HAMA

わらびもち

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第七章 地獄の主

第48話 一矢報いて

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「貴……貴様! 離さんか……!」

 グラに咥えられたシーシャは、牙で噛まれないようにしながら上顎を蹴った。グラはその衝撃で頭をぐらつかせてしまい、シーシャを放してしまった。

「くそッ! 随分遠くまで連れてこられてしまった……」

てて……お前、九月の八番じゃよな? 触れたものを成長させる能力スキルを持ってる……儂とは相性がいいかもな」

 グラは姿を人型に戻してそう言った。ドラゴンの寿命は途方もなく長い。多少触れられたくらいではどうということはないのだ。

 実際にシーシャを咥えて飛んでいる間に少し触られていたが、大して変わったことはなかった。

「私は六番だ。どこかの誰かが七番と四番を倒してくれたからな。……それと、細胞は移り変わるもの。それができないまま成長を加速してしまえばただ身体が脆くなるだけだ。万物は私の能力スキルに抗うことはできない。貴様の魔力と身体が大きかったから影響が少なかっただけだ」

「なるほど……四番は知らんが、繰り上がりになったのか。まぁ何じゃろうが関係ないがな!」
「『鉄堅硬剛てっけんこうごう』!」
「『硬熱拳ヒートバッグ』!」

 グラは人竜型になり、熱を帯びた硬化した拳を繰り出した。それに対応するようにシーシャも殴りかかる。2人の拳は水平に交わり、大地を揺らすほどの衝撃を生んだ。

「……ぐッ!」
 
「ふんッ! パワーなら儂の方があるか?」

 力の押し合いにはグラが勝ち、シーシャは吹き飛ばされた。追い討ちをかけるため、グラはそれに着いていく。……が、

「不用意に近づくのは考えとけ!」
「『成長グロウ』」

「……!?」

 瞬時に体勢を立て直したシーシャはグラの顔を右手掴んだ。魔力を流し込み、成長を加速させる。グラは咄嗟に手を弾いたものの、軽く顔の骨にヒビが入るのを感じた。

「クソッ!」

「逃すか!!」
「『進打スイトウ』!」

 弾かれた手の反対、左手の打撃がグラの顔面を襲った。骨が一部砕け、酷い痛みが走った。一撃でも喰らうとマズイ。グラはそう判断し、蹴りでシーシャと距離を取った。

ッ……確かに触られるとキツいな……」

「グラ!」

「!?」

 名前を呼ばれ振り向くと、セリアが走って向かってきていた。

「おま……エストはどうした!?」

「あっちよりもグラの方が危険だからって。だからこっちに来たの」

「それはありがたいんじゃけどな……」

「言いたいことは分かるわ。だから早く片付けてエストの手伝いに行きましょう」

「何人来ようと叩きのめすまで……かかって来い!」

「『炎の鎧フレイガード』!」

 真っ赤な炎を纏い、臨戦体勢をとった。莫大な魔力出力で長くは保たない。さらに、最高温度で身体が焼けかねないが、九月を相手にするには温存は無駄だということは嫌というほど理解していた。

「『蛇炎スニーハイ』!」

 剣を抜いて高温の炎を出した。ヘビのような形をした炎でシーシャに噛み付く。シーシャは自分を魔力で覆い、ガードしながら突進してきた。

「……!」

 掌を向けてきた。これは受けてはいけない。そう思って全身から炎を吹き出し防御した。身体が多少焼けようとも構わない。これならそうそう近寄れないだろう。

「『牙竜焔拳ガッシュバルト』!」

「クソッ!」

 グラは炎を帯びた、硬化した爪でシーシャを突き刺した。致命傷にはならないが、充分なダメージを与えられた。2人とも九月の九番・ダルカライトと戦ったときよりも遥かに成長していた。

「ハァ……ハァ……厄介だ……。まさかここまで強いとは……。だが私のフィールドなら負けることはない!」
「『大成長ギガグロウ』!」

「!? な、何!?」

 シーシャが大地に手を置くと、大きく振動を始めた。するとメキメキ、メキメキと地面が盛り上がってくる。そして巨大な木がどんどんと生えてきて、一瞬のうちに巨大な森が生成された。

「ま、マズい!」

 セリアは瞬時に『炎の鎧フレイガード』を解除した。こんな森の中でこれだけの熱を発していてはすぐに燃え広がってしまうからだ。

 ここは街の外と言っても、そこまで炎が広がってしまうかもしれない。最小限の炎だけを剣に纏ってシーシャと向き合った。

「炎を纏って魔力の出力も上げてるのだろ? それを解除して私と戦えるのか!?」

「!?」

 シーシャがセリアの目の前に一瞬で現れた。森の中では視界も悪く、反応に遅れた。その少しの遅れの間にセリアは首を掴まれた。

「う”ッ……!」
「ス……『裂火剣スラッシュ』!」

「その程度、効かないぞ!」

「ガハッ…!」

 炎の斬撃は軽々と受け止められ、腹部に強烈な蹴りを喰らい吹き飛ばされた。首の骨や肋骨に無数のヒビが入り、筋繊維も千切れた。意識は保ちつつも激痛で身動きが取れなかった。

「セリア!」
「『堅竜拳けんりゅうけん』!」

「くッ…! 貴様は相変わらず邪魔だな……!」

 セリアが吹き飛ばされた瞬間、グラがシーシャに接近して打撃を喰らわせた。だが炎で火力を上げなくてはイマイチ決定力に欠ける。反撃の蹴りで脇腹がボロボロになってしまった。

「ハァ……ハァ………。『炎の鎧・剣フレイガード・ソードマスター』……!」

 セリアは全ての魔力を剣に流し込んだ。魔力をどんどんと圧縮し、熱量を上昇させ続ける。

 一撃の準備をしたが、隙がないと当てられないかもしれない。グラに隙を作ってもらおうか……いや、近くだと巻き込んでしまうかもしれない。

「どうするつもりだ? そんなもの振り回してもこの森が炎に包まれるだけだぞ?」

「あんたを殺せば森も消えるでしょ? あんたの能力スキルで無理やり成長させただけなんだから」

「一撃で殺せるつもりか? 外したらすぐに街まで燃えてしまうぞ?」

「やるしかないでしょ!」
「『豪炎突剣フルグライア』!!」
「……!」

鈍いトロいぞ! 死に損ないが!」

「ぐぅ……!」

 炎を纏った強力な突きも、スピードが乗らず軽々避けられてしまった。そして反撃、魔力で強化された腕がセリアの首を狙っていた。

 避けなくては貫かれる……だがセリアは身体の痛みのせいで上手く身体を動かせなかった。なんとか……なんとかして避けなくては……! そう思ったときのことであった。

「ぐぁッ!」

「!??」

 どこから飛んできたのか、一本の矢がシーシャの肩を貫いた。フリナの矢だ。どこからかは分からない。だからこそ回避も防御もされなかったのだ。そしてその攻撃で生まれた隙を、セリアは見逃さなかった。

「『豪炎裂剣フルグリュード』!」

「! ————!!!」

 巨大な炎がシーシャと森を切り裂いた。いや、滅したという方が正しいだろうか。チリ一つ残さぬ威力の技で森も魔族も、全てが言葉の通り無に帰された。

「グラ……早くエストのとこへ行くわよ…………」

「無理するな! 儂の背中に乗れ! 連れてってやる!」

 そう言ってグラはセリアを背に乗せた。セリアは自分の能力スキルで負った火傷や、砕けた骨の痛みを抱えながらも、なんとか気力で意識を繋いでいた。エルフの長老が言っていた“何か”にエストが巻き込まれないことを願いながら。
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