HAMA

わらびもち

文字の大きさ
89 / 100
第十二章 人魔大戦

第86話 久しぶり

しおりを挟む
「エスト! しっかりして!」

 どこからか、おれの名前を呼ぶ声がした。そう思ったら、いつの間にかおれに刺さっていたクロワールの腕は抜かれていた。

 だがそこから血が抜けていくのをかすかに感じた。何だ……おれの身体が誰かに揺らされている。クロワールはどこだ?近くにはいないようだ。次第に視界がはっきりしてきた。

「うッ……セリアか……。何……で……」

「嫌な感じがしたから来たのよ。クロワールは今リンシャさんが止めてくれているわ。それより大丈夫? ……大丈夫じゃないわよね」

 セリアが目に涙を浮かべながら早口にそう言った。おれの傷をなんとかしようと試みているようだが、簡単にどうにかなるほど浅い傷ではない。

「大……丈夫だ……」

 おれは傷口に手を当てて魔素を流した。魔素で血の流れる道を作り、一時的に出血を止めた。傷が治るわけでもないし、痛みが引くわけでもないが、おれの高い治癒力があればそのうち塞がるはずだ。

 ……そうだ。おれはクロワールを殺さなくては。じいちゃんを殺すのではなく、じいちゃんを解放するために。

「エスト、無茶しないで。……大英雄って、エストのおじいさんだったんでしょ……? 無理に戦わなくてもいいから……」

「……いや、おれがケリをつけないと。……手伝ってくれるか?」

「…………もちろんよ……!」

 おれとセリアは急いでクロワールの元に向かった。クロワールはダメージを負っている。だが、それでもリンシャは押されていた。首を掴まれ、いよいよ抗う力も残っていない。

「放せよ……クソジジイが……!」

「くッ……!」

 おれはクロワールの腕を蹴り、リンシャを放させた。セリアがリンシャを受け止めて、再び戦闘体勢を取った。

「流石にでは死なないか。……お前を前にすると身体が抵抗するから嫌なんだ……。だが、お前は俺を殺せない。人はそう簡単に変わらねぇよなァ!?」

「『魔天楼マテンロウ』!」

 突進してくるクロワールに、火柱を上げて対抗した。アイツはもうそこまでの力は出せない。おれもそろそろ限界が来るが……セリアもいるし、おれ達の方が有利だ。

 セリアが炎の剣で牽制し、おれが重い攻撃を繰り出す。だがどうしても、思う通りに力を出せなかった。……躊躇するな……! コイツはじいちゃんじゃない。

「はぁ……はぁ……」
「『魔天爆アンテンドン』!」

「うぐッ……! はぁ……そろそろ限界じゃねぇか……! エストォ……!!」

「『豪炎裂剣フルグリュード』!」

 おれが拳を爆発させ、セリアが炎の剣を振った。だが威力が落ちている。ダメージにはなる。だが決め手に欠けていた。……今は隣にセリアがいる。上手くいくかどうか……いや、試すしかない。

「セリア!」

「!」

 おれは手を伸ばしながらセリアを呼んだ。セリアも何かは理解していないだろうが、おれの声に彼女は応じてくれた。

 互いの右手を繋ぎ、セリアの魔力と能力スキルの魔力回路を一時的に吸収した。

「“鬼炎舞おにのほのまい”……!」

「わしを殺せるのか!? 育ての親を!!」

「……ッ!」

 どうしても、ほんの一瞬遅れてしまう。だが、それは相手も同じだったようだ。クロワールの中のじいちゃんが、身体を押さえてくれている。当てられる……!

「『豪炎フラグレシオン』……!」

「ぐがッ……ァあああ!!」

 全ての魔素と魔力を刀から放出した。一切の加減なし。出し得る全ての力をこの一撃に込めた。

 炎の嵐が大地を飲み込み、一帯を消滅させた。だが……まだ殺しきれていない。クロワールヤツの本体は精神体である上に、あまりにも頑丈な身体であったため死ななかったようだ。

 だが、いくらなんでも身体は限界だろう。おれとセリア、2人分の力をもろに喰らったのだ。もう身動きは取れないはずだ。あとはアイツの魂を完全に消滅させれば……。

 おれは炎の中に突っ立っているクロワールの元へ向かい、顔を掴んだ。

「その身体……返してもらうぞ……」
「『反魔法アンチマジック』……!」

「かッ……ァあああ…………」

 クロワールの魔力を対消滅させ、能力スキルを完全に停止させた。魔力を滅したら、生きてはいられない。ボロボロと身体は崩れていった。

 もうこれで終わったか、そう思った。だが、崩れゆく身体は再び動き出し、おれにもたれかかってきた。一瞬警戒した。まだ生きているのかと。しかしこれは、クロワールではなかった。

「……久しぶり……じいちゃん……! …………会いたかったよ……」

「……すまんかった……。辛いことをさせてしまったな……。……ありがとうな……」

「……話したいことがいっぱいあるんだ……。仲間も出来たし……友達もいっぱい出来たんだ……。強くもなったよ……。……いっぱい……いっぱい…………頑張ったんだよ……」

「ああ……よくやったよ……。わしもたくさん聞きたいが……もう時間がないな……」

 おれは泣きながらじいちゃんに抱きついていた。あれやこれやと話したいことがあったが、何から話せばいいのか分からなかった。

 そんなおれを、じいちゃんは優しく背中を叩いて落ち着かせてくれている。でも、じいちゃんの身体がどんどん脆く、薄くなっていくのを感じて、また悲しくなった。

「…………わしから一つだけ……わしの元に来るのは出来るだけゆっくりにしておくれ……」

「うん……うん……! ……そうだ……おれも一つだけ……おれの仲間、セリアって言うんだ……」

 おれは急いでセリアを紹介した。じいちゃんが死ぬ前に、いや、既に死んでるのかも知れないが、とにかくちゃんと紹介しておかないといけなかった。

「……! 初めまして……! 大英雄様……。私は……」

「あぁ、バルザート君の子孫だね……。…………そうか。エストをありがとう。これからも頼むよ」

「……! ……承知しました……! ありがとうございます……!」

 じいちゃんはそのまま灰になって消えてしまった。おれは手に残った灰を強く握り締め、泣き叫んだ。

 おれが殺してしまったんだ。違う、解放したんだ。どうしようもなかった。

 どうしようもなかったことは確かなんだが……おれは心が締め付けられる思いだった。

 セリアがおれを抱きしめてくれて、おれはセリアの腕の中で声を殺して涙を流した。

「ははッ! クロワール君も死んじゃったか! エスト君も生きてたなんて! どうだった!? 久しぶりの再会は!?」

「……! お前……!」

 クロワールを倒してから数分後、森の奥から少年が飛んできた。デスバルトだ。

「お前はグラ達が……バンリューが相手してたはずだろ……! なんでここにいるんだ!!」

 そう聞くとデスバルトはかすかに笑みを浮かべた。もうおれは思うように身体を動かすことは出来ない。

 セリアもそうだ。怪我と疲労で限界が来ている。おれはセリアの前に出てデスバルトを見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界異話 天使降臨

yahimoti
ファンタジー
空から天使が降って来た。 落ちたんだよ。転生かと思ったらいきなりゲームの世界「ロストヒストリーワールド」の設定をもとにしたような剣と魔法の世界にね。 それも面白がってちょっとだけ設定してみたキャラメイクのせいで天使族って。こんなのどうすんの?なんの目的もなければ何をしていいかわからないまま、巻き込まれるままにストーリーは進んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...