土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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29 メインクエスト チャプター1 姫の旅立ち1

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「まり、そんなにオシャレして……彼氏とデート?」

 ここは現実世界のヴェリタスが住む家。
 母親から質問されるまりは、鏡の前でスカートをひらひらさせていた。桜色の春っぽいワンピース。ゆるふわっと巻かれた黒髪が美しい。

「もう、勝手に開けないでよ! それに彼氏じゃないし、デートにも行かない」
「え? でも、お気に入りの服を着てるじゃない」
「こ、これは……」

 もじもじと顔を赤くするまり。
 ははーん、と勘のいい母親は机に置いてあるゴーグルに目を移す。娘はVRMMOで好きな人ができたのでは? と推測した。
 
「まり、がんばってね! お母さん応援してるから!」
「え、いや、本当にそう言うのじゃないってば」
「いいからいいから、お母さんとお父さんは夕飯を食べて帰るから、よろしくね」
「ちょ、お母さんちがっ……」

 バタン、と母親は部屋の扉を閉める。
 髪の毛に触れながら、まりはつぶやいた。

「ちょっと気合い入れすぎちゃったかな……」



 一方、そのころツッチーは……


[ コーデリア草原地帯 東 ]

「何かの魔法が足りないんだよなぁ」
 
 ふわふわと浮遊する砂の結晶。
 それらをギュッと石化させたり、サラサラの砂に戻したり、また石化させ、引き寄せて握った。
 そして投げる。
 石は放物線を描くが、途中で重力を上げてやる。ドスンと石が落ちた。すべて俺の土魔法による現象なのだが、何かが足りない。

「うーん……」

 この繰り返しを朝からやっている。
 今日はヴェリタスと冒険をするので、待ち合わせの時間まで魔法の鍛錬をしていたのだ。魔力が尽きたら近くにある魔力のエレメントで回復。おかげで体力レベルは10、泥の仮面なしで魔法レベルは18になった。しかし、何かが足りない。

「銃の弾は100発ある……とりあえず攻撃はできるけど、ヴェリタスさんのような必殺技にはならない。重力をかけた石で攻撃もできるけど、あれは時間がかかるし隙も多い。うーん……あ!」

 ふと思い出すのは、砂漠の街にあった本。
 蛇神様の祠にあった土魔法の基礎という本だ。そのなかに土魔法は、

[自然に存在する物質を重力、引力、斥力せきりょくを使って自由自在に操る]

 とあった。
 つまり、俺にはまだが足りないのだ。しかし、どうやって斥力の魔法を手に入れる?

「そういえば著者が載っていたな……たしか賢者ラティウス」

 この人に会えば、何かわかるかもしれない。
 だが、もうすぐヴェリタスとの待ち合わせの時間だ。

「そろそろフルゴル噴水広場に行こう」

 コーデリア草原を歩き、移動装置マーキングに触れた。ほのぼのした牧歌的な景色が、一瞬で白壁の街に変わる。
 
「ヴェリタスさんは……あ、いた」

 刀を腰にさす凛とした侍。
 じっと噴水を見つめている。風に揺れる黒髪のポニーテール、美少年の横顔。そんなヴェリタスは女性の冒険者たちから、うっとりとした目で見られていた。

「よかった、服を装備してきて……」

 もしも裸で現れてたら、みんなから騒がれていたぞ。よし、声をかけよう。
 
「ヴェリタスさーん!」

 俺の声に気づいたようだ。
 ドキッとしたヴェリタスは振り返る。しかし俺を見た瞬間、目を丸くして固まってしまう。ん? どした? 相変わらず向こうからの声はない。頭の上で吹き出しのテキストチャットが、

『……』

 のまま宙に浮いている。
 声を出して女性だとバレたくないのだろう。しかもヴェリタスは女子高生らしい。こんなおっさんと冒険して本当に楽しいのだろうか? ちょっと不安だが、まぁ、なるようになるか。俺がリードしていこう。

「今日はよろしくお願いします」
『……は、はい! よろ、よろよろろ』
「ん?」

 ヴェリタスの顔をのぞく。
 なぜか顔を赤くしている。何かに焦っているようだ。文字起こしの調子が悪いのだろうか? すると侍は、スッと噴水に視線を戻した。俺の顔をあまり見たくないらしい。仮面を外したのがダメだったか?

『ツッチーさん、仮面してないんですね……』
「はい、外しました。あの仮面を装備していると魔法レベルがあがらないので」
『そうでしたか』
「すいません、素顔のキャラメイクが下手で……仮面、かぶっておきますね」

 アイテムボックスを開く。
 しかしヴェリタスは、あたふたと両手を振って否定した。

『ま、待ってください! このまま仮面なしでお願いします』
「え?」
『かっこいいです! 服もとても似合ってます!」
「ありがとう。じゃあ、このままでいきますね」
「はい」

 やれやれ、大丈夫なようだ。
 しかし、どうも気を使うなぁ。俺は無意識にヴェリタスのことを女性として意識しているようだ。美しい侍の正体。現実世界で優しく微笑む美少女を想像してしまう。

「……」
『ツッチーさん?』
「あ、はい」
『メインクエストやりましょう』
「そうですね。ではあそこにいる兵士に話しかけてください。頭の上に赤い矢印があります」
「わかりました」

 ヴェリタスは兵士に話しかける。
 兵士の名前はグリーン。「城に行って姫を探してくれないか」と頼まれメインクエストが始まった。するとゲームの運営から通知がきたので開く。

[ VRMMOプロジェクト・テルースの世界へようこそ! 複数人でメインクエストをやる場合、イベントや経験値などは共通に反映されますので留意ください。 ]

 パーティが自動的に作られる。
 地図にはヴェリタスと俺のアイコンが記され、街を歩く冒険者たちが、パッと消えた。この現象が不思議だったのか、ヴェリタスは感心していた。

『これなら誰にも邪魔されずに冒険できますね』
「そうですね……あ!」
『どうしました?』
「モツナベとミルクを覚えていますか? 俺たちが出会ったマッチングクエストにいたんですけど」
『覚えていますよ。弓のエルフと双剣の戦士ですよね』
「はい。実はメインクエストのチャプター3からいっしょに冒険する予定なんです」
『……』

 ヴェリタスは、少しだけ驚いた顔をする。
 意外だったのだろうか。

『ツッチーさんって本当に魅力的な人ですね……』
「え?」
『あの二人からツッチーさんは嫌われていると思っていました。でも仲良くなっているなんて……すごい』

 お! 好感度があがっているようだ。
 しかしヴェリタスは、ちょっとだけ寂しそうな顔をする。もしかしてずっと俺と二人だけの冒険がよかったのか? おっさんの俺と? まぁ、そんなわけないとは思うが、妄想すると恥ずかしくなってきた。いかん、いかん。冒険に集中しよう。ビシッと城を指さして、今後のことを話す。

「とりあえず城に行ってみましょう。姫が隠れている場所があるんです」
『もう分かるんですか?』
「はい、途中までやってたんです」
『それでは、ツッチーさんについていきますね』

 ヴェリタスは俺の横を歩く。
 目指すはテンプルム城。橋を渡り、門の前に立つと兵士に止められた。レベル測定をし、レベルが5以上ないと門は開けられない。俺は水晶を触る。レベル10が表示された。ヴェリタスのレベルは26だった。

「レベル高いですね!」
『私、刀を作るサイドクエストばかりやっていたので……』

 ヴェリタスは刀に触れた。
 名刀、三日月宗近。凄まじい攻撃力のあるレアアイテムだ。俺たちは門をくぐり、城の中を歩きながら話す。

「ヴェリタスさんの魔法レベルはいくつですか?」
『わたしは魔法使いではないので、技レベルなら42あります』
「強い……」
『三日月宗近のおかげです。だから私もツッチーさんと同じで修行するときは竹刀を装備するんですよ。そうすると技レベルの底力がついて、強い武器を装備したとき効果があがるんです』
「竹刀ですか……ヴェリタスさんは本当に剣道が好きなんですね」
『はい!』

 にっこりと笑うヴェリタス。
 あはは、楽しいな。本当にデートしてるみたい。きらめくシャンデリア。赤い絨毯の敷かれた廊下。きらきらした宝石が装飾されている、豪華な扉の前に来た。

「ここが王様のいる部屋ですね」
『いきましょう』

 ヴェリタスは扉を開けた。
 部屋の中には、ずらりと兵士が並んでいる。王冠をかぶる髭のおじさんが王様だ。

「よくぞ参られた冒険者よ! どうか我が国を救ってくれ! 行方不明の姫を探し、連れて来てほしいのだ」

 すると空中に選択肢が浮かぶ。
 
[わかった]
[いや、他にやることがある]

 俺とヴェリタスは[わかった]を選択する。
 さらに文字が浮かぶ。盛大な音楽も鳴り響いた。

[ メインクエスト チャプター1 姫の旅立ち ]

 イベントが正式に始まったようだ。
 推奨レベルは7。レベル5で門前払いしていたのも納得できた。ヴェリタスは、わくわくした表情を浮かべている。まるで子どもみたい。

『姫の旅立ち……なんだかすごく共感できます!』
「え、なぜですか?」
『私も春から大学の近くに一人暮らしするんです。だから姫と似てるなぁ、と思って』
「そうなんですね」
『はい! メインクエストって楽しいですね! さっそく姫を探しにいきましょう!』
「あ、はい……」

 ヴェリタスは部屋を出ていく。
 今、さらっと言ったけど、かなりプライベートなことだよな? こんなおっさんに話していいのかよ。一人暮らしの部屋に来て♡ ってことか? んなわけないか……もんもんとしながら廊下を歩き、倉庫の前に立つ。

「ここに姫がいます」

 ガチャ、と扉を開けた。
 ヴェリタスが宝箱の中身を調べるが、何もなくて落胆する。当然だ、俺が取ったので何も入ってない。

『宝箱ない……姫もいないですよ?』
「ああ、こっちです。隠し通路があるんです」
『おぉー!』

 瞳を輝かせるヴェリタス。
 俺は戸棚の前に立ち、それを調べる。横にズラせそうだ。手で押すと、暗い地下通路が現れた。

『ツッチーさん、すごーい!』
「あ、はははは」
『でも暗いですね……私の前を歩いてもらっていいですか?』
「はい」

 暗闇を進む。
 わずかな松明の光りを頼りに歩くが、途中でわかれ道になる。だが、俺は姫の居場所がわかる。

「こっちです」
『……』
「ヴェリタスさーん! こっちですよー!」
『……』

 あ、やばい。
 暗くてヴェリタスの吹き出しが見えない。こういう時、ボイスチャットで電話のように意思疎通ができないと難しい。ちゃんと俺が見えてるといいが……分岐を右に折れて進む。

「ダメか……」

 ヴェリタスは、そのまま歩いていく。
 しゃーない。ぎゅっと手を握った。ドキドキしてしまうけど、ゲームだからそこまでの熱は伝わらないだろう。と思ったけど、ぬくもりを感じる。

『……』

 ヴェリタスのコメントが見えない。
 何か言っているのだろうけど、かまわず先に進む。ちょっと強引だけど、許してほしい。やがて壁にある蝋燭ろうそくまで歩くと、ぼやーと視界が明るくなっていく。

『すいません……やっぱりボイスチャットの方がいいですよね……』
「まあ、大丈夫ですよ。なるようになります」
『なるようになる……手を繋いでくれたように?』
「はい」

 蝋燭の明かりの反射だろうか。
 ヴェリタスの顔が、ぽっと赤くなる。ドキドキしてしまうけど、気にしててもよくない。先を歩く。鉄格子の牢屋が見えてきた。しかし、違和感がある。牢屋が壊れている!

「姫がいない。牢屋がめちゃくちゃだ……魔法は使えないから武器で破壊したのだろう……いったい誰が?」
『ツッチーさん、なんだか探偵みたいですね。姫はここにいたんですか?』
「はい……ん? あれは何だ?」

 ニャー

 猫のような鳴き声。
 宝箱が乱雑に散らばった牢屋の中で、きらりと瞳が光る。サッと出てきたのは可愛い猫の魔物だった。いや、魔物ではない。こいつ……話してる!?

「ニャニャー!  姫がさらわれたニャ!」
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