土魔法で無双するVRMMO 〜おっさんの遅れてきた青春物語〜

ぬこまる

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32 メインクエスト チャプター1 姫の旅立ち4

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「火傷した子どもを連れてきなさい。私たちはここで待っているから」

 そう男に命じるのは、テンプルム王国の姫ステラ。
 ここはフルゴルの街から少し離れた草原。正門は目と鼻の先にあり、「わかりました!」と答えた男は駆け出していく。一方、ヴェリタスは難しい顔をしていた。
 
「城の宝を盗み、姫まで誘拐する男……ちょっと信じられませんね。ツッチーさんどう思います? あの男、このまま逃げちゃうのでは? 私、追いかけてみようかな」
「うーん、たぶん無理でしょう」

 え? という顔をするヴェリタス。
 動こうとするが動けない。俺たちは強制イベントに巻き込まれているようだ。しばらくすると、男が子どもを抱えて来た。子どもの足には包帯が巻かれており、激痛に耐えている顔が見ていられない。

「ここにおろしなさい……ペルペト、この子を治療してくれるかしら?」
「わかったニャ」

 ぽわわん

 柔らかい光りが子どもを包み込む。
 猫型魔導機械ペルペトの身体から、白い魔法陣が現れていた。治療魔法ヒールを詠唱している。みるみるうちに、子どもの火傷が治っていく。

「い、痛くない……もう痛くないよ、父さん!」
「よかった! よかったー!」

 抱き合う父と子。
 仲良く手を繋いで正門へと歩いていく。俺たちは微笑みながら見送っていた。

「治療費、高すぎるニャ……」

 そうぼやいたペルペトが、ぴょんとステラの肩に乗る。彼女は真剣な顔で、

「国家滅亡の危機ね……私が何とかしなくちゃ……」

 とつぶやく。
 そして俺たちを見つめ、さらに言葉を続けた。

「冒険者よ! この度の働き見事であった、まずは礼を言うわ。ありがとう」

 ぺこり、と頭を下げるステラ。
 俺とヴェリタスに近づくと、さっと帽子をとった。やはりツノが生えている。魔族の証拠だ。彼女は、ニヤッと笑ってから話す。

の説明をしないとけないわね。まぁ、簡単に言うと、私の先祖は人間と魔族のハーフなの。つまり、このツノは隔世遺伝ってことね」

 なるほど、完全な魔族ではないってことか。
 だから城にも街にも入れるわけだ。おそらくステラ姫は妖精に近い存在なのだろう。妖精たちが住む街ユトピアを思い出す。しかし疑問はまだある。質問してみよう。

「ステラ、ちょっといいかな?」
「なにかしら?」
「魔法が使えないと言っているのに、なぜ魔族の素性がわかったんだ? 火の魔族フランマの手下だと言い当てていた」
「ああ、それは私の特殊能力よ。あなたの仲間、サムライのと同じようなものだわ」

 きらり、とエメラルドの瞳が輝く。
 さらにステラは説明を続けた。

「私は物質を鑑定する能力[アプレザル]が使えるの。なぜか分かってしまうのよね~鑑定すると色々と……例えば、あなたの名前はツッチー、土の魔法使いで体力レベルは10、魔法レベルは18……おや? ドラゴンブレスレットを装備しているわね。これがあれば、ドラゴン属性の攻撃を半減できるわ」
「す、すごい……当たってる」
「それと、言動はマイペース。落ち着きがあり、仲間を大切にしている。やだ……裸で行動していた時期があるわね……街で寝転がったことも……あらら、お酒を飲んで冒険しているなんて……うん、鑑定の結果、あなたは30代の独身男性ね」
「はぁー!? なんで分かるんだよっ!」

 やばい、思わず叫んでしまった。
 ん? ヴェリタスは笑っている。きらり、とステラの瞳が侍に向けられた。

「サムライさん、あなたの名前はヴェリタス。体力レベル26、技レベル42……すごいわ! 名刀、三日月宗近を装備しているわね。どんなに硬い敵でもダメージを与える効果があるわ」
「あ、当たりです!」
「えっと、言動は寂しがり屋さんね。そのくせに人とぜんぜん話さない。ぼっちで行動することが多いわ……ん? 今日はいつもと髪型が違うわね……ゆるふわに巻いているような……あなたオシャレして冒険してない? 何だかデートみたいだわ」
「きゃぁぁぁぁ!!」

 顔を赤くするヴェリタス。
 よく意味がわからんけど、ステラの鑑定能力は現実世界の俺たちまで可能のようだ。おそらく、ゴーグルから情報を得ているのだろう。AIの技術は恐ろしい。姫の話は続いていた。

「あなたたち気に入ったわ! 私とパーティを組んで、ともにテンプルム王国を救う旅に出るわよ!」
「え?」
「でも、ステラさんって城から出られるのしょうか?」

 ヴェリタスは質問した。
 ステラは、チッチと人差し指を振る。あらかじめこの質問が来ることを予想していたように。

「だから今から王様……つまり私の父親と交渉しにいくわよ!」

 ニャニャーン!

 可愛らしいペルペトの鳴き声があがる。
 すると暗転した。強制的に城へと移動しているのだろう。視界は何も見えない。メニュー画面を開く。

「現実世界の時間は15:03か……」

 時間があっという間にすぎる。
 俺たちは二時間ゲームをしていたことになるんだな。すると、ヴェリタスの声が聞こえてくる。本当に、とても綺麗な声だ。

「ツッチーさん、今日は何時までプロテルできますか?」
「うーん、とりあえず17時までですね、夕飯を食べたいし」
「ですよね……じゃあ、夕飯を食べた後、またできますか?」
「できますよ~。ステラに言われた通り独身男性なんで! あはは」
「うふふ、ありがとうございます! 今日は親の帰りが遅いので、夜もゲームしたいんです」
「そうなんですね」
「はい、親がいると声が出せないので……だから今日はもっと……もっと……」

 歯切れの悪いヴェリタス。
 まぁ、そうだよな。親がいないからゲームがしたい気持ちは分かる。だが冷静になると、おっさんの俺なんかと話して楽しいわけがない。ましてや俺は独身だ。口説かれたら嫌だな、と思っているに違いない。よし、ここは安心させておこう。

「ヴェリタスさん、大丈夫ですよ」
「え?」
「俺の目的はダークラブを見ることです」
「は、はい……」
「だから恋人は探していないので安心してください」
「それって、わたし以外の女性とはゲームしないから安心してってことですか?」
「ま、まぁ、そうですね。ミルクもモツナベも男ですし……はい」
「あのぉ……本当に恋人は探していないんですか?」
「いや、リアルでは募集中ですけどね、あははは」

 笑って誤魔化そう。
 ちょっと何が言いたいか、自分でも分からないや。しかし、ヴェリタスは笑っている。この子の笑いのツボも、よく分からない。

「うふふ、んもう、ツッチーさんって嘘つくのが下手ですね」
「ですね、あははは」

 
 ブンッ

 突然、真っ白になる視界。
 場所が切り替わる。きらびやかなシャンデリア。高級な赤い絨毯。俺たちはテンプルム城にいた。目の前には王様がいて、部屋の壁には、ずらりと兵士が並んでいる。横にいるステラが大きな声をあげた。

「お父様! お願いがあるの!」
「どうしたステラ? 行方不明になって帰ってきたかと思えば……」

 ステラは紙を取り出した。
 古びた紙束。あれは結界の設計図を記したものだ。彼女はそれを王様に渡した。

「これを城の上層部で保管してください。絶対に盗まれないように」
「なんだこれは?」
「結界の設計図です。地下の牢屋で発見しました。そして、この子も……」

 ニャ

 と鳴く魔導機械の猫。
 俺の肩に乗って、にっこりと笑う。ステラは話を続けた。

「名前はペルペト、治療魔法が使える古の魔導機械です。お父様は王国の歴史よりもが好きなようなので、なぜこのようなものが城の地下に存在するのか理解できないと思いますから、簡単に言うわ」
「……?」
「魔族が人間を利用して結界を破ろうとしているわ」
「な、何だと!? おい! 軍師を呼べ!」

 王は手を振りかざした。
 兵士たちが動き出す。しかしステラは「待ちなさい!」と大きな声をあげる。城の中が、しんと静まり返った。

「先ほど言ったように、魔族は人間を利用することを覚えたわ。魔法を使うことなく、人間の弱い心を突いてくる……兵士たちが動いては逆に利用されてしまうわ」
「じゃあ、どうすれば?」
「先鋭パーティで敵を打つ」
「む? まさか……ステラが旅に出るつもりじゃないだろうな?」
「そのつもりですよ。ここにいる冒険者を連れて」

 ばん!

 と目立ってしまう俺とヴェリタス。
 王様は、めちゃくちゃに首を横に振っていた。かなり動揺しているな。

「ダメだ、ダメだ! ステラがいなくなったら王族の血が途絶えてしまう……絶対に旅に出るなど許さん!」
「……お父様、王国が魔王軍に攻め滅ぼされたら、元の子もないわよ?」
「ぐぬぬぬ……だが、ステラが行かなくてもいいだろ? 冒険者だけ行けばいいじゃないか?」
「こんな城にいても出会いがないのよ。この旅はムコ探しでもあるの、お父様」
「んんん~」

 王様は、頭を抱えてしまう。
 やれやれ、とステラは肩をすくめる。俺とヴェリタスは小声で話した。

「これってただの親子ゲンカですね」
「わたしも父親から引越しを反対されていたので、ちょっと耳が痛いです」
「そうだったの?」
「はい……やっぱり心配しているようで」
「じゃあ、どうやって許されたんですか?」
「夜10時に親へ電話すること……ほんと、いつまで子ども扱いしてるんでしょうか、まったく……」

 一方、王様とステラは睨み合っていた。
 このまま話は平行線か? と思っていると、ひとりの兵士が走ってきた。彼に見覚えがある。兵士グリーンだ。

「王様ー!」
「何だこんな時に? もう姫は見つかったのだぞ」
「違うんです。街で聞き込みをしたところ、行方不明になっていたのは姫だけではありませんでした!」
「あ? 詳しく話せ!」
「家族が魔族に誘拐された、という証言がありました……」
 
 城中に戦慄が走る。
 しかし、ひとりだけ嬉々として手を上げる者がいた。ステラ姫だ。

「私に任せて! その魔族に心当たりがあるわ!」
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