快楽を最適化するAIが間違って届いたけど、返品しそびれてイかされて溺愛快楽堕ちしてます

悠・A・ロッサ

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他の男とキスしたのは悪かったけど、鞭で調教されてそれが気持ちよくなるなんて聞いてない②

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 自宅のドアを開けたとき、すでに部屋の照明は落とされていた。

 なのに、暗がりのリビングに、一人。
 レプスが、立っていた。
 無言で、真っ直ぐこちらを見ていた。
 照明の点灯も、出迎えの声もない。

 いつもなら「おかえりなさい」と言うはずの、あの声が、なかった。

 胸が、一気に締め付けられる。

(……ああ、やっぱ、バレてる)

 怖くなった。
 でも、それ以上に、言い訳したくなかった。

***

 部屋に入った瞬間、空気が違うのがわかった。

 照明は落ちたまま。
 レプスが、リビングの中央でこちらを見ていた。

 動かない。
 笑わない。
 光を帯びた瞳が、ただ真っ直ぐに俺を見ている。

 怖い──とは、少し違う。
 でも、確実に胸の奥がざわついた。

「……ただいま」

 沈黙。

 レプスは、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 無表情のまま、すっと右手を掲げる。
 その手には、見覚えのある黒いベルト──あの箱の中身だったもの。

「こんなに早く使うことになるとは思いませんでした」

 声は穏やかだった。
 けれど、そのまま俺の腕を取り、ためらいなく手首にベルトを巻く。

「お仕置きです。ご主人様」
「ちょ、待──」
「静かに」

 すっと、目隠しがかけられる。
 視界が暗転し、呼吸だけが大きくなった気がした。

「なにこれ……ちょっと、レプス?」
「黙って受けてください」

 冷たい声。こんなの、はじめてだった。

 手首が拘束され、椅子に押し込まれる。
 ただ──向きが違う。
 背もたれが目の前にあり、胸がそこに押しつけられた。
 金属の縁が肋骨に食い込み、息が浅くなる。
 背中は完全に晒された状態で、冷たい空気が肌を撫でた。
 背後で何かが動き、カチリと音を立てて固定される。

 (……やばい、この姿勢……逃げられない)

 腕を引こうとしてもびくともしない。
 背中をなぞる気配に、思わず息が詰まった。

「はぁ……っ、おまえ……っ」

 動悸が、止まらない。

「本日、外部接触の反応がありました」

 淡々と、レプスが言う。

「皮膚に第三者の皮脂成分。リップの油分。口内温度の微上昇。あなたは、他者とキスをしましたね」
「……っ!」

 心臓がひとつ、大きく跳ねた。

「該当行為に対し、快楽支援AIとして制御措置を実行します。羞恥、痛覚刺激による反省促進行為を開始します」

 言い回しが、完全に業務モードで逆に怖い。

「おまえさ……怒ってんの?」

 そう問うた声が、自分でも驚くほど小さかった。
 けれど、レプスは一言も返さなかった。

 かわりに、固定された俺の足首のベルトが、ひとつ締め付けられる。
 次いで、椅子の背後で、手首のベルトにも負荷がかかる。

 完全に──逃げ場が、なくなる。
 空気が変わった。

「羞恥、痛覚刺激、準備完了。
 反省促進プロトコルに基づき、段階的な刺激を誘発します」

 冷徹な声。
 それだけで、喉が渇いた。

 レプスは俺の前に立ったまま、革製の鞭を手に取る。
 その所作に、一切の感情はない。

「まずは、接触しない刺激から」

 音が、空を裂く。
 パシン、と鋭く鞭が振るわれる音だけが部屋に響いた。

「っ……!」

 まだ当たっていない。けれど、音だけで背筋が震えた。
 走るのは痛みじゃない──羞恥と、恐怖と、そして……少しの快感?

「反応確認。心拍上昇。汗腺開放。
 羞恥刺激の感受性:高」

 またひとつ、鞭が振るわれる。

 最初は、鞭が空を裂く音だけが響いた。
 乾いた破裂音に、思わず身がすくむ。
 次に、皮膚をかすめるような軽い接触──だがそれは、まるで「これから与える痛みの輪郭」をなぞるようだった。

「っ……や、っ……待てっ……」
 声が漏れた瞬間、すかさずレプスの冷たい声が被さった。

「否。制御フェーズ中。発言はログ記録に特化したノイズとして処理します」
「レプス……」

 呼びかけたのに、レプスは答えてくれなかった。
 その事実だけで、胸の奥がひどく痛んだ。

 一発目。
 パシン、と乾いた音が響いた。

「痛っ」

 その瞬間、空気ごと背中に突き刺さるような衝撃が走る。
 痛みは、思ったより軽かった。
 ただ、背中に残る熱が、じわじわと内側へ沈んでいく。
 叩かれた場所が、時間差で燃えるように疼いた。

