土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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31 メインクエスト チャプター1 姫の旅立ち3

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「改めて、よろしくお願いします、ツッチーさん!」

 ぺこり、と頭をさげるヴェリタス。
 おお! 本当に女性の声をしてる。しかもすごく綺麗だ。思わず、ドキッとしてしまう。

「……よ、よろしくお願いします」

 何だろう、この気持ちは? 
 おっさんの俺が絶対に関わることがない女子高生という人種が、VRMMOを通して目の前にいる。俺のなかの遅れてきた青春が今、始まりそうだ……。

「足跡を追いましょう!」

 そう言ってヴェリタスは走り出す。
 見た目は美しい侍の青年。きっと理想の男性像なのだろう。俺だってそうだ。現実はこんなにハンサムじゃない。でもいいじゃないか。ここはゲームの世界なんだから。見た目よりも、中身で勝負だ。

「はよ追いかけるニャ!」

 肩にのっている猫型機械がわめく。
 よし、俺も走り出そう。しばらくすると前方に姫を担いだ男を発見! だがもう一人男がいて、何やら話をしている。

「その女はなんだ?」
「知らん。宝のある牢屋にいたからさらってきた」

 ヴェリタスは刀を抜く。
 いきなり攻撃するつもりか!?

「ちょっと待ってヴェリタスさん!」
「え? 土魔法で穴埋めしますか? とどめは私がしますよ!」
「いや……やつらの話している内容が気になります。ちょっと様子をみましょう」
「わかりました……ツッチーさんってすごく冷静なんですね……」

 ヴェリタスは刀をしまう。
 俺たちは、サッと草むらに隠れて近づいていく。

 二人の男が会話をしている。
 姫を担いだ男。それともう一人は……ん? 見た目は人間と変わらないが、頭にツノがあり、服装が獣の皮を装備していたり何とも禍々しい。まさか、あれが魔族なのか?

「ヴェリタスさん、あの男って魔族ですか?」
「はい、言葉を話す魔物、魔族ですね。姫を誘拐したのは人間だと思います」
「なるほど、結界のある街には魔物や魔族は入れない。だから人間を利用したのか……だけど、姫の誘拐が目的ではないようだ」
「みたいですね」

 頭を殴られたのだろう。
 地面に降ろされた姫の帽子が、じわっと血の色で染まっている。彼女は意識を取り戻したようだ。悲痛な表情をしている。すると男は魔族に紙を渡した。古風な紙の束。表紙がチラッと見える。何かの設計図のようだ。

「ほら、盗んできてやったぞ。はやく金をよこせ」
「ククク……」
「何がおかしい?」
「人間はバカだなぁ」
「あ?」
「金、なんてものを発明したがゆえに破滅するのだから」
「いいから金をくれ! 子どもが火傷してんだ! はやく教会にいって治療しなきゃ死んじまう!」
「ククク……教会の神父はなぜ魔法を使えるか知っているか? 魔法が禁止になっている街の中なのに」
「そんなこと知るか! はやく金をよこせ!」

 ニヤッと笑う魔族。
 たしかに魔族の言う通りだ。俺は蛇に噛まれたじじいを教会に連れていって神父に治療を頼んだことがある。その費用は高かった。金がなきゃ、じじいは死んでいた……。魔族は手を伸ばし、魔法を詠唱する。赤い魔法陣が回転を始めた。

「結界は破れるのだ……ククク」

 魔族の手から炎が生まれる。
 危ない! すぐにハンドガンを構えて撃つ。魔族の身体に弾は命中したが、ノーダメージ。鬼のような顔で、ギロリとこちらを睨んでくる。この恐ろしい事態に、人間の男はガクッと腰が抜けてしまった。

「後をつけられていたか……」
「うわぁぁぁ……た、助けてくれー!!」

 泣きわめく人間の男。
 すると意識を完全に取り戻した姫が、スッと立ち上がる。雪のように白い肌、さらさらの金髪。神秘的なエメラルドの瞳が、俺とヴェリタスをとらえていた。

「私はテンプルム王国の姫ステラである! そこの冒険者、魔族を捕らえなさい!」
 
 ステラは、ビシッと魔族を指さす。
 ぽたぽた、と頭から血が流れているが大丈夫か? 一方、魔族は目を丸くしていた。

「こ、この女が姫だと!? ククク……俺も運が向いてきたぞ! 魔王様に人間界の姫を献上すれば大出世だー!」

 魔族の身体から魔力がみなぎる。
 赤い色の魔法陣が高速で回転。すると、めらめらと俺たちは火の壁に囲まれた。

「ファイヤーフォール! ククク、これで逃げられん!」

 魔族は両手を広げて、ニヤリと笑う。
 腰抜けになった人間の男は、ガタガタと震えていた。
 ヴェリタスは、心配そうな顔で俺を見ている。

「ツッチーさんどうしましょう? 私が斬って倒しましょうか?」
「まだ待ってください! ステラが捕らえなさい、と言っていたので……とりあえず穴ハメしておきます」

 石を砂に変える魔法サブルムを詠唱した。
 魔族の下半身が一瞬で穴にハマる。炎の壁が、シュッと消えていく。

「え!?」

 魔族は不思議な顔をしている。
 どうやら俺はレベルを上げ過ぎたようだ。チャプター1の推奨レベルは7。俺の魔法レベルは18もあるのだから。ちなみにヴェリタスの技レベルは42あるらしい。一方ステラは、ちらっと俺の方を見て、
 
「でかしたわ、土の魔法使い!」

 と言うと、嬉々として魔族に近づく。
 するとエメラルドの瞳が、キラキラと宝石のように光り輝いた。そしてじっと魔族を観察する。

「なるほど……貴様は火の魔族フランマの手下ね」
「な、なぜ分かる!??」
「教えるわけないじゃない。質問できるのは私だけ。フランマはどこにいるの? そして何を企んでいる? 楽に地獄に行きたいなら、サクッと答えて」
「……ま、魔族の俺を拷問するのか!?」
「だったらなによ?」

 冷たい目で魔族を見るステラ。
 右手を伸ばし、何やら詠唱を始めた。とんでもない攻撃魔法をしそうな予感がする。ついに魔族は、ぶるぶると怯え出し、

「ビュテスで拠点を作っている……この設計図を利用して結界を壊し、村を襲うつもりだった……」

 と、フランマの居場所と企んでいる計画を吐いた。
 ステラはそれを聞くと詠唱をやめ、サッと魔族の手から紙を奪い取る。あれに結界の破壊方法が記されているのだろう。まるで氷のような瞳だ。何とも冷酷な姫は、ヴェリタスに指示を出す。

「もういいわよ、っつけちゃって」

 え? という顔をするヴェリタス。

「わ、わたしが倒すんですか?」
「当たり前じゃない、あなたサムライでしょ。なかなかの名刀を装備しているわね」
「ありがとうございます……でも、ステラさん、さっき詠唱してましたよね?」
「ああ、あれはフェイク。つまり私は魔法が使えないのよ」
 
 ステラは、クスッと笑う。
 それを聞いた瞬間、「うぉぉぉ!」と魔族が怒りまくった。

「だ、騙したなー! 人でなし! 悪魔っ!」
「……やれやれ、魔族に言われたくないわね」

 肩をすくめるステラ。
 ヴェリタスは、そっと俺の近くに来てつぶやいた。

「なんだか怖いですね、メインクエストって……」
「ですね、人間VS魔族なのは分かるけど、ステラのやることが合理的すぎて魔族よりも残酷な気がする」
「……あれ? でも、待ってください。もしも私が先制攻撃して魔族を倒していたら……どうなっていたのでしょう?」
「ステラが意識を取り戻す前に?」
「はい」
「ステラに説教されていたかもしれませんね。フランマって魔族の居場所が分からないのですから」
「ふむふむ……つまり私たちの行動によって、メインクエストの進行が難しくなったり楽になったりするわけですね」
「そうみたいですね」
「おもしろーい!!」
「?」
「ツッチーさん、私、すぐに攻撃したくなっちゃうのでいつでも指示を出して止めてくださいね」
「……わ、わかりました」
「じゃあ、倒しますね」

 ヴェリタスは刀を抜く。
 ふぅ、と精神を集中させてから、その切先を魔族に向けた。

「雷光一閃!」

 とても気合の入った綺麗な声だ。
 颯爽と飛び出したヴェリタスは、まるで雷のような速さで敵を切り裂く。見事、魔族を倒した。俺たちは、パチンとハイタッチをする。

「土魔法で敵をダウンさせて、刀でトドメを刺す……私たちとっても相性がいいですね!」
「そうですね! 俺たち最強なのでは?」
「うふふふ、楽しいです!」

 か、可愛い……。
 ヴェリタスの笑い声は癒されるなぁ。ゲームとは言え、おっさんの俺が女の子と話せるなんて勝ち組だわ。なんてことを考えていると、バタンとステラが倒れて気絶した。そういえば頭から出血していたな。赤く染まった帽子を取ってみる。

「……!?」

 なんとステラの頭にツノが生えている!!
 ヴェリタスもびっくりしていた。

「ツッチーさん、どういうことですか? 姫は魔族?」
「いや、魔族は結界のある場所に入れないはず……なぜだ?」
「なぜ?」
「すいません。ちょっと今はまだ分かりません。メインクエストを進めれば、姫の正体が分かると思いますが……」
「ああん、めっちゃ楽しみ!」

 どうやらヴェリタスは、メインクエストにハマったようだ。
 するとその時、俺の肩に乗っていた猫が、ぴょんと飛び降りた。ぺろぺろとステラを舐める。ぽわわん、と柔らかい光りに包まれていく。何とも不思議な光景だ。頭の傷が綺麗に治っていく。肌についていた血も消えた。どうやらこの猫は治療魔法が使えるらしい。魔導機械だからなのだろう。気高い姫は、スクッと起き上がった。

「ありがとう、ペルぺト」
「ニャンニャ~ン、姫は友だちニャ」
「いやん、くすぐった~い」

 ぺろぺろとステラの首筋を舐める猫。
 名前はペルペト、というらしい。ステラはペルペトを抱っこすると俺の肩に乗せ、次に腰抜けになっている人間の男へと近づいた。どうするつもりだろう。まさか、処刑するのかな?

「立ちなさい、愚民よ」
「……ひっ、許してください」

 ステラは首を振って、手を差しのべる。
 あれ? 何とも意外な展開だな。

「いいえ、謝るのはこちらですわ……王国の腐敗した政治のせいで、あなたは魔族に魂を売ってしまった」
「ステラ姫様……」

 男はステラの手を握って立ち上がる。
 罪を憎んで人を憎まず、ってやつだろう。彼の目から流れ落ちる大粒の涙が、ステラの決心を揺るぎないものに変えていた。遠くに見えるテンプルム城に向かって、彼女は叫ぶ。

「さあ、あなたの子どもを助けにいくわよ!」
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