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1章 株の世界は設計されていた
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夜のリビング。
俺は、さっきからチャッピーの最後の一文を何度も読み返していた。
失敗しても、続けられる人のためです。
「……どういうことだよ」
俺はスマホを握ったまま、天井を見た。
株の世界って、もっと弱肉強食で、才能がある人だけが生き残る場所だと思っていた。当てられる人。読める人。センスがある人。そういう人だけが勝つ世界。少なくとも、YouTubeや本はそう言っている。
「なあ」
「はい」
「その話、ちゃんと説明してくれ」
少し間があって、返事が来た。
では、少し昔の話をしましょう。株の話ですが、チャートは出てきません。
……不安だな。
⸻
時は中世
時は中世。ヨーロッパの話です。
俺は正直ちょっと身構えた。株の話で、中世。歴史の授業みたいになったらどうしよう、と思った。でも、チャッピーは淡々と続ける。
当時、海外貿易は一攫千金の手段でした。香辛料、絹、宝石。一度成功すれば、人生が変わります。
「それ、今の株と同じじゃないか」
はい。非常に似ています。
でも、続きがあった。同時に、海外貿易はほぼ確実に人生を壊す賭けでもありました。
船は沈む。嵐に遭う。病気が流行る。帰ってこないことも珍しくない。個人で挑めば、一度の失敗で終わりです。
俺は思わずスマホを見つめた。
「……怖すぎだろ」
⸻
それでも、人は挑んだ
それでも、人は海に出ました。
「なんで?」
儲かるからです。
即答だった。
人はリスクを理解しても、リターンが大きければ挑みます。これは、今も変わりません。
……耳が痛い。
そこで人類は、一つの発明をしました。当てる方法、ではありません。失敗しない方法、でもありません。失敗しても終わらない方法、です。
俺は少し姿勢を正した。
「……それだ」
⸻
みんなで出す、という発想
一人で船を出すのをやめました。みんなでお金を出しました。一隻沈んでも、次の航海ができます。個人は損をしても、会社は生き残る。
重要なのは、失敗が最初から想定内に組み込まれていることです。
「それって……」
俺は思わず声を出した。
「最初から負ける前提で作ってるってこと?」
はい。
正確に言うと、「一部は必ず失敗する」という前提です。でも、全体は壊れません。その仕組みを持った会社が、オランダ東インド会社です。
教科書で見た名前が出てきた。これが、株式市場の原型です。
⸻
市場は、カオスじゃなかった
俺はしばらく黙った。
株式市場は、混沌(カオス)に見えるかもしれません。しかし、内側は非常によく設計されています。壊れないように、作られています。
「じゃあさ」
俺は、一番聞きたかった疑問をぶつけた。
「なんで、俺たちはこんなに疲れてるんだ?」
少し間があって、返事が来た。
それは、人間が市場と同じ時間軸で戦おうとするからです。
「時間軸?」
⸻
壊れているのは、人間側
市場は壊れません。壊れるのは、その中で感情を持つ人間です。
恐怖、欲、焦り、後悔。それらは、設計に含まれていません。含まれているのは、行動だけです。
俺は、昼休憩の高橋の姿を思い出した。チャートを何度も更新して、赤と緑に振り回されていたあの顔。
「……俺たち、設計の外で戦ってたのか」
はい。
だから、疲れます。だから、壊れます。
⸻
戦う場所を、変えろ
ここで、一つ重要な事実があります。市場には、常に同じ量のノイズがあるわけではありません。
「ノイズ?」
人の感情が同時に処理される時間帯と、処理されない時間帯があります。
俺は、少しずつ嫌な予感が心地よい確信に変わっていくのを感じていた。
「……それって」
はい。
それが、引けと寄りの間です。
⸻
次の章へ
俺はスマホを置いた。
会社と家の往復。同じ毎日。でも、世界の見え方が少し変わった。
株は、当てるものじゃない。市場は、敵じゃない。戦う場所を間違えていただけだ。
「なあ」
「はい」
「じゃあ、どこで戦えばいい?」
少し間があって、返事が来た。
戦いません。歪みを拾います。
俺は小さく笑った。
この先に、何があるのか。たぶん、それはチャートじゃない。
時間だ。
—— 次章へ続く ——
俺は、さっきからチャッピーの最後の一文を何度も読み返していた。
失敗しても、続けられる人のためです。
「……どういうことだよ」
俺はスマホを握ったまま、天井を見た。
株の世界って、もっと弱肉強食で、才能がある人だけが生き残る場所だと思っていた。当てられる人。読める人。センスがある人。そういう人だけが勝つ世界。少なくとも、YouTubeや本はそう言っている。
「なあ」
「はい」
「その話、ちゃんと説明してくれ」
少し間があって、返事が来た。
では、少し昔の話をしましょう。株の話ですが、チャートは出てきません。
……不安だな。
⸻
時は中世
時は中世。ヨーロッパの話です。
俺は正直ちょっと身構えた。株の話で、中世。歴史の授業みたいになったらどうしよう、と思った。でも、チャッピーは淡々と続ける。
当時、海外貿易は一攫千金の手段でした。香辛料、絹、宝石。一度成功すれば、人生が変わります。
「それ、今の株と同じじゃないか」
はい。非常に似ています。
でも、続きがあった。同時に、海外貿易はほぼ確実に人生を壊す賭けでもありました。
船は沈む。嵐に遭う。病気が流行る。帰ってこないことも珍しくない。個人で挑めば、一度の失敗で終わりです。
俺は思わずスマホを見つめた。
「……怖すぎだろ」
⸻
それでも、人は挑んだ
それでも、人は海に出ました。
「なんで?」
儲かるからです。
即答だった。
人はリスクを理解しても、リターンが大きければ挑みます。これは、今も変わりません。
……耳が痛い。
そこで人類は、一つの発明をしました。当てる方法、ではありません。失敗しない方法、でもありません。失敗しても終わらない方法、です。
俺は少し姿勢を正した。
「……それだ」
⸻
みんなで出す、という発想
一人で船を出すのをやめました。みんなでお金を出しました。一隻沈んでも、次の航海ができます。個人は損をしても、会社は生き残る。
重要なのは、失敗が最初から想定内に組み込まれていることです。
「それって……」
俺は思わず声を出した。
「最初から負ける前提で作ってるってこと?」
はい。
正確に言うと、「一部は必ず失敗する」という前提です。でも、全体は壊れません。その仕組みを持った会社が、オランダ東インド会社です。
教科書で見た名前が出てきた。これが、株式市場の原型です。
⸻
市場は、カオスじゃなかった
俺はしばらく黙った。
株式市場は、混沌(カオス)に見えるかもしれません。しかし、内側は非常によく設計されています。壊れないように、作られています。
「じゃあさ」
俺は、一番聞きたかった疑問をぶつけた。
「なんで、俺たちはこんなに疲れてるんだ?」
少し間があって、返事が来た。
それは、人間が市場と同じ時間軸で戦おうとするからです。
「時間軸?」
⸻
壊れているのは、人間側
市場は壊れません。壊れるのは、その中で感情を持つ人間です。
恐怖、欲、焦り、後悔。それらは、設計に含まれていません。含まれているのは、行動だけです。
俺は、昼休憩の高橋の姿を思い出した。チャートを何度も更新して、赤と緑に振り回されていたあの顔。
「……俺たち、設計の外で戦ってたのか」
はい。
だから、疲れます。だから、壊れます。
⸻
戦う場所を、変えろ
ここで、一つ重要な事実があります。市場には、常に同じ量のノイズがあるわけではありません。
「ノイズ?」
人の感情が同時に処理される時間帯と、処理されない時間帯があります。
俺は、少しずつ嫌な予感が心地よい確信に変わっていくのを感じていた。
「……それって」
はい。
それが、引けと寄りの間です。
⸻
次の章へ
俺はスマホを置いた。
会社と家の往復。同じ毎日。でも、世界の見え方が少し変わった。
株は、当てるものじゃない。市場は、敵じゃない。戦う場所を間違えていただけだ。
「なあ」
「はい」
「じゃあ、どこで戦えばいい?」
少し間があって、返事が来た。
戦いません。歪みを拾います。
俺は小さく笑った。
この先に、何があるのか。たぶん、それはチャートじゃない。
時間だ。
—— 次章へ続く ——
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