土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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21 クラフト⑦

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 ここは現実世界、駅のホーム。
 ポニーテールの美少女まりは制服を着ていた。となりを歩くのは同級生の友達サラで、

「あと1ヶ月で卒業なんて実感ないよ~」

 と悲しくも嬉しそうに言う。
 寒い冬が終わり、少し陽射しの温もりを感じる午後。季節は移り変わり、みんな大人になっていく。

「卒業しても遊ぼうね、サラ」
「うん!」

 ガタゴト、と通過列車が駅を駆け抜けた。
 風でスカートがめくれそうになるのを、さっと手で抑え、白線の内側で電車を待つ。

「あ……」

 まりが見つめているのは、プロジェクト・テルースの広告ポスター。
 ダークラブ、姫と魔王の禁断の恋。満天の星空の下、姫と魔王が描かれた神秘的なファンタジーアートなのだが、よくよく鑑賞していると彼女は勘違いをしていたことに気づき、はっと目を丸くした。

「どうしたのまり?」
「あ、いや……あのポスターの姫、頭にツノがあるな……と思って……人間じゃない!?」
「VRMMO? ネトゲなんてやるのまり?」
「うん、ちょっとね……」

 ちょっとどころではない。
 昨日は黙々と二時間、必殺技の修行をしていた。なぜそこまで燃えるのか。それは日曜に友達と遊ぶ予定を組んだから。つまり、ツッチーに自分のいいところを見せたかったのである。だが、本人にその自覚はない。

「ふーん、ネトゲで彼氏でもきたの?」

 勘の鋭いサラの質問に、まりはおどおどする。
 
「か、か、か、彼氏じゃないよ~友達、友達、と、も、だ、ち!」

 あやしい……と思うサラであった。





 一方、その日の夜、ツッチーは……。





「ふーん、砂漠の街ワステタのことがわかってきたぞ」

 ここは温泉のあるオアシスだ。
 北に鉱山があり、採掘で疲れた冒険者たちを癒す場所になっている。商店、レストラン、宿屋、ピンクな姉ちゃんのいる酒屋、繁華街として充実していた。

「金策でもするか……」

 道具屋に立ち寄り、戦利品を売りさばく。
 ゴブリンの牙、サソリの尻尾、ヘビの皮……ん? 金塊は売れないのか。特殊なアイテムだからな。おそらく石の妖精トロルの盗品商に持っていけば売れるだろう。
 よし、現在の資金は12,000ポイント。アイテムはこんな感じか。メニューから所持品を開く。

【武器 銅のダガー 鉄槌のメイス】
【道具 ポーション10 毒粉 しびれ粉】
【貴重品  金塊3】

 お、あれ、可愛いな。
 防具屋に白い帽子が売っている。少女エルフに似合いそうだ。よし、買っといてやろう。

「まいどあり!」

 2,000ポイントを店主に支払い、商品を受け取る。
 アイテムボックスにしまいながら歩く。さて、街の観光でもしてみるか。黄色い砂岩製の建物が立ち並び、アール・デコに削られた柱が美しさと力強さを主張していた。住民たちの衣装はゆったりとした白い服で、女性も男性もみんな帽子やスカーフを巻いて陽射し対策をしている。
 
「それにしても、あいつら本当に来るのかな……」

 あいつらとは、ミルクとマクドのことだ。
 昨夜、マーキングが広場にあったので、21時頃ここに集合しよう、となっていたのだが。

「怖いな、これ……」

 広場に巨大ヘビの石像があり、これがマーキングだった。
 マーキングは瞬間移動できる装置。これでフルゴルの街と行き来できる。おまけにこのヘビの石像は、結界装置でもあるようだ。ヘビの瞳が遺跡にあった青い宝石と良く似ている。つまりワステタの街は魔法禁止、魔物出禁、というわけだ。

 ピロン ピロン 

 お、2件メールが届いたので開く。

[ マクド:水曜日は残業があるのを忘れとった! あとで参加するでパーティ招待しといてや」

 働き者だな、マクド。
 何歳なんだろう、この人……年上かな? まぁ、招待しておくか。さて、もう1件のメールだ。
 
[ カイト:魔物の罠、今日でもいいかい? 招待しておくから来れたら頼むよ ]

 ああ、カップル冒険者か。
 今日か……ちょっと保留にしておこう。なんて思っていると、ガヤガヤと繁華街の方が騒がしい。

「なんだ?」

 行ってみるとピンクの酒屋から、バーン! と冒険者が出てきた。

「飲み過ぎっすよ~モツ~」
「ゲームだからいいんだよ~あぁー、気分いいぜ~塾で溜まったストレスがぜーんぶ飛んだ! あははははは!」

 何やってんだ、あいつら!?
 するとイカつい大男も店から出てきた。横に連れているのはピンクの姉ちゃん。こいつらは頭にユザネがないからゲームのモブキャラ、つまりAIだ。

「おい! 俺の女に手を出したな!」
「あ? やんのか?」

 ぷるん、と胸を張って仁王立ちするモツナベ。
 見た目は巨乳の女剣士だが、声が男の低音ボイスだから興奮しない。それに、女剣士なのに女に手を出してるの、なーぜなーぜ? 俺はミルクに近づいた。

「あ、ツッチー! 良いところに来てくれたっすぅぅ」
「ミルク、何があった?」
「え、あ……モツがあの女とイイコトしようとしたっす……そしたらああなって」
「なるほど、美人局だな」
「何すか? ツツモタセ?」
「女に手を出したヤツを脅して金を取ることさ」
「それ犯罪っすよ!」
「ああ、だからモツナベさんは悪くない」

 大男に胸ぐらを掴まれるモツナベ。
 騒ぎは広まり、他の冒険者たちが集まり出した。大男は、ニヤッと笑った。

「10,000ポイントで許してやる」
「あ? 払うわけないぜ! ぶっ飛ばしてやるよぉぉ!」

 ミルクは慌てて間に入る。

「モツー! 住民を攻撃したらダメっすよ! 悪質行為すると街から追い出されちゃうっすぅぅ」
「じゃあ、黙ってポイント払えっていうのか?」
「そ、そうなるっすねぇ……」
「やだね! 何も悪いことしてないのに!」
「でもモツはお姉さんのおっぱいを揉んでたじゃないっすか……」
「ま、まーそうだが……でも10,000ポイントは高いぜ~」

 やれやれ、クソガキどもめ。
 大人の俺が解決してやろう。おや、モツナベが俺の存在に気づいたようだ。

「ツッチーさん……あんたまだ裸だったのか……キモっ」
「いろいろありまして」
「まぁ、いいや、ちょっといま面倒なことになっててさ、こいつぶっ飛ばして俺は街から逃げるわ」
「その必要はないですよ」
「え?」
「今日はいっしょに旅をしましょう」
「ツッチーさん、あんた……何を?」

 ザッ!

 俺は土下座した。
 ミルクや他の冒険者たちは、みんな不思議そうな目をしている。大男は俺を睨みつけた。

「何だオマエは?」
「友人が失礼なことをしました。私が代わりに払います」

 大男は、ふんっと笑うとモツナベから手を離す。
 そして俺に触れた。10,000ポイントが抜き取られている。げ……また一文無しになっちまったよ。トホホ……。
 
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