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第十二章 人魔大戦
第85話 2000年の真実
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おれは冷や汗をかいていた。あれが侵界・クロワール? 大英雄の身体だって……? そんな訳がないだろ……。だってあれは……。
「エスト……? どうしたの……? 様子が変よ……?」
セリアがおれの肩を揺すりながら心配そうな声でおれに呼びかけていた。だがよく聞こえなかった。
セリアが何を言っているのか、何をしているのか、イマイチ頭に入ってこなかった。
それどころではなかったのだ。鼓動が激しくなっていた。体温が急激に上昇し、頭が真っ白になっていた。
「……? 死んだって聞いてたんだがな。久しぶりじゃねぇか。エスト」
「……その身体は……じいちゃんの……アリウスじいちゃんの身体だろ!? なんでその身体を持っているんだ!? 大英雄の身体って……どういうことだよ…………!」
「名前が似てるとは思わなかったのか? 2000年も経てば言葉も変わるさ。」
「何? どういうこと? ねぇ、エスト!?」
分からない……色んな思考がどれも帰結しない。アイツは侵界で、侵界の身体は大英雄のもので……でもアイツの身体はじいちゃんので……。
じいちゃんは大英雄だったのか……? でも大英雄は2000年くらい前の人間で…………じゃあおれは何なんだ……? おれの歳は18だ……。2000年も昔に生きていたはずがない。でも……確かにあれは大英雄でじいちゃんで……。
「教えてやろうか、エスト。お前、コイツに転移させられたと思ってんだろ。だがそうじゃねぇぞ。お前はただ封印されていたんだ。2000年間、残酷なジジイだぜ。何も分からねぇ時代に一人飛ばされるなんてよ」
そうか……そうだったのか。信じたくはないが信じるしかない。…………おれは2000年も前の人間なのか……。じゃああれは正真正銘じいちゃんで、正真正銘の大英雄ってことで……。
封印するならなんでそんなことを言ってくれなかったのか、なんでそんな有名人だなんてことを黙っていたのか。
じいちゃんに言いたいことはいくらでもあったが、今はそれ以上にコイツに言ってやらなきゃならんことがあった。
「テメェ……じいちゃんの身体ァ奪っときながら……その身体でセリアを傷つけてんじゃねぇぞ……!」
「お前に殺せるのかァ!!? 唯一の愛する家族をよォ!!」
おれは容量以上の魔素を全身に流した。怒りで無理やりに回したからだろうか、魔素どうしがぶつかって全身が熱を発していた。
昔の圧縮身体強化みたいに激しい痛みに襲われた。だがそんなことはどうでもよかった。
「『堕天昇魔』!」
「ッ!?」
おれはクロワールに向かって突進し、水平な姿勢から横向きに蹴りを喰らわせた。脚がクロワールの胴体に触れた瞬間、魔素を爆発させ、生じた爆炎がクロワールを吹き飛ばした。
「セリア達はここで待ってろ。今は近づかないでくれ。巻き込みかねないから」
「……分かったわ……」
「ポーション、ギルバートさんに使ってくれ。命は繋がるはずだ」
「……帰ってきてよ……!」
「……死ぬ前に帰ってくるよ」
おれは出来る限り優しい声でそう言った。実際にはそうでもなかったとは思う。でも、出来るだけ怒りを見せないようにした。
顔もあまり見せないようにしたのは恐かったからだ。セリア達とおれとじゃあ住んでる世界が違うような気がして、もしかしたらセリアがおれのことを恐れているのではないかと。
いや、そんなことが無いのは分かっている。セリアは優しいから、おれの心配しかしていないだろう。
でも恐かったんだ。何よりもおれ自身が、おれのことを恐れていたから。おれは後ろを振り向かないまま、クロワールの方へと飛んでいった。
「『灼桜』!」
「くッ……貴ッ……様ァ!!」
念力でクロワールを拘束し、そのままおれの身体を引き寄せるように加速しながら膝蹴りで蹴り飛ばした。魔力を爆発させて反撃してきたが、それは回避して一度距離を取った。
「はぁ……くそッ……!」
……動きが悪いな。確かに今のおれは身体能力が飛躍的に向上している。とは言え……異様に動きが遅いというかぎこちないというか……。セリア達の攻撃が効いていたか?
「三界ともあろう者が……酷い様だな」
「ぐ……ッ!」
「むッ!?」
クロワールの首根っこを掴み、地面に打ちつけた。だがその瞬間、クロワールもおれの顔を掴んで魔力を流した。……何だ? そう思うと少し頭がクラッとしたものの、すぐに正常に戻った。
「くそッ……! 魔力が無い……か。効きが悪いな。能力も奪えんか……」
「何をしてぇのか知らねぇが……とっととその身体ァ返せ!」
「『万華穿衝』!」
「く……はぁッ!」
背後から撃たれた無数の白天をクロワールは全て軌道を逸らした。流れでも支配したのだろう。
だが攻撃は止めない。白天は撃ち続けたまま、おれはクロワールを直接叩く。近距離の殴り合いだ。おれは念力で、クロワールは支配の力で互いの動きを制限する。
自分の技で身体を傷つけている上、一撃一撃が強力で骨も筋肉も裂けていくような感覚だった。だがおれの方が押している。一撃、重い一撃を入れれば、おれはコイツを殺せる。
おれはクロワールの腹を強く蹴り、強制的に距離を取らせた。その一瞬の隙に全身を巡らせていた魔素を右腕に集中した。そしてクロワールの眼前まで瞬時に移動し、その拳を振るおうとした。
「『魔……』……」
「ま、待て……!」
「……!」
その言葉におれは反応してしまった。じいちゃんの声だった。じいちゃんの顔だった。
これはクロワールを殺すための技だったんだ。じいちゃんを殺す技じゃない。じいちゃんを殺す覚悟がなかった。そのせいで、一手遅れてしまったのだ。
「かはッ……!」
「……結局お前は、家族を殺せなかったな。そのくだらなさが人間なんだ。人間として生きたお前に、俺は殺せない」
クロワールの腕がおれの身体を貫いていた。なんとか躱したから心臓には当たっていない。だが……おれにはこれ以上の気力が湧いてこなかった。
このまま戦ったところで、おれの拳はじいちゃんに届くのだろうか。これ以上戦っても何も変わらないのではないか。おれの意識は次第に薄くなっていった。
「エスト……? どうしたの……? 様子が変よ……?」
セリアがおれの肩を揺すりながら心配そうな声でおれに呼びかけていた。だがよく聞こえなかった。
セリアが何を言っているのか、何をしているのか、イマイチ頭に入ってこなかった。
それどころではなかったのだ。鼓動が激しくなっていた。体温が急激に上昇し、頭が真っ白になっていた。
「……? 死んだって聞いてたんだがな。久しぶりじゃねぇか。エスト」
「……その身体は……じいちゃんの……アリウスじいちゃんの身体だろ!? なんでその身体を持っているんだ!? 大英雄の身体って……どういうことだよ…………!」
「名前が似てるとは思わなかったのか? 2000年も経てば言葉も変わるさ。」
「何? どういうこと? ねぇ、エスト!?」
分からない……色んな思考がどれも帰結しない。アイツは侵界で、侵界の身体は大英雄のもので……でもアイツの身体はじいちゃんので……。
じいちゃんは大英雄だったのか……? でも大英雄は2000年くらい前の人間で…………じゃあおれは何なんだ……? おれの歳は18だ……。2000年も昔に生きていたはずがない。でも……確かにあれは大英雄でじいちゃんで……。
「教えてやろうか、エスト。お前、コイツに転移させられたと思ってんだろ。だがそうじゃねぇぞ。お前はただ封印されていたんだ。2000年間、残酷なジジイだぜ。何も分からねぇ時代に一人飛ばされるなんてよ」
そうか……そうだったのか。信じたくはないが信じるしかない。…………おれは2000年も前の人間なのか……。じゃああれは正真正銘じいちゃんで、正真正銘の大英雄ってことで……。
封印するならなんでそんなことを言ってくれなかったのか、なんでそんな有名人だなんてことを黙っていたのか。
じいちゃんに言いたいことはいくらでもあったが、今はそれ以上にコイツに言ってやらなきゃならんことがあった。
「テメェ……じいちゃんの身体ァ奪っときながら……その身体でセリアを傷つけてんじゃねぇぞ……!」
「お前に殺せるのかァ!!? 唯一の愛する家族をよォ!!」
おれは容量以上の魔素を全身に流した。怒りで無理やりに回したからだろうか、魔素どうしがぶつかって全身が熱を発していた。
昔の圧縮身体強化みたいに激しい痛みに襲われた。だがそんなことはどうでもよかった。
「『堕天昇魔』!」
「ッ!?」
おれはクロワールに向かって突進し、水平な姿勢から横向きに蹴りを喰らわせた。脚がクロワールの胴体に触れた瞬間、魔素を爆発させ、生じた爆炎がクロワールを吹き飛ばした。
「セリア達はここで待ってろ。今は近づかないでくれ。巻き込みかねないから」
「……分かったわ……」
「ポーション、ギルバートさんに使ってくれ。命は繋がるはずだ」
「……帰ってきてよ……!」
「……死ぬ前に帰ってくるよ」
おれは出来る限り優しい声でそう言った。実際にはそうでもなかったとは思う。でも、出来るだけ怒りを見せないようにした。
顔もあまり見せないようにしたのは恐かったからだ。セリア達とおれとじゃあ住んでる世界が違うような気がして、もしかしたらセリアがおれのことを恐れているのではないかと。
いや、そんなことが無いのは分かっている。セリアは優しいから、おれの心配しかしていないだろう。
でも恐かったんだ。何よりもおれ自身が、おれのことを恐れていたから。おれは後ろを振り向かないまま、クロワールの方へと飛んでいった。
「『灼桜』!」
「くッ……貴ッ……様ァ!!」
念力でクロワールを拘束し、そのままおれの身体を引き寄せるように加速しながら膝蹴りで蹴り飛ばした。魔力を爆発させて反撃してきたが、それは回避して一度距離を取った。
「はぁ……くそッ……!」
……動きが悪いな。確かに今のおれは身体能力が飛躍的に向上している。とは言え……異様に動きが遅いというかぎこちないというか……。セリア達の攻撃が効いていたか?
「三界ともあろう者が……酷い様だな」
「ぐ……ッ!」
「むッ!?」
クロワールの首根っこを掴み、地面に打ちつけた。だがその瞬間、クロワールもおれの顔を掴んで魔力を流した。……何だ? そう思うと少し頭がクラッとしたものの、すぐに正常に戻った。
「くそッ……! 魔力が無い……か。効きが悪いな。能力も奪えんか……」
「何をしてぇのか知らねぇが……とっととその身体ァ返せ!」
「『万華穿衝』!」
「く……はぁッ!」
背後から撃たれた無数の白天をクロワールは全て軌道を逸らした。流れでも支配したのだろう。
だが攻撃は止めない。白天は撃ち続けたまま、おれはクロワールを直接叩く。近距離の殴り合いだ。おれは念力で、クロワールは支配の力で互いの動きを制限する。
自分の技で身体を傷つけている上、一撃一撃が強力で骨も筋肉も裂けていくような感覚だった。だがおれの方が押している。一撃、重い一撃を入れれば、おれはコイツを殺せる。
おれはクロワールの腹を強く蹴り、強制的に距離を取らせた。その一瞬の隙に全身を巡らせていた魔素を右腕に集中した。そしてクロワールの眼前まで瞬時に移動し、その拳を振るおうとした。
「『魔……』……」
「ま、待て……!」
「……!」
その言葉におれは反応してしまった。じいちゃんの声だった。じいちゃんの顔だった。
これはクロワールを殺すための技だったんだ。じいちゃんを殺す技じゃない。じいちゃんを殺す覚悟がなかった。そのせいで、一手遅れてしまったのだ。
「かはッ……!」
「……結局お前は、家族を殺せなかったな。そのくだらなさが人間なんだ。人間として生きたお前に、俺は殺せない」
クロワールの腕がおれの身体を貫いていた。なんとか躱したから心臓には当たっていない。だが……おれにはこれ以上の気力が湧いてこなかった。
このまま戦ったところで、おれの拳はじいちゃんに届くのだろうか。これ以上戦っても何も変わらないのではないか。おれの意識は次第に薄くなっていった。
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