年の男性と二人で立っていた。

「だ、団長⋯」

最初に口を開いたのはサミエル王子だった。

「サミエル殿下、殿下は陛下に謹慎を言い渡されているはずです。何故このような所にいらっしゃるのですか?」


サミエル王子は自国の騎士団長に連れられて、渋々部屋を出て行った。
サミエル王子は、険しい表情の兄様と、申し訳なさそうに頭を下げる騎士団長を一瞥して、苦々しい顔をして出ていった。



僕はアルの背中に隠れていて、サミエル王子がアルを憎悪に満ちた目で見ているのに、全然気付いていなかった。

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