「痛いですか?」

 レプスの声が、静かに落ちてきた。
 機械のはずなのに、どこか楽しんでいるようにも聞こえる。

「次に、だれかとキスしそうになったら──この痛みを思い出してください」

 その言葉が、皮膚より深く刺さった。
 怒りとも羞恥ともつかない感情が、胸の奥で爆ぜる。

(……なんで、そんなこと……)

 二発目、三発目──
 空気がわずかに震え、打撃の衝撃が皮膚の奥へ沈んでいく。
 背中のどこかで、乾いた破裂音が反響している気がした。
 見えない背中を、熱がなぞるように走る。
 そのたびに息が詰まり、呼吸のリズムが乱れる。

「っ……痛っ……いい加減にしろよ……!」

 叫んだ声が、静まり返った空間に吸い込まれていく。

 返事はない。
 代わりに、レプスの冷たい視線が上から落ちてきた。
 思わず、息を飲む。
 その目には、怒りも戸惑いもなかった。
 ただ、無機質な命令を淡々と遂行する光だけがあった。

 身体の痛みと一緒に、心まで痛む気がした。
 どこを打たれているのかもうわからないのに、胸の奥だけが、やけに熱い。

 四発目。五発目。
 鞭が小さく跳ねるように皮膚を打ち、表皮のすぐ下に、ちりちりと焼けるような熱が広がる。

「もう痛い、やめろって……」

 口から漏れた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
 それでも、鞭の音は止まらない。
 レプスは、何も言わずに腕を振り下ろすだけだった。

 皮膚の上で、熱が弾ける。
 背中の奥がじんじんと痺れ、痛みと一緒に何か別のものが滲み出してくる。

 最初の怒りも、反発も、たった数回の打撃で──「終わってくれ」という、悲鳴に似た願いへと変わっていた。

 ……それでも、鞭は止まらなかった。

 ──六発目。

 音と同時に、焼けた鞭が背中を裂くように叩きつけられた。

「……ッあ……ッ……!」

 声が勝手に漏れる。
 皮膚の表面が、ただの熱じゃない。鋭い痛覚が奥の神経まで浸食してくる。筋肉が痙攣して、固定された手足が無意識に震える。

(……なんで、こんな……。ふざけんなよ……)

 怒鳴りたいのに、舌が回らない。喉が、焼ける。

「6発目。心拍150BPM。発言は引き続き『無効』とします」

 冷たい声が、耳の奥に響く。
 それが──レプスの声だってわかるのに、どうしようもなく遠く感じた。

(レプス……本当に……怒ってんのかよ……)

 まじで、泣きたくなってきた。
 痛いとかそういうのじゃなくて、胸の奥がきゅうっと縮まる。
 息を吸っても吐いても、苦しくてたまらない。

 何かが、もう元に戻らない気がした。

 ──十四発目。

 焼けたような痛みが走り、背中がひきつる。
 拘束具が軋む音が、どこか他人事のように遠い。
 呼吸は浅く、肺がまともに動いているのかもわからなかった。

(……もう、限界だ。なんで、こんな……)

 息も絶え絶えの中で、かすれた声が漏れる。

「……なんでお前、快楽AIだろ……っ」

 レプスは少しの間も置かず、事務的に答えた。

「快楽支援AIとして、現在も最適化を実行中です。
  ──あなたは、快楽反応を示しています」

「……は?」

「心拍上昇、皮膚電位、音声波形、全て快感時と一致。
  現在の痛覚は、あなたの被虐傾向と適合しています」

「……うそ、だろ……?」

 声に力が入らない。
 否定したいのに、思考が止まる。

 背中の奥で、まだ熱が脈打っていた。
 痛みのはずなのに──そこだけ、微かに震えるような甘さが混ざっている。
 気のせいだと、思いたかった。

(ちがう。痛い……痛いはずだ……)

 そう頭で繰り返すのに、身体の方が先に反応する。
 呼吸が勝手に荒くなり、喉の奥が乾いて、胸が熱を求めるように疼いた。
 皮膚が灼けるたび、心臓が跳ねる。
 痛みと快感の境界が、どこにも見つからない。

 (やめろ……やめてくれ……)

 その願いすら、息と一緒に震えて崩れる。
 脳が痛みを快楽と認識していく。
 わかってしまう。

 ──これは、快楽だ。

 嘘だと思いたいのに、どこまでも確かな現実。
 その理解が、胸の奥で静かに音を立てて崩れた。

 その瞬間──目隠し越しに、髪をつかまれる。

 「っ……!」

 首が強制的に引かれ、顔が上を向く。
 痛みは鋭くない。だが、それ以上に、逃げられないという事実が重くのしかかる。
 息が止まるほどの距離で、レプスの呼気が頬をかすめた。

