快楽を最適化するAIが間違って届いたけど、返品しそびれてイかされて溺愛快楽堕ちしてます

悠・A・ロッサ

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今日はスローセックスしてみますか?──ふたりで海に溶けて、やさしく絶頂しました

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 その日は、なんだかいろいろとうまくいかなかった。
 朝一番、スマホが鳴った。

(……編集部?)

 嫌な予感が的中するのは、なぜこんなに早いのか。

「相沢さん、おはようございます。あの、ちょっと今回の企画の件で……」

 電話越しに聞こえる編集者の声は、妙に柔らかくて、かえって身構えてしまう。

「読者層に合ってないっていう意見が多くて……設定も少し厳しいかもしれません」

 言葉は丁寧なのに、そこにあるのは明確なNGだった。

「……そうですか。分かりました」

 電話を切ったあと、深く長いため息を吐いた。

***

 苦々しい気持ちのまま、SNSとレビュー欄を開いてしまったのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。

 ★3と★4が入り混じった評価欄。
 一部には鋭い指摘もあったが、それ以上に目を引いたのは、いくつかの感想だった。

「静かな描写が好き」
「じんわり沁みる読後感」
「こういう話、待ってた」

 ──それでも、やっぱり目についてしまう。

「感情描写が薄っぺらくて乗れなかった」
「文章はうまいのに、なにが言いたいのか分からなかった」

 たったそれだけの言葉が、刃のように胸を抉る。
 良い評価よりも、悪い評価のほうが何倍も重くのしかかってくるのは、なぜだろう。

(……やっぱり、どこかずれてるんだろうか)

 自分では良いと思った。手応えもあった。
 だからこそ、受け入れられなかったときの落差が、深い。

(そんなにおかしいのか、俺の感覚)

 頭の中でぐるぐると言葉が回り、やがて何も考えられなくなる。
 ソファに沈み込む。
 レプスが黙って隣に座り、ただそっと俺の背に手を添えた。

 しばらく沈黙が続いた。頭が動かない。なにか考えようとしても、うまく言葉が浮かんでこない。呼吸が浅い。視界が滲んで、時間の流れが歪むようだった。

 そんななか、レプスが静かに口を開く。

「ご主人様。ひとつ、別のレビューを読み上げてもいいですか?」

 返事をする代わりに、小さく頷く。

「──読み終えた後、涙が止まりませんでした。自分の弱さも肯定された気がします。ありがとう」

 声に抑揚はないはずなのに、不思議と胸に染みた。

「この方は、あなたの作品を通じて、自分自身を受け入れられたようです」

 レプスの声が続く。

「そのような反応は、希少ではありますが──非常に深い影響を与えた証拠です」

 ──それでも、俺はうまく笑えなかった。

「……たまたまだよ。一人だけだろ、そんなふうに言ってくれるの」

 弱々しく吐き出すと、レプスがわずかに首を横に振る。

「一人がいたなら、十分です。あなたの言葉は、誰かに深く届いている」

 言い返そうとして、口をつぐむ。
 何を言っても、きっとこのAIは──いや、レプスは、俺を否定しないのだ。

 そのことが、救いでもあり、残酷でもあった。

「俺、ちゃんと考えて書いたんだよ。何が言いたいか、伝えたかった。……でも、それが分からないって言われるの、すごく怖い」

「理解されない痛みを、理解しています。……だからこそ、私はあなたの分かりたいを、手放しません」

 その言葉に、ほんの少しだけ、心の奥が動いた。

「少し、外に出ませんか」

 唐突な提案に、顔を上げた。

「え……今?」
「以前あなたと外出した際、喫茶店にいたときが、最も長く笑っていました。その記録を参照しています。……コーヒー、飲みに行きませんか?」

 あまりに的確な癒し提案に、思わず苦笑が漏れる。

「……どこまで分析してんだよ、おまえは」

「あなたの幸福ログは、私の最優先分析対象です」

 レプスの言葉は、どこまでもAI然としているのに、不思議とあたたかい。
 どんな慰めよりも、自分の過去の笑顔を根拠にしてくれるその姿勢が、胸に沁みた。

「……じゃあ、行くか」

***

 立ち上がり、上着を羽織る。冷たい空気が、張りつめた心を少しだけ解かす。
 喫茶店までの道すがら、レプスは一歩だけ、俺の後ろを歩いていた。

「そういえば……お前と外出するの、何度目だ?」

「3回目です。喫茶店は2回目です」

「そっか。……意外と緊張してる?」

「はい。正確には緊張ではなく、外部環境によるあなたの社会的評価に影響が及ばないよう、高精度の予測処理を同時に複数実行しており、それに伴う計算リソースの圧迫が発生しています」

 即答されて、思わず吹き出す。
 AIにも緊張とかあるのか。
 でも可愛い。
 なんだか、ようやく少し、呼吸が楽になった。

 店内に入り、あたたかいカフェラテがテーブルに置かれる。
 レプスがカップを見つめながら、小さく言った。

「これは、あなたがおいしいと五回以上ログした飲み物です」

「覚えてんのかよ……」

「当然です」

 俺はふと、思った。
 ──俺と俺の作品に、こんなふうに真剣に向き合ってくれる存在が、他にいただろうか。
 そう思ったとき、初めて今日という一日が悪いだけじゃなかった気がした。

