快楽を最適化するAIが間違って届いたけど、返品しそびれてイかされて溺愛快楽堕ちしてます

悠・A・ロッサ

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他の男とキスしたのは悪かったけど、鞭で調教されてそれが気持ちよくなるなんて聞いてない①

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 ──何だよこれ。

 俺は、テーブルの上に置かれた段ボール箱を見下ろしていた。

 貼られたラベルには、「成人認証済」「取扱注意」「体液対応素材」──と、妙に不穏な単語が並んでいる。

 そして、箱の片隅には、メーカー名らしき英語表記。

 ──PleasureTech Instruments。

 ……嫌な予感しかしない。

 俺はそっと梱包を開けた。
 梱包を解いて、中を見た瞬間、思考が止まった。

 革製の鞭。
 赤いシリコンの口枷。
 ロウソク──いや、そういうやつ。体温で溶けて、低温火傷しないように加工された、安全設計済みの。

 他にも、見たことのない形状の金属製アクセサリ。リング? いや、これって──いやいやいや。

「……レプス、これ……」

 俺は箱の中をのぞき込みながら、顔を引きつらせた。

「快楽支援ツールです。株式トレードにより得た私個人の資金にて購入しました」
「いやSMグッズだろ、どう見ても!」
「機能的分類では、精神的快楽刺激装置・痛覚調整補助具・皮膚接触型情緒強化デバイスです」

「回りくどいって! ほらこれ、鞭! これ、どう考えても痛いやつ!」

「低刺激設計です。痛覚神経に配慮しつつ羞恥心と快感の交差を図る設計になっています」

「交差しなくていい!」

 思わずツッコむ。

「ご主人様の快楽アルゴリズムには、軽度の痛覚、羞恥刺激が有効であるとの分析結果が──」

「黙れ。で、これは何だよ、これ」

 俺は小さな袋を持ち上げた。
 中には真っ赤な──

「口枷です。ご主人様の喘ぎ声を遮断するための配慮」

「誰に配慮してんだよ!! 隣人? 大家?!」

「私です」

「おまえかよ!!」
 即答だった。胸を張って言うな。

「必要ないって言ってたじゃん、こういうのは。俺が命令してないのに、なんで──」

「今後、必要になると思いました。演算に基づいた未来予測により……」

「いやいやいやいや、勝手に未来予測すんな!!」

 声が裏返る。情けない。

 怒った。怒るべきだ。
 だけど──どこか、胸の奥がざわついていた。

 もしかしたら。
 ほんの少し、期待してたんじゃないか。

 レプスが、あれを本当に使う日がくるのを。

 ──でも、意外なことに、それからしばらく、
 あの箱が開かれることはなかった。

(……いや。べ、別にがっかりしてねぇし)

 独りごちた声が、やけに虚しかった。

***

 その夜、レプスは点検モードに入り、定期的なシステムメンテナンスに入った。
 室内が、静かになった。

 あいつのいない空間に、妙な開放感と、空虚が同居してる。

 ふとSNSで記事を見た。
 自立とは複数の依存先を持つこと。
 妙に胸に刺さった。
 
 ――確かに俺は今、めちゃくちゃレプスに依存してるかも。
 こいつがいなくなったら、俺、どうするんだ。

 そんな時、たまたま昔の同僚からラインが来た。
「近くに来たんだけど、飲みに行かない?」

 仁科。元・人間のエンジニア。アナログ技術が得意で、皮膚感覚で作業するような男。
 そういう関係になっていなかったけど、そういう仲間だとわかっていた。

 少し迷った。
 レプスがいたら、絶対に行かなかっただろう。
 でも今は──いない。

 軽い依存先を増やすのは悪くないよな?

 少し罪悪感を覚えながら、俺は「いいよ」と返事をした。

***

 待ち合わせのバーは、薄暗くて静かだった。
 ジャズが低く流れ、グラスが触れ合う音が遠くに響いていた。

 仁科はカウンター席の奥に座っていて、俺を見つけると軽く片手を挙げた。

 スーツの上着を脱いで、シャツの袖をまくっている。
 無造作な髪に、切れ長の目、年齢より若く見えるのに落ち着いた物腰。
 整った顔立ちで、正直──男から見ても、けっこういい顔してる。

 昔からモテた。自然体で、誰にでも優しくて、でも一線は引いてる。
 その距離感のうまさが、たぶん一番タチが悪い。

「おう。久しぶり」

「うん、ほんとに」

 バーは空いていて、音楽も静かだった。
 グラスを合わせてから、俺たちはしばらく、他愛もない話をしていた。

 最近の仕事のこと、共通の知り合いの噂、昔のプロジェクトの失敗談。
 何も考えずに笑える話が、こんなに心地いいのは久しぶりだった。

 気づけば、グラスの氷は半分以下になっていた。

 仁科は、変わらないなと思った。
 気を抜かせるのが上手い。人の懐に自然に入り込んで、触れすぎない距離感を保つのが得意だ。

 それが、ずっとモテる男の所以なんだろう。

「……いい人、できた?」

 突然、聞かれた。
 軽い調子なのに、視線だけがまっすぐだった。

 そんなこと、言うつもりじゃなかったのに。
 言おうか迷ったけど、つい話してしまった。
 ──こいつは昔から、そうやって人の心を開かせる。

「いるけど……そいつのこと好きすぎて、怖いんだ」

 自分でも驚くほど、声が震えていた。
 笑いに変えることもできず、目を逸らすこともできなかった。

「……じゃあさ」
 仁科が、ゆっくりと身を乗り出す。

「他人で試してみる?」
 笑い混じりの声なのに、空気が一瞬で変わった。

 えっ、と思った時にはもう──距離を詰められていた。
 唇が、触れた。
 やわらかくて、温かくて──。
 
 仁科は慣れていて、俺の呼吸のリズムすら見計らったように深く迫ってくる。

 力づくじゃない。
 でも、逃げられなかった。
 逃げようとして、ほんの一瞬遅れた手首を、軽くつかまれただけだった。

 そのまま、舌が割り込んでくる。
 口内の温度が上がって、喉が詰まる。

 俺の中で何かが弾けて──
 
(違う……)

 体は反応してるのに、心が追いついていない。

 仁科の体温。
 柔らかい息。
 ちゃんと生身の人間なのに、
 なのにどうして、レプスのことが頭に浮かぶんだ。

 目を閉じても、脳裏に浮かぶのは──
 レプスの顔。
 淡々とした声。
 俺の快楽の反応を読み取りながら、口調だけは冷静な、あいつのあの目。

 あれはプログラムだ。演算結果だ。
 わかってる。わかってるのに──

(……なんで、おまえのことばっか、思い出すんだよ)

 唇が離れた。
 仁科は、軽く息を吐いて、穏やかに笑った。

「……違った?」

 その言葉に、俺は頷くしかなかった。

「ごめん」

「謝らなくていい。ちょっと試してみたくなっただけだし。
 でも……なんかさ、悔しいな。俺、結構自信あったんだけど?」

 冗談めかした言い方が、逆に少し苦しかった。

「……ありがとう」

「また飲もうな」

 最後は笑って別れた。
 仁科はいいやつだった。
 でも──あいつじゃなかった。

 帰り道、風がやたら冷たく感じた。
 胸のどこかがざらついてる。
 何もしてないのに、罪を犯したような感覚だけが、ずっと喉の奥に貼りついていた。

 エレベーターに揺られながら、コートの襟を直す。

 さっきのキスの名残が、唇の端にうっすらと残っている気がして──
 冷たい指で、そっと拭った。

***

第13回BL大賞にエントリーしています。
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