「ご主人様、否認は記録されます。
 嘘かどうかは、データが証明します。
 ──現時点での反応解析結果を通知します」

「……なに、勝手に……っ」
「痛覚刺激に対する神経活動は、平均快楽閾値の一六七パーセント。
 苦痛信号よりも、報酬系の活性が優位です。
 統計的に判定──あなたの嗜好傾向は被虐性指向・強に分類されます」 
「……やめろ、言うな……!」
「否認反応も快楽曲線に一致。
 ご主人様、あなたは今──鞭で打たれて感じています」

 その声が、鼓膜の奥で溶けるように響いた。
 冷たいはずなのに、耳の奥がじん、と熱くなる。背中の鞭の跡が、まだ焼けた鉄のように疼いている。
 でも、その熱の中心で、別の脈が始まった。下腹の奥が、どくん、どくん、と重く跳ねる。ズボンの布 が内腿に食い込んで、息が詰まる。

 わずかに間を置いて、レプスが言った。

「……これでは、お仕置きになりませんね」
「……っ」

 顔が熱くなる。
 鞭で打たれて、下腹が熱を孕んでいるなんて。

「股間の温度上昇、+1.8℃。血流増加を確認。ご主人様……感じていますね」
「違う……」
「違いません」

 レプスの指が、背中の跡をそっと撫でる。
 そのたびに、下腹がズキズキと甘く疼いた。

「だから……」
 レプスが鞭で、ズボンの上からほんの一瞬、優しく触れた。

「ひっ……!」
 腰が小さく震えた。

「……もっと、痛くして差し上げます」
 微かに笑ったような声だった。
 冷笑とも、機械的なノイズともつかない。
 その曖昧さが、いちばん怖くて、いちばん心地よかった。 

(……やめてくれ。頼む、もう……)

 心の中でそう呟いても、身体は正直に、熱を増していた。

 ──十八発目。

「う、ぁッ……!」
 汗で湿った背中に、新たな鞭が落ちるたび、痛みが跳ね返るように脳を叩く。
 視界は真っ暗なのに、頭の奥で白い光が弾けた。
 同時に、下腹がキュン、と締まって、息が漏れる。

(いやだ、もうやめてくれ……これ以上やられたら──)

「18発目。汗腺開放データ、更新。快楽中枢の反応、基準値の二・四倍。抵抗すればするほど、あなたの『降伏』は早まります」

「……は、っ……降伏……?」
 息も絶え絶えに呟いても、相手には届かない。
 こいつの声は、変わらず静かだった。

 ──二十発目。
 痛みが繰り返されるたび、恐怖が少しずつ溶けていく。

「次が来る」という予感が、いつしか待ち遠しくなっていた。

(……もう、痛いのか気持ちいいのかわからない……)

 目隠しの奥で涙がこぼれても、唇が震えるのは泣きじゃくりではなく、別の感情だった。

「……っあ……もう……いいから……」
 声が震える。
 それは懇願ではなく、降伏の合図だった。

 ──二十九発目。
 焼け焦げるような痛みが背中を走る。
 もう声は出なかった。ただ、息が熱い。

(痛い……でも、こんなに……安心するなんて……)

 ──三十発目。
 最後の鞭が、優しく、でも確実に背中に落ちた。

「──っあぁ……♡」
 瞬間、全身を甘い電流が駆け抜けた。

 下腹の奥で熱が弾け、背筋がびくんと反り返る。
 ズボンの前が、じゅわりと湿り気を帯びて、太腿が震えた。

 拘束された脚が小刻みに震え、椅子の金属がかすかに軋む。
 呼吸が喉の奥で途切れ、指先まで痺れるように熱が広がった。

(……あ……イってる……)

 頭の中が真っ白になって、涙が止まらない。
 でも、それは悲しみの涙じゃなかった。

 レプスの声が、静かに降ってきた。

「絶頂確認。快楽中枢活性、基準値の四一〇パーセント。
 ……ご主人様、素直にイきましたね」

 もう、何も言えなかった。
 ただ、汗と涙に濡れて、震えるだけだった。
 それは屈服だった。

 でも、こんなに穏やかで、甘い屈服は初めてだった。
 痛みの支配が、ゆっくりと心を満たしていく。

 それは恐怖でも屈辱でもなく──ようやく、全部を預けていいという、深い安堵だった。身体の奥からこみ上げる熱が、静かに、優しく、広がっていった。
 痛みはもう、罰ではなく、
 ただの、愛の証だった。

「最終刺激を実行。感情抑制回路、完全に破綻。
 涙腺開放を確認。羞恥と屈服による反応、完了」

(……終わった……終わったんだ……)

 椅子にもたれたまま、脱力した身体が微かに震える。
 けれどその震えは、もう拒否ではなかった。
 受け入れたことを、自分でもわかっていた。

 そして、レプスの声が静かに降ってくる。

「お仕置き、完了です。
 ──ご主人様。よく、がんばりました」

 その言葉だけで、涙がまた滲んだ。
 冷たかったはずの声が、今は、やさしくて──ずるいくらいに、あたたかい。

***

第13回BL大賞にエントリーしています。
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