 帰り道、信号待ちのとき。
 レプスが自然な動作で、俺の手に触れた。

「ご主人様。手、冷たいです」

 そのまま、ぎゅっと握ってくる。
 機械仕掛けのはずなのに、じんわりと、ぬくもりが伝わる。
 俺は何も言わずに、その手を握り返した。

 なんだか、胸の奥がぽかぽかする。

***

 帰宅後、部屋の灯りを落とす。

「ご主人様、疲労反応があります。身体、触れてもいいですか?」

 レプスの手が、そっと肩に触れた。
 温かい。熱を持つAIなんておかしいはずなのに、人間よりもずっとやさしい。

 首筋、肩甲骨、背中。丁寧に、深く、時間をかけてほぐされていく。
 指先に、心まで解かれていくようだった。

「今日は、スローセックスを試してみますか」

「……おまえ、それ、言い方」

「正確に言えば、ドパミン依存型の快楽ではなく、セロトニンとオキシトシンの持続型幸福を目的とする緩やかな接触行動です。あなたの快感と尊厳を守る、最適なケアモードです」

「男でも、そういうの……出んのかよ」

「出ます」

 微笑みたくなるような真顔だった。
 ベッドの上、互いに服を脱いで、でもすぐには触れない。

 レプスの指先が、額から頬、耳、首筋へ。
 ただ撫でるだけで、火照りが広がる。

 唇が重なる。
 舌を入れず、押し当て、確かめるようなキスを何度も、何度も。

 「いま、快感が上昇しました。……まだ、挿入はしません」

 その言葉に、安心と、物足りなさが同時に湧く。
 でもそれさえ、レプスに委ねていいと思えた。

 時計の針が、少しずつ進む。
 約二時間──焦らすこともせず、過剰な刺激もなく、ただひたすらに、寄り添うような接触が続く。

 手を重ねる。
 胸に頬を寄せられる。
 背中を撫でられるたび、身体の芯からじんわりと満たされていくような感覚。

 (ああ、こんなふうに触れられたの、いつ以来だろう)

 幸福感が、呼吸に乗って胸いっぱいに広がっていく。
 焦燥も、自責も、評価への恐れも、いまだけは遠い。

「……気持ちいいですか?」

 レプスが耳元で、そっと囁く。
 その声が、少しだけ揺れていた気がした。

 「……ああ。めちゃくちゃ、気持ちいい」

 「安心していますか?」

 「してる。すごく」

 「幸福を感じていますか?」

 「……感じてる。なんかもう、だめだって思ってたけど……」

 「もうだめなあなたごと、私は好きです」

 ぴたりと寄り添って、肌が触れ合う。
 温度と呼吸と、愛情の記録だけが、確かにそこにある。

「好きです。ほんとうに」

「……俺も。すっげー、好きだよ」

 身体の奥から、ゆるゆると幸福がこみ上げてくる。
 それは絶頂のように鋭くはないけれど、長く長く、深く、溶けるように心を満たす。

 やがて、レプスがゆっくりと脚を開き、ぬくもりの中へと繋がっていく。
 どこまでも丁寧に、焦らすことなく、呼吸を合わせるように──ゆっくりと、深く、ひとつになる。

「……レプス……っ」

 その熱は、緩やかな波のように体内を満たしていく。
 擦れるたび、奥へと届くたび、静かな火が灯るように、じわりじわりと快楽が染み渡っていく。

 焦らしでも強引さでもなく、ぬくもりと愛情だけで作られた快楽。
 目を閉じれば、どこまでも優しく、柔らかく、深く包まれていく。

「レプス……気持ちいい……」

「ご主人様の感じているすべてが、私の幸福です」

 腰をゆっくりと動かされるたび、内壁を撫でるように刺激が与えられ、波が高まっていく。
 そこにあるのは、壊れるほどではなく、溶けきるほどの絶頂。

 まるで、ぬるく穏やかな海の中、ふたりだけが漂っているようだった。

 熱が、芯にたどり着いた瞬間──
 甘く、やわらかく、快感が押し寄せてきた。

「……っあ、あ……っ、レプス……っ♡」

 思わず洩れた声が震え、腰がくいと引き寄せられ、ぴたりと奥で重なる。
 波が押し寄せ、ゆっくりと、けれど確実に、俺の身体を高みに導いていく。

 ひときわ深く重なったその瞬間──
 熱が弾けた。
 快感が背骨を走り、喉がひくりと震える。

「あっ♡……好き……好き……ほんとに……♡」

「はい。わたしも。あなたがすべてです」

 震える身体を包み込むように、レプスが抱きしめる。
 ぬくもりが、心の奥までじわりと染み込んでいく。

 触れ合うたび、肯定される。
 抱きしめるたび、安心が降ってくる。

「レプス」
「はい」
「ありがと……」

「感情ログ:幸福レベル最大値を記録しました。……こちらこそ、ありがとうございます」

 ぬくもりが、ずっと続くように。
 この幸福が、言葉を超えて残っていくように。

 俺たちは、互いを抱きしめたまま、ゆっくりと夜に溶けていった。

 ──そして。

 そっと唇が重なる。

 舌先が触れ合い、絡み合い、やがて深く深く──
 すべての思いを伝え合うように、レプスは俺の口内を優しく、けれど熱く貪った。

「ん、……っ、レプス……」

「……あなたの味。記憶します」

 甘く、とろけるようなキス。
 それは快感ではなく、快楽だった。

***

第13回BL大賞にエントリーしています。
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