76 / 100
第十一章 作戦会議
第73話 小さなもの
しおりを挟む
「かかって来い!! 小僧ォ!!」
会議の次の昼、おれは大聖堂の中庭に広げられた特訓場に来ていた。今はガルヴァンと打ち合っている。他の人達はまだ来ていないので貸切状態だ。まぁセリアとグラはいるのだが。
ガルヴァンに対して、おれは『身体強化』使わずに体術だけで挑んでいた。ガルヴァンには能力を使ってもらっていたが。
普通の人は魔力を使えばそれだけ魔力総量が増える。対しておれは魔力が無い代わりに、肉体を酷使すればするほど常人以上に強化される。地獄で無限に殺し合いをしていただけに、単純な腕力だけでもそれなりのものになっているようだ。
それなら魔素を纏った強化を鍛えるよりも、今は技術を高めた方がいい。当然、身体強化を使っていなければガルヴァン相手には流石に押されるけれど。
「ぐッ……!」
腕を交差させ、迫る岩のような拳から身を守った。だが大きな体格差があるだけに、おれの体は浮き上がり大聖堂の壁まで吹き飛ばされた。痛っ……たくもねぇけど……やっぱもう少し体重を増やしたいものだな。
「わっはっはっ! 本当に強くなったな! まだやるか?」
「うしッ! もう一本だ!」
壁から起き上がって再びガルヴァンと向かい合った。今度はガルヴァンの攻撃を受け流すことに集中してみるか。拳を握らずに両手を構える。真っ直ぐに、そして力強く迫ってくる拳の軌道を軽く逸らす。何度も何度も……。
「……イテッ!」
「気を緩めるなよ!!」
機関銃のように次々と拳が飛んでくる。出来るだけ小さな力で、出来るだけ大きく軌道を逸らす。力の入れ具合がなんとも難しい。いや、厳密に言えば力は必要ない。
腕の軸、身体の軸、攻撃の軸、全てを理解出来れば木の枝でも攻撃を逸らせられる。……はずだ。はずなんだけど……そんなものを見極めるのは一朝一夕ではいかなそうだ。
こう思うと人間は自分の身体すら完全には理解できていないのだな。魔界へ向かうまでは身体の使い方を極めた方が良いのかもしれない。おれは細かな動きに集中した。
「む?」
「へへっ。どうだ?」
攻撃の軸を見極め、それにほんの少し力を加える。そうして攻撃を受け流す。最初の力技とは違い、技術で対抗している。これがちゃんと出来るようになれば反撃もうまくなるはずだ。とにかく今は精密さと速度を……!
「痛ぁアア!」
「はは! 何してんだお前」
意識しすぎて空振ってしまった。ガルヴァンの硬い拳がおれの額を強く打った。細かいことをしている間は冷静さを失ってはいけないな。焦ったり、難しいことを考えたりすると動きが雑になってしまう。
おれとガルヴァンは一休みするために中庭の端のベンチに腰を下ろした。セリアが笑いながら大丈夫?と尋ねてきたが、怪我するほどではなかったからな。まぁそれを理解しているから笑っているのだろうが。
水を飲みながらガルヴァンと軽く話をした。戦うときのコツだとか、何を意識してるのかとか。参考にするというよりは、ただの雑談といった感じだが。
ガルヴァンの能力は『粉骨砕身』。攻撃を受けるほどに肉体強度と魔力出力が上昇していくらしい。
特訓ではなかなかに鍛えづらい力だが……明日はガルヴァンを殴りまくるか? そんなことをセリアやグラも混ざってワイワイと話していると、2つの人影が中庭にやってきた。
「やぁ、君達」
「スリドさんとリンシャさん!」
「皆さんこんにちは」
来たのは八法帝のリンシャさんとその主人であるスリドさんであった。昨日の約束通り来てくれたのだな。……なんだかスリドさんは保護者みたいだな。
「エストさん。一戦どうですか?」
「いいのか!? やろう!」
おれは座っていたベンチから勢いよく立ち上がりリンシャさんの方へ向かった。後ろから元気だなぁと笑うセリアの声が聞こえる。こんな機会はそうそう無いからな。この機を逃したらもう二度と拳を交えることはないかもしれない。それなら積極的に臨まなくては。
「あんま知らねぇんだけどよ。リンシャさんてどんくらい強いんだ?」
「そうですね……自分で言うのもなんですけど、他の法帝には負けないかと」
へぇ。謙虚そうな雰囲気だが結構な自信があるようだな。おれはリンシャさんの言葉に期待が高まっていた。
おれ達は互いの能力を伝え合って始めることにした。彼女は『空間支配』の能力保持者。根本的には空間魔術とは変わらないようだが、魔力消費が極端に少ないのと、より攻撃的な力らしい。
……どういうことだろうか。まぁぶつかってみれば分かるか。
「空間魔法ってよ……相手を地面の深くに転移させちまえばメチャメチャ強いんじゃないか? そりゃメチャメチャ悪い使い方だけどよ」
おれは準備体操で身体を伸ばしながらそう聞いてみた。なかなかに外道というか……心無い戦法だと理解しているが、戦争する上ではそういう戦法があってもいい気がするのに聞いたことがないからな。提案というより単純な疑問であった。
「えっとですね、空間転移って何もない空間同士を繋ぐものなんです。だから物質の詰まった地点に移動は出来ないんですよね。そもそも自分より遥かに弱い者か承諾した者でないと転移は抵抗されてしまうので……そんなことが可能でもする意味がないですけど」
「そうなのか。……変なこと聞いたな」
「いえ、質問を受けるのは悪い気分ではありませんから」
リンシャさんは清々しく返事をした。魔法にもいろんな制限があるんだな。……当然か。万能な力などこの世界には存在しない。
でも何か……リンシャさんの言葉の中の何かが、僅かにおれの中で引っ掛かっていた。
「さて、始めますよ。エストさん」
「おう! どこからでも来い!」
まぁ難しいことは後だ。今はただこの時間を楽しもう。
会議の次の昼、おれは大聖堂の中庭に広げられた特訓場に来ていた。今はガルヴァンと打ち合っている。他の人達はまだ来ていないので貸切状態だ。まぁセリアとグラはいるのだが。
ガルヴァンに対して、おれは『身体強化』使わずに体術だけで挑んでいた。ガルヴァンには能力を使ってもらっていたが。
普通の人は魔力を使えばそれだけ魔力総量が増える。対しておれは魔力が無い代わりに、肉体を酷使すればするほど常人以上に強化される。地獄で無限に殺し合いをしていただけに、単純な腕力だけでもそれなりのものになっているようだ。
それなら魔素を纏った強化を鍛えるよりも、今は技術を高めた方がいい。当然、身体強化を使っていなければガルヴァン相手には流石に押されるけれど。
「ぐッ……!」
腕を交差させ、迫る岩のような拳から身を守った。だが大きな体格差があるだけに、おれの体は浮き上がり大聖堂の壁まで吹き飛ばされた。痛っ……たくもねぇけど……やっぱもう少し体重を増やしたいものだな。
「わっはっはっ! 本当に強くなったな! まだやるか?」
「うしッ! もう一本だ!」
壁から起き上がって再びガルヴァンと向かい合った。今度はガルヴァンの攻撃を受け流すことに集中してみるか。拳を握らずに両手を構える。真っ直ぐに、そして力強く迫ってくる拳の軌道を軽く逸らす。何度も何度も……。
「……イテッ!」
「気を緩めるなよ!!」
機関銃のように次々と拳が飛んでくる。出来るだけ小さな力で、出来るだけ大きく軌道を逸らす。力の入れ具合がなんとも難しい。いや、厳密に言えば力は必要ない。
腕の軸、身体の軸、攻撃の軸、全てを理解出来れば木の枝でも攻撃を逸らせられる。……はずだ。はずなんだけど……そんなものを見極めるのは一朝一夕ではいかなそうだ。
こう思うと人間は自分の身体すら完全には理解できていないのだな。魔界へ向かうまでは身体の使い方を極めた方が良いのかもしれない。おれは細かな動きに集中した。
「む?」
「へへっ。どうだ?」
攻撃の軸を見極め、それにほんの少し力を加える。そうして攻撃を受け流す。最初の力技とは違い、技術で対抗している。これがちゃんと出来るようになれば反撃もうまくなるはずだ。とにかく今は精密さと速度を……!
「痛ぁアア!」
「はは! 何してんだお前」
意識しすぎて空振ってしまった。ガルヴァンの硬い拳がおれの額を強く打った。細かいことをしている間は冷静さを失ってはいけないな。焦ったり、難しいことを考えたりすると動きが雑になってしまう。
おれとガルヴァンは一休みするために中庭の端のベンチに腰を下ろした。セリアが笑いながら大丈夫?と尋ねてきたが、怪我するほどではなかったからな。まぁそれを理解しているから笑っているのだろうが。
水を飲みながらガルヴァンと軽く話をした。戦うときのコツだとか、何を意識してるのかとか。参考にするというよりは、ただの雑談といった感じだが。
ガルヴァンの能力は『粉骨砕身』。攻撃を受けるほどに肉体強度と魔力出力が上昇していくらしい。
特訓ではなかなかに鍛えづらい力だが……明日はガルヴァンを殴りまくるか? そんなことをセリアやグラも混ざってワイワイと話していると、2つの人影が中庭にやってきた。
「やぁ、君達」
「スリドさんとリンシャさん!」
「皆さんこんにちは」
来たのは八法帝のリンシャさんとその主人であるスリドさんであった。昨日の約束通り来てくれたのだな。……なんだかスリドさんは保護者みたいだな。
「エストさん。一戦どうですか?」
「いいのか!? やろう!」
おれは座っていたベンチから勢いよく立ち上がりリンシャさんの方へ向かった。後ろから元気だなぁと笑うセリアの声が聞こえる。こんな機会はそうそう無いからな。この機を逃したらもう二度と拳を交えることはないかもしれない。それなら積極的に臨まなくては。
「あんま知らねぇんだけどよ。リンシャさんてどんくらい強いんだ?」
「そうですね……自分で言うのもなんですけど、他の法帝には負けないかと」
へぇ。謙虚そうな雰囲気だが結構な自信があるようだな。おれはリンシャさんの言葉に期待が高まっていた。
おれ達は互いの能力を伝え合って始めることにした。彼女は『空間支配』の能力保持者。根本的には空間魔術とは変わらないようだが、魔力消費が極端に少ないのと、より攻撃的な力らしい。
……どういうことだろうか。まぁぶつかってみれば分かるか。
「空間魔法ってよ……相手を地面の深くに転移させちまえばメチャメチャ強いんじゃないか? そりゃメチャメチャ悪い使い方だけどよ」
おれは準備体操で身体を伸ばしながらそう聞いてみた。なかなかに外道というか……心無い戦法だと理解しているが、戦争する上ではそういう戦法があってもいい気がするのに聞いたことがないからな。提案というより単純な疑問であった。
「えっとですね、空間転移って何もない空間同士を繋ぐものなんです。だから物質の詰まった地点に移動は出来ないんですよね。そもそも自分より遥かに弱い者か承諾した者でないと転移は抵抗されてしまうので……そんなことが可能でもする意味がないですけど」
「そうなのか。……変なこと聞いたな」
「いえ、質問を受けるのは悪い気分ではありませんから」
リンシャさんは清々しく返事をした。魔法にもいろんな制限があるんだな。……当然か。万能な力などこの世界には存在しない。
でも何か……リンシャさんの言葉の中の何かが、僅かにおれの中で引っ掛かっていた。
「さて、始めますよ。エストさん」
「おう! どこからでも来い!」
まぁ難しいことは後だ。今はただこの時間を楽しもう。
10
あなたにおすすめの小説
異世界異話 天使降臨
yahimoti
ファンタジー
空から天使が降って来た。
落ちたんだよ。転生かと思ったらいきなりゲームの世界「ロストヒストリーワールド」の設定をもとにしたような剣と魔法の世界にね。
それも面白がってちょっとだけ設定してみたキャラメイクのせいで天使族って。こんなのどうすんの?なんの目的もなければ何をしていいかわからないまま、巻き込まれるままにストーリーは進んでいく。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~
田尾風香
ファンタジー
ある日、リィカの住む村が大量の魔物に襲われた。恐怖から魔力を暴走させそうになったとき前世の記憶が蘇り、奇跡的に暴走を制御する。その後、国立の学園へと入学。王族や貴族と遭遇しつつも無事に一年が過ぎたとき、魔王が誕生した。そして、召喚された勇者が、前世の夫と息子であったことに驚くことになる。
【改稿】2026/02/20、第一章の40話までを大幅改稿しました。
これまで一人称だった第一章を三人称へと改稿。その後の話も徐々に三人称へ改稿していきます。話の展開など色々変わっていますが、大きな話の流れは変更ありません。
・都合により、リィカの前世「凪沙」を「渚沙」へ変更していきます(徐々に変更予定)。
・12から16話までにあったレーナニアの過去編は、第十六章(第二部)へ移動となりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる