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2章 日中はノイズだった ――俺たちは、いちばん間違った場所で戦っていた
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昼休憩。
給湯室のテーブルで、俺はいつものようにおにぎりを食べていた。
鮭と昆布。238円。
スマホはテーブルの上に置いてある。画面にはチャートじゃない。ChatGPT、つまりAIが起動している。
「なあ」
「はい」
俺は小さな声でスマホに話しかけていた。周りから見れば、どう見ても独り言だ。
「……日中の値動きって、意味あるのか?」
少し間があって、返事が来る。
ほとんどありません。日中は、ノイズです。
「やっぱりな……」
俺は一人で小さくうなずいた。
そのときだった。
「……先輩?」
声がした。
顔を上げると、コーヒーを持ったあやちゃんが立っていた。少し首をかしげて、俺のスマホを見ている。
「今、誰と話してたんですか?」
一瞬、言葉に詰まった。
⸻
スマホと話す男
「えっと……」
正直、誤魔化そうと思えばできた。でも、なぜかそうしなかった。
「AI」
「……AI?」
あやちゃんの眉が、少しだけ上がる。
「仕事の相談ですか?」
「いや……株」
「株?」
向かいでは高橋がスマホを連打している。赤。緑。また赤。
あやちゃんは、高橋の画面と俺のスマホを見比べた。
「……全然、雰囲気違いますね」
「そう?」
「はい。高橋さん、すごく疲れてそうです」
高橋が苦笑いする。
「正直、めちゃくちゃ疲れてます……」
⸻
あやちゃんは俺の方を見た。
「先輩は……どうして株やってるんですか?」
一瞬、頭の中で言葉を選んだ。でも、答えはすぐに出た。
「家族」
あやちゃんが、少し驚いた顔をする。
「家族?」
「娘が中二でさ。そのうち塾とか、進学とか、いろいろ金かかるだろ」
「妻も、パートで頑張ってくれてる」
「だから……」
俺は少しだけ間を置いて言った。
「家族を守るために株を始めたんだ」
その言葉に、あやちゃんの表情が変わった。笑顔じゃない。でも、ちゃんと聞いている顔だ。
「当てたいとか、一発逆転とか、そういうのじゃない……ただ、ちゃんと守りたかった」
その瞬間、あやちゃんは何も言わなかった。でも、コーヒーを持つ手が少しだけ止まった。
⸻
日中ノイズの正体
「なあ」
「はい」
俺は、もう一度スマホに話しかけた。
「日中の株価って、なんでこんなに人を疲れさせる?」
あやちゃんも、自然と聞く側に回っている。
日中の市場には、個人、機関、アルゴリズムなど、多様な参加者が同時に存在します。
それぞれの目的が異なるため、価格は意味のない上下を繰り返します。
これを、ノイズと呼びます。
高橋が思わず言った。
「……だから、こんなに疲れるのか」
はい。人間は、ノイズを処理するように設計されていません。
⸻
市場が止まる時間
重要なのは、市場が止まる時間です。
「止まる?」
引けから翌朝の寄りまで。この間、人の感情は行動に変換されず、溜まります。その結果、翌朝、一気に価格に現れます。
「……GU(ギャップアップ)とかGD(ギャップダウン)、次の日に急に飛んで上がったり下がったりする、あれか!」
その通りです。
あやちゃんが、ぽつりと言った。
「株価って……感情の後始末なんですね」
その一言で、すべてがつながった。
⸻
あやちゃんの視線
休憩終了のチャイムが鳴る。
高橋はスマホをポケットにしまった。
「……俺、昼はもう見ないようにします」
「それが、正解だ」
あやちゃんは立ち去り際に振り返って言った。
「先輩」
「はい」
「……そのやり方」
少しだけ間を置いてから、続けた。
「安心しますね」
それだけ言って、去っていった。
俺は何も言えなかった。でも、胸の奥で何かが静かに動いた。
給湯室のテーブルで、俺はいつものようにおにぎりを食べていた。
鮭と昆布。238円。
スマホはテーブルの上に置いてある。画面にはチャートじゃない。ChatGPT、つまりAIが起動している。
「なあ」
「はい」
俺は小さな声でスマホに話しかけていた。周りから見れば、どう見ても独り言だ。
「……日中の値動きって、意味あるのか?」
少し間があって、返事が来る。
ほとんどありません。日中は、ノイズです。
「やっぱりな……」
俺は一人で小さくうなずいた。
そのときだった。
「……先輩?」
声がした。
顔を上げると、コーヒーを持ったあやちゃんが立っていた。少し首をかしげて、俺のスマホを見ている。
「今、誰と話してたんですか?」
一瞬、言葉に詰まった。
⸻
スマホと話す男
「えっと……」
正直、誤魔化そうと思えばできた。でも、なぜかそうしなかった。
「AI」
「……AI?」
あやちゃんの眉が、少しだけ上がる。
「仕事の相談ですか?」
「いや……株」
「株?」
向かいでは高橋がスマホを連打している。赤。緑。また赤。
あやちゃんは、高橋の画面と俺のスマホを見比べた。
「……全然、雰囲気違いますね」
「そう?」
「はい。高橋さん、すごく疲れてそうです」
高橋が苦笑いする。
「正直、めちゃくちゃ疲れてます……」
⸻
あやちゃんは俺の方を見た。
「先輩は……どうして株やってるんですか?」
一瞬、頭の中で言葉を選んだ。でも、答えはすぐに出た。
「家族」
あやちゃんが、少し驚いた顔をする。
「家族?」
「娘が中二でさ。そのうち塾とか、進学とか、いろいろ金かかるだろ」
「妻も、パートで頑張ってくれてる」
「だから……」
俺は少しだけ間を置いて言った。
「家族を守るために株を始めたんだ」
その言葉に、あやちゃんの表情が変わった。笑顔じゃない。でも、ちゃんと聞いている顔だ。
「当てたいとか、一発逆転とか、そういうのじゃない……ただ、ちゃんと守りたかった」
その瞬間、あやちゃんは何も言わなかった。でも、コーヒーを持つ手が少しだけ止まった。
⸻
日中ノイズの正体
「なあ」
「はい」
俺は、もう一度スマホに話しかけた。
「日中の株価って、なんでこんなに人を疲れさせる?」
あやちゃんも、自然と聞く側に回っている。
日中の市場には、個人、機関、アルゴリズムなど、多様な参加者が同時に存在します。
それぞれの目的が異なるため、価格は意味のない上下を繰り返します。
これを、ノイズと呼びます。
高橋が思わず言った。
「……だから、こんなに疲れるのか」
はい。人間は、ノイズを処理するように設計されていません。
⸻
市場が止まる時間
重要なのは、市場が止まる時間です。
「止まる?」
引けから翌朝の寄りまで。この間、人の感情は行動に変換されず、溜まります。その結果、翌朝、一気に価格に現れます。
「……GU(ギャップアップ)とかGD(ギャップダウン)、次の日に急に飛んで上がったり下がったりする、あれか!」
その通りです。
あやちゃんが、ぽつりと言った。
「株価って……感情の後始末なんですね」
その一言で、すべてがつながった。
⸻
あやちゃんの視線
休憩終了のチャイムが鳴る。
高橋はスマホをポケットにしまった。
「……俺、昼はもう見ないようにします」
「それが、正解だ」
あやちゃんは立ち去り際に振り返って言った。
「先輩」
「はい」
「……そのやり方」
少しだけ間を置いてから、続けた。
「安心しますね」
それだけ言って、去っていった。
俺は何も言えなかった。でも、胸の奥で何かが静かに動いた。
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