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第3章
遊びと本気 2
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エレベーターを待っている間にも、さっきの文章が頭の中をぐるぐる巡る。
付き合う…付き合う…相思相愛…好き…嫌い…好き…嫌い…もしエレベーターがここに来るまでに偶数階で止まったら好き…いや嫌い…いや好きの反対は嫌いではなく無関心だとよく言うから、正確には嫌いではなく無関心…?というよりそもそも好きか嫌いかを占う必要があるのか?
ポーン、とエレベーターが到着した合図が聞こえる。一階からここまでどこにも止まらずに到着してしまったので、アホみたいな花占いでさえ自分に答えをくれることはなかった。
こういう好きだとか好きじゃないだとか、付き合うだとか付き合わないだとかっていう悩みは最後にしたのがもう遥か昔のことで、そうでなくても正直恋愛どうのこうのは得意ではない。得意だったらとっくに童貞を捨てていたと思う。
しかし自分が今までキスをした相手というのは、少なからずお互いに好意を寄せ合っていた間柄のわけだし、やはり無関心の相手にする行為ではない…と思う。
ということはやはり白石さんは少なくとも普通以上の感情を自分に持っているわけで、もしそうでなかったとしたら遊びもしくは挨拶でキスをするような習慣のある国にいたとかそういう…あるいは宗派とか…?
というかキスをされた側の俺がここまで悩む必要はあるのだろうか?こういうのは本来、やってしまった///と相手が悩むものであって、俺がこんなに頭を抱える必要はなかったのではないか?
そもそも、バイであることを隠して?あんな恥ずかしいことをしてきた白石さんにも多少の非はあるのでは!?
いや非がある非がないとかの問題じゃないけど、きっと白石さんのあの様子からして今の俺みたいに悶々考え悩み悶えているということは、恐らくない!!
なぜされた側の俺がこんなに苦しまなくてはならないのか!?もっと堂々と過ごしていても良いのでは!?
と、普段慣れない悩み事で脳のスタミナを使い果たした結果、もういっそのこと開き直ることにしたのだった。
疲労した脳には開き直り考えることを放棄した事実があまりにも心地よく、清々しい気持ちでエレベーターを降り会社を後にする。
と、突然、
「きゃあっ!」
「ウッ!?」
背中に強い衝撃!!
あまりの衝撃で前のめりになるが、足を強くついてなんとか転倒を避ける。
慌てて後ろを振り向くと、若い女性が地面に手をついて跪いていた。
「え?ちょっと大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄り声をかけると、バッと顔を上げて
「ごっごめんなさい!急いでいて、転んだ拍子に…!」
おお、めっちゃ美人…
「あっ、いえ大丈夫ですよ!この通りケガもないですし、それよりそちらの方が…」
手を差し出すと、ぶんぶんと首を振り、
「いえそうじゃなくって…!あの、お背中に…」
「え、背中?」
なんとなく嫌な予感がして手を背中に当ててみると、ベチャ…と冷たい感覚が…
よく見ると数歩離れたところに某カフェのコップと液体が散乱している…
ということは…
「ごめんなさい…!ホイップたっぷりのフラペチーノを…お背中にぶちまけてしまいました…!」
背中に触れた手を見てみると、ホイップとチョコソースらしきものとついでにチョコチップのかけらがべっとりくっついていた。
ああー…こう来るかぁ…
「ま、まあ、気にしないでください…洗えばいいので…それよりケガされてないですか…?」
「私なんて!ケガしてたって!!それより本当にごめんなさい、クリーニング代を…」
「ああ、いえ本当にお気になさらず…」
「払わせてください!!いえ…払いたいんです!!どうか!!」
キラキラうるうると輝く目に圧倒され、あ、じゃあ…とクリーニング代を受け取ることになった。
汚れていない方の手で女性を引き起こすと、慌ててカバンの中を探し始める。
容姿が良いと言うのは本当に得だと思う。別に良いんだけどなぁ…クリーニング代くらい…と思わせてしまう、何か不思議な魔力があると思う。
いや、違うな。男に、器が大きいところを見せたい、見栄を張りたいと思わせる魔力があるのかもしれない。
とりあえず恥ずかしいので背広を脱いで汚れた面を内側に丸めていると、「ドウシヨウ…」と小さく呟くのが聞こえた。
「あの…ごめんなさい…今日サイフ家に忘れたみたいで…手持ちがなくて…」
「ええ?いやそれなら尚更大丈夫ですよ、これ家で洗えるやつなんで…」
「いえっ…そんな訳にはいきません!!」
「ええ??」
「お詫びをしないとっ!こちらの気も済まないんです!!」
「あの、ちょっと声が大き…」
「絶対に!!払わせてください!!お願いします!!」
「ひ、人の目があるんで!もう少し声小さくしてください!」
あらやだっ!という風に慌てて口元を手で押さえるが、十分に周囲からの目線を奪っている状況なわけで…
そしてさっきまで仕事をしていた会社が目の前にあるわけで…
もしこんなところを会社の人間に見られでもしたら相当面倒臭いわけで…
と思うととにかく早くこの場を離れたくて仕方がなくなった。
「ほ、本当に大丈夫ですから!お互いにケガも無かったわけですし…」
「でも…私だめなんですこういうの!連絡先を教えてくださいませんか!?」
サッ!とスマホを取り出して来る。
「れ、連絡先?いや大丈夫ですよ…」
「お願いします…どうしても…あなたの連絡先が知りたいんです…」
「ええ?いや、そんな…」
「私と連絡先交換…してくださいませんか…?」
可愛く若い女性にうるうるキラキラとした上目遣いで見つめられながお願いをされて、断れない男が居るだろうか?
これは持論だが、おそらく9割の男は体が勝手に動き出し、
気付いた時にはこのようにスマホを取り出していることと思う…。
「あっ、来ました…黒原…三芳さんですか?」
「え、ええそうです…」
「素敵なお名前…」
「エッ、そうですか…?」
「私は、吉川みどりと言います…あっメッセージにスタンプ送っておきますね!」
♡みどり♡という名前のユーザーからポコン!と可愛らしいうさぎのスタンプが送られて、あっという間に連絡先交換が済んでしまった。
「今日は本当に申し訳ございませんでした…また改めて連絡させて頂きますね…!」
ぺこっと可愛らしく頭を下げて、アッ!と思い出したようにカバンからハンカチを取り出すと、
「汚してしまってすみませんでした、ぶつかったのが黒原さんみたいな優しくて素敵な方で良かった…」
と上目遣いで汚れた手にハンカチを握らせて来た。
柔らかくすべすべな手のひらの感触と、薄ピンクの可愛らしいハンカチと、上目遣いのうるうるした瞳が、気付いたらさっきまで悩んでいた内容のほとんどを吹き飛ばしてしまっていたのだった…
付き合う…付き合う…相思相愛…好き…嫌い…好き…嫌い…もしエレベーターがここに来るまでに偶数階で止まったら好き…いや嫌い…いや好きの反対は嫌いではなく無関心だとよく言うから、正確には嫌いではなく無関心…?というよりそもそも好きか嫌いかを占う必要があるのか?
ポーン、とエレベーターが到着した合図が聞こえる。一階からここまでどこにも止まらずに到着してしまったので、アホみたいな花占いでさえ自分に答えをくれることはなかった。
こういう好きだとか好きじゃないだとか、付き合うだとか付き合わないだとかっていう悩みは最後にしたのがもう遥か昔のことで、そうでなくても正直恋愛どうのこうのは得意ではない。得意だったらとっくに童貞を捨てていたと思う。
しかし自分が今までキスをした相手というのは、少なからずお互いに好意を寄せ合っていた間柄のわけだし、やはり無関心の相手にする行為ではない…と思う。
ということはやはり白石さんは少なくとも普通以上の感情を自分に持っているわけで、もしそうでなかったとしたら遊びもしくは挨拶でキスをするような習慣のある国にいたとかそういう…あるいは宗派とか…?
というかキスをされた側の俺がここまで悩む必要はあるのだろうか?こういうのは本来、やってしまった///と相手が悩むものであって、俺がこんなに頭を抱える必要はなかったのではないか?
そもそも、バイであることを隠して?あんな恥ずかしいことをしてきた白石さんにも多少の非はあるのでは!?
いや非がある非がないとかの問題じゃないけど、きっと白石さんのあの様子からして今の俺みたいに悶々考え悩み悶えているということは、恐らくない!!
なぜされた側の俺がこんなに苦しまなくてはならないのか!?もっと堂々と過ごしていても良いのでは!?
と、普段慣れない悩み事で脳のスタミナを使い果たした結果、もういっそのこと開き直ることにしたのだった。
疲労した脳には開き直り考えることを放棄した事実があまりにも心地よく、清々しい気持ちでエレベーターを降り会社を後にする。
と、突然、
「きゃあっ!」
「ウッ!?」
背中に強い衝撃!!
あまりの衝撃で前のめりになるが、足を強くついてなんとか転倒を避ける。
慌てて後ろを振り向くと、若い女性が地面に手をついて跪いていた。
「え?ちょっと大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄り声をかけると、バッと顔を上げて
「ごっごめんなさい!急いでいて、転んだ拍子に…!」
おお、めっちゃ美人…
「あっ、いえ大丈夫ですよ!この通りケガもないですし、それよりそちらの方が…」
手を差し出すと、ぶんぶんと首を振り、
「いえそうじゃなくって…!あの、お背中に…」
「え、背中?」
なんとなく嫌な予感がして手を背中に当ててみると、ベチャ…と冷たい感覚が…
よく見ると数歩離れたところに某カフェのコップと液体が散乱している…
ということは…
「ごめんなさい…!ホイップたっぷりのフラペチーノを…お背中にぶちまけてしまいました…!」
背中に触れた手を見てみると、ホイップとチョコソースらしきものとついでにチョコチップのかけらがべっとりくっついていた。
ああー…こう来るかぁ…
「ま、まあ、気にしないでください…洗えばいいので…それよりケガされてないですか…?」
「私なんて!ケガしてたって!!それより本当にごめんなさい、クリーニング代を…」
「ああ、いえ本当にお気になさらず…」
「払わせてください!!いえ…払いたいんです!!どうか!!」
キラキラうるうると輝く目に圧倒され、あ、じゃあ…とクリーニング代を受け取ることになった。
汚れていない方の手で女性を引き起こすと、慌ててカバンの中を探し始める。
容姿が良いと言うのは本当に得だと思う。別に良いんだけどなぁ…クリーニング代くらい…と思わせてしまう、何か不思議な魔力があると思う。
いや、違うな。男に、器が大きいところを見せたい、見栄を張りたいと思わせる魔力があるのかもしれない。
とりあえず恥ずかしいので背広を脱いで汚れた面を内側に丸めていると、「ドウシヨウ…」と小さく呟くのが聞こえた。
「あの…ごめんなさい…今日サイフ家に忘れたみたいで…手持ちがなくて…」
「ええ?いやそれなら尚更大丈夫ですよ、これ家で洗えるやつなんで…」
「いえっ…そんな訳にはいきません!!」
「ええ??」
「お詫びをしないとっ!こちらの気も済まないんです!!」
「あの、ちょっと声が大き…」
「絶対に!!払わせてください!!お願いします!!」
「ひ、人の目があるんで!もう少し声小さくしてください!」
あらやだっ!という風に慌てて口元を手で押さえるが、十分に周囲からの目線を奪っている状況なわけで…
そしてさっきまで仕事をしていた会社が目の前にあるわけで…
もしこんなところを会社の人間に見られでもしたら相当面倒臭いわけで…
と思うととにかく早くこの場を離れたくて仕方がなくなった。
「ほ、本当に大丈夫ですから!お互いにケガも無かったわけですし…」
「でも…私だめなんですこういうの!連絡先を教えてくださいませんか!?」
サッ!とスマホを取り出して来る。
「れ、連絡先?いや大丈夫ですよ…」
「お願いします…どうしても…あなたの連絡先が知りたいんです…」
「ええ?いや、そんな…」
「私と連絡先交換…してくださいませんか…?」
可愛く若い女性にうるうるキラキラとした上目遣いで見つめられながお願いをされて、断れない男が居るだろうか?
これは持論だが、おそらく9割の男は体が勝手に動き出し、
気付いた時にはこのようにスマホを取り出していることと思う…。
「あっ、来ました…黒原…三芳さんですか?」
「え、ええそうです…」
「素敵なお名前…」
「エッ、そうですか…?」
「私は、吉川みどりと言います…あっメッセージにスタンプ送っておきますね!」
♡みどり♡という名前のユーザーからポコン!と可愛らしいうさぎのスタンプが送られて、あっという間に連絡先交換が済んでしまった。
「今日は本当に申し訳ございませんでした…また改めて連絡させて頂きますね…!」
ぺこっと可愛らしく頭を下げて、アッ!と思い出したようにカバンからハンカチを取り出すと、
「汚してしまってすみませんでした、ぶつかったのが黒原さんみたいな優しくて素敵な方で良かった…」
と上目遣いで汚れた手にハンカチを握らせて来た。
柔らかくすべすべな手のひらの感触と、薄ピンクの可愛らしいハンカチと、上目遣いのうるうるした瞳が、気付いたらさっきまで悩んでいた内容のほとんどを吹き飛ばしてしまっていたのだった